【フェーズ2-10】 学生時代のアルバイトを、IT企業で経験する。2,000時間のバイト選びに、本気度が表れる。言動一致はポートフォリオの差と面接の信用になり、言動不一致は選考でそのまま見抜かれる 【ITエンジニアの卵に贈る、就活の書】
この記事は「ITエンジニアの卵に贈る、就活の書」シリーズの一本です。シリーズ全体の目次はこちら(扉記事)からご覧いただけます。
エンジニアを目指す学生のみなさん、こんにちは。クオリティアーツの池田です。
ITエンジニアの卵に贈る、就活の書・フェーズ2-10の記事です。前回のフェーズ2-9では、技術イベントや勉強会で発表する話をしました。今回はフェーズ2「作る」の実践各論11本のうちの8本目として、学生時代のバイトを、IT企業で経験するというお話です。
結論を先に言います。「エンジニアになりたい」という言葉と、学生時代にどこで時間を使ってきたかという行動が、一致しているかどうか。ここに、みなさんの本気度が、そのまま表れます。何気なく選んでいるアルバイト先が、卒業時のポートフォリオの厚みと、面接での説得力を大きく左右します。この記事では、その理由と、本気で選ぶとはどういうことかを、具体的にお話しします。次のフェーズ2-11の長期インターンにもつながる、短期バイト・長期バイト・長期インターンという一つの時系列の、最初の一歩でもあります。
1. 言動一致の証拠として、アルバイトにしか示せないもの
アルバイトは、数あるポートフォリオの中でも、ブログや個人開発だけでは示せない価値を持つ、独自のポートフォリオです。この独自性は、主に3つの点にあります。
1つ目は、自ら応募するという行動そのものです。GitHubにリポジトリを置くこと、ブログを書くことは、誰の許可もいらず、一人で完結します。一方、アルバイトへの応募は、自分の意思で一歩を踏み出し、選考という他者との接点に自分をさらす行動です。この「自ら動いた」という事実そのものが、言葉だけでは示せない証拠になります。
2つ目は、対価を受け取り、期日と責任を伴う形で働いたという実績です。個人開発は、やめても誰にも迷惑がかかりません。アルバイトは、シフトに穴を開ければ、現場の誰かに実際の迷惑がかかります。この責任と緊張感の中で時間を積み重ねてきたという事実は、無償で完結する活動とは、重みが異なります。
3つ目は、他人の目利きが、すでに一度通っている活動であることです。GitHubやブログは、自分自身が「公開してよい」と判断したものです。アルバイトは、企業側が採用選考というフィルターを通し、雇用契約を結んだ上で、初めて始まります。ただし、この目利きの水準は、どんな職場でも同じというわけではありません。この記事の後半で扱う募集要項の見極めや、成長につながらない募集の危険信号を、自分自身の目で確かめてこそ、この目利きは意味を持ちます。
この3つは、いずれも「エンジニアになりたい」という言葉を、行動で裏付けてきたかどうかという、言動一致の証拠そのものです。ここから先は、この物差しを、具体的な場面に当てはめてお話しします。
2. その「なんとなく」のアルバイト選びが、2,000時間を無駄にする
大学生になると、多くの学生さんが、当たり前のようにアルバイトを始めます。サークルの先輩に誘われて、友人と同じ店で、家から近いから。そうした理由でアルバイト先を選ぶこと自体は、自然なことです。ただ、ここで一つ、はっきり言っておきます。「エンジニアになりたい」と言いながら、学生時代のアルバイトでIT企業もプログラミングも一度も選ばなかったなら、それは、言葉と行動が一致していないということです。
仮に週15時間、大学の3年間アルバイトを続けたとすると、単純計算で2,000時間を超えます。授業や個人開発に使う時間とは別に、これだけの時間のかたまりを、みなさんは学生時代に持っています。この2,000時間という重さを、真剣に考えてください。何を得るかをあまり考えずに過ごすか、就活とキャリアの土台づくりも視野に入れて過ごすかで、卒業時点のポートフォリオと成長の厚みは、大きく変わります。
