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白滝童子の化け物退治珍道中、四の巻

【前回のあらすじ】

見習い陰陽師・白滝童子と白拍子・魔府院は旅の途中、温泉で賑わう「湯煙の里」に立ち寄る。
だが里では化け物たちが騒ぎを起こし、湯治客を困らせていた。
童子は魔府院と力を合わせ、封魔の札と舞を駆使して怪異を祓い、里の平穏を取り戻す。
法術による激しい戦いの後、二人は湯に浸かりながら束の間の休息を楽しみ、旅の疲れを癒す。
魔府院の底なしの食い気と童子の無邪気さが笑いを誘い、里の人々も安堵の笑みを浮かべる。
こうして「湯煙の里の怪異退治」は幕を閉じ、二人は次なる目的地──歳木の国へと歩みを進めるのであった。
これまでの物語零の巻一の巻二の巻三の巻

【主な登場人物】

🦊千年稲荷(せんねんいなり)
日乃本国ひのもとのくに・感東かんとう地方に鎮座する瑞宝堂ずいほうどうの巫女。白滝童子の師匠。
神託を授ける霊的存在で、口癖は「あーれーまー、なんですとー!」
童子を送り出したあとは、旅の成就を見守っている。
🐣白滝童子(しらたきどうじ)
式札を操る陰陽師見習い。語尾に「ぺん」をつける癖あり。
日乃本四十七の地を巡り、「いろはの御印」を集める使命を帯びる。
実はかなづちで泳げない。
💃白拍子・魔府院(まふいん)
性別不詳の艶やかな舞い手。オネエ口調で華やかに舞い魔を祓う。
「野暮ねぇ、そんなもんどっちでもいいのよぉ!」が口癖。
シマウマのくせに縞がない。白黒つけるのが嫌い。

めいんきゃらくたーだぺん

『呪詛乃封石、童子に蹴られ、転がり落ちて候』

 単馬の国にて、化け物共による温泉騒動を解決した白滝童子と白拍子・魔府院。
 賑やかな宿場町をぬけ、緩やかな坂の続く街道をのんびりと、次の国を目指して歩いていた。
 めざすは「感東一の銘滝」が絶景の丈夫山ますらおやまを頂く、歳木としぎの国である。

 歳木への道はいくつかあるが、二人が選んだ道は両脇に松林が続く、比較的手入れのされた街道であった。
 手入がされているといっても、人里からは離れており、周囲には疲れを癒せる休み処も無いような場所である。

 人(馬?)一倍、胃の府の大きな魔府院が腹減りになった様子で、独り言のようにぶつくさ文句を言い始めた。

「あーん、もう!だからもう少し、きちんとした街道筋を歩きましょうって言ったのよ。この辺り、茶屋の一件も見当たらないじゃないの!」

 魔府院は仕方なさそうに、ぶひぶひと鼻を鳴らしながら、道に生えているぺんぺん草を食んでいる。
 食べながら、ぺんぺん草の種を三味線のばちのように持ち、空三味線を奏でる真似をした。

「うむ。お主の封魔演舞は確かに一流だぺん。白拍子としても一人前だが、食い気に関しては三人前なんだぺん」

 そんな魔府院を気にする素振りもなく、白滝童子はてちてちと砂利を踏みながら前に進む。
 途中、道のわきに生えた笹の葉を摘み取り、笹笛を吹いた。

 なんだかんだと言いつつ、空の上には白い綿雲がふわりと浮かび、林の中には小鳥のさえずりが聞こえる、のどかな二人旅であった。

「まあ、この松林の街道を抜ければ、今夜野宿をする予定の村にたどり着くぺん。そこでなら、お主の腹の虫を黙らせるくらいの飼葉が頂けるであろう、ぺん」

 一曲吹き終えた笹の葉を、魔府院にそっと手渡す白滝童子。

「ぶひ―!あたしは人参の方がいいわっ!……あら、どうも」

「ただの馬」扱いをされたことに腹を立てた魔府院だったが、笹の葉を受け取り、それをかじって気を取り直した。

 気分が落ち着くと同時に、いつもの冷静さと、旅のしおりの役目を思い出したようで、あれこれと白滝に質問を投げかける。

「それはそうと、お堂を出立してから何度か化け物を調伏したわよね。持参の式札、かなり減っちゃったんじゃない?あれが無いと、あんたはまったくと言っていいほど、何も出来なくなっちゃうからね」

