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⑫話 店長はちょっとだけお父さんの匂いがする【これは、風俗を通して自分を赦す物語】♯お仕事小説部門♯創作大賞2025

【これまでのあらすじ】

★ヒカルさんが辞めたと聞かされたその夜、私は怒りと悲しみを抱えながら店長と話をする。
無責任な態度に憤りながらも、その姿にどこか父を思い出してしまう自分がいた。

♯これは、風俗を通して自分を赦す物語

①話
②話
③話
④話
⑤話
⑥話
⑦話
⑧話
⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑩話 風俗嬢って楽しいの?
⑪話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね?
⑫話◀︎New!

全19話予定🍀


悲しみにまみれて事務所に帰ると、店長が第一声に酷いことを言った。


「ヒカル辞めちゃったよ〜」

午後19時。
やっと仕事が終わって、帰れるって気が抜けた時だった。

「辞めちゃったんですか?」

驚くぐらい自然に言葉が出て、何も考えずに発したものだと気がついた。

「辞めちゃった辞めちゃった。さっきLINE来てさ。ホームページ消さなきゃなぁ。まぁ明日でいいかぁ」

いい加減な店長。
まるでなんでもない事のように言うから、私もなんでもない事のような気がしてしまう。

そう、ヒカルさん、辞めたんだ……。
……ふーん、そっか。

「……っあ、」

目が熱くなっていた。

ヒカルさんが辞めた。
それだけのことなのに。

私は静かに目を閉じ、心を落ち着けようとした。
店長は煙草に火をつけて、ため息混じりに口を開いた。

「こんなに早くやめるんならさ、研修しなくてホントよかったよー」

煙草の煙を吐き出すと、灰色の煙が宙を舞い、風に消されて消えていった。それを見て、なぜかお寺のお線香を思い出した。自分に罪の意識があるから、少しでも許されたくて思い浮かべたのかもしれない。

「ホテル高いからさー。早く辞めてくれて良かったよ」
「……」

ホテル高いから……。
あ、ヒカルさんは、ホテル代を渋られたんだ。
なぜか、時間が止まった気がした。

「6000円だよ6000円ーホテル代値上げしたよなー」

世間話を言うように、なんでもないことを言うように、店長は最低なことを言った。

「……」

気がついたら手のひらを強く握っていた。
お腹の奥がフツフツと熱くなる。

……なんだ。
お前が原因なのか。

頭の中には涙を流すヒカルさんの顔があった。

もし、研修をちゃんと受けてたら、彼女はお客の過剰な要求を拒否できていたのかもしれない……。

彼女の涙は綺麗だった。
胸を締め付けるほどの熱いものが流れ出ていた。

この人のことが憎いと思った。
本気で懲らしめてやりたくなった。

男の横っ面をぶん殴って、ヒカルさんが味わった屈辱を、味合わせたい。

笑顔の店長ににじりよった。
夜の闇が濃くなった気がした。
夏の熱気が私を焚きつける。
殴れ、殴れ、殴れ。
私の頭が邪悪に支配されていく。

なのに。
なのに、
店長は、酷く優しい顔で、嫌なことを言った。

「多分ゆゆにも研修はできねぇなぁ。

だってほんとに、ゆゆは娘みたいなんだもんなぁ」

「…………は?」

なんでもないことのように、目尻に皺を寄せて、言ってのける。

え、
私の事、
娘だって?

「娘はヤンチャでさぁ、今刑務所にいるんだよ」

店長がタバコに火をつけた。
セブンスター。
重くニコチン量が多いタバコだ。

「娘がなんで刑務所に居るのかは知らねぇけどさ、俺が近くにいれば違ったのかなぁ、なんて考えちまってさぁ」

店長は格好悪く笑った。
昭和っぽい、ダサい顔。お父さんの顔。
嫌だ。嫌だ。考えるな。

「ゆゆに酷いことはできないから、研修はしないなぁ」

なんでだ。
酷い。

酷いこと、
私にもう、しているよ。

お父さんぶらないで欲しい。
ちゃんと悪者でいて欲しい。
私を被害者で、いさせて欲しい。

吐き出された煙がふわりと香り、お父さんの後ろ姿を思い出した。
お父さんもちょっと格好悪い、うだつの上がらなそうな顔をしていて、ヨレたシャツを手で伸ばして、着ていたっけ。
あぁ、こんなところまで、お父さんとおんなじなんだ。

こんな強いタバコを何本も吸ってたら、肺がんになって、死んじゃいますよ。店長。

「……」

あ、私、この人を心配してしまう。

恨めないでいる。
この格好悪い人を。

店長は研修を6000円惜しさにサボったけど、私も我が身可愛さでヒカルさんを蔑ろにした。
どっちも最悪だ。
地獄に行く。
私は静かに、後悔した。

夜風の涼しさが私の頭を冷ましていくけど、このモヤモヤはどうして晴れないんだろう。

今はただ、静かに眠りたかった。
タバコを吸って、コーヒーを飲んで。
それらは全部、お父さんの嗜好品だった。
新しい奥さんのいる、大好きだった、お父さんの。


私は一人暮らしの家に帰るとお風呂にも入らず布団に入った。
タオルケットを抱き寄せ、目を瞑ると、いつの間にか意識が深く落ちていく。

その日、久しぶりに夢を見た。

ヒカルさんと2人で、ショッピングモールに遊びに行く。
ただそれだけの夢だ。

自然と目が開き、窓を見ると、まだ月が出ている時間だった。
じっとりとワンピースが肌に張り付き、寝苦しくて起きたことに気がつく。

夢で会ったとしても意味は無い。
会いたい時に会えないのは、こんなに寂しいのか。
エアコンをつけて瞼を閉じるけど中々眠れないのは、また夢の中で会うのが怖いからだろう。

ただ一度でいい。
ヒカルさんと、ちゃんと目を合わせて
「ごめんね」
と言えたら。
少しはこの夜の寝苦しさも、和らぐのかもしれなかった。

♢♦

🍀今回も少し重めの内容になってしまいました。
読み疲れてしまった方がいたら、ごめんなさい……!

次回もすこしだけ暗い場面が続きますが、そこから少しずつ光が差しはじめて、最終的にはちゃんとハッピーエンドで終わります。
この物語が、どこかで誰かの記憶に残っていたら、とても嬉しいです…!

🍀また、前回の投稿にて
「M性感についてもう少し深く知りたい」
「風俗嬢がストレスを抱えたときの対処法も知りたい」
というご意見をいただきました!

貴重なアドバイス、本当にありがとうございます(ˊ˘ˋ)
どちらも近いうちに、別記事としてまとめて投稿させていただきますね!

🍀そのほかにも、「ここが気になった」「こうした方が読みやすいかも」など、どんな小さなことでも構いませんので、ぜひお気軽にコメントいただけると嬉しいです(⌯'ᵕ'⌯)´-

そして最後に、
いつも読んでくださる方、コメントをくださる方、フォローしてくださる方、そして偶然立ち寄ってくださった方へ。
本当にありがとうございました!
またお暇な時に、覚えてたら読みに来て下さると嬉しいです…!

次のお話はこちらになります👇

前回のお話はこちらになります👇

店長の初登場回はこちらになります👇🏻




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