この差は、就活が始まってから、面接という具体的な場面で、はっきりと形になって表れます。
3. 「ずっとなりたかった」で、IT企業のバイト経験がないなら、その志望動機を面接官は信用しない。言動一致という物差し
私自身、面接官として、これまで多くの就活生と話してきました。「ずっとITエンジニアになることを目指していました」と語る学生さんに、学生時代のアルバイトを尋ねます。そこで返ってくるのが、居酒屋やカフェでのアルバイトを一生懸命がんばった話だけだったとき、面接官は、その学生さんの志望動機を、その場で信用できなくなります。「ずっとエンジニアになりたかった」という言葉と、2,000時間をIT企業にもプログラミングにも一度も使わなかったという行動。企業は、この2つに、両立の余地を感じません。言葉と行動が一致していない、つまり言動不一致です。
飲食店やコンビニのアルバイトを否定しているわけではありません。ただ、本気でITエンジニアを目指しているなら、学生のうちに使える2,000時間の一部を、IT企業のアルバイトに充てるという選択肢が、自然と視野に入るはずです。その選択肢を一度も検討せずに「ずっとなりたかった」と語るなら、それは、言葉だけで自分を大きく見せているのと同じです。志望動機の言葉と、実際にどこで時間を使ってきたかという行動が一致していないと、その不一致は面接の場でそのまま伝わってしまいます。
反対に、IT企業でのアルバイトに実際に取り組んできた学生さんの話には、説得力と信頼感が自然と伴います。担当した機能、直面した課題、先輩から受けた指摘。固有名詞と具体で語られる話は、聞いていて解像度がまったく違います。本気度は言葉そのものよりも、学生時代にどこで時間を使ってきたかに表れる、というのが、面接官としての私の実感です。この言動一致という物差しを、この記事全体を通して、頭の片隅に置いておいてください。
4. 初任給の高いエンジニア組織ほど、この不一致はシビアに見抜かれる
初任給の水準が高いエンジニア組織ほど、この不一致は面接の場でシビアに見られます。「ずっとエンジニアになりたかった」という言葉のあとに、技術と関わりのない話しか続かないと、面接官は、その学生さんが、面接の場で言葉を偽っているのではないかと疑います。厳しい言い方をしますが、裏付けのない志望動機は、面接の場で嘘をついているのと変わりません。そこから先の質問で、面接官はその疑いを確かめにいきます。ここで、IT企業のバイト経験がない代わりに、個人開発や技術書にどう時間を使ってきたかを、具体と固有名詞で語れるなら、評価は十分に持ち直します。問われているのは、経験の有無そのものより、自分が使った言葉に、自分の行動で応えられるかどうかです。
まだ何もしていないなら、今日から動けばいいのです。ただし、何もしないまま「ずっとなりたかった」と面接の場で語るのは、面接官や企業に対して誠実ではありませんし、プロフェッションの態度ではありません。
5. 短期バイト・長期バイト・長期インターン。一つの時系列として見る
ここで、この先の見通しを立てておきます。IT企業で学生時代を過ごす道は、一つではありません。1日〜数日で終わる短期バイト、数ヶ月以上続ける長期バイト、そしてフェーズ2-11で扱う長期インターン。多くの場合、短期バイトで業界や企業の空気を確かめ、手応えを感じたら長期バイトで本腰を入れ、さらに深く関わりたいと思ったら長期インターンに進む、という一つの時系列でつながっています。もちろん、いきなり長期インターンに飛び込む道もあり、順番通りに進む必要もありません。
