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旅慣れテーラーになりてえな② 〜洗濯物でピタゴラスイッチ〜

ホテルだと部屋が乾燥していて喉がやられやすいので対策してくださいと言われた。

『俺節』で私は初めての地方公演を経験した。ついてはホテル暮らしも初めてだった。ビジネスホテルに泊まったことは勿論あるが、10日以上も同じホテルに泊まるのは初めてのことだ。しかも、公演で日々疲れが溜まっていく中、慣れない空間に寝泊まりすることとなる。果たして、その時、自分はどういう状態になっていくのか。周りからアドバイスは貰えるものの、結局は自分の体調との相談になっていく。
何を持っていくのが最適なのか。なかなか迷った。

と言っても持っていく荷物の大半は着替えである。
普段着と稽古着と下着の替え。これらを何日分持っていくか。
10日以上過ごすので日程分持っていくのは不可能だ。途中で洗濯することが前提となってくる。何日おきに洗濯する前提で、何日分持っていくか。

今回、私は腕に刺青が入っている役だったため、腕を出して外出するのがはばかられる状態だった。そのため、外を出歩く際には長袖のエアリズムを着て過ごしていた。この長袖のエアリズムを3着しか持っていなかったので、必然的に2日おきに洗濯する必要がある。2着を消費して3着目を着ている時に洗濯しないと次の日に着る分が無くなってしまう。
2日おきだとコインランドリーの料金がもったいないような気もするが、日にちが溜まって量がかさむと、ホテルの一室で干すのはかなり厳しくなってくる。冬場なら服を着回すことも可能だが、夏場で汗をかく中、それはなるべくやりたくない。あと汗をかいた服が溜まっていくのも、菌が増殖しそうで嫌だ。
1日ごとに手洗いする方法もあるが、脱水がマジで難しすぎる。一度試してみたが、汗で臭い服が生乾きになっただけで嫌さが増しただけだった。大人しくコインランドリーで洗うほうが良い。

そういう訳で2日おきに洗うことは確定。最低でも3日分は必要、余裕を持ってプラス1日分して4日分持って行った。

これに加えて寝巻きも持って行ったが、ホテル着があったので寝巻きは不要だった。
自分は皮膚が弱いので風呂上がりに保湿と塗り薬が必須。また、公演中は喉のケアのためにトラネキサム酸の薬も必需品だ。だからこれらは確実に持っていかなければならないもの。歯ブラシや髭剃りはアメニティとして用意されていることも多く、事前にチェックしたら案の定あったので持ってこなかった。
しかし、ホテル着は盲点であった。ホテル着は毎日、掃除の人が回収して新しいのを出してくれるので、寝巻きは完全にいらなかった。ここは反省である。

このように私は服を何日分持って行って、どのタイミングで洗濯すれば良いかということしか考えてなかったのだが、他に考えるべきことはもっとあった。
何故なら他の皆さんは隙間時間にどこに行くか・何を食べに行くかの目星を付けまくっていたのである。
私は完全にホテルの部屋の中で過ごすことだけを考えていたので、マジで盲点だった。

でも考えてみたら、そりゃそうなのである。
何せ移動の交通費や滞在費は出して貰っているので、普通に旅行に来るよりも、レジャーや食事に予算を割けるのである。もちろん仕事が最優先されるのは言うまでもないが、合間に行けるとこは行っとく方が断然おトクだ。
ある者は休演日に綿密な予定を立てて市外に日帰り旅行を企てたり、ある者はお得意さんとなっているお店に何軒も顔を出したり、地方をエンジョイする方法を心得ていた。旅慣れている…!と私は素直に感服した。

しかしまぁ、初めて地方公演マンの私にはどうしようもないのだから仕方がない。何せ地方公演でどれだけ体力を削られて、ホテルでどのくらい回復できるものなのかわからないのだ。刺青のハンデもあって温泉には行けないし。
レジャーは二の次である。私はホテルの室内での過ごし方を充実させたかった。

そう言いつつ、先輩方に美味しいお店に連れて行って貰ったり、自分の体力の配分が分かってきてからは、自分で調べて出かけたりもしたので、充分レジャーを満喫もしているが。

これは散歩して見つけた『モヤモヤさまぁ〜ず』にも出ていた福岡・大濠公園のすべり台。

私は今回、MacのPCとiPadを持って行った。
それぞれ主に文章を書くことと絵を描くことに使っていて、まさしくそういった作業のためだ。ホテルの一室は制限された空間で集中しやすい…が、私が泊まった部屋の机は椅子と同程度の高さしかないミニテーブルだった。PCを置くにも小さいぐらいのサイズで、腰を90°近く屈めないとキーボードも叩けない。作業をするには全く向いていなかった。
あとから他の人に確認したら部屋によっては高さのある机が最初から装備されているところもあり、これに関してはランダムだったよう。盲点、というより、こういうこともある、という感じだった。
それでも私は部屋で作業したかったので、色々な方法を試した。部屋のベッドはダブルサイズで、枕は二人分、選べるように2種類ずつ置いてあったので、作業をしたい時は枕を積み上げ、ベッドの上であぐらをかきながらやる方法に最終的に落ち着いた。

