グラナト伯爵の裏庭の木 『葬送のフリーレン』第23話 S1-EP11A
はじめに
アウラとの戦いを終えた後、フリーレンたちとグラナト伯爵が報酬の魔導書について話をしていると、突然、庭師が入ってきて「裏庭の木、切り終えました」と伯爵に報告します。
庭師:裏庭の木、切り終えました。
伯爵:ご苦労。
ここは、伯爵を「おっさん」呼ばわりしていたシュタルクが斧を手にした庭師の登場に驚いて気絶してしまう、というギャグシーンになっています。

しかし、このタイミングで「裏庭の木を切る」というのは前後の脈絡が見えず、かなり唐突な印象です。ギャグのために無理矢理ねじ込まれたエピソードなのでしょうか?
これはなかなか魅力的な謎だと感じたので考えてみました。
※シーサー太郎さんのこちらの記事を読んだことがきっかけです。ありがとうございました。
考察
まず最初に思い付いたのは、裏庭の木がフランメの防護結界と関係しているのではないか?ということです。彼女の防護結界の詳細は不明ですが、これまでの描写からすると樹木と関係した魔法だと推測されるからです。


しかし、アウラが倒されたからといって防護結界が不要になるわけではありませんから、伐採する理由にはならないでしょう。この案は不採用です。
次に思い付いたのは、リーニエが食べていた林檎ですが、流石にこれは無関係でしょう。不採用。

思うに、庭木の管理といった些事に伯爵が関心を持つことは通常はあり得ません。余程のことがない限りは報告を受けることもないでしょう。庭師を信頼して全て任せているはずです。
しかし、この時は「裏庭の木」の伐採を庭師が伯爵にわざわざ報告しています。しかも、街を救った英雄であるフリーレンたちと伯爵との会話を報告のために中断させています。重要な賓客と伯爵の会話を遮るとは、通常であれば礼を失する行為ですから、これはかなりの異例だといえます。
このことから、裏庭の木の伐採は伯爵の勅命で、しかも、伯爵がその結果を気にかけて報告を待っていた重要な指示だったことがわかります。ということは、裏庭の木は伯爵にとってかなり特別なものなのでしょう。
そして、着目したいのは伐採された木が「裏庭」に植えられていたことです。この庭はパブリックなスペースではなく、伯爵家のプライベートな庭ではないでしょうか。
となれば、伯爵は裏庭の木に個人的な思い入れがあると推測できます。
伯爵の個人的な事情といえば、伯爵の息子の存在しかありません。

伯爵は、アウラとの戦いで10年前に息子を亡くしています。そして帰ってきたのは使っていた剣のみでした。息子の遺体は首をはねられ、不死の軍勢としてアウラに使役されていたのです。
フリーレンが息子の遺体を見つけてくれたことについて、伯爵はこう言っています。
…フリーレン。儂は今日ほど誰かに感謝したことはない。

『葬送のフリーレン』の世界では、宗教上の理由から遺体は土葬するのが一般的です。一部の先進的・合理的な考えを持つ者だけが火葬を行います。

遺体を火葬することは残酷で耐え難いと多くの人が考えています。(第72話参照)

死から遠いところで平穏な日常を過ごす私たちは忘れがちですが、この世界の人々にとって遺体の取り扱い方法というものは、その人の宗教的信念と深く結びついており、決して蔑ろにできない重要な関心事なのです。遺体の扱いがセンシティブな事柄であることは、遺体の損壊に配慮しないフリーレンの戦い方にヒンメルが怒ったことや、伯爵の言葉からもわかります。
※この感覚を押さえておくことはグラナト伯爵のエピソードを読み解く際のポイントです。

ですから、息子の遺体が見つからないために正式な弔いができなかったことは、10年間ずっと伯爵の心に重くのしかかっていたのではないでしょうか。
「10年前と変わらぬまま」だった息子の部屋は、息子を亡くした伯爵の心を表しています。
※これが「私も貴方方に殺された父上の部屋はそのままにしてあります」というリュグナーの言葉がグラナト伯爵の心を揺さぶった理由です。決して「父上」というキーワードを出した事だけが原因ではありません。

遺体が見つかったことで、息子のためにやっと正式な弔いをしてやることができる。だから伯爵は「今日ほど誰かに感謝したことはない」という最上級の謝意をフリーレンに示したのです。
「10年前と変わらぬまま」の息子の部屋に置いてあった剣は、弔いのために他の英傑たちの剣と共に戦場へ戻されます。息子の部屋に変化が現れたのです。ここからは息子の弔いができたことで伯爵の心に一つの区切りが付いたことを感じ取ることができます。

ここまで見てきたことから分かるとおり、息子の弔いは伯爵にとってかなり重要で、しかも個人的な問題です。
そこで、同じように重要かつ個人的である裏庭の木の伐採と息子の弔いを結びつけて考えてみます。
思うに、「裏庭の木」は伯爵にとって息子との思い出の木です。息子が生まれた時に植えた木かもしれません。子供が生まれた時には庭に木を植え、亡くなった時にはその木を伐採して棺を作る。この地方にはそういう風習があるのではないでしょうか。
おわりに
戦闘などの派手な動きがなく(予算節約回)、かなり地味な印象のアニメ第1期エピソード11(北側諸国の冬)のAパート(前半)ですが、こうして振り返ってみると、この世界の人々の死者に対する想いが表現され、美しい挿入歌(「bliss」milet)と相まってなかなか味わい深いエピソードになっていることに気付きます。自分の中で評価を改めました。
ここで示した考察は、かなり想像を含みますが「なぜそう考えるか」の根拠は可能な限り示しました。(「棺」は完全に私の想像ですが、「裏庭の木の伐採」と「息子の弔い」に関係があることは私としては結構自信があります)
色々な解釈が可能な場面だと思います。ご意見、ご感想をコメントで頂けると嬉しいです。
ちなみに、クラフトが登場するエピソード11(北側諸国の冬)Bパートはこちらの記事で読み込んでいます。
本文は以上になります。以下は『葬送のフリーレン』を紹介する記事等へのリンクになります。魅力的な「謎」がたくさんある作品ですので、是非読んでみてください。
※『葬送のフリーレン』をまだ読んだことのない方へ
※アニメ第1期を観た方へ
※「女神の石碑編」まで読んだ方へ
※「とりあえずここまで読めば面白さが分かる」というライン
※『葬送のフリーレン』に関する記事をまとめたマガジンです。多くの記事は「ネタバレあり」ですので、閲覧にはご注意ください。
