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上司は部下を動かせ。部下は上司を使いこなせ。

上司との関係で、仕事が進まなくなることがある。

指示が曖昧。
優先順位が分からない。
相談しても、結局どうしたらいいか分からない。

決めてほしい時に決めてくれない。
最後だけ口を出してくる。

一方で、上司の側にも言い分がある。

もっと自分で考えてほしい。
途中で相談してほしい。

何に困っているのか、早めに言ってほしい。
ただ待っているだけではなく、仕事を前に進めてほしい。

このすれ違いは、かなり多い。

部下は「上司が動いてくれない」と感じている。
上司は「部下が動かない」と感じている。

でも、もしかすると問題は、どちらか一方の能力だけではない。

上司と部下のあいだで、仕事を動かす接続が作れていないのかもしれない。

上司は、部下を動かさなければならない。
部下は、上司を使いこなさなければならない。
この言い方は、少し乱暴に聞こえるかもしれない。
上司が部下を動かす。

部下が上司を使いこなす。
どちらも、少し人を道具のように扱っている感じがある。
でも、ここで言いたいのは、支配や操作の話ではない。
仕事は、一人では進まないという話である。

上司は、部下の時間と能力を使うだけでは足りない。
部下の意味、納得、判断、意志を仕事に接続しなければならない。

一方で、部下も、上司の指示を待つだけでは足りない。

上司の判断、経験、権限、視界、社内信用を仕事に接続しなければならない。

上司は、部下を従わせる人ではない。
部下は、上司に従うだけの人ではない。
上司と部下は、互いを通じて仕事を前に進める関係である。

私はこれを、相互運転と呼びたい。

上司が部下を動かし、部下が上司を使いこなしながら、仕事そのものを前に進める関係技術である。



今回扱う研究

今回は、上司と部下の関係を、LMX理論、フォロワーシップ、上方影響、Managing Your Boss、心理的安全性の研究から考える。

ここで扱いたいのは、単なる上司論でも、部下論でもない。
上司が悪い。
部下が主体的ではない。
どちらか一方だけで見ると、関係は止まる。

本当に見るべきなのは、上司と部下のあいだに、どのような仕事の接続が作られているかである。

1. Graen & Uhl-BienのLMX理論
内容: GraenとUhl-Bienは、リーダーシップを上司と部下の関係性の質から捉えるLMX理論を整理した。上司と部下の関係は一律ではなく、信頼、尊重、義務感を含む交換関係の質によって、仕事の進み方や関与の深さが変わる。
著者: George B. Graen、Mary Uhl-Bien。
掲載誌: The Leadership Quarterly、1995年。
今回の記事での読み方: 上司と部下の関係は、役職だけで決まらない。日々のやり取りの質が、仕事の動き方を変える。

2. Kelleyのフォロワーシップ論
内容: Robert E. Kelleyは、組織の成果においてフォロワーの役割が過小評価されていると論じ、効果的なフォロワーは、主体的に考え、建設的に関与し、必要に応じてリーダーへ異議を唱える存在であると整理した。
著者: Robert E. Kelley。
掲載誌: Harvard Business Review、1988年。
今回の記事での読み方: 部下は、受け身に従うだけの存在ではない。上司を支え、問い、補い、仕事を前に進める主体である。

3. Yukl & Falbeの影響戦術研究
内容: YuklとFalbeは、組織内で人が他者へ影響を与える戦術を整理した。合理的説得、相談、協力、鼓舞、交換、正当性への訴えなど、影響は上司から部下だけでなく、同僚間や部下から上司へも起こる。
著者: Gary Yukl、Cecilia M. Falbe。
掲載誌: Journal of Applied Psychology、1990年。
今回の記事での読み方: 部下が上司を使いこなすとは、上司を操作することではない。仕事に必要な判断や資源を引き出すために、適切な影響のかけ方を選ぶことである。

4. Gabarro & KotterのManaging Your Boss
内容: GabarroとKotterは、上司との関係を受け身で捉えるのではなく、上司の目標、圧力、強み、弱み、仕事のスタイルを理解し、相互に成果を出せる関係を築く必要があると論じた。
著者: John J. Gabarro、John P. Kotter。
掲載誌: Harvard Business Review、1980年。
今回の記事での読み方: 上司を使いこなすとは、上司を都合よく動かすことではない。上司も制約を持つ一人の仕事相手として理解し、成果につながる関係を作ることである。

