【連載小説】LOVERS #5 本能と理性の狭間で
セナ×智篤・ここまでのお話(第三話):
自己評価と他者評価には違いがある。智篤にとっては歌声がそれだった。かつては自信が持てなかった歌声を、今は恋人のセナが絶賛してくれる。それは喜ばしいことだが、そんなセナを全身で愛してやれないこと――年齢差や、内から湧くエネルギーのすべてを音楽に注ぎたいことがその理由――に、彼は少なからず心苦しさを感じている。
当然ながらセナは、交際一年が経っても肉体関係がないことに寂しさを覚えていた。仕事が始まるまで時間を潰そうと訪れた喫茶「ワライバ」は、バンドメンバーもよく出入りしていて、こちらは知らなくても向こうはセナのことをよく知っている様子だった。誰もいない喫茶店の隅で一人ため息を吐いていると、ウエートレスの女の子が声を掛けてきた。最初は、幸せそうな彼女への嫉妬心から冷たく当たったが、笑顔を絶やさないどころか、ここにいる時間が癒やしになるならいつまでも居ていいと言われ、肩の力が抜ける。セナは悩みを聞いてくれると言った彼女に、自分の氣持ちを打ち明けることにする。
内容に続く話のため、こちらで改めて記載します。
11.<セナ>
めぐさんに正面から見つめられたアタシは、初対面にもかかわらず、今の想いをすべて話してしまおうという氣になっている。マスターの言っていたとおり、どうやら彼女の笑顔には特別な力があるようだ。
「めぐさんは会ったこと、ある? 緑髪のギタリスト、智篤兄さまに」
アタシの問いに、めぐさんは大きく頷く。
「うちでサザン×BBの曲を流して欲しいと頼みに来たときにお目にかかったわ。どんな手を使ってでも自分たちの音楽を広めたい……。そんな情熱を感じたよ」
「うん、そうなの。すごく真っ直ぐな人。おまけに歌声も弾く姿も素敵。もう、アタシに言わせればホントに百点満点の人なんだ。本来なら、そんな人と付き合ってるってだけで充分だと思わなきゃいけないんだろうけど、アタシはそれ以上のことを求めようとしてる……。それが、今の苦しみの原因、かな……」
「それ以上……?」
めぐさんは首をかしげた。問われたアタシは少し悩んでから、マスターに聞かれないよう、耳打ちするように言う。
「……こんなことを聞いたら失礼かもしれないけど、めぐさんが初めて旦那様と愛し合ったのはいつだった? あぁ、もちろん答えたくなかったら答えなくてもいいよ」
「セナさんの悩みってもしかして……セックスのこと?」
「しーっ……!」
お互いに小声で話しているが、万が一マスターに聞かれたら恥ずかしい。アタシは口の前で指を立て、無言のまま頷いた。めぐさんは包み隠さず教えてくれる。
「ええと……。私の場合は結婚式を挙げた日だったよ。それ以前から一緒に暮らしてはいたんだけど、同居人の悠くん――彼はパパの友人だけど、すごく格好いいの!――がいたし、一時期、祖父母の面倒を引き受けていたこともあって、交際中に体の関係は持たなかったかなぁ……」
「そうなんだ……。不満はなかった……?」
「もし不満があったとしたらそれは翼くん……旦那さんの方かな? 私が中学生くらいの時からずっと好きでいてくれてたみたいだから。あぁ、彼は私のいとこで、十一才上なの。でも彼はずっと待っててくれた。その氣持ちがすごく嬉しかったから、最終的に彼の思いを受け取って、高校卒業後に結婚したんだ」
(めぐさんのパートナーも年上なんだ……。って言うか今、いとこ同士って言ったよね? それってどうなのよ……?)
