【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#10】
異界の魔族ザイン
【あらすじ】
かつて魔王を倒した魔族の剣士レオルは、
仲間たちと共に“冒険者”として穏やかな日々を送っていた。
ミレニムが率いるパーティーには、陽気な格闘家ジュラ、冷静な斥候ハクロ、
優しく健気なエルフの少女エルフィが集い、それぞれの想いを胸に活動していた。
そんな彼らは、滅びた魔導文明の残響が残る「ソール森林王国」で、
拡大する雪雲と氷の魔獣たちに巻き込まれる。
出会ったのは、自らを「道具」と語る少女・グレイシャ。
使命に縛られた彼女を救うため、レオルたちは命を懸けて戦い抜き、
グレイシャを家族として迎え入れる。
しかし、平穏は束の間だった。
今度は倉庫街での異変。
海魔「深淵の姫」シンエンの出現、
暗殺者カリナとノワールの襲撃、
さらに神の造った対魔族兵器――天使人形ルミエルの介入。
絆と信じる心を胸に、
仲間をそして未来を守るため――
レオルは再び剣を握る。
だが、天使人形との死闘の果て、
ルミエルとエレクチュアの心に触れたレオルは、
迷いながらも「誰も見捨てない」という想いを貫こうとする。
その身を犠牲にしてまでして……。
新たな運命が、静かに動き出す。
【登場人物紹介(最新版)】
【ミレニムのパーティーメンバー】
レオル(Leol)
魔族の剣士。冷静で優しく、仲間を守ろうとする。魔剣とスキル奪取等の能力を操る。ミレニム(Millenim)
人間の魔女。真面目なリーダー。仲間想いでレオルに密かな想いを寄せる。ジュラ(Jura)
陽気な武闘家。豪快な戦闘狂だが、観察力と仲間想いな一面を持つ。ハクロ(Hakuro)
獣人の斥候。理性的で警戒担当。鋭い感覚を持ち、仲間の支え。エルフィ(Elfi)
元エルフ族の少女。精霊術は使えないが、補助役として奮闘。レオルに淡い想いを抱く。グレイシャ(Gresia)
元ホムンクルスの少女。使命に縛られていたが、レオルたちに救われ、養子となる。
【協力者・関係者】
カリウス(Carius)
「赤き砂」リーダー。知将で礼節を重んじる。ミィナ(Miina)
「赤き砂」の情報通。ミレニムの旧友でもある。エイラン(Eiran)
「赤き砂」の武闘派。レオルに一時敵意を抱くも後に和解。カレン(Karen)
ギルド事務員。レオルに協力的な存在。リゼル(Lizel)
不思議な少女。高い直感と隠された実力を持つ。
【敵・対立勢力】
カリナ(Karina)
電撃魔法の使い手の暗殺者。レオルに撃破される。ノワール(Noir)
異常な暗殺技術を持つ少女。ジュラと激闘を繰り広げる。オルト商会
裏で魔族・妖魔の捕獲・売買を行う商業組織。
【異種族・その他】
シンエン(Shinen)
海魔「深淵の姫」。妹シロガネを探すため、レオルたちに接触する。シロガネ(Shirogane)
シンエンの妹。優しく礼儀正しい海竜の少女。エレクチュア(Erekutua)
半魔族の少女。かつて天使人形に滅ぼされた街の出身。復讐のため改造された存在。ルミエル(Lumiel)
神が造った対魔族兵器=天使人形。どこか天然だが、桁違いの戦闘力を誇る。?(懐中時計の少女)
レオルを時を止めて救った謎の存在。
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魔族ザイン
全てが、ぼんやりとしている。
「……レオル様……?」
エレクチュアには、全ての景色が現実感に乏しく、また遠く無縁のものになっていた。
レオル様……私は一体なにを……
ミレニムが雷王の拳の前で、呆然と力なく座り込んでいることも……

シンエンが、ミレニムに駆け寄り、武神の拳を呼び出した巨大な触手で持ち上げてようとしていることも……

……ああ……雷王に命じなくては……
……レオル様を、あんなところにいつまでも放っておいては、申し訳が……
……早く……早く、しなくては……

声を出そうとする。
頭の奥が痺れて、口が意味のない声を出しただけ、と気づく。
……なぜ、こんなことに、なってしまったのか……
レオル様が、あのお優しい方が、どんなに苦しんでいらっしゃるか……
いきなり、自分の身体が横に倒れ込む。
殴られたと理解したのは、少し間を開けてからだ。左の頬に痛みを感じたからと気づく。
「何してるんだ!……早くしろ!あのデカぶつの拳をどけるんだ!」
ジュラが怒りを目に込めて、殺気のこもった声を上げる。

