⑪話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね? 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】♯お仕事小説部門♯創作大賞2025
【これまでのあらすじ】
★風俗に来るお客さんって正直だ。
仕事にもだんだん慣れて、自分が出来ること、出来ないことの線引きが分かってきたゆゆ。
だけど時々、無性に悲しくなってしまう。それはきっと、ヒカルさんがいなくなってしまったからだ。
そんな時、彼女がいなくなった理由を知ってしまい……?
♯これは、風俗を通して自分を赦す物語
①話
②話
③話
④話
⑤話
⑥話
⑦話
⑧話
⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑩話 風俗嬢って楽しいの?
⑪話◀︎New!全⑮話予定▶︎全19話予定🍀

風俗に来るお客さんって正直だ。
良くも悪くもだけど。
「ゆゆさん、僕はあなたの事が好きです。こんなおじさんだけど、これからあなただけを指名します。その時に、会う度にキスをしてくれたら、追加で1万円お支払いします。全然断ってくれても良いんですけど、こんなおじさんのお願い、聞いてくれますか?」
おじさんが真剣な眼差しで言ってきた。
ふーん。
1万円……1万円かー。
男の人は気分が昇ってくると、変なことを言い出す事がある。
ソープはちゅうしてもいいんだっけ?
まぁ、うちはダメだけど。
「すみません、イヤです」
キッパリと言った。ちょっとしんどいけど、時々ある事だった。というかこの人はお金を払おうとするだけ良い人だ。
だってタダでやろうとしてくる人もいるから。
この人は、お金に余裕があるのか、もしくはそういう関係の女の子がいたのかな。
「そっか、ごめんね」
おじさんは落ち込んだように暗い声を出した。傷ついているように見えて、なんだか私まで悲しくなってしまう。
お金を払ってまで満たしたい欲望を無下にすると、無情にもアラームが鳴った。
「すみません、終了です」
私は冷たく言った。無理なお願いをされると冷めてしまう。私が悪者みたいで嫌なので、言い方も自然とこうなってしまうのだった。
うちのような店を“3ナイ”と呼ぶらしい。
脱がない、舐めない、触られない、の3ナイ。
だけど守らない人は一定数いる。
私はお店がOKしてることしかやってなかったけど、中にはそれ以上の事をやっちゃう女の子がいる。
だからお客さんは聞いてくる。
君もできる?
って一応、私の覚悟を試すんだ。
だけど、線引きを越えようとされると拒絶が出て、
「あ、この人気持ち悪い」
ってなっちゃうから、私にはやらないで欲しかった。
「ゆゆぅ、次90分入ったよ。LINE見てる?」
店長からの電話。
私は慌ててスマホを確認した。
“ヒカル様
ナガイ様から90分のご予約
1万9000円受け取ってください”
「店長、私ヒカルさんじゃないです」
「あっれ、ごめんごめん。間違えちゃったな」
「……」
間違えられて、ちょっと嫌な気持ちになったのは、ヒカルさんが嫌いだからじゃない。
仕事に来なくなってしまったヒカルさんを思い出して、悲しくなってしまったからだった。
ヒカルさんは、徐々に出勤を減らして、今はもう、ぱったりと、お店に来なくなっていた。
私にはどうしようもできない。
しょうがないことだった。
「ホテル、どこでしたっけ?」
私はいつも通りに聞いた。
大丈夫、私は冷静だ。
「いって」
冷静なはずなのにガードレールに足をぶつけた。
ちょっとよろめきながら歩く姿は、酷く滑稽に見えた。
♦♢
「あ、待ってたよ。やっぱ若い子は良いね〜ピチピチじゃーん」
ホテルにいたのはスキンヘッドのおじさん。私は作った笑顔を貼り付けた。
「ご指名ありがとうございまーす。今日はいっぱい癒されてくださいねー」
おじさんは優しそうに笑ってたけど、目はなんだかギラギラしていた。この人も何か欲望を持ってここに来たんだなぁって、ちょっと厄介そうな気配を感じた。
「ねぇゆゆちゃん、胸触らせてよ」
「え?胸?」
この人もか。とげんなりする。
嫌な顔をしたからか、おじさんの笑顔が止まった。険悪な雰囲気が流れ、喉が苦しくなった。
「え?ヤダ?……うーん、困ったなぁ」
おじさんが頭をボリボリ掻く。
丸刈りの地肌に赤い放射線状の爪痕が残った。
あ、ヤバい。この人、思ったより怒ってる。
「はぁ。あのさ、君風俗嬢舐めてるんでしょ?最近入ったヒカルちゃんは触らせてくれたよ」
……。
呆れた言い訳をするんだな。
「ヒカルさんがそんなことする訳ないじゃないですか」
なぜかムキになって答えていた。
おじさんはきょとん、とした顔になる。
「え、ほんとだよ?」
は?