彼女の話を聞いて表面上は冷静に相づちを打ちつつも、心の中では驚きの声ばかりを上げていた。
「なるほどねぇ……。アタシといくつも変わらなそうに見えるのに、二人の子供がいるって聞いたときには正直『えっ』って思ったけど、旦那様を長い間待たせてたなら納得。っていうか、めぐさんは相当変わった恋愛遍歴を持ってるね。アタシ、自分の恋愛は例外中の例外だと思ってたけど、霞んで見えてきたよ」
「恋愛の形はカップルの数だけあるよ。悩みも同じだけ。だから、セナさんが真剣に悩んでるならそれは、ちっとも小さな悩みじゃない。私はそう思うなぁ」
思わず悩みを引っ込めようとしたら止められた。言われてみればその通り。誰がなんと言おうとも、アタシは兄さまと体の関係がないことで真剣に悩んでる。だから今、相談している……。
「……今の話から想像するに、お付き合いするまでにもいろいろあったんじゃないかと思うんだけど、交際しようと決めるまで、そして結婚を決めるまでにはどんな悩みがあったんだろう?」
さらに突っ込んだ問いをする。普通なら、初対面の女に自分の過去を打ち明けたりはしないだろう。しかし、めぐさんは正直に話してくれる。
「私は彼のどこに惹かれているのか。本当に彼と家庭を築きたいのか。家庭を築いた場合、子供をもうけたいのか……。いろいろ悩んだよ。でも、結婚すると決めてからは二人で話し合って……ううん、同居人の悠くんや両親、そのほかにもたくさんの人の助言を取り入れながら一つ一つ、悩みを解決していった……。なんで悩むかって、今付き合ってるパートナーと最善の未来を選びたいという、強い氣持ちがあるからなんだよね。少なくとも私はそうだった。でも、それに囚われすぎると本質を見失ってしまう……」
「本質……?」
「……セナさんは、智篤さんといられる今に幸せを感じている? それとも、付き合ってるんだから体の関係がないのはおかしいって、そっちに意識が向いてる?」
「恋人同士なら、愛しているなら、体ごと受け容れて欲しい……。そう思うのはいけないことなの……?」
責められている氣がして強い調子で返す。めぐさんは首を横に大きく振る。
「そうじゃない……。今の話を聞いていると、セナさんは智篤さんと一体感を得たいと……そこに強い執着を持っているように感じる。それが、愛を最も強く確かめ合う方法だと信じてるっていうか……。確かに性愛はパートナーとの一体感を瞬時に感じられる素晴らしい行為だと思う。でも、その感覚は一時的なもの。それを愛の指標にしてはいけないし、充実した日常があってこそ、結びつきにも愛を感じられると私は思うの」
「充実した日常……」
「セナさんだったらバンド活動がそれに当たると思う。サザンクロスさんたちと一緒にやりたいと思ったのは、彼らと一緒に音楽活動がしたいと思ったからでしょう? なら、一緒にいられる『今』をまずは楽しまなきゃ」
「…………」
「……偉そうに聞こえたらごめんなさい。でも、これは単なる理想論じゃないの。私が実際に、余命幾ばくかの祖父母と過ごす日々の中で、そして大好きな家族を失いかけたことで『目の前の人と過ごせる、今』の大切さを知ったから言っているの。……さっき教えてくれたよね? 智篤さんの歌声や演奏する姿が好きだ、って。その瞬間、セナさんはきっと『幸せ~』って思ってるはず。まずはその時間をじっくり味わってみるのはどうかな……?」
言われてみてハッとした。深い愛情を欲するあまり体の繋がりに固執していたが、結局のところアタシは、兄さまと幸せな時間を過ごしたいだけなのだと氣付く。どれをとっても、行き着くところはそこ。
「……ホントは同じバンドに属せるだけでも幸せなのに、それに飽き足らずに交際を迫って付き合って……。で、付き合えたら付き合えたで、肉欲を求め始めて……。アタシってば、どこまでがめついのかな……。嫌になっちゃうね……」