 法術の使えない白滝童子はただのペンギン。
(心細くてたまらないわぁ)と、眉をひそめる魔府院。

「まあ、ぴゃーぴゃー言いながら、ちょこまか動く白滝ちゃんも可愛いんだけどぉ♡」

 にまぁ~と笑って、鼻の下を伸ばす。

 魔府院の言葉に反論しようとした白滝童子は、口を開きかけて諦めた。
 師匠のように、式札に頼らず自前の方術を使い、印を結ぶだけで術が発動できるならばともかく、式札が無くなってしまうと打つ手が無くなる白滝なのだった。

(言い返したいところではあるが……致し方なしだぺん)

 とぼとぼと道を進む。

 ひゅーん!
 二匹の上空を、何かが風を切って飛んでいく音がした。
 ふと見上げると、1羽のはやぶさが二人を猛烈な速さで飛んでいた。

 ぽとっ……ころん!

 はやぶさは二匹の目の前に何やら包みを落とすと、上空で方向を変え去って行った。

 それを見た白滝童子と魔府院は、転がった包みのそばへ、てってけてーと駆け寄った。

「さっきのはやぶさちゃん、いなりん様のお使いよね」

 魔府院は転がっている包みを拾い上げ、はやぶさが去って行った方向を見る。

「ちょうど式札が足りなぁ~いって話してた矢先。さすがいなりん様、気が利くじゃないの」

 包みを白滝童子に手渡しながら、くすくすと笑う魔府院。

 こーーん!

「痛っ!」

 そばに生えている木立から松ぼっくりが落ちてきて、魔府院の頭に直撃した。

「やれやれ。あのお方を、そのようにお呼びしたりするから……およ?何やら書付が入っておるぺん」

 小包の結びをするりと解き、白滝はその中から一通の書簡を取り出した。
 童子の背後から、魔府院も包みの中を覗き込む。

表書きには『急』と一文字。

 それを目にした瞬間、二匹の背筋に冷たい何かが走った。

「むむ!何やら、嫌な気配を感じる。ぺん!何やら不吉な……凶兆が現れておる。ペペん!」

 白滝童子は急いで書簡の封を切り、内容を読み始める。

『多分おぬしら、歳木の里の辺りであろう。よく聞け。瑞宝堂の周囲に、魔の者共の気配が充満しておる!我が卜占によれば、歳木の山中に此度の事象の元となる印があると出た!恐らく……ううむ、あまりこの件について触れたくはなかったが、そうもいってはおれぬか……おそらく、呪詛乃封石じゅそのふうせきに異変が起きたのじゃ!急ぎ彼の地に向かい石の祟りを沈めるのじゃ。式札も多めに持たせるゆえ、見事解決してみせよ』

 よほど急いでいたのか、ミミズの貼ったような文面であったが、それ以上に稲荷御前様の思念が強く、手紙の内容は二匹の弟子たちにしっかりと伝わっていた。

「おろろろ!」

 書簡を読み終えた白滝童子の動揺はただならない。

「これは一大事でござる、ぺん!魔府院、こうしてはおられぬ。急いで丈夫山ますらおやまに向かうぺん!」

 白滝童子は、書簡と大量の式札を懐にねじ込むと、短い脚を必死に動かし先を急いだ。
 それに続いて魔府院も見事な脚力を発揮して、てれてれと走る童子を摘まみ上げ鼻息荒く、いなないた!