怒りのあまり、全身から気炎があがっている。
「……いいか、レオルを殺した君は絶対に許さない!……」
「……僕が君を殺すまえに、あのデカブツの腕をあげるんだ!」
レオル様を、殺した自分は、もうどこにもいけない存在になってしまった。
自分でも、自分が許せない。
復讐に関係のないレオル様を巻き込んでしまった。
あの自分と同じ心を持ち、自分の愚かしくも捨てられなかった昏い心の炎を分かってくださった方を……殺されても仕方のない、当然のことだ。
「今、すぐに……」
「……終わったら、私を殺してくださって構いません……もう、そうしていただく、しか……私には……」
エレクチュアが、手で雷王に合図する。
小屋ぐらいなら一撃で潰してしまえる巨大な拳が、ゆっくりと上がってゆく……
「……いな、い……?」
ミレニムの口から、力ない声が漏れる。
「……どういうことですか?……レオルさんが、この下に飛び込むところは、確かに……?」
シンエンが、巨拳があった場所を触れる。
レオルの姿どころか、ルミエルまでも見当たらない。
ジュラも、慌てて駆け寄る。
「……一体……この目で……確かに……」
そこから、少しはなれた建物の陰に、彼はいた。いや、彼等と言うべきか。
二人で建物の陰からその様子を少しみてから、奥へとその身を引く。
「お前……こんなことを、私が言うのもどうかと思うのですが……あの深刻な空気のところに出て行く、のですか?」

レオルに抱きかかえられたルミエルが、そんなことを言ってくる。
「……私だったら、絶対に行かないのですよ」
「……それを言わないでくれないか……正直なところ、最初にどう声をかけたものかと、いま考えているとこだ」