5. Edmondsonの心理的安全性
内容: Amy C. Edmondsonは、チームにおける心理的安全性を、対人リスクを取っても罰されたり恥をかかされたりしないという共有された信念として整理した。学習行動や発言、相談、失敗共有に関わる概念である。
著者: Amy C. Edmondson。
掲載誌: Administrative Science Quarterly、1999年。
今回の記事での読み方: 部下が上司を使いこなすには、上司へ相談、提案、異議、未完成の情報を出せる関係が必要である。上司が部下を動かすにも、部下が声を出せる場がいる。


上司は、部下を「使う」だけでは動かせない

上司は、部下に仕事を渡す。
指示を出す。
期限を決める。
成果物を求める。

進捗を確認する。
これは必要である。
しかし、それだけでは人は深く動かない。
部下の時間は使える。

部下の手は動かせる。
部下の役割も割り当てられる。
でも、それだけでは、部下の判断は動かない。
意志も動かない。

納得も動かない。
想定外で考える力も動かない。
部下が動くとは、単に作業をすることではない。
自分の仕事として引き受けることである。

何のためにやるのか。
どこまで任されているのか。
何を優先すべきなのか。
どこで相談すべきなのか。

どの失敗なら許容されるのか。
何ができれば成功なのか。
ここが見えた時、部下は動きやすくなる。
上司が部下を動かすとは、命令を強くすることではない。

部下が判断できる条件を整えることである。


部下は、上司を「待つ」だけでは仕事を進められない

一方で、部下にも大事な役割がある。
上司が言ってくれない。
上司が決めてくれない。
上司が見てくれない。

上司が分かってくれない。
こう言いたくなる場面はある。
実際に、上司側の問題も多い。
任せ方が曖昧。

目的を伝えない。
優先順位を示さない。
忙しすぎて見ない。
相談すると不機嫌になる。

最後だけ口を出す。
こういう上司は、たしかに困る。

ただ、部下がそこで完全に受け身になると、仕事は止まる。

部下は、上司を待つだけではなく、使いこなす必要がある。
上司の判断を取りに行く。
上司の視界を借りる。
上司の経験を引き出す。

上司の権限を使って障害を外す。
上司の社内信用を使って関係者を動かす。
上司の言葉を使って優先順位を明確にする。
これは媚びではない。

操作でもない。
仕事を進めるための関係技術である。


上司を使いこなすとは、上司を理解することである

上司を使いこなすという言葉には、少し嫌な響きがある。
でも、実際にはかなり誠実な技術である。
上司にも、癖がある。
得意不得意がある。

見ている時間軸がある。
嫌うリスクがある。
反応しやすい論点がある。
忙しさの波がある。

判断しやすい情報の出し方がある。
これを知らずに、ただ「分かってください」と言っても通らない。
上司が数字で判断する人なら、数字を添える。
上司がリスクに敏感なら、先にリスクと対策を出す。

上司が全体像を重視するなら、背景から話す。
上司が結論を急ぐなら、先に結論を置く。
上司が巻き込みを気にするなら、関係者の状況を添える。
上司が忙しいなら、判断してほしい点を一つに絞る。

これは迎合ではない。
相手が判断しやすい形に、仕事を整えることである。
部下が上司を使いこなすとは、上司の認知地形を読むことでもある。
上司が何を見て、何を見落とし、何を危険だと感じ、どの選択肢を自然だと思うのか。

そこを読める部下は、仕事を前に進めやすい。


上司は、部下の認知地形を変える

上司の言葉は、部下の見え方を変える。
「自由にやっていいよ」

この言葉で、部下が自由になることもある。
しかし、不安になることもある。
「まず自分で考えて」

この言葉で、部下が育つこともある。
しかし、相談できなくなることもある。
「失敗してもいい」

この言葉で、挑戦できることもある。
しかし、失敗後に責められれば、二度と信じなくなる。
上司が部下を動かすとは、部下の認知地形を整えることである。
この仕事は、何のためにあるのか。

どこまで考えてよいのか。
何を大事にすればよいのか。
どこで相談してよいのか。
何を失敗として扱うのか。

何を学習として扱うのか。
この見え方を整えるから、部下は動ける。
上司が曖昧なまま「主体的に動け」と言っても、部下は動かない。
部下は主体性がないのではなく、どこへ主体性を向ければよいか分からないだけかもしれない。