「あんたの歩調じゃ、明日になっても辿り着かないわよ!しっかり捕まってなさい。それじゃぁ、行くわよぉ!」

 街道を駆け抜ける事、半刻と少々。
 二匹は無事に丈夫山のふもとにたどり着いた。

 山の入り口のすぐ脇に一軒の茶屋があり、喉の渇きと疲れ、それに空腹で鳴き止まぬ魔府院の腹の虫を、なだめるために立ち寄ることとなった。

 そのついでに、茶屋の店主から事情を聴く白滝童子。
 さらに、店先にあったきゅうりが美味しそうだったので、二本購入した。

「店主殿。最近、ここいら近で異変は起こっておらぬかぺん?怪しいものを見たとかぺんぺん?」

「おお!そのいで立ち、お役目様とお見受けいたす。そのことでございますが……ここ暫く、妙な地鳴り、いや、化け物の呻き声のような音が聞こえてくるのでございます。他にも小規模ですが地震がおきまして。丈夫山では崖が崩れた所も」

「やはりか。ぺん……これは急がねばならぬぺ~ん」

 店主が盆に入れたお冷を持ってきてくれたので、それを一口飲んで、のどを潤した。

「聞いたか、魔府院よ。すでに異変が起きておるようだぺん」

 さすがにここまでの距離を、休むことなくかけ続けた魔府院は息が上がってしまい、ぜぇぜぇはぁはぁと肩で息をする。
 そして、急になよなよと店先の縁台に前足を乗せ、地面に膝をつき息を整える。

「ま、まぁねぇ。さすがに今回は、ちょーっとばかり疲れたかもぉ~。少しだけ休ませてよ……」

「うむ。お主の走り、ますます磨きがかかっておったぺん!有馬記念に出てみてはいかがでござるか?ぺん」

 白滝童子は、自前の扇子でぱたぱたと仰ぎながら、先程購入した冷やしきゅうりを一本、魔府院に手渡した。

 ばりんぼりん!

 軽快な音を立てて、きゅうりをかじる魔府院。

 むしゃむしゃ、ごくん!

 かみ砕いたきゅうりを飲み込んで、やっと人心地付いたようである。

「ああ、おいしいわぁ。疲れも吹き飛ぶ、いい塩梅ねぇ」

「そうかそうか。それは良かった。では、いざまいるでござる、ぺん!」

 ぽてん、と縁台から飛び降りた白滝童子。
 てちてちと歩き始め、丈夫山の御霊場を目指す。
 その後に魔府院が続き、形の良い馬耳をひょこりとさせながら物音に警戒していた。

 砂利道を行く二人を、茶屋の店主が心配そうに見送っていた。

「お気を付け下され」

「あいや、心配ご無用でござるぺん」

「そうよぉ~。あたし達に、お・ま・か・せ ♪ よ~ん」

 店主の言葉に、元気いっぱい、勇敢に答える白滝童子。
 魔府院はいつものように、艶っぽいしぐさで返事を返すのだった。

 二匹がてけてけ進んでいくと、砂利道は次第に上り坂になって行き、そこからしばらく登って行くと、あたりは荒涼とした岩場の山岳地帯であった。

 茶屋の店主が言ったように、付近にはがけ崩れの形跡が残っていた。

『おおお……うおおおーん』

 そしてあたりには不気味な鳴き声が響いていた。

 砂利に足を取られないように、慎重に進んでいく二匹。
 大小さまざまな岩石が転がるその先には、四方に朱色の柱を立てた祈祷場があり、その中心には護摩壇が設置されていた。

「むうう……確かに妖気が凄いでござる。しかも、あたりの瘴気も強烈でござる、ぺん」

 白滝童子は豆絞りの手拭いで鼻を覆った。

「これは……早めに勝負を決めないと危ないわよ、白滝ちゃん!」

 魔府院は自分と白滝童子を聖なる護法結界によって囲み、ゆっくりと祈祷場の中に入って行った。

 祈祷場の護摩壇の前には黒い岩が置かれてあり、しめ縄で封印されている。
 しかし、そのしめ縄は緩んでおり、今にも解けそうになっていた。
 しめ縄自体も長年の風雨にさらされ、脆くなっているようだ。