「……お前、結局なんなのです?……私から力を取り上げたり、かと思ったら、死にそうになってまで助けたり……」
「……お前、どこか、壊れてるんですか?」
頭のところで、クルリと指を回す。
ルミエルが、彼の瞳を探るように見つめてくる。彼女は至極真っ当なことを言っている。
レオルのような考え方になる者のほうが、少ないのだろう。
レオルが力なく笑う。
今だけではあるが、レオルもルミエルも、お互いに遠慮する理由のないが故に、思うことを喋りやすくなっている……そんな特殊な状況下にあった。
「……誰もが、そう聞いてくるよ……俺は、あまりに多くの親しい者の死を見てきた……」
「……だから臆病になった……もう、目の前で誰であれ、死ぬところを見たくない、と思うほどに……」
レオルは、ここでない何処かを見ている……そう、ルミエルは感じとった。なんとなくではあるが、今ではない決して辿り着くことのない場所をみている、と思ったのだ。
「お前は、誰かの名前を呼んでいただろう……」
「……それが理由だ……待っているヒトが、大切な誰かが、お前にはいるんだろう?」
「……関係ないのですよ……魔族のお前には……」
目を逸らす、ルミエル。
「……こんな、役立たず……どうせ、見限られるのです……おしまいなのですよ」
消え入るような声。
「そんなに薄情なのか、そいつは?……酷いやつだな」
レオルの声に、非難めいた響きがある。
「リ、リゼルのこと悪く言うな、です!……」
手がわちゃくちゃに回され、慌てて言い繕ってくる。
「……リゼルは、いつもオヤツを分けてくれるのです!一緒に街に出る時も、いろいろ奢ってくれるのです!……」
「……それで、失敗しても怒ったりしないのです!……いつも黙って話を最後まで聞いてくれる、私にはもったいない……」
「……友達、たった一人の友達なのですよ……」
その声が、最後の方で聞き取れない程に小さくなる。
レオルから反応が返ってこないことを、不思議に思ったルミエルが顔を上げる。
彼の口の端が、優しい笑いの形をしていた。
「……お前……お前、してやったり、ですか!」
「ひどいやつです!やっぱり、魔族は信用ならないのです!」
盛大にすねて、怒りはじめた。
「……さて、覚悟を決めて、出て行くよ……付き合ってくれ」
「……え、あそこへ行くのですか?……私、今度こそ、終わりなのですか?」
「……置いていってくれても、いいのですよ?」
シンエンやエレクチュアがいるところへ行こうと言うのだから、当然の反応であろう。
「大丈夫だ、そんなことにはならないし、させないさ」
「……お前、……いや、何でもないのですよ」
「……勝手にしてくれ、ですよ」
すごいバカじゃないか、と言いかけてやめる。
多分コイツは数え切れない程、それを言われてるのではないか、ルミエルはレオルを見てそう思った。
だから、助けてもらった恩に自分くらい言わなくていいのではないか、と思ったのだ。
ただ、それだけだったのだ。
「……心配をかけた……勝手をして、すまなかった」
レオルが、ミレニム達のところに戻った、第一声がそれだった。
ルミエルが、考えてそれですか、といわんばかりの視線を突き刺してくる。
「レオルさん……どうやって………?」
シンエンが、驚きにその目を大きく開く。
「……正直に言えば、よくわから……」
ミレニムが、目を見開いて魂の抜けた顔をしているのが見えた。
その一方で、ジュラが、街路のレンガが割れんばかりに足を踏み下ろした。
「……レオル!」
「……な、何だ、ジュラ」
さすがのレオルも、彼女の怒気に怯む。
「何だ……じゃない!レオルは、いろいろとひどい!……僕の寿命が、1年は縮んだ!絶対に縮んだ!」
「……ホントに、死んだか、と思ったんだ……ぞ」
ジュラの目の端に涙が滲んでいた。
彼女が泣いたところを初めて見たと思った。
ルミエルを街路にそっと降ろすと、ジュラの方に近づく。
「……本当にすまなかった。心配をかけた」
深くただ頭を下げる。
次の瞬間、ジュラに抱きつかれていた。
首にかかる手が震えていた。
「……ああ、本当に幽霊じゃないんだ……よかった……」
声が、涙に滲む。
どんなにその心を痛めたのか……
「……僕は、君のことが好きなんだぞ……」
「……もう二度と、あんなこと、しないでくれ……頼むから……」
「ああ……分かった」
ミレニムの瞳から、ただ、涙が流れていた。
「……レオル……レオル……」
「ミレニム……心配させて、すまなかった」
ミレニムの手が、同じように、レオルの首にかかる。
「心配……心配した、の……もう、あんなことはやめて。本当に、やめて、よ……」

「ミレニム……」
聞いているこちらの胸が、締め付けられるような声。
「あなたがいなくなる、なんて……耐えられないから……無理だから……」
……いつから、こんなにも彼に心を持っていかれるようになったのか……
……前はこんなふうではなかった……
……いつも、一人で何とかしてきた……
……ハクロを見捨てない、と言った時からか……
……異界湿原のときからか……
……ギルドハウスに来ないかと、誘ったときからか……
……一緒に生活して、家族のようになったときか……
……一緒に他愛のないことで、笑った時からか……
……もう、分からない……
……もうそんなことは、どうでもいい……
……私は、初めて……誰かを……彼を……
……本当に好きになったのだ……
「……あなたのかわりなんて……いない、んだからぁ……」
心からの悲痛な声に、胸が潰れそうになる。
日頃、気丈に振る舞っているミレニムに、こんな顔をさせてしまった。
ただ、ただ申し訳なかった。
だが、同時にこんなに心配されて、自分は幸せだと、思った。
レオルは、無言でミレニムを抱きしめた。
「……レオル……レオル……」
ミレニムの腕が、レオルの背中に回される。
強く強く、抱きしめられる……
「レオル様……ご無事で……」
エレクチュアが、迷子のような顔をして泣いていた。
まるで自分が、泣いているのを気づいていないように……