「種を残すためには必要なことだから、仕方がないと言えば仕方がないよ。でも、私もセナさんも愛した人が年上だからね。相手も自分と同じ考え方だと思って行動するとすれ違ってしまいがち。ない頭を使うのは大変だけど、この先も一緒にいたいと願うなら、年長者の考えを受け容れる努力も必要よね……」
「……難しい恋愛になることは覚悟してたけど、やっぱり大変だなぁ」
「難しく考えないで。実際には年齢差があるけれど、共通の話題で盛り上がっているときは、そこまで差を感じないはず。心の距離を無理なく縮められる方法で、一緒にいられる時間を少しでも長く取っていくことを考えましょ」
「じゃあやっぱり、アタシたちには音楽しかない」
アタシの想いを受け取ってくれたとき、兄さまはこう言った。一緒に和音を響かせよう、って。あれは「好き」の言い換えでも何でもなく、きっと兄さまの本心だった。そしてその思いはおそらく一年経った今も変わらない。
彼はアタシと、体ではなく音楽で繋がりたいのだ。言葉にはしないが、きっとそう。
(兄さまは音楽に生きる人……。音楽で世界を良くしようと目論む人……。そんなことは百も承知だったはずでしょ、セナ……。)
兄と舞さんのような、いわゆるフツーのカップルになることを夢見ていたけれど、どうやらそれを兄さまに求めるのは無理そうだ。ならばアタシは、別の方法をとる。すなわち、彼の「音楽」になる――。この先も彼のそばにいるには、それしか無い。
「ありがとう、めぐさん。アタシ、大事なことを見落としていたわ。でも、今話し合って思い出した。後で兄さまに会うから、早速実践してみるよ。うまく頭を切り替えられるかは分からないけれど……」
「少しでもお役に立てたのなら嬉しいわ。だけど、焦りは禁物よ?」
「……努力してみる」
「頑張ってね。……あ、カップが空いてるね。お替わり、いる?」
めぐさんがアタシの手元を見て立ちあがった。
「コーヒー以外の飲み物、あるかな? ジュースとか、ミルクとか」
「あるよ。メニュー表を持ってくるね」
めぐさんはにこりと笑った。
12.<智篤>
午後になって、仕事の関係でセナたちと我が家で合流した。昨晩は彼女の機嫌を損ねてしまい、それきり連絡も取り合っていなかったから、きっと不満顔で現れるに違いないと思っていた。だが、ユージンと一緒にやってきたセナは、思いのほか晴れやかな顔をしていた。
「実はセナのやつ、夕べはオレと舞さんの部屋に泊まってったんっすよ。智さんがここから追い出しちゃうから。お陰で寝不足ですよ……」
いきなりユージンに愚痴られた僕は、昨日のことを氣にしていただけに反省した。
「それは悪かったな……。その割に二人とも機嫌が良さそうじゃないか」
「オレは午前中、一人でのんびり出来たお陰っすかねぇ。セナの方は、どうやらワライバで相談に乗ってもらったらすっきりしたみたいっす」
「へぇ、セナはワライバに行ってたのか……」
呟きながら視線を彼女に向ける。
「いったい何を話してきたんだ……? もしかして、僕のことじゃないよな……?」
冗談交じりに言うと、彼女は真剣な顔で近づいてきた。
「仕事を始める前に、兄さまとセッションがしたい」
「えっ、セッション……?」
「そう。セッション。アタシはピアノの弾き語りをする。兄さまはギターの弾き語り。……お願い、いいでしょう?」
「うぅっ……」
上目遣いの可愛い顔で頼まれたら、さすがの僕も断れない。
「……分かった。でも、ちょっとだけだぜ? みんなを待たせるんだから」
「分かってる。ありがとう、兄さま」
ホッとしたように微笑んだセナは、そのまま音楽スタジオに足を向けた。そこで「おや?」と思う。普段ならこういう時、確実に手を繋いでくるのに、今日はそれがない……。
(……ワライバで、いったい何を吹き込まれたんだ?)
よく分からないままセナのあとについて音楽スタジオに入る。二人きりになっても、セナはいつもと違って淡々と演奏の準備を進める。
(甘えてこないのか……。いったいどうした……?)
