デジタルスキル標準における「データサイエンティスト」の定義を正しく理解する【完全版】
はじめに
どの企業にもDX人材が必須と言われて久しいです。毎日のように、DX人材の不足を誰かが訴えています。
しかし、
そもそも、DX人材ってどういう人材なんですか?
という定義付けを持てているところは果たしてどれだけあるのでしょうか? この記事の中でも、経産省のデジタルスキル標準について書かれていましたが、今回改めてデジタルスキル標準を読み込むと
「データサイエンティスト」とは何か?
について改めて考えさせられました。そこで、今回はデジタルスキル標準を読み込みながら、データサイエンティストについて詳細に解説をしていきます。
(注)この記事は、2023年6~8月に連載した記事を集約、加筆したものです。
「デジタルスキル標準」とは
デジタルスキル標準について改めて確認しておきますと
不足が指摘されるデジタル人材とは、具体的にはどのような能力を持った人材なのか。経産省は2022年12月、DXについての個人の学習や企業の人材育成・採用の指針として「デジタルスキル標準」を取りまとめた。
要するに、「DX人材とは何ぞや」を規定するために経産省が提示してくれたガイドラインということになります。
2022年12月に公表され以来、多くの注目を集めているものです。私も何度かnoteを書いております。
デジタル人材は15種類も必要?
このガイドラインには「どんなITスキルを身に着けたらよいか」のほかに
デジタルの知識を使ってどういう役割(ロール)を果たすべきか
が詳細に書かれているのが大きな特徴です。大きくは5種類の人材がいるとされています。

(https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221221002/20221221002.html より引用)
特に、昨今では「セキュリティに詳しい人」「デザイナー」もDX人材に含まれ、ガイドラインの中ではこの5種類の人材をさらに細かく分けると15種類になると書かれています。

(https://ascii.jp/elem/000/004/118/4118318/より引用)
これは役割を体系的に分解しただけですが、一方で細かすぎる表を見ると
当社にはそもそもこんなに人材(質・量)を用意できない
とも見えるようで、改めて人材の定義が難しいことを実感させられます。
やっぱり重要なのは「データサイエンティスト」
ただ、デジタルスキル標準を改めて読み込むと、作者もその辺は認識していたようで、「データサイエンティスト」の章で、その点をしっかりとフォローする記載を見つけました。具体的には
「デジタルスキル標準 ver.1.0」の第3部第3章 c. データサイエンティスト
で、この章を一枚絵図でまとめると、以下のようになると考えました。

全編を通して読んでみると「デジタルスキル標準」は本当によく作り込まれたドキュメントだと感じますが、なかでも
この3部は、DX人材定義を考える人は改めて一度読んでみるべき
と感じていますので、次節以降で詳しく解説いきます。
「デジタルスキル標準 ver.1.0」の第3部
第3部は「DX推進スキル標準」を定義している資料です。そもそも、デジタルスキル標準は
DXリテラシー標準(DSS-L):全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準
DX推進スキル標準(DSS-P):DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準
という二つの標準から構成されており、このうちDX推進人材の役割・スキルについて記されている部分になります。

(https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/ps6vr700000083ki-att/000106872.pdf より引用)
DX推進スキル標準には「ロール」が定められている
このDX推進スキル標準では、DXを推進する人材に必要なスキルを定義しています。これは
スキルを定義することによって、その組織に必要な人材が明確になる
ということですが、もっと言うとその人材が、自らのキャリアパスを考えることができるようになるということ、すなわち
そのスキルを身につけると、具体的にどういう役割を担う人材になれるのか
を理解できるようになります。
そのため、たとえばデジタル人材研修の受講生に対してこのスキル定義は有効です。その研修が「何の役に立つのだろう?」と思いながら受けるのか、自分のキャリアのために受けているのかで、本腰を入れるかどうかが変わってくるからです。

(https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/ps6vr700000083ki-att/000106872.pdf より引用)

(https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/ps6vr700000083ki-att/000106872.pdf より引用)
「データサイエンティスト」がいれば、万事解決ってこと?
このようなデジタルスキル標準ですが、読み進めていくと「データサイエンティスト」の章に以下のように書かれています。