この3つは、確認すべきことの深さも、企業側から見た位置づけも異なります。バイトは、企業や業界を身をもって知るための体験です。時給をいただきながら、IT企業の内側の空気やチームで動くコードの感覚に触れる。これがバイトの中心的な価値です。企業側から見ても、バイトはまず人手や母集団形成のための募集であり、採用選考そのものではありません。確認する場も、短期バイトは募集要項を読む段階でほぼ完結し、長期バイトは面接でも確認し、長期インターンは選考プロセス全体を通して確認する、と段階的に広がります。この違いは、どちらが優れているかではなく、企業側が学生にどれだけの期間と裁量を託そうとしているかの違いを映しているだけです。
これに対して、長期インターンは、もはや就職活動そのものです。この視座の違いは、フェーズ2-11で改めて詳しくお話しします。ここでは、バイトは体験として気軽に飛び込んでいい、しかし長期インターンは選考の一部として臨む必要がある、という違いだけ、まず押さえておいてください。新卒の就活中の方はもちろん、社会人経験を経て学び直している学生さんにとっても、業界経験の入口として、この道は活きます。
6. 学生バイトは、企業にとっても目的がある
学生バイトは、学生が一方的に育ててもらう関係ではありません。企業側にも、学生バイトを募集する目的があります。双方が何を目的にしていて、何を得ているかが、お互いに見えている関係。これが、対等な関係です。企業側の目的を知っておくと、募集要項や面接で何を見ればよいかが分かりやすくなります。
企業が学生バイトを募集する目的は、大きく2つに分かれます。一つは、人手の確保です。データ入力、動作確認、カスタマーサポートといった業務量に対して、正社員だけでは手が足りない場面を、低いコストで補う目的です。もう一つは、採用活動の一環としての母集団形成です。学生のうちから自社の技術やカルチャーに触れてもらい、新卒採用の候補者との接点を作る目的です。この目的を持つ企業は、育成に時間とコストを投じます。オンボーディング、メンター制度、レビュー体制は、この投資の表れです。
同じ「学生バイト募集」という言葉の裏に、この2つの異なる目的が隠れています。一方、学生側がバイトから得られるものは、次に紹介する3つです。企業側の目的と、学生側が得るものが、双方にとって釣り合っているかどうかが、良いバイト選びの本質です。
7. バイトでしか埋まらない差。学業や個人開発では、追いつけない4つ
バイトでIT企業に入るということは、単にお金を稼ぐことではありません。学業や個人開発では得にくい、4つの経験が積めます。
1. チームで動くコードに触れる
大学の授業や個人開発で書くコードは、多くの場合、自分だけが読む前提のコードです。IT企業のバイトで書くコードは、先輩エンジニアがコードレビューし、他のメンバーが読み、本番環境で動くコードです。プルリクエストを作り、レビューを受け、指摘に対応するサイクル。CI/CDでテストが通る/落ちるという流れ。Git flowやGitHub flowといった開発フローの実際。これらは、フェーズ2-4で扱った技術書だけでは身につきにくい、実務の現場の空気そのものです。
とりわけソフトウェアテストは、大学のカリキュラムで体系的に扱われることが少ない領域です。単体テスト・結合テスト・システムテストというテストレベルの違い、同値分割や境界値分析といったテスト技法は、フェーズ2-4で紹介したJSTQBのシラバスが扱う領域で、教室ではさらに教わる機会が少なく、実務の現場で初めて触れる学生さんがほとんどです。
このやり取りは、技術の話であると同時に、相手がいる中で仕事をするという経験でもあります。指摘を素直に受け止める、分からないことを適切なタイミングで聞く、自分の担当の進み具合を共有する。この振る舞いは、技術スタックの経験値とは別の、チームで働く力の土台になります。
2. 世界基準のインフラと道具立てに触れる
世界基準で開発をしているIT企業に入ると、AWSやKubernetes、GitHub Actions、Datadogといった、世界のエンジニアが日常で使う道具立てにそのまま触れられます。学業や個人開発だけでは触れられない、有料の商用サービスやエンタープライズ契約の道具立てに、実務としてアクセスできる。これはバイトのいちばん地味で強い価値の一つです。ここで身につけた道具立ての土台は、そのまま新卒入社後の1〜3年目の生産性の差になります。