「……ああ、よかった……貴方まで、この穢れた手にかけたかと……」
「……ですが、私が外道にも劣ることをしたことに、違いはありません……」
エレクチュアが、地面に頭を伏せる。
「……私情から、貴方様を危険にさらしました。いかようにも、処してください……」
「……貴方様に、従います。殺してくださっても、恨みはしません……ご随意に、レオル様」
レオルが、エレクチュアに声をかけるまて、一匙ほどの間が空く。
彼女の心情は、痛いほど分かる。
天使人形への憎悪は、尋常なものではない。
だから、これから言う事は、彼女にとっては死ぬよりも辛いことかもしれない。
「……なら、ルミエルに、力を返してやってくれ……頼む」
「それだけは……!それなら、いっそ死を賜わりたく……貴方様に殺されるなら、私は……」
苦痛を堪えるように、エレクチュアが望みを吐き出す。
レオルを殺しかけた身だと分かっていても、それをするぐらいなら、この身を裂かれたほうがましというものだ。
「……俺は、お前にも死んで欲しくないんだよ、エレクチュア……我儘かもしれないか、ルミエルにも同じことを思っている」
「……むごいことを仰います……貴方様は、本当にひどい方です……」
レオルが、ルミエルの方を見遣ると、ルミエルがひどく驚いた顔をしていた。
「……ルミエル、力を戻す代わりにシンエンとエレクチュアには、今後関わらないと、約束してくれないか?」
「……お前、本物の大馬鹿なのですよ……」
「……お前のようなヤツ見たことがないのです……生命のやり取りをしたのに、それをなかったことにしろ、というのですか?」
エレクチュアやシンエンの方を、見ながらルミエルが呆れたようにいう。
「そうだ……今こうやって、お前とは話せてるだろう……」
「……シンエンやエレクチュアと分かりあえ、とまでは言わない……」
「……だけど、相手の事情を踏み潰して、ただ人間の敵、神の敵として、最後まで戦うのはやめてくれないか……お前にも、心があるのだろう?」
ルミエルは、自分がどんな顔をしてるのだろう、と思った。
なんということを、この魔族は言ってくるのだと。傲慢とさえ思った……
こんなふうに自分の存在意義を否定してくる人間まして魔族が、これまでいなかった。
だか、自分が破壊される寸前、友達リゼルの顔が真っ先に浮かんだ。
自分がレオルに助けられたとき、もしかしたら、また友達に会えるかもしれないと、どんなに救われた気持ちになったか……
多分、自分は兵器として失格なのだろう。
シンエンやエレクチュアにも、そんな存在があるのかも、と少しでも思ってしまった自分はもう前のように戦えないかもしれない……
「……分かった、ですよ……今回は、お前の言う通りに……」
「レオル、ミレニム……無事だった……のか?」
カリウスが、シンエンやミィナを連れて、おそらく一番タイミングの悪いときに現れた。
「あ……」
とは、誰の声だったのか……
レオルにミレニムとジュラが抱きついたままで、足元に見たことない女性が土下座している。
まして、もう1人の女性……ルミエルと深刻な話をしていて、もう一人の妙齢の女性の傍からは、触手や竜頭が蠢いている。
ついでに、あまりに巨大すぎてカリウス達も最初は認識できなかったが、雷王まで膝をついた状態で待機している。

「その、すまない……取り込み中、だったかな?」
カリウスが、何とかという風にレオルに声をかけた。
さすが高ランクパーティーのリーダーの胆力というべきか。
「カリウス……俺、ちょっと用事が……爺さんの遺言で、こういった修羅場には、関わるなって……」
「……まして、これはあまりに人外すぎるから……後は任せた!」
エイランが回れ右したところを、ミィナが服を掴んで引き留める。
「エイラン、私だって逃げ出したいんだから、我慢して!……これは、予想の天井を突き破り過ぎて……!」
ミィナの声は、どこまでも悲鳴に近かった。
「ノワール……アイツらのこと、上に報告よ……」
「……天使を、海魔と一緒に痛めつけた、冒険者パーティー……まして、魔族まで匿ってる、となれば……くぅ」
物陰から、一部始終を見ていたカリナが、痛みを堪えながら、ノワールに指示する。
「……王家が、黙っていない……でも、まず傷の手当を……ここまで分かれば、材料は充分です……」

ノワールは、左腕だけでカリナを支え、暗闇に消えて行った。
レオルが、ミレニムの手をそっと外す。
ジュラか瞳を闇の奥へと向け、表情を切り替えて構えをとる。
シンエンやカリウスも、何かを感じ取ったようにそれぞれが身構えていた。
緊張が、音が聞こえるかと思うほどに高まる。
エレクチュアだけが、「ああ……」と空を見遣っていた。
「探したぞ、この役立たずが……」
それは夜の闇が形を成し、現れ出づる。

