シン・京都市長 信長 第六話
年が明けた。
信長は、木下を引き連れ、石清水八幡宮へ初詣に行った。石清水八幡宮は、日本三大八幡の一つで「必勝の神」として「源氏」から厚い崇拝を受けていた。源頼光が大江山の酒呑童子を退治に行く前、石清水八幡宮で参籠したという伝説がある。
必勝を祈願した信長は帰りの参道で急に立ち止まった。あっ、俺「平氏」だった。足利将軍家が源氏だったため、次の政権交代を見据え平氏に変えたのだ。いまさら源氏でも平氏でもどちらでも良いっか。再び歩き出した。木下は選挙の事を考えてると思った。
「走井餅でも食べて帰りましょう」木下は石清水八幡宮門前の老舗に連れて行った。走井餅は、260年以上続く八幡の老舗の名物。甘すぎないアンコを白く柔らかい皮で包んでいる。
1月21日、京都市長選挙の告示日。法務局に供託金を収め立候補届を出した。立候補の届出期間は告示日の一日だけだ。
21日、初弘法。東寺へ向かう大勢の人の中で、どれだけの人が選挙ポスターに気づいただろう。地元のテレビや新聞で京都市長選挙について報じられているが有権者の関心は相変わらず低い。
京都市役所の向かい、本能寺を背に信長が立った。黒いスーツに‥いや黒い鎧に陣羽織、流石にチョンマゲではないが、戦国武将を思わせる出で立ち。
第一声は、この場所と決めていた。本能寺は関係ない、京都市役所に向かって市長になる決意表明がしたかった。

余談ではあるが、かつての本能寺は、現在の場所からもっと西、四条西洞院辺りにあった。ちなみに、何度も焼失した本能寺は、火(ヒ)を嫌い、「能」の「ヒ」の部分に「去」の字を使っている。


珍しい姿の候補者にスマホで撮影する人もチラホラいた。最初はSNSに「泡沫候補」「コスプレ芸人」「変な武将が演説してた」など誹謗中傷が絶えなかったが、信長の狙いどうりだった。
立候補の受け付けの告示日(1月21日)から開票日(2月4日)まで14日しかない。無名の候補者にはあまりにも短すぎる。とにかく、SNSを最大限利用し知名度UPを最優先した。
無い無い尽くしの信長だが、一つだけ有利なことがあった。それは、色白でシュッとした塩顔のイケメンであること。体は細いが筋肉が程よくついた細マッチョで鎧姿がよく似合っていた。
しだいに予告した演説場所に女性の姿が目立つようになってきた。
SNSでは徐々に「イケメンの無駄遣い」「俳優の映画宣伝かとおもった」「政治じゃなく芸能界を目指すべき」と容姿についての投稿も増えてきた。見た目だけでなく「若い人が市長になったら京都が変わるかも」「公約の内容が気になる」「ただの目立ちたがり屋」など賛否両論、注目度が増す。
1560年(永禄3年)5月、織田信長の命運は尽きそうになっていた。駿河の今川義元が2万5千人もの大軍を率い尾張に侵攻してきたのだ。信長は、桶狭間で本陣が休息しているとの情報を得ると、急襲し今川義元を討ち取った。直前の豪雨で信長の接近に気づかなかったという幸運もあった。信長は、今川義元を討ち取った者より、本陣の「情報」を伝えた者を高く評価した。
今回も「桶狭間の戦い」の時と同じように「情報」が勝敗を左右する。信長は、ポスターを貼ったり選挙カーから名前を連呼する古いやり方をせず、SNSをフル活用した選挙戦(情報戦)を展開した。
それを支えたのが木下だった。SNSを活用したPR会社に勤めていたが、選挙を期に退職、信長のサポートを買って出た。顔の広い木下は、知り合いのインフルエンサーを100人ほど集め、知名度UPと投票の呼びかけに努めた。
信長は、ライブ配信は毎日行い、質問にも丁寧に答えた。コメント欄では、有権者も政策論議に参加し京都の未来について双方向で語り合った。閲覧者も100人、1000人、10000人と増えていったが、京都市長選挙の有権者数は114万人弱、1万人程度ではまだまだ少ない。ただ、若年層・無党派層には着実に認知度が上がっていった。
ライブ配信では「オーバーツーリズム」には新しい交通システムの導入、「財政難・少子化・人口流出」には経済特区と規制緩和としか答えず、具体的に言及しなかった。具体的な公約は、投票1週間前に行われる、地元テレビ局の生討論番組で公表すると宣言した。有権者全体の年齢層を考えるとテレビの影響力が大きく、ここが勝負所と考えていた。
テレビ討論番組の前日、京都市長選挙の候補者を紹介する30分の特別番組が放送された。
候補者は3人、16年ぶりに新人同士の争いになる。
届け出順に
坂本 衛(さかもと まもる)55才
無所属 新
推薦:自民・立民・公明・国民
経歴:東京大学卒、官僚をへて国会議員4期、議員辞職し京都市長選挙に立候補
福田 弁慶(ふくだ ただよし)68才
無所属 新
推薦:共産
経歴:京都大学卒、弁護士キャリア40年、前回の京都市長選挙に出馬し接戦を演じるが落選
小田 信長(おだ のぶなが)25才
無所属 新
推薦:無し
経歴:西陣中学校卒、西陣高校中退、バックパッカーで5年間世界を放浪
「今回の京都市長選挙の展望はどうでしょうか」アナウンサーが政治評論家に尋ねた。
「今回も非共産候補者と共産候補者の一騎打ちでしょう」
京都は共産党が強い土地柄。前回の京都市長選挙は、投票率40.71%、自民・立民・公明・国民が推薦する現職(得票率45.1%)と共産党推薦の新人候補者(得票率34.6%)の差は5万票あまりだった。有権者は、非共産候補者か共産候補者の二択しかなく選挙への関心は低い。
政治評論家「現京都市長の路線を引き継ぐ坂本氏と現在の行財政改革を見直し福祉に力を入れる福田氏の対決ともいえます」
京都市は、財政再建団体への転落危機から行財政改革を断行。敬老乗車証の値上げ、民間保育園の補助金カット、市営施設の料金値上げ、市職員の削減をしてきた。
坂本氏と福田氏の話ばかりする政治評論家にアナウンサーが小田さんはどうでしょうと聞いた。
「まぁ、…具体的な公約は語られていないし、政治経験もない、当選確率1%ぐらいでしょう」
信長について語られたのはこれだけだった。
本命候補の一人、坂本衛は選挙事務所で番組を見ていた。秘書とスタッフで福田の公約を分析し、明日のテレビ討論番組で実現可能の低さや矛盾を指摘するためだった。
前回の京都市長選挙は、3期連続当選の現役に新人の福田が接戦を演じた。今回は新人どうし、前回以上に僅差の戦いになるのは目に見えていた。
(小田信長‥‥‥)
坂本は福田より未知の候補者の方が気になっていた。
いいなと思ったら応援しよう!
京都生まれ・京都育ちの京都人。
2005年から「京都観光研究所」を運営しています。
https://www.kyotokk.com/
https://blog.kyotokk.com/