 本来なら霊妙な気に満ちている祈祷場は、今や邪気と怨念の吹き溜まりと化していた。

 白滝童子はぷるぷると身を震わせながら、護法術式の準備に入った。
 魔府院はそんな童子を守るために激しく舞を踊る。

 護摩壇の前まで進み、目の前の黒い石をじっと見つめる白滝童子。

「およ?これが、お師匠様の言う『呪詛乃封石』でござるか?ぺぺ~ん。ううむ。これは新たにご祈祷を施し、新たにしめ縄をせねば駄目でござるな、ぺん……」

 白滝童子は式札を数枚懐から取り出し、しめ縄の緩んだ『霊石』に、そっと手を触れてみた。

「ひゃあ!」

 驚いた童子は、その場に尻もちを付き、辺りに式札がばらまかれた。

 なんと!
 石は熱を帯びていた。

 日差しはそれほどきつくはない。
 地面の熱もさほどではなく、この辺りは火山でもない。

 つまり考えられる原因は、化け物たちの放つ妖気、あるいは瘴気のせいだと思われた。

「よもやこの石の中に、良からぬものが?」

 その、白滝童子の声に応えるかのように、周囲の空気がざわめき、黒石から瘴気があふれ出してきた。

 さらに地面の下から。

 ずごごごご……!

 地鳴りが響き渡った。

「我をかような場所へ閉じ込めた恨み……今こそ晴らしてくれようぞ。こわっぱめ、法術を使う気か?ならば目にもの見せてくれよう」

 声は目前の黒石から聞こえてきた。

「およよよ……!これは大変でござるぺん。お師匠様の言われた通りでござるぺーーん!うむ。拙者も陰陽師の端くれ。お前などに負けてはおられぬでござるぺぺんぺん!」

 白滝童子の背後では、魔府院が朱塗りの四柱に燈明を灯し、護法結界と神妙清風の術式を唱えながら、疾風の舞で童子を援護した。

 白滝童子は式札を黒石に向かって投げつけ、声を大にして護法呪文を唱えた。

「我が師匠より直伝の封縛退魔護法術式、いざ参る!悪しき想念、悪霊妖怪の類、姿を現しませい!ぺーん」

 師匠から送られてきた真新しい式札には、これまで白滝童子には使いこなせなかった、高位の術式が込められた式札も数種類入っていた。

 その貴重な高位術式の式札を手に取り封印を解くと、そこに現れたのは「人嘴行者」と呼ばれる、鳥族に伝わる伝説的陰陽師の幻影だった。

「いざ。我こそは白滝童子、稲荷の行者が弟子にして今、上位護法を会得したり!さあさ、そこな凶の者よ、護法の術に観念して姿を現しませ」

「お~の~れ~!これほどの術者とは、お主を少々見くびっておったわ。結界のうちに満ちておるこの清浄なる気の流れ!今の我が妖力では、祈祷場に顕現する事かなわず。しかし、おぬしらを呪殺するくらいの妖力は持っておるぞ」

 悪霊はかすれた声で、とうとうと呪いの言葉を吐き続けた。
 護法浄化で清めた祈祷場に再び瘴気が充満し始める。

「げほげほ!むむ、いかん。これは毒でござる、ぺん!結界の外側にも流れて行っておる……魔府院よ、気を付けるでござるぺん」

 稲荷御前から授与された高位式札を使っても、白滝童子には悪霊の権限を阻止するのがやっとだった。
 相手は、並々ならぬ妖力を持つ悪霊のようだった。

「白滝ちゃん、早く調伏、決めちゃってね!あたしも頑張ってるけど、そろそろ限界が来そう……ぜえはあ」

 祈祷場の外側を、結界を貼って守り続ける魔府院。
 自慢の足で舞いながら周囲を駆け巡る。

 瘴気の立ち込める祈祷場の中、白滝童子は印を結びながら、状況を打ち破る策を考えていた。
 瑞宝堂に起きた怪異の原因は、この石の中に封じられている「悪霊」が原因に違いなかった。
 そこまでは推測できた。
 しかし何が封じられているかについては、稲荷御前はかたくなに語ろうとしなかった。
 よほど口にするのが恐ろしい相手なのだろうか?