3. IT業界の実像を、内側から知る
フェーズ1で扱ったIT業界の4つの軸の立体地図、経営層と部課長の言葉と態度、社内の意思決定の速度と手続き。これらの実像は、外から見るだけでは分かりません。朝会やスプリントレビューに末席で参加する、障害対応のポストモーテムを聞く、定例1on1で先輩からキャリアの話を聞ける。この内側からの視座は、フェーズ4で扱う面接での対話の場面で、他の学生さんとの明確な違いになります。
4. 学んだ知識を、初めてビジネスの現場で試す
大学の授業や技術書で学んだ知識は、多くの場合、教科書の中や個人開発の中で完結しています。IT企業のバイトでは、その知識を、実際にお金が動くビジネスの現場で、初めて試し、実践に接続するという経験ができます。学んだアルゴリズムが、なぜこの機能で使われているのか。学んだ設計原則が、なぜこのコードベースでは崩れているのか。教科書の中では見えなかった問いが、現場に立って初めて見えてきます。ただし、この接続は、単純作業の反復だけを任されるバイト先では起きにくいのが実情です。任される仕事に、考える余地があってこそ、知識と実践はつながります。これは、あなたがどんな学生であっても、バイトという働き方そのものが持つ価値です。
8. その2,000時間を、経験しただけで終わらせないために
ここまで見てきた3つの経験は、ただ働いているだけでは、時間が過ぎるとともに記憶から薄れていきます。2,000時間を本気で使ったなら、その中身を、意識的に自分の手元に残しておく必要があります。ここからは、その残し方の話です。
正直な現実として、バイトで書いたコードは、そのままGitHubで公開することはできません。企業の秘密保持契約(NDA)、就業規則、著作権規程の範囲で、業務で書いたコードは会社の資産です。これはIT企業側の悪意ではなく、標準的な契約と規程の姿です。
この前提の中でも、経験を成果物として残す道はあります。業務で担った役割を、抽象化して技術ブログに書く方法が、最も汎用性が高い道です。業務のコードそのものは公開できませんが、業務で学んだ「型」は公開できます。個社の実装を出さず、一般的な技術判断の型として書き直すと、公開できる技術ブログになります。書く前に、所属先の技術広報・情報セキュリティ・法務担当者に事前確認をしてください。
もう一つ手軽なのが、業務で使った道具立てを、履歴書に列挙する方法です。コードを公開できなくても、業務で担当した技術スタックと役割を、履歴書の形で列挙することは、多くの場合、問題ありません。フェーズ2-5で扱ったGitHubプロフィールREADMEに、この業務経験の要約を1〜2行で載せておくと、あなたの技術スタックの実務経験がプロフィールから伝わります。
ここで、技術の切り出し方以上に大切にしてほしいことがあります。バイトで経験したことを、断片的な技術キーワードの寄せ集めで終わらせず、一つの物語として積み上げていくという意識です。「何を学んだか」だけでなく、「入った時に何ができなくて、最後にどこまで担えるようになったか」という時系列を持たせると、経験の価値が変わります。技術ブログやGitHubのプロフィールREADMEに、担当の変化を時期を追って書き残していく。バイトを一つ終えるたびに文書にまとめておくと、面接で「アルバイトについて教えてください」と聞かれたときに、断片的な用語の羅列ではなく、筋の通った1つの話として語れます。バイトを経験したという事実そのものを、価値のある1つの記録に育てるという視点を、頭の隅に置いておいてください。
ほかにも、業務外の時間で業務と関連する個人プロダクトを作って公開する道、社内勉強会や社外LTで業務での学びを発表する道もあります。どちらも、就業規則の副業条項や発表内容の事前確認を丁寧に行った上での話になります。この残し方の具体的な手順は、フェーズ2-5(GitHub)やフェーズ2-8(技術ブログ)に詳しくまとめていますので、あわせてお読みください。
