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シン・京都市長 信長 第七話

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翌日、3人の候補者が地元テレビ局へ集まった。

信長は、年配の有権者を意識し、鎧姿に陣羽織ではなく、黒に近いグレーのスーツ姿を着ていた。

「久しぶりだな」

薄暗く狭い廊下で声をかけられた。振り返ると、ダークネイビーのスーツを着た坂本衛が立っていた。

━━ 光秀

見た目ではわからなかったが、空気感でそう直感的した。

(久しぶり?初めて会うのに、俺のことを織田信長と認識しているのか)

「大宝坊以来か」カマをかけた。
「そうだな」鋭い目で坂本は答えた。
こいつは、明智光秀、しかも過去の記憶もある。信長は、はじめて過去の記憶がある人物と出会った。

1582年(天正10年)、5月15日から3日間、織田信長は徳川家康の長年の功績を感謝し、宿所の大宝坊へ招き歓待した。饗応役(酒や食事でもてなす)は明智光秀。そこで事件が起こった。誠心誠意役目をこなしていた光秀に些細なことで信長が激怒し折檻したのだ。17日後、この事が原因の一つかはわからないが、6月2日に本能寺の変がおこる。

「後ろ姿を見ると、槍で一突きしたい気分だったが、流石にできないな、今の時代」
「得意の不意打ちか」
「今は、力が支配する野蛮な時代ではなく法が支配する時代。時代のルールに合わせて頂点を目指す事にしたよ」

坂本衛は、官僚から政治家に転身し総理大臣を目指していた。はじめは野党だったが与党へ乗り換えに成功。裏ではスレスレの事もやり、副大臣にはなれたが大臣にはなれなかった。国会議員ではダメだ総理大臣まで時間がかかりすぎる。小さくても一国一城の主になりたい、と考え京都市長選に立候補した。京都市長を2期ほど務め、実績をあげて再び国会に戻る計画だ。

明智光秀について宣教師フロイスはこう書き残している。

殿内にあって彼はよそ者であり、外来の身であったので、ほとんどすべての者から快く思われていなかったが、自分が受けている寵愛を保持し増大するための不思議な器用さを身に備えていた。

彼は裏切りや密会を好み、刑を科するに残酷で、独裁的でもあったが、己を偽装するのに抜け目が無く、戦争においては謀略を得意とし、忍耐に富み、計略と策謀の達人であった。

「なぜ、俺のことに気づいた」信長は聞いた。
「名前が同じじゃないか、漢字は違うが、何気ない仕草はあの時と同じだ」
「仕草‥なるほど」
「いつも怒らせないよう、一挙手一投足観察し、細心の注意を払っていたよ。どれほど我慢したことか、本能寺までは」
「あの時は油断したが今回はやり返す」
ふっ、坂本は何も答えなかった。今の信長など敵ではないと言いたげだった。

「そろそろ時間です」デレクターがスタジオに入るよう促した。

届け出順に3者が着席した。
司会「京都市長選挙2024、3人の候補者にこれから京都をどのようにしていきたいのか、お聞きしたいと思います。1時間の生放送なので、時間の都合上、質問はオーバーツーリズム・財政再建・人口減少の3つとさせていただきます」

司会「候補者お一人づつ、自己紹介と意気込みを簡単にお願いします」

坂本「坂本衛です。京都生まれ京都育ち、国会議員の経験を活かし、故郷に恩返しする気持ちで立候補しました。誰より京都を愛し誰よりも京都の事を知っています。国と京都府と連携し一つ一つ課題を解決したいと考えています」

福田「福田弁慶です。長年京都で弁護士活動をしています。前回の京都市長選挙ではたくさんの応援を頂きながらあと一歩届きませんでした。敬老乗車証の値上げなど弱者切り捨ての悪政を正すべく立候補しました」

小田「小田信長25才、古い常識を壊し新しい京都をつくります」

司会「最初にオーバーツーリズム対策からおうかがいします」

坂本「観光シーズのマイカー乗り入れ規制、バスの観光専用路線の創設、分散観光の周知徹底をします。観光シーズは、パークアンドライドでマイカーの流入量を減らし、バスや電車で観光地へ向かうよう促します。京都市の観光サイトや公式SNSで有名な観光スポット以外の情報を積極的にアピールしたいと考えています」

福田「ホテルの総量規制、京都市民と観光客のバス路線分離、宿泊税を大幅に値上げをします。京都市内は、ホテルの急増で市民生活に大きな影響が出ています。観光は大事だが、一度立ち止まって、市民生活を1番に考えた政策を打ち出すべきです」

小田「新しい交通システムの導入をします」
司会「新しい交通システムとは?」
小田「ロープウェイです」
ロ、ロープウェイ!?坂本は失笑し、福田は唖然とした。
小田「京都駅から清水寺までロープウェイを通します」