「データサイエンティスト」のロールの区分は、一般社団法人データサイエンティスト協会の「データサイエンティストに求められる3つの力」(ビジ ネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力)を参考にしたものであり、本スキル標準では、これらの3つの力を「ロール」として切り分けて 定義している。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
DX人材に必要なスキルの話になると、たいてい「データサイエンティスト協会」の3つの力が出てきますが、その役割が結局「データサイエンティスト」に集約されているように見えます。これはいったいどういうことでしょうか? 次のページを見てみましょう。
「データサイエンティスト」は、データの分析にとどまらず、データを活用したビジネス戦略の検討から、データの収集の方法や仕組みの検討、データ分 析を行うための環境の設計・構築・運用に至るまで、幅広い業務を担う。さらに、データ活用の仕組みを現場の業務に導入し、その使い方につい て現場のユーザーに対する説明や教育を行い、実際に現場の業務を変革するといった業務も担当する。
このように、「データサイエンティスト」が担当する業務には、データ活用の領域においては、戦略の策定から、仮説検証、実装、運用、効果検証・ 改善などのすべてのプロセスを担当するため、他の人材類型である「ビジネスアーキテクト」や「デザイナー」に求められるようなビジネススキルのほか、 「ソフトウェアエンジニア」や「サイバーセキュリティ」に求められるような技術スキルなども必要となる場合もある。
データ活用の領域に関する専門性を中心に幅広い業務を担うことから、本スキル標準が想定するレベルの人材として活躍するためには多様なスキルが求められるという点が、「データサイエンティスト」の特徴である。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html

なんと、データサイエンティストが担う業務というのは、
戦略の策定、仮説検証、実装、運用、効果検証・ 改善などのすべて
だというのです。そして、そのためには「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」といった多様なスキルが求められるというのです! これではまさしくスーパーマンではないでしょうか!?
「データサイエンティスト」に期待される役割を、捉え直す
ここまで読んできて、私は疑問に思いました。
果たして、この世にそんなスーパーマンは存在するのか?
と。このDX推進スキル標準では、DXを推進する人材に必要なスキルを定義しているのに、その結論が「データサイエンティストとはスーパーマンのことです」と言われても、困ってしまいます。
スーパーマンなんて、身の回りにはほとんどいないから
です。
ではどうすればよいのか? これを読み進めていくと、次に「データサイエンティストに期待される役割」が書かれています。私が仕事で大事にしているポリシーは「仕事で使う言葉は、文字通りに捉え、その環境で共通の定義付けを行う」ですので、ここから行うべきことは
「データサイエンティストに期待される役割」を正しく捉えること
だと考えました。具体的には、データサイエンティストの中にさらに3つに分かれているロールを正しく捉え、理解することを行っていきます。
「データビジネスストラテジスト」とは
ここからは個別のロールについてみていきましょう。最初に書かれているのは「データビジネスストラテジスト」です。データビジネスストラテジストを一言でいうと
現場とデータ分析を結びつける人
です。

「データビジネスストラテジスト」は、事業戦略に基づくデータ戦略を立案し、データ活用領域のプロジェクトのマネジメントを行うとともに、現場部門と一体となって、 データを活用する業務の設計や見直しも行う役割を担う。すなわち、DXを推進する他の人材類型や自社内の現場部門等と「データサイエンティスト」を結びつける役割を担うと言える。
上のような役割を担うため、「データビジネスストラテジスト」には、ビジネス系やマネジメント系のスキルが他のロールよりも強く求められる。また、「プライバシー保護」などを始めとする各種法制度等に関しても、知識とともに高い実践力が求められる。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
各現場には、加工前の生データが多く転がっているはずですが、それだけではデータ活用は進みません。また、いわゆるデータサイエンティストがいるだけでも進みません。データ活用を実現するには、現場とデータ分析を結び付けるプロジェクトを立ち上げ、それを実行できる人材が必要です。
「データビジネスストラテジスト」に求められるスキル
データビジネスストラテジストは「事業戦略に沿ったデータの活用戦略を考えるとともに、戦略の具体化や実現を主導し、顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する」ことを担うとされています。そのために必要となるスキルは何でしょうか?
上述の通り、データビジネスストラテジストはデータサイエンティストとは別の人と定義されています。そのため、データビジネスストラテジストに求められるスキルは、いわゆるテクノロジー系の知識よりも「ビジネス系」「マネジメント系」といった、データ・AIの戦略的活用に関するものになります。また「デザイン系」や「プライバシー保護」などの知識も、一定の実践力や専門性が必要となるでしょう。