あと部屋で観るためのアマプラやネトフリなどの配信系のサブスク。
ある程度のビジネスホテルであれば、各部屋にテレビが付いている。豪勢なホテルになると、そのテレビでサブスクも観れたりするが、大概はそこまではいかない。
映画を大画面で観たい派の人はAmazonファイアスティックを持ち込んだり、手持ちのPCやiPhoneをテレビに繋げられるようにしていた。私はiPhoneやiPadでサブスクの映画は観ていた。
最近、シンプソンズを観るのにハマっている。それも最初の方から観ているので、画像は結構粗かったりする。大画面だとその粗さが気になってしまうこともあるので、iPhoneで観るのが逆に丁度良かったりもする。
また閉じられた狭い部屋で、ベッドに寝転がりながら小さな画面で映画を観ると言うのも、秘密基地感があって良い。

そう、ホテルの過ごし方で重要なのは、この秘密基地感を如何に高められるかだ。
狭い部屋に何日も閉じ込められている、と考えると気持ちが塞いでくるが、自分だけの空間を作り上げられれば、気持ちがワクワクしてくる。

ホテルで一番ムズいのは、洗濯物の干す場所だ。
部屋の中は驚くほど引っ掛ける場所がなくて、まとまった量をかけるとなると風呂場しかない場合が多い。しかし、それだと湿気が多くて乾き辛いし、出来ることなら窓辺で乾かしたい。だが、ホテルの窓は閉め切られてることも多く、開けられてもほんのちょびっとだけだったりする。
だが、どうにかして窓辺で干せないか…と色々試した結果、無いように思えた洗濯物を引っ掛ける場所を見つけ出すことに成功した。それも3つも。
1つ目は窓の上の部分。ホテルの窓は横にスライド形式ではなくて、斜めに開く形、しかも開く角度がかなり制限されているタイプだった。正味ちょびっとしか開かないが、開ければ窓の上のところに引っ掛けることが出来る。直射日光をもっとも浴びるので一番乾きやすいところだ。
2つ目は窓のスクリーンが丸まっているところ。窓に光を遮断するスクリーン型のカーテンが付いていて、使っていない時は丸まって筒状の塊として窓の上の方にあるので、ちょうど洗濯物を引っ掛けられたのである。重みをかけるとそのままスクリーンが下がってきてしまうので、ある程度の軽さに抑えないといけないが2つぐらい引っ掛けることが出来る。
3つ目はカーテンレールである。スクリーンのカーテンとは別に普通のカーテンも付いていたので、そのカーテンレールの隙間にハンガーを引っ掛けることが出来た。カーテンレールはモノを引っ掛けることを想定していないので、普通のハンガーでは隙間に入らないが、私は針金で出来たハンガーを持ち込んでいたので、先を曲げれば差し込むことが出来た。これはなかなかのアハ体験であった。

どの層に何をかけるかはかなり重要だった。
勿論、これらの作業で窓を割ったりスクリーンやカーテンレールを破壊する訳にはいかないので、洗濯物の重さには細心の注意を払った。またエアリズムや薄手のTシャツは乾きやすいが、ちょっと厚手のズボンはしっかり日に当てないと生乾きになってしまう。
時にはスクリーンに何枚かかけなければいけない時もあって、それだとスクリーンが下がってきてしまう。それを防ぐためにはスクリーンのコードに重みをかけて引っ張っている状態にする必要があった。macとiPadを同時に使うことはないため、使ってない方をカバンに入れて、それをホテルの木でできたハンガーにかけ、それをさらにコードにかけることによって、洗濯物との均衡を図ることに成功した。
洗濯物の配置が完成した時、ピタゴラスイッチのようになっていて、それが気持ちよかった。秘密基地が完成したような気がした。グーニーズやウォレスとグルミットのような、発明家が作るゴテゴテと手数がやたら多いマシンのことをルーブ・ゴールドバーグ・マシンと言うらしい。秘密基地感が格段に増した。
湿った洗濯物が枕元にあるのは、乾燥を防ぐ点でも理に叶っていた。洗濯物ピタゴラスイッチが完成したことによって、部屋の快適度が一気に上がった。

こうして私は部屋の乾燥を防ぎ、作業するにもダラダラ過ごすにも適した、自分だけの秘密基地をホテルに作り出すことに成功した。
お陰で憂慮された長期滞在によるホテル疲れは一切なく、初の地方公演を乗り切ることが出来た。
秘密基地感を高め、自分の城を作り上げるのが、ホテル暮らしには肝要なのだという知見を得たのである。


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