Chapter8. 微小発酵体の自律性⑧(了)
⇩の続き
血液に立ち返ると、この考察を裏付ける典型例がある。
炭疽病(脾血)に特有の原因と想像されるBacteridieとは血液微小発酵体の悪質進化の結果であり、失調の果てに病的に変貌したものと述べた。この失調とはジャクー氏の言う所、生体の生理機能の何等かの障害である。だが仮に内部環境が近成分の混合物の如くに不活性あるいは受動的であれば、近成分はその不変性が証明された以上はその想像上の機能を破綻させる原因など存在せず、この失調が原因なき結果であることは明白である。一方、近成分は外部起源の病原微生物や特異的発酵体の作用により直ちに確実な変質を遂げる。畢竟、純粋近成分の内部環境、所謂「培養土壌」仮説に立脚すれば、その土壌での病原微生物の増殖は有毒である以上、全ての羊は炭疽病(脾血)流行期間に、同一状況で伝染による罹患に平等に感受性があり、また全例が接種により罹患する傾向にある筈である。
だがこの通りにはならない。アフリカヒツジという種の成体は炭疽病に耐性がある。伝染でも接種でも一般に病気に罹患することはない。従ってフランスヒツジとアフリカヒツジでは、同一状況での個体係数は同一ではない。年齢別の係数に相異がある証拠として、アフリカの仔羊には耐性がなく、成羊には耐性があると認識すれば十分である。アフリカの成羊の血液微小発酵体は、若齢の場合を除き、仮に乱暴な処置を受けようと炭疽病を発症するような悪質進化には至らないと述べよう。
内部環境が病原微生物医学の想像通りに不活性或いは受動的な近成分の混合物であれば前述の事実は説明不可能である。近成分は恒常的に微小発酵体や特有の発酵体の増殖させ、その滋養目的の変質を受ける他、発酵体無き近成分は通常の外圧条件や寒冷の作用を受けて尚不変だと証明されている為である。ある個体の免疫性、別個体の感受性を唯一説明するものは、微小発酵体の機能的相異に