ただし、ここまでの残し方は、どれも任される仕事に厚みがあってこそ、書ける物語になるという前提があります。単純作業だけを繰り返すバイト先では、いくら記録しようとしても、物語に育つ中身がありません。だからこそ、どんなバイト先を選ぶかが、最初から重要になってきます。
9. 同じ「IT企業のバイト」でも、成長につながる募集とそうでない募集がある
IT企業のバイトであれば、どこでも同じように成長につながるわけではありません。バイトの面接は、10分程度で終わることも珍しくありません。逆質問を重ねる時間も雰囲気も、正直、あまりないのが実情です。だからこそ、バイト選びの見極めは、面接で聞き出す前の、募集要項という「入口」の段階で、じっくり読み解く力が中心になります。
良い会社は、面接で多くを語らなくても、募集要項そのものに、育成の姿勢が滲み出ています。言葉ではなく、具体的なエピソードや事実として、募集要項や採用ページに書かれているかどうか。これが、バイト選びの共通の物差しです。「裁量があります」「成長できます」という言葉そのものではなく、その言葉の裏付けとなる、固有名詞や数字が書かれているかを見てください。
もう一つ、あらかじめお伝えしておきたいことがあります。ひとくちに「IT企業のバイト」と言っても、1日だけの単発の仕事から、数ヶ月・数年続ける仕事まで幅があり、単発の短期バイトと、継続が前提の長期バイトとでは、募集要項から読み取ってよいことの深さが変わります。1日だけの仕事に育成の仕組みまで確かめようとしても、企業側もそこまでの情報を用意していません。単発の仕事はそもそも育成投資を前提にしていないからで、これは手抜きではなく、仕事の性質上自然なことです。反対に、数ヶ月以上続ける長期バイトであれば、育成の仕組みや学業との両立への配慮まで、読み取る意味が出てきます。
この記事では、まず短期バイト、次に長期バイトで確認したいことを分けてお話しします。応募しようとしている仕事が単発か継続前提かを意識しながら読んでみてください。
9-1. 短期バイトで確認すべきこと。まず見るのは、業務内容の明確さ
1日〜数日で完結する単発の短期バイトでは、確認できることも、確認する意味があることも、限られています。次の観点は、募集要項を読む段階、あるいは当日の簡単な説明を受ける段階で、確認しておきたいことです。
技術スタックが具体的に書かれているか:「Next.js」「Go」「AWS」のように、固有名詞まで明記されているか
業務内容がはっきり書かれているか:「データ入力」「動作確認」のように、その日にやることの輪郭が見えるか。「雑務全般」のように、何をするのか最後まで分からない書き方は、単発の仕事であっても避けたほうがよい兆候です
雇用形態が明記されているか:業務委託か、アルバイト(労働契約)か
短期バイトの段階では、育成の仕組みや指導体制の説明がなくても、それ自体は問題ではありません。単発の仕事は、企業側もその場限りの業務委託に近い感覚で募集していることが多く、正社員に準じた育成投資を前提にしていないからです。育成の仕組みが書かれていないことを理由に、短期バイトの募集要項を低く評価する必要はありません。技術スタックと業務内容がはっきりしているかどうか、まずはそこだけを見てください。
気になる企業を見つけたら、あまり深く考えすぎず、まずは気軽に応募してみてください。ここで一つでも「エンジニアになりたいなら、まずここで確かめてみよう」という一歩を踏み出せるかどうか、そこにすでに本気度が表れます。単発の経験を通して、その先の長期バイトに進みたいと思えたら、そこから次の見極めに移っていく、という順番でも構いません。
9-2. 長期バイトで確認すべきこと。募集要項と公開情報を、もう一段深く読み解く