「……ザイン様」
ふわりと、エレクチュアの近くに降り立つと、いきなり彼女を殴り飛ばした。
エレクチュアの身体が崩れ落ちる。
「このウスノロが、俺の手を煩わせるな!」
レオルが魔剣に手をかける。が、シンエンにその手を押さえられる。
「レオルさん、ダメです……今、アレに暴れられたら、何人かはまず助かりません……堪えて…」
シンエンが、カリウス達やミレニムに視線を投げかける。
「アイツ、今いる全員でかかっても、かなわないかも……内在するものが、とてつもなく異常だ」
ジュラが、ザインというモノの中を見抜かんと、目を凝らしていた。
「申し訳ありません……マスター」
ザインと呼ばれた何かは、雷王の方を見上げると、口の端を歪ませる。
「だが、既に『武神』を押さえたことは、お前にしたら、大したもんだ……」
「……で、そいつらは、なんだ?天使人形までいるじゃねえか……なんで、まだ始末していない?」
エレクチュアが、しばらく躊躇ったあとにザインを見上げる。
「……この方達には、私が現地の人間に捕まっていたところを助けて頂きました。天使人形の制圧にも、手を貸して頂きました……」
「……天使人形は、まだこの『武神』のコントロールを移行している途中であることから、まだ生かしているだけでございます」
ザインが、レオル達を睨めつけるように見たあと、エレクチュアを覗き込む。
その身体がユラユラとその輪郭を変える。
まるで、実体が不確かなものであるように……

「……なら、仕方ないかァ……?」
淀んだ重い笑いが、周りの耳に届く。
「……お前の人形どもに対する憎しみの深さは、俺も一目置いているからな……で、いつ終わる?」
「あと一度、吸い上げれば終わります……」
「……ですが、あの者達が、抜け殻になった天使人形を調べるために欲しております……」
「……特に、あの魔族や海魔達が、人形に対してただならぬ執着を持っております……私を助けていただいた礼に、あのガラクタを与えてやってもよろしいでしょうか?」
ザインが、ルミエルを見る。
価値のない、まるで石ころをみるように……
今のルミエルでは、何の抵抗もできずに殺されてしまうだろう……
ルミエルの口が、悲鳴に近いものを吐き出す。
「まあ、どうでもいいか……」
「……いつも、人形共を壊しまくっていたお前が珍しいな……あの魔族が、そんなに、気に入ったのか?……」
「……なんなら、誘いをかけるか?それなりに、腕は立ちそうだが?」
「いいえ、ザイン様……あの魔族の実力は、天使人形に遅れをとる程度のもの……」
「……それに、自分の気に入った女どもが既にいるようです。誘いには、応じませんでした……お気に召すほどの者ではありません」
彼女はザインと話し始めてから、冷徹な表情を維持している。何を考えているのか読みとれない。

エレクチュアがレオル達の間を縫って、ルミエルに近づく。
カリウスがレオルを見遣るが、彼はエレクチュアの方を、黙ってみているのみだった。
「……お前、どれだけ私の同胞を手にかけてきたのです?!」
「……近づくなです……やめて……!」
ルミエルが必死に後ずさるが、エレクチュアの電気の槍が彼女の首や胸に突き刺さるほうが速かった。
ルミエルの肢体が何度か痙攣したあと、動かなくなる。
エレクチュアは、槍を引き抜くと意識を失ったルミエルの身体を、レオルの方に蹴り転がした。
「持って行くがいい……壊れかけの天使人形、役に立つかわからないがな……」
エレクチュアの瞳が、わずかに揺らぐ。
……お約束どおりに、レオル様……
……いま少し、耐えて下さい……
レオルが微かに頷くと、エレクチュアは無言で身を翻し、ザインのもとへと近づく。
「行くぞ……」
ザインが、現れたときと同じように闇そのものに溶けこんでいった。
エレクチュアが手を振ると、武神も空間を割り、撤収にかかる。
「レオル様……御恩をお返しできずに申し訳ありません……」
「……この王国からすぐに退避することを強く、お勧めします……間もなく『星落とし』が始まります……どうか、ご無事で……」
エレクチュア深々とお辞儀して、雷王にすくい上げられて、空間の向こうへと消えていった……