 名前が解れば、この状況も……。
 そして、ぴっかりきらりんと閃きの光が、白滝の脳髄を駆け巡った!

(これはまさか……いや、稲荷御前があそこまで嫌がるお方と言えば)

 白滝童子は懐から新たに式札を取り出し、その封を切ってまじまじと「使用上の注意」を読んだ。

「ううむ、1日1枚まで。効果は半時より短し?ええい、知らぬでござるぺぺーん!」

 そう言って白滝童子は式札の封印を解き、術式を唱えた。

「新たな術法か。何が起きるか解らぬがまあいい。使ってみようではないか。護法身体鍛錬強化術法、賦活丹田剛力無双!」

「おお!ふーむ、のう悪霊よ、そなたの名は何という?生前のお主は、さぞや巧妙な術者なのであろう?お主は無念を晴らしたいのであろう?ならば『忌名』を名乗るが良い」

「ほほう、そなた、なかなかに謙虚な心の持ち主じゃな。よかろう、その心に免じ我が名を教えて進ぜよう……我が名は」

 その時だった!

「ぶひぃーん!あたし、もうだめぇ~!限界来たー」

 自ら張った結界をぶち破って、魔府院が祈祷場の祭壇に飛び込んできたのだった!

 結界を破り祭壇の枠を乗り越え、両手を前に滑り込んできた魔府院は、台座に安置されている「呪詛乃封石」を、思い切り弾き飛ばした。

 ぶ-ん!

 黒石、もとい呪詛の封石が飛んできた。

 ごとん!

 と、白滝童子の真後ろに落ちる。

「うぴーっ!」

 ぴょん!と飛び上がった白滝童子は、何故か片方の足を思い切り振り上げ、呪詛の封石を蹴鞠の要領で、ぼろぼろになった結界の外へ蹴り飛ばしていた!

 びゅうーーん!

 見事な弧を描いて宙を飛ぶ封印石。

 護法結界の影響か、その表面は艶やかな光を放っているように見えた。

 そして獣耳にしっぽが9本の女官の姿が、護法結界の効力が消える中、うっすらと虚空に映し出されていた。

「おおお!あれは……」

 白滝童子が、右足を少し引きずりながら石の後を追っていた。

「なるほど、噂は本当だったのね。あの石の中に封印されていたのって、いなりんの、ええと、おばあ?いや、もっと高位の……ご始祖の方?」

 さすがの魔府院も、言葉の全てを語る事は無かった。

 だが!

 どすん、ぱかっ!

 砂利道の上に落ちた封印石は、見事に割れていた。

「きゃあー!た、大変、大変よ白滝ちゃん。石が、石がぁー!」

 叫びながらも魔府院は、汗をふきふき扇子を片手に舞う準備をしていた。

「あ、悪霊の正体が、あの御方であったとは……しまった。気配がないでござる、ぺーん!行ってしまわれたか?ううむ。お?この式札は『風の遠眼鏡の法』とな?離れた場所でも見聞きが出来る術式とのことでござる。どれどれ……ぺ?」

『あー、やっと出られたわ。さ~て、これからどこへ行こうかしらね。あんな狭いところにいたせいで、だいぶ老け込んじゃったかも!だけど、まだまだ私も捨てたものでは無いわ、あいつとかこいつとかより、もっといい男、見つけに行くんだから~」