数ヶ月以上続けることを想定した長期バイトになると、募集要項から読み取りたい観点が広がります。継続する関係だからこそ、企業側の育成投資の姿勢が、募集要項の言葉数と具体性に表れてきます。そして、みなさん自身の側にも、継続して時間を注ぐという行動そのものが、本気度の証明になります。
ここで、もう一つ、意識してほしい問いがあります。その募集は、あなたを一人のエンジニアの卵として見ているか、それとも、単なる労働力として見ているかです。この違いは、募集要項の主語に表れます。「あなたに、この機能の実装を任せます」という書き方は、あなた個人への期待が主語です。「この作業ができる方を募集」という書き方は、作業そのものが主語です。
成長につながりやすい募集には、共通する特徴があります。育成の仕組みが明記されている、募集の背景が説明されている。反対に、「未経験歓迎」「フレンドリーな職場」のように、間口の広さや雰囲気の言葉だけで、育成設計や指導体制の中身が語られていない募集は、注意して読んだほうがよい兆候です。これらは、フェーズ3-2で扱うJDの危険信号と、同じ考え方です。
募集要項に加えて、次の公開情報も、あわせて確認してください。面接の短い時間に頼らなくても、応募前の段階で読み取れることは、思っている以上にたくさんあります。
業務が、テスト作業やデータ入力といった単純作業に偏っていないか:コードを書く、設計を考える、レビューを受けるといった、成長につながる業務が具体的に書かれているか
研修や指導の体制が、具体的に説明されているか:曖昧な言葉だけで、誰が、どのくらいの頻度で指導するのかが書かれていないなら注意信号です
学業との両立への配慮が、明記されているか:試験期間やレポート提出期の勤務調整について、募集要項や採用ページに具体的な記述があるか
時給の設定根拠が説明されているか:業務内容や責任の重さに応じて設定されている旨の記述があるか、最低賃金の金額だけが書かれているか
先輩バイトの声や、社員インタビューが公開されているか:良い会社は、学生が疑問に思うことを、応募前の段階で、公開の場ですでに答えていることが多いです。こうしたコンテンツが一切なく、聞かれない限り何も語らない会社は、受け身の姿勢である可能性があります
学生バイトの在籍期間や、卒業後の進路への言及があるか:長く続けている先輩や、卒業後の進路が紹介されている会社は、育成の実績を、隠さず示せる会社です
会社全体の説明だけでなく、実際に配属される部署やチームの説明があるか:会社の規模や知名度だけでは、実際に日々関わることになる現場の実態は分かりません
この中で、面接まで進んだときに、遠慮せず尋ねてよい質問を、一つだけ挙げておきます。「なぜ、この業務を私に任せてくれるのですか」。あなた自身の学びを主語にした答えが返ってくるか、それとも人手不足という会社側の都合だけが理由として返ってくるか。短い面接時間の中でも、この一問だけなら、無理なく聞けます。
残念ながら、募集要項の言葉を実態以上に良く見せる企業も存在します。「成長できる環境です」と言いながら、実態は単純作業の繰り返しだった、という声も実際にあります。あなたが、成長機会のない安価な労働力として使われる必要は、まったくありません。ここに挙げた観点は、そうした募集を応募前に見抜くための物差しです。確かめる目を持ったあなたを、軽く扱える企業はありません。これらの兆候が重なっている場合、それは学生を、成長機会を伴わない安価な労働力として使っている状態であり、実質的には搾取に近い構造です。「バイト」という名目のもとで、こうした扱いをする会社は、実際に存在します。
会社の規模や業態にかかわらず、良い会社は、長期で来てくれる学生バイトに対しても、これだけの情報を募集要項と採用ページに注ぎます。募集要項の情報量と具体性は、その会社が学生バイトの育成にどれだけ本気かを映す、いちばん手に入りやすい一次資料です。そして、ここでもう一段深く関わりたいと思えたなら、次はフェーズ2-11で扱う長期インターンという道が、みなさんの前に開けます。