デジタルスキル標準のチェックシートを見ると、特に
マネジメント系以外にも、デザイン系スキルに多くチェックがついている
点は注目に値します。実は、デジタルスキル標準では「デザイナー」に関する章が別途定義されているのですが、そちらには
デザインに期待される役割が単なる造形の美しさから変化してきている
ことが詳細に書かれています。
デジタルスキル標準における「デザイン」の意味
ここで少し脱線して、デザイン系スキルについて解説します。
デジタルスキル標準で「ビジネス変革」カテゴリーのスキルは、「戦略・マネジメント・システム」「ビジネスモデル・プロセス」「デザイン」の3つのサブカテゴリーから成りますが、「デザイン」は以下のように定義されています。
(デザイン)個別の製品・サービスに関するDX推進のプロセスを進めることに軸足を置いたスキル
顧客視点で個別の取組み(特に新規事業開発)を進めるうえでのプロセスごとにスキルを定義している
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
このように、定義の部分に「意匠・見栄え」については特に明記されていません。それもそのはずで、実はそもそも
「デザイン」という言葉は「意匠・見栄え」だけを指すわけではない
からです。
市場や技術、社会が大きく変化し、企業を取り巻く問題が複雑化していることを背景に、「デザイン」に期待される役割も変化しています。すなわち、デザインには、個々の製品などの造形を美しいもの、使いやすいものにする役割のみならず、製品やサービスを利用する人々の体験全体を心地よいもの、魅力的なものにする役割、さらには、ビジネスモデルや組織・コミュニティなどのエコシステムを望ましいもの、生き生きとしたものにする役割も求められるようになりつつあります。今やデザインは、人を起点とする価値創造・問題解決の手段として捉えるべきものだと言えるでしょう。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
こちらは、デザインスキル標準の「デザイナー」の章からの引用ですが、もとも経済産業省の「デザイン政策ハンドブック2020」にも同様の記載があるようです。Wikipediaによると、
デザイン(英語: design、中: 設計)は目的設定・計画策定・仕様表現からなる一連のプロセスである。すなわち人・ユーザー・社会にとって価値ある目的を見出し、それを達成できるモノゴトを計画し、他者が理解できる仕様として表現する、この一連の行為をデザインという。
(中略)
すなわち人・動物・コンピュータといった主体が、特定環境・制約・要件下での目的達成を意図して、様々な要素(還元していくと基本要素にたどり着く)の組み合わせによる作品・システム・プロセスといったデザイン対象の仕様を、仕様書・計画・想像図・模型・対象そのものといった形で生み出すことをデザインという。
とあります。要するに「価値そのものを見出し、価値実現方法を見出し、価値を他者が理解できるように表現するという一連の行為」であるとすると、デザインとは表現の部分だけでなく、その前の工程、つまり日本語でいうところの「設計」の意味合いも持っていると言えます。
つまり、デザインとは、人を起点とした価値創造・問題解決の手段であって、ここでいうデザインのスキルというのは「顧客視点でDX推進するためのスキル」と言い換えることができるでしょう。

デジタルスキル標準における「デザイナー」のスキル
ちなみに、デジタルスキル標準における「デザイナー」も、3種類のロールがあり、それぞれ「デザイン」する範囲が異なります。

「サービスデザイナー」は個別案件の課題特定、価値定義、ビジネスモデルからビジネスプロセスやUXまでデザイン(設計)を行うと書かれており、広くデザイナーと書かれがちな「UX/UIデザイナー」「グラフィックデザイナー」とは明らかに異なる役割であると明確に定義されております。
当然ですが、データビジネスストラテジストに求められるスキルは前者であり、それも知識を有するだけではなく、一定の実践力までが必要となるとされています。
「データサイエンスプロフェッショナル」とは
ここからは、狭義のデータサイエンティストである「データサイエンスプロフェッショナル」について解説します。一言でいうと
データを分析し、その価値を示す人
です。