ベタベタされるのは、実はあまり好きではない。しかし、普段と違うのもなんだか氣持ちが悪い。
「セナ……?」
電子鍵盤の前に立つセナの後ろから肩に触れる。振り向きかけた彼女は何かを考えるように動きを止め、「兄さまも準備をして」と呟いた。
混乱したまま言われたとおりにギターを一本手に取り、肩からストラップを掛ける。
「演奏する曲は……?」
「……二人のハーモニー」
答えたセナが僕を真っ直ぐに見つめる。
「メインボーカルは兄さまが。アタシはハモりを担当する」
「オーケー。早速始めよう」
一呼吸置くと、セナはすぐにイントロを弾き始めた。僕はあとからギターを弾きながら歌う。
#
聴かせてよ、その声を
僕が眠りに落ちるまで
どんな悪夢も消えるから
君は僕の天使さま
ありふれたフレーズ
「愛してる」しか言えない僕をゆるして
どんな言葉を並べても
好きな氣持ち 伝えきれない!
二人の声を重ねて
奏でよう 最高のハーモニー
世界に一つしかない和音
響かせて、和・輪
いま、踊り出す……
#
一番を歌い終え、チラリとセナの方を見る。目が合うと、彼女が自然と微笑んだ。僕も微笑む。その瞬間、さっきまで抱いていた不信感や罪悪感が一氣に吹き飛ぶ。
(そうか……。セナの目的はこれだ……!)
この歌の歌詞をなぞることで、セナへの思いを強制的に言わされたことに氣付く。そればかりか、笑みまでも引き出されてしまった……。
(歌詞に乗せれば、どんなに恥ずかしいフレーズもさらりと言えてしまう……。セナは言って欲しかったに違いない。僕に「愛してる」という台詞を……。)
のめり込みすぎないようにと、恋人同士が使うお決まりの台詞は封印している。ボディータッチも極力控えている。でも、セナはそれを強く望んでいる。
知っていて敢えてセーブしている僕は、彼女にしてみればきっと酷い男に違いない。だが彼女は、僕の冷たい態度を変えるのではなく、自らの接し方を変えてきた。そう、ただの男と女ではなく、ミュージシャンとして付き合う方向に。そうすることで、普段言ってもらえない愛の言葉や微笑みを自分に向けてもらえる。彼女はそのことに氣付いてしまったのだ……。
そうこうしてるうちに、二番のサビにさしかかる。
##
二つの音を重ねて
奏でよう 最高のハーモニー
世界に二つとない和音
響かせて今、
ここから始まる、僕らのストーリー……
##
歌と演奏が終わったところで僕はギターを脇に置き、セナの前に立った。
「……セナ。今、一緒に歌い、演奏して思い出したよ。僕が作り上げたい世界には君の笑顔が必要だと言うことを。なのに、いつも不機嫌にさせてばかりでごめんな……」
「アタシも……。大事なことを忘れてた。アタシが恋してるのは、ミュージシャンの兄さま。なのに、肝心の音楽を無視して繋がろうとしてた……。ごめんなさい……」
お互いに謝って、なんだか可笑しい。が、その笑いはすぐに止む。こうやっていつも、核心に触れそうになっては避けてきたこと。今日はセナとそのことについて真正面から話さなければいけない。そんな氣がした。
「……セナにばかり負担をかけさせて、すまないと思ってる。セッションを申し込んでくれてすごく嬉しかった。久しぶりに君の笑顔が見られたから。やっぱり君は、泣き顔や怒り顔よりも笑った顔がよく似合う。……もう一度、笑ってみせてくれないか?」
僕の問いに、セナは精一杯笑って見せようとした。けれど、うまくいかなかった。
「……笑顔を褒めてくれて嬉しい。セッションも楽しかった。でも……。でもその時間が終わっちゃったら、やっぱりいつも抱いてる不足感が膨れ上がってくる。……兄さまと過ごす『今』を大切にしようと思ってここへ来たのに、こうして目の前で話してるのに、なぜか兄さまが遠く感じてしまう……」
「それは……。それは僕が君の身体を遠ざけているせいか……?」
意を決して言うと、セナは黙ったまま頷いた。
「……ごめん、セナ。僕には君の望みを……抱き合うとか、一緒に暮らすとか……。そういう望みを叶えてやることは出来ない……。君を笑顔にしたい氣持ちはあるんだ。でも、これが僕という人間。この先もこんなふうにしか付き合えないことを理解してほしい……」
セナは目を潤ませた。でも、涙は流さなかった。代わりに、しっかりとした口調で僕に問う。
「……そうできない理由を教えて。アタシの音楽スキルが足りないって言うなら、もっと練習する。歌だってうまくなる」
「……セナは充分、ピアノも歌もうまいよ」
「じゃあ、なぜ……? あたしが……あまりにも若くて未熟だから……?」
「それも違う……」
「ならどうして……。どうして抱いてくれないの……?」
セナは僕の胸に飛び込んだ。そっと背中に腕を回す。が、抱きしめなかった。こういう行為の一つ一つがセナを傷つけている自覚はある。でも、僕はこう振る舞うことしか出来ない……。
胸の中で泣いているのが分かった。しかし、どう言葉をかけたらいいかも分からない。
(君を笑顔にしたいのに、どうしていつも泣かせてしまうんだろう……。)
――馬鹿だな、お前は。彼女の言うとおり、素直に抱いちまえばいいのに。そうすりゃ、彼女を喜ばせられるのに。
ずっと前に、心の奥底に帰って行ったはずの「もう一人の僕」が、脳内であざ笑った。
(そんなことをして何になる……? 本能のままに行動して、一時的に彼女を喜ばせることに何の意味がある……?)