気になる募集を見つけても、応募ボタンを押す前に、一度、ここに挙げた観点に、募集要項を照らし合わせて読み直してみてください。ここで鍛えた読む目は、フェーズ2-11の長期インターンの募集要項でも、そのまま活きます。そしてこの一呼吸は、この先何十社ものJDを読むことになる就職活動そのものの練習でもあります。
10. 見つけなければ、始まらない。IT企業のバイトの探し方
学生時代のIT企業でのバイトの見つけ方には、いくつかの入口があります。
Wantedly、Findy for Students、レバテックルーキー:エンジニア職に強い求人プラットフォーム
大学生協の求人、大学のキャリアセンター:大学近辺のIT企業や、地元IT企業のバイト情報
技術コミュニティ経由、サークルOB・OGネットワーク:フェーズ2-12で扱うコミュニティや、先輩のつながりから見つかることもあります
世界基準の道具立てを持つ会社を選ぶには、フェーズ2-1で扱った募集要項の技術スタックの欄を、応募前に丁寧に確認してください。フロントエンドが Next.js + TypeScript、バックエンドが Go / Rust / FastAPI、インフラが AWS / GCP + Kubernetes、CI/CDが GitHub Actionsといった構成が募集要項に明示されている会社は、世界基準に近い環境で学べる可能性が高い場所です。
11. 確認を怠れば、あとで後悔する。長期バイトの労働条件、就業規則の目安
ここから先の内容は、数ヶ月以上続ける長期バイトを想定した確認事項です。1日〜数日の短期バイトでは、ここまで深く確認する場面はほとんどありません。
学生時代のIT企業でのバイトの時給は、都会のスタートアップやテックカンパニーでは時給1,500円から3,000円、地方では時給1,200円から2,000円が一つの目安です。長期インターンと重なる領域では、時給がさらに高く、月10万円から30万円になる例もあります。
労働条件で確認しておきたいのは、勤務時間の柔軟性、リモートワークの可否、雇用形態です。さらに、勤務が長く続き、時給や勤務時間が上がってくると、就業規則の副業・成果物帰属条項、先輩エンジニアとの定期的な面談の機会、社会保険の要件も意識し始めてください。これは、フェーズ2-11で扱う長期インターンの就業条件に近づいていく領域でもあります。契約書や就業規則を、丁寧に読んでから署名するという習慣を、学生時代から身につけてください。
12. プロフェッションとして育つ環境を持つ会社は、学生バイトを丁寧に育てている
シリーズ全体を貫く上位原則を、この記事でも確認します。その会社は、エンジニアをプロフェッションとして育つ環境を持っているか。
プロフェッションとして育つ環境を持つ会社は、多くの場合、学生バイトも、正社員と同じ育成の枠組みで扱っています。オンボーディング、先輩エンジニアのメンター、コードレビュー、1on1、社内勉強会への参加。これらが学生バイトにも開かれている会社は、就活の書類選考で見えていない場所での学びの厚みが違います。
株式会社サイバーエージェント、株式会社メルカリ、株式会社SmartHRなど、多くのIT企業が、学生向けの長期アルバイト・インターンの募集要項を公式に持っており、そこには育成の方針が明示されています。大多数の学生さんが実際にバイト先として出会うのは、こうした大手・メガベンチャーよりも、地元の中堅・中小のIT企業です。募集要項が簡素な会社でも、実際に問い合わせると、丁寧な育成の方針を口頭で説明してくれる会社は多くあります。募集要項の情報量だけで判断せず、気になった会社には直接問い合わせてみることも、有効な確認方法です。
バイトの応募段階で、面接官が「あなたは何を学びたいですか」「私たちは何を提供できますか」を、対等な立場で語ってくれるかどうか。これは、その会社が学生バイトをどう捉えているかの、いちばん地味で正直なシグナルです。