京都のオーバーツーリズム現状は、東の清水寺、西の嵐山に観光客が殺到し、その周辺の道路・交通機関も混雑、市民生活にも影響が出ている。京都駅の清水寺行きバス停には長蛇の列、ぎゅうぎゅう詰めのバスもめずらしくない。観光シーズは、市バスが増便され交通渋滞が増すという悪循環。京都駅から嵐山へは、JRでアクセスできるが、観光シーズはいつも満員電車だ。

「ハハ、ロープウェイ?景観が壊れるじゃないか、厳しい景観条例があるんだよ京都には」坂本は諭すように言った。
「条例なんて作り変えればいい」
「景観条例を変えても、京都にふさわしくないものは、京都市民の理解を得られるわけなかろう」坂本は呆れた。
「京都の事を何も知らないんだなぁ」
なに!坂本は椅子から立ち上がりそうになった。学歴も政治経験も無い若造に京都を知らないといわれ腹がたった。さすがに立ち上がる事はなかったが顔に怒りの色が見えた。

坂本を怒らす事は木下が考えた作戦だった。坂本は、温和なイメージを売りにしているが、プライドが高く短気な性格であると調べ上げていた。生放送で怒らせればイメージダウンにつながる。

信長は続けた「南禅寺の水路閣、京都タワー、京都駅ビル、どれも最初は京都らしくないといわれていた。ちゃんとデザインすれば、最初は違和感があっても、時間が経てば景色に馴染む」

南禅寺の水路閣は、琵琶湖疏水の水を京都市内へ送るため、明治時代に造られた赤レンガの水道橋である。南禅寺は、京都五山(臨済宗五つの禅寺)の更に上、最高位の座位と定められた格式高いお寺。水路閣は、その南禅寺の境内に通された。

当初は、京都にふさわしくない、景観が壊れると反対されていたが、今では景色に馴染み観光客に人気の映えスポットになっている。

南禅寺水路閣
南禅寺水路閣

明治時代には、琵琶湖疏水の水を利用し、日本初の営業用水力発電が行われ、日本初の営業用電車を走らせた。京都は、伝統や格式を重んじる一方、最先端の技術や考え方を大胆に取り入れる、思いっきりの良さも持ち合わせている。

「財政難の京都でロープウェイの建築費はどうするんだ」福田が言った。
「建築費は運賃で賄う、京都駅から清水寺まで3000円だ」
「バスなら230円で行けるのに3000円なんて高すぎる」福田は首をふった。
「ロープウェイは単に人を運ぶだけでなく街の景色も楽しめる。バスなら230円だがタクシーなら2000円はかかる、時間も20~30分かかる所をロープウェイなら10分で移動できる」

京都市は、外国人観光客に地下鉄利用をうながしているが、景色が見れないと敬遠する人もいる。確かに、外国旅行に行けば街並みを見たい気持ちはわかる。京都市内を走る屋根なし2階建ての観光バスは外国人観光客に人気だ。

京都市は年間5000万人もの観光客が訪れる国際観光都市。観光客の約20%は清水寺エリアへ訪れるといわれている。そのうち10人に1人がロープウェイを利用すれば30億円が見込まれる。

信長はフリップを取り出した

5000万人 ✕ 20% ✕ 10% ✕ 3000円 = 30億円
京都駅から清水寺まで直線距離で約2.5km、道路の上を通るコースでも約3km
ロープウェイの建設費は1kmあたり約10億円
建設費約25億円~約30億円

「京都駅から清水寺間は、数年で建設費は回収できる」

ちなみに、滋賀県のびわ湖バレイには、全長1.7km・定員121名のロープウェイが運行(往復料金3500円)している。ロープウェイの定員121名は、バスの定員2倍~3倍に相当する。

「真のオーバーツーリズム対策はここからだ、清水寺からロープウェイを北に伸ばし、京都盆地をぐるっと一周、環状線のようにつなげる」

京都は、南以外、山に囲まれた盆地。東山連峰・北山連峰・西山連峰の山沿いに観光客の少ない観光スポットが多く点在してる。例えば、東なら詩仙堂・曼殊院、北なら正伝寺・源光庵、西なら愛宕念仏寺・松尾大社などなど。

京都一周トレイルで地図に書き込んでいたのは、ロープウェイがどのルートをたどれば、効率よく観光スポットにアクセス出来るか調べるためであった。

京都駅を起点・終点に山沿いにロープウェイを張り巡らせ環状線にする。ロープウェイは、観光客と京都市民の移動手段を分離し、分散観光にも貢献できる。

「出来るわけない」吐き捨てるように坂本が言った。
「出来る出来ないではない、やるかやらないかだ」信長の表情には強い意志と自信があった。

「放送時間があるので次行きます」あわてて司会がさえぎった。


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りょうたろう 京都生まれ・京都育ちの京都人。 2005年から「京都観光研究所」を運営しています。 https://www.kyotokk.com/ https://blog.kyotokk.com/