――だからお前は馬鹿だと言ってるんだ。女ってのは、抱かれることでより愛されていると実感する生き物なんだよ。若い子なら尚更な……。それを拒み続ける以上、彼女を笑顔にすることは出来ないと知れ。
頭の中に聞こえたその声は、確かにかつて聞いた「もう一人の僕」のものだった。だが、その語り口調はまるで別人――それこそ悪魔――のようだった。
その声は尚もあざ笑いながら言う。
――お前、怖いんだろう? 自分が先に逝けば残された彼女が可哀想だからと、正当な理由を持ち出しているつもりだろうが、実際には違う。体が繋がることで互いに依存してしまうこと。その結果として、新たな生命が誕生してしまうかもしれないことが怖い。そんなことになれば、赤子の人生をも背負うことになるからな。だから頑なに拒んでるんだろう?
(違う……! 怖じ氣づいてなんかいない……!)
――なら、愛してやればいいじゃないか。男と女が愛し合う。その先には一人では決してたどり着けない境地もあるんだぜ?
(僕は一人でその境地にたどり着く……! 内側で滾る精力をすべて音楽に注ぐことによって……!)
頭の中の声を振り払おうとして身体を動かした。が、僕の腕は、どういうわけか目の前のセナを突き放していた。
「……兄さま」
「……ごめん、セナ」
さっきから謝ってばかりだ。目を伏せるセナに慌てて言葉を継ぐ。
「……君は魅力的だよ。ただ……分からないんだ。音楽以外で君と繋がる方法が」
「……不器用すぎ」
「……ああ、なんとでも言ってくれ」
「……馬鹿よ、兄さまは」
「……ああ、自覚してる。でも、そうと分かってて僕を愛する君も馬鹿だ」
「馬鹿でもなんでもいい。事実、兄さまのことが好きで好きで仕方がないんだもの。兄さまのすべてが知りたいし、アタシのすべてを知って欲しい。この氣持ちは、セッションしたくらいじゃ抑えられそうにない……」
セナが悲しげなまなざしを向けたまま僕に近づく。目を背けずにいると、やがて唇が触れあった。柔らかいそれと温かい吐息が全身を痺れさせる。
――彼女に身を委ねちゃえよ……。何も考えずにそのまま……。
頭の中で声がした。
(失せろ、馬鹿。黙ってろ……!)
頭の中で、声だけは突き放して遠ざけた。しかし、いつになく積極的なセナの身体は遠ざけることが出来ない。頭のどこかで、さっきのように彼女を突き放してしまうことを恐れている自分がいる。そのうちに、理性がどんどん失われていく……。
(あぁっ……。どうすればいいんだっ……。)
もう何も考えられない……。誘惑に駆られ、氣付けばセナを力一杯壁に押しつけていた。
「あっ……」
よろけたセナの身体がギターに触れ、派手な音を立てて倒れた。そこで、我に返った。
✨続きはこちら(#6)から読めます✨
二人の物語の続きはこちら(#7)から読めます
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