ここまでお話しした募集要項の読み方は、バイト選びのためだけのものではありません。就職活動が本格化すると、みなさんは何十社ものJD(募集要項)を読むことになります。ここで身につけた「読む目」は、その先ずっと使える練習です。
まとめ
本記事では、学生時代のバイトをIT企業で経験するお話をしました。この記事のいちばんの核は、冒頭でお話しした言動一致という物差しです。「エンジニアになりたい」という言葉と、学生時代にどこで時間を使ってきたかという行動。この2つが一致しているかどうかに、みなさんの本気度が表れます。
バイトは、企業や業界を身をもって知るための体験です。短期バイトでは技術スタックと業務内容の明確さを、長期バイトでは育成の仕組みや募集の背景まで、確認する深さを変えてください。バイトで得られるのは、チームで動くコード、世界基準のインフラと道具立て、IT業界の実像を内側から知ることの3つです。業務コードはそのまま残せませんが、技術ブログや履歴書への列挙といった形で、経験を成果物に変える道があります。詳しい残し方はフェーズ2-5・フェーズ2-8にまとめています。
次のフェーズ2-11では、体験としてのバイトから一歩進み、言動一致が「もう練習ではない」という自覚に育っていく、就職活動そのものとしての長期インターンで、企業内の実績を積むというお話に進みます。
エンジニアの卵のみなさんへ、エール
私自身の学生時代のアルバイトは、パソコン売り場の販売員でした。大学院に進んでからは、学内のティーチングアシスタントです。どちらも、ITから遠い仕事ではありません。ただ、作る側の現場に立った経験ではありませんでした。実務の現場で書くコードが、大学の演習で書くコードとどう違うのか。私がそれを知ったのは、社会に出てからです。
受け入れる側になったいま、はっきり分かることがあります。その違いを学生のうちに肌で知っていた人は、入社後の最初の3年間の伸び方が、明らかに速い。言葉と行動が一致しているかどうかは、面接の場だけでなく、入社後の伸び方にも、そのまま表れてきます。あの頃の自分に、IT企業の現場で過ごす時間を渡せていたらと思います。
ただ、バイト以外のところでの経験も、ひとつだけ共有させてください。学部から大学院にかけて、私はオリジナルの音楽CDを自主制作して届ける、小さな活動を主宰していました。企画を立て、音源を作り、CD-Rやパッケージの資材を仕入れて製造し、イベント会場と通信販売で届け、届けたあとの問い合わせに答える。在庫を数え、収支を合わせる。ほかのチームの制作に、作り手として加わることもありました。規模はごく小さいものでしたが、作って、届けて、届けたあとまで責任を持つという一周を、学生のうちに何度も回していたことになります。この経験は、社会に出る前の土台として、確かに大きなものでした。
だから、私がみなさんに伝えたいのは、「バイトでなければいけない」ということではありません。みなさんの2,000時間が、作って届けるという行為に、どれだけ触れているか。バイトは、その触れ方として、いちばん確実で、いちばん近道だという話です。
みなさんは、私たちの世代よりずっと恵まれた道具立てに、学生バイトの段階からアクセスできます。フェーズ2-1で扱った公衆の福利に貢献するプロフェッションとしての土台を、実務の現場で、先輩と一緒に、コードを書きながら育てられる時代です。
今週、なにか一つ、始めてみてください。志望する技術ドメインで、学生バイトを募集している会社を、募集要項の技術スタック欄まで丁寧に読んでみる。所属している大学のキャリアセンターに、IT企業のバイト情報を尋ねに行く。それは、言葉だけで終わらせない、みなさん自身の言動一致の、最初の一歩です。
一緒に歩きましょう。ボン・ボヤージュ。素敵な旅を。
次の記事はフェーズ2-11「長期インターンで、企業内の実績を積む。担当したプロジェクトと成果を残す」です。
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