「データサイエンスプロフェッショナル」は、データの処理・解析を行うほか、その結果を評価し、新規事業の創出や現場業務の変革・改善につながる知見を生み出す役割を担う。また、現場部門でのデータ活用の仕組みづくりやエンドユーザーに対する教育・サポートを行うという役割も担っており、データの処理・解析だけではなく、その結果の活用の場面においても一定の責任を負っている。
上のような役割を担うため、「データサイエンスプロフェッショナル」には、データの分析やその結果の評価に関するスキルのほか、現場のユーザー等を含む多様な関係者と適切にコミュニケーションを行うための平均的なパーソナルスキルなども求められる。
また、急速に発展しているデータサイエンス分野を中心に、先端技術の動向を把握し、自社で活用できる技術を検証する役割も担うため、「その他先端技術」についても、他のロールよりも深い理解が求められる。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
すなわち、平たく言ってしまえば、データサイエンスプロフェッショナルとは、
(狭義の)データサイエンティストそのもの
です。
「データサイエンスプロフェッショナル」に求められるスキル
データサイエンスプロフェッショナル(=狭義の「データサイエンティスト」)は「データ分析の人」というイメージがあります。しかし、この人たちは分析だけしていればよいということではありません。
データサイエンスプロフェッショナルには、データからインサイトを得て、それを関係者に正確に伝えることも必要となるのです。

このスキルシートを見ると、率直な感想として
求められるスキルが、「データビジネスストラテジスト」に近い
ように見えます。特に、データ活用・デザイン・セキュリティの分野に関しては重要度が高いという点は同じです。逆に、ビジネス変革系スキルの重要度は下がっており、代わりに
コンピュータサイエンスの知識が求められる
という点が特徴的です。これは、データ分析にはコンピュータの利用が不可欠であり、そのような仕組み・環境を自社に導入するためには知識が不可欠であるからと考えられます。
「データエンジニア」とは
ここからは、データサイエンティストの3つ目のロールである「データエンジニア」について解説します。一言でいうと
データ分析環境を設計し、実装し、運用する人
です。

「データエンジニア」は、データ活用基盤として、リアルタイム、動的(dynamic)、自動(automatic)に最適化されるようなデータ分析環境を設計・実装・運用する役割を担う。
上のような役割を担うため、「データエンジニア」には、「バックエンドシステム開発」や「クラウドインフラ活用」に関しても、ソフトウェアエンジニアと同等の高い実践力が求められる。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
いわゆるITエンジニアに近いロールと言うことができるでしょう。
「データエンジニア」に求められるスキル
データエンジニアに求められるスキルは何でしょうか?

このスキルシートを見ると、これまでの「データビジネスストラテジスト」「データサイエンススペシャリスト」と比べて、
求められるスキルが、ITエンジニアに近い
ように見えます。ソフトウェア開発、システムエンジニアリングやセキュリティといった、システム構築といった点の重要度が高く、逆にデータ活用の一部や、ビジネスモデル・プロセス、デザインといったスキルの重要度は下がっています。ここから
ソフトウェア・システム構築の実務がこなせる人材
を解釈することができるでしょう。いくら、顧客のデータを持っていて、データ分析の理論がわかっていても、ソフトウェアの活用ができなければ、ビジネスへの展開ができないからです。
おわりに
ここまで9000字以上にわたって、デジタルスキル標準における「データサイエンティスト」を解説してきました。デジタルスキル標準は、データサイエンティスト協会が示す3種のスキル定義をベースにしつつ、非常に読みやすいスキルマップにより、データサイエンティストに求められるスキルが非常に理解しすくなっておりました。
ただし、このガイドラインがあれば自社のDX人材の問題が万事解決するというわけではありません。最も難しく、また最も大切なことは
このガイドラインを使って自社のデータサイエンティストスキルを定義
することです。自社が保有する人材・スキルによって、役割は変わってきます。ガイドラインは、あくまでガイドラインであり、幅を持たせて書いています。実際に、DX人材を育成・獲得するためには、このガイドラインを使って
自社に必要なDX人材を定義したうえで、人材の育成・獲得戦略を立案
する必要があるのです。
(おわり)
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