 石の中に封印されていた、高貴なお方はそう言い残すと、光をまとって消えて行った。

「やれやれ、でござる。そして、やはり稲荷様のご始祖でござる、ぺん」

 二匹が呆然と空を見上げていると、割れて二つになった石が再び輝き始めた。

 何事か、と身構える二匹だったが、石の中からぽわ~んと何かが浮かび上がってきた。

 それは空中でだんごのようにこねられ、やがて一つの文字となった。

「く」

 という文字になったことを確認した二匹は、これまでの苦労なんてなんのその。
 喜びで一杯になった。

 魔府院は喜びの舞を踊り、白滝童子は感謝と浄化の術式であたりを祝福した。

「やったわねぇ白滝ちゃん!これで御印、四つ目よ。ふぅ、この辺りはもう、大丈夫じゃない?呪いの主は誰かと逢瀬を楽しみに向かわれたしぃ~」

「そうでござるぺん。それでは、先程の茶屋に戻って、ご店主に話をするでござるぺぺん」

 丈夫山を下って麓の茶屋まで戻って来た二匹は、店主に事の次第を話して聞かせた。

「なんと!そういう事だったのですか……しかし、国を滅ぼしかけたという化け物の長、と聞いておりましたが、意外な話で驚きましてございます」

「うむ。拙者も驚いたでござる、ぺん。祈祷場に着くまでは確かに邪気妖気、瘴気が満ちてござったが……邪気とは魔の者ばかりが持つわけではござらん、ぺん!主らも、おのれの心に気を付けるでござる、ぺーん!」

「ははぁー!心しておきまする。さて、今回の御働きに関して長者様がお見えになっておられます。お礼の件もあるということ。どうぞ、こちらの休み処にお越し下され」

 茶屋の裏手に、作業場兼用の休憩所が建っていた。
 二匹がそこに入っていくと、付近一帯の土地を所有する長者が座って、茶を飲んでいた。

 そこで白滝童子は今回の事件の顛末を語り、いくばくかの金子と土地の名産品を手渡された。

「ところで、茶屋のご店主、こちらにはその……」

 言葉の最後をごにょごにょと濁し、白滝童子は戸口に座っている店主を手招きした。

 そして耳元でさらにごにょにょと何かを告げる。

 すると店主はにこやかに笑いながら、茶屋の方に向かっていった。
 戻ってきた店主は手にした小さな竹の器を白滝童子に手渡した。

「いや、ご店主かたじけないでござる。拙者これが何より好物でぺぺぺん」

 お礼を受け取った二匹は、名物の甘露だんごを口にしながら、次なる土地へと足を向けるのだった。
 むろん、白滝童子は白滝を、おいしそうにすすっている。

「幸せは、一本の白滝から始まるのでござる……ぺん」

 ところで。

 結局、稲荷御前の心配は杞憂に終わったようである。

(大妖怪などと言われ、封印されたご始祖の方は、今何処?まあ、第二の化け物の生きざまを楽しまれるでござる……お達者で)

 そんな想いを虚空に放つ白滝童子であった。

(五の巻に続く)


『作者の呟き』
フォロワー&読者の皆さん。
いつも作品を応援してくださり、本当にありがとうございます。
今回の『白滝童子の化け物退治珍道中・四の巻』の物語は、お楽しみいただけましたでしょうか。
全国一周47地域。(作中では日乃本国)
今回は4か所目の訪問地でした。
画像についてなのですが、今回の挿絵はこれまでの「セピア色調」から初の試みとして「フルカラー画風」へと変えてみました。物語の雰囲気を少し違った角度から楽しんでいただければ幸いです。
どこかで聞いたような地名などが出てくるかも知れませんが、このお話はフィクションです。
実際の地名、建物、人物との関係はありません。
画像はAI生成によるものですが、登場するキャラクターは作者のオリジナルです。
無断でのご利用、二次創作、他所への転載はお控えください。

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次回も今回同様、熱量倍増して愉快痛快な物語をお届けしたいと思います。
それではまた次回、noteでお会いしましょう。


『本作第1話』

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