部下は、上司の認知地形を補正する

逆に、部下も上司の見え方を変えることができる。
上司は、現場をすべて見ているわけではない。
顧客の温度。
現場の詰まり。

部下同士の関係。
実務上の負荷。
使われていない制度。
言葉になっていない不満。

こういうものは、上司からは見えにくい。
だから部下は、上司へ情報を返す必要がある。
ただし、愚痴として返すだけでは足りない。
上司が判断できる形にする。

何が起きているのか。
なぜ問題なのか。
どの選択肢があるのか。
何を決めてほしいのか。

どこまで自分で進められるのか。
この形にできる部下は、上司を使いこなしている。
上司の視界を補正している。
上司の判断を助けている。

上司の権限を仕事に接続している。

これは、かなり高度なフォロワーシップである。


上司と部下の関係は、縦の関係でありながら相互依存である

上司と部下には、権限差がある。
評価する側とされる側。
指示する側と受ける側。
責任を負う側と実行する側。

この非対称性は消えない。
だから、上司の責任は大きい。
上司が雑なら、部下は消耗する。
上司が曖昧なら、部下は迷う。

上司が怒りやすいなら、部下は情報を隠す。
上司が見ていないなら、部下は孤立する。
ただし、非対称だからといって、部下が完全に受け身でよいわけではない。
仕事は相互依存で進む。

上司は、部下の現場情報なしには判断を誤る。
部下は、上司の視界や権限なしには動かせないものがある。

上司は、部下を動かす。
部下は、上司を使いこなす。

この二つがそろうと、縦の関係がただの上下ではなく、仕事を動かす回路になる。


実務では、何をすればいいか

では、明日から何を見るか。

上司は、部下に三つ渡す

一つ目は、目的である。
なぜこの仕事をするのか。
誰に何を起こしたいのか。
何が変われば成功なのか。

ここを渡す。
二つ目は、判断軸である。
何を優先するのか。
どこまで自分で決めてよいのか。

どのリスクは相談するのか。
どの品質なら十分なのか。
ここを渡す。
三つ目は、相談の入口である。

いつ相談してよいのか。
何を持ってくればよいのか。
途中で見せてもよいのか。
失敗した時に、どこから戻せばよいのか。

ここを渡す。
部下を動かすとは、指示を増やすことではない。
部下が判断できる地図を渡すことである。

部下は、上司に三つ返す

一つ目は、状況である。
いま何が起きているのか。
何が進んでいて、何が止まっているのか。
どこにリスクがあるのか。

ここを返す。
二つ目は、選択肢である。
案は一つにしない。
できれば、二つか三つにする。

それぞれのメリット、リスク、必要な判断を添える。
上司が判断できる形にする。
三つ目は、依頼である。
何を決めてほしいのか。

誰に話してほしいのか。
どの優先順位を明確にしてほしいのか。
どの障害を外してほしいのか。
ここを返す。

上司を使いこなすとは、丸投げすることではない。
上司が力を発揮できる形で、仕事を持ち込むことである。


注意したいこと

この考え方には、注意点もある。

部下に「上司を使いこなせ」と言う時、上司側の責任を軽くしてはいけない。
上司が不機嫌で、相談を潰す。
上司が情報を見ない。
上司が決めない。

上司が責任を取らない。
上司が部下の提案を横取りする。
こういう状態で、部下にだけ工夫を求めるのは間違っている。

部下が上司を使いこなすには、上司が使われるだけの開き方を持っている必要がある。

一方で、上司に「部下を動かせ」と言う時、部下側の責任を消してもいけない。
部下が情報を出さない。
相談しない。
選択肢を持ってこない。

分からないことを隠す。
最後にだけ助けを求める。
これでは、上司も動かしようがない。
つまり、相互運転には、両方の成熟がいる。

上司は、部下が動ける条件を作る。
部下は、上司が判断できる材料を返す。
この往復が、仕事を動かす。


最後に

上司は部下を動かせ。
部下は上司を使いこなせ。

これは、強い言葉である。
でも、言いたいことは単純である。
上司も部下も、互いを待っているだけでは仕事は進まない。

上司は、部下の意志と判断を仕事に接続する。
部下は、上司の視界と権限を仕事に接続する。
上司は、部下に地図を渡す。
部下は、上司に現場を返す。

上司は、部下の認知地形を整える。
部下は、上司の認知地形を補正する。
この往復がある時、上下関係はただの命令系統ではなくなる。
仕事を前に進める関係になる。

上司と部下は、上下である前に、同じ仕事を動かす二つの視界である。

だから、上司は部下を動かせ。
そして、部下は上司を使いこなせ。


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