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大河ドラマ感想記『豊臣兄弟!』墨俣一夜城


大河ドラマ感想記「豊臣兄弟!」
第一回:二匹の猿
第二回:願いの鐘
第三回:決戦前夜
第四回:桶狭間!
第五回:嘘から出た実(まこと)
第六回:兄弟の絆(きずな)
第七回:決死の築城作戦
第八回:墨俣一夜城
第九回:竹中半兵衛という男
第十回:信長上洛

《目次》



「結婚しよう」の不吉な予兆


「必ず無事に帰ってくる。」
「そしたら、祝言を挙げよう。」

直の死亡フラグであることは、視聴者の誰もが察したことだろう。主人公の小一郎が墨俣一夜城で命を落とすはずはない。となれば、フラグが立つのは当然、なおということになる。

振り返ってみれば、兄・藤吉郎の場合も「侍大将になったら、ねねと結婚する」と豪語してはいた。しかし、彼はそれをねね本人に直接誓ったわけではなく、ましてや死地へ赴く直前に愛を告白したわけでもない。この絶妙な差が、生死を分ける境界線のように感じられた。

危機的な状況が迫る中で、戦後の平和な日常を夢想するのは、創作の世界では「死」へと直結する定番中の定番だ。この強固な「死亡フラグ」を鮮やかに回避できた例は、きわめて少ない。



細工は流々、仕上げを御覧じろ


「墨俣に城が出来たら、わしにくれると殿は仰せじゃ」「城じゃなく砦じゃろ」

この軽妙なやり取りは、堺屋太一の『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』にも描かれていた記憶がある。現在の墨俣一夜城址公園には立派な天守閣がそびえているが、いくら秀吉とはいえ一夜で天守を築けるはずもない。

「墨俣砦」が正確なのだろうが、砦は「出城」とも呼ばれるため、「墨俣城」と呼んでも差し支えないだろう。



細工は流々りゅうりゅう。あとは仕上げを御覧ごろうじろ。

これは、墨俣城の策について藤吉郎が信長に報告した台詞である。もとは歌舞伎『毛抜』に由来する言い回しで、職人の腕前への自信を示す言葉だという。

こうした粋な言い回しを使いこなす藤吉郎は、陰で相当な数の書物を読み漁っていたのではないか。あるいは、彼と協力関係にある川並衆の間で流行していた言葉だったのかもしれない。

いずれにせよ、己の教養をさりげなく、かつ効果的に上司へ示す藤吉郎の立ち振る舞いは、やはり非凡な逸材であることを物語っている。




墨俣の地勢と渡河作戦の危うさ


敵方は川を渡って墨俣砦に来襲する形で描かれていた。渡河作戦は陣形が乱れやすく、足場も不安定になるため、攻め手にとっては大きな不利を伴う。砦から矢や鉄砲を浴びせられれば、ひとたまりもない。

「墨俣」は、その名の通り洲の股に位置する。湿地帯が広がっている場所に砦を築けば敵の動きは一目で把握できる。斎藤勢としては、どうしても墨俣砦を叩き潰したかった。



墨俣砦炎上と演出のロジック


劇中、墨俣砦を舞台に展開されたのは、あろうことか「ベルカ式国防術」を彷彿とさせる自爆戦術だった。

墨俣砦は自国領ではないが、まさかそのような焦土的手法が用いられるとは予想していなかった。この作戦は史実にも創作劇にも見当たらず、『豊臣兄弟!』独自の脚色と考えるのが妥当だろう。

敵を砦内に引き込み、油を流して火を放つという手法は、少なくとも戦国期の城郭戦では一般的とは言いがたい。そもそも守備側が安全に脱出できる保証はなく、敵の主力が易々と内部まで踏み込む状況自体も稀である。演出的な効果を優先した場面と見るべきかもしれない。

戦略的な観点から言えば、砦を自ら焼く行為は、本来の目的である「おとり」の役割を放棄することに他ならない。無線連絡手段のない中世において、この戦法はあまりにリスクが大きい。命懸けで築いた拠点を、第一目標である北方城の陥落前に手放すのは、戦略的合理性を欠く選択と言わざるを得ない。北方城攻略まで砦を維持する方が、より自然な判断であろう。

火だるまアクションや炎が吹き上がるシーンは視覚的な迫力に富んでいたが、その演出意図がロジックよりも先に立った可能性は否定できない。



鮮烈な退場と未来への期待


前回の感想文で、墨俣砦に竹中半兵衛が来訪するのではないかと書いたが、砦は炎上し、藤吉郎の城持ちの夢は持ち越しとなった。次回はおそらく、半兵衛と美濃三人衆の調略の行方が焦点となるのだろう。

出生が謎とされる慈雲院(秀長の正室)を直に仮託する改変もあり得たように思うが、前々作の『光る君へ』がそうであったように、大河ドラマには独特の構成上の制約があるのかもしれない。奇しくも本作で徳川家康を演じている松下洸平も、『光る君へ』の周明役では、今回の直と同様に戦の混乱の中で物語を去っている。前回、直が倒れる描写があったが、そのまま退場させる選択肢も検討されていたのかもしれない。

当初、直役は永野芽郁が予定されていた。二ヶ月での退場という設定は、多忙な人気俳優の拘束期間を考慮しての配慮だったのかもしれない。不測の事態により代役となった白石聖だが、大河の代役を全うした俳優の多くがその後大きく飛躍しているのは周知の通りだ。

回想シーンを除けば、彼女が本作に登場することはおそらくもうないだろう。しかし、その鮮烈な印象を糧に、彼女が他の作品でさらなる輝きを放つことを確信している。白石聖という俳優の今後に、静かに期待したい。



追記


2026/03/03

『テレビドラマ感想文』応募作品の中でスキの週間一位を獲得しました。皆様ありがとうございます。感謝!!



《了》

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