「ヒカルちゃんが入ったばっかの時、色々教えてあげたのは俺だもん。ヒカルちゃんはさ、やってくれたんだよ」
何か思い出したのか、おじさんは昏い笑みを浮かべていた。
「……」
何を聞いたんだろう。言葉が詰まって、何も言えなくなった。
もしもおじさんの言う通りだったとしたら。
優しいヒカルさんは、どこまでお客に身体を許したんだろう。
あの日、ヒカルさんは胸を触られたと泣いていた。
点と点が線で繋がった感じ。
全部、この人のせいだったんだ……。
「そ、そんな……」
ショックすぎる。
そんな悲しいことってない。
私を見てたおじさんは、何を勘違いしたのかお説教を始めた。
「M性感来たのだって触られたくないからでしょ?
いるんだよな、こういう、風俗を舐めた子。
お客さんは高いお金を払ってるんだから……」
ピピピピっ
タイマーの音でハッとする。
いつの間にか90分経っていた。
あれからただ話を聞いていただけで、何もしていない。
怒られる。
パッとおじさんを見ると、何故か優しい顔をしていた。
「俺も言い過ぎちゃったけど、君のことが嫌いで言ってるんじゃないんだよ。新人だから、これも教育のうちだから」
「はい……ありがとうございます……」
あ、この人、怒りたいだけの人だ……。
ペコペコと頭を下げながらホテルを出ると、暑い熱気が私を包んだ。
「ヒカルさん……」
私のつぶやきは喧騒にかき消される。
夜のホテル街は人が多く、私は慌ててマスクをつけた。
みんな平和そうだなぁ……。
ラーメン屋に並び、暑そうに汗を拭うサラリーマン。
手を繋ぎながら居酒屋に消えていく、若いカップル。
ホテル帰りの大きな商売道具を持った、風俗嬢……。
1人だけ異質だ。
「私は大丈夫。私は大丈夫」
訳もなく唱えた。
あの時のヒカルさんの顔が頭から離れない。
『ゆゆちゃんは、この仕事楽しい?』
ヒカルさんは、楽しくなかったってこと?
そんなこと言われても、どうしようもできないよ。
どうして私なんかに話そうとしたんだ。
どうしてヒカルさんは来なくなってしまったんだ。
……。
あの日、ヒカルさんが持ってきてくれた、海外のクッキー。
あれは美味しかったなぁ。
また、食べたいなぁ。
なんて、できないことを考えていた。
LINEも電話番号も知らないから、私は多分、ヒカルさんと二度と会わない。
それがやっぱり、辛かった。
♢♦

🍀今回も読んでくださって、本当にありがとうございます!
少し重たいお話が続いていますが、ここからゆゆは少しずつ救われていきます。
最後にはちゃんとハッピーエンドになりますので、どうかもう少しだけ見守っていただけたら嬉しいです…!
🍀前回のお話は少し長くなってしまったので、今回は反省も込めてコンパクトにまとめてみました。
少しは読みやすくなりましたか…?
「ここが良かった」、「もっとこうしたら良いかも」など、感じたことがあればぜひコメントで教えてください!
皆さまの言葉が、本当に励みになっています(´•ᴗ•̥`)
🍀次回更新は7月5日 土曜日予定です✨
次のお話はコチラ👇
ヒカルさんとのクッキーって出てきた?
仕事が楽しいか聞かれたっけ?
という方はコチラ!前回のお話です👇
1番最初から読むのは面倒だけど
ヒカルさんとの関係だけ気になるという方はコチラ!
ヒカルさん登場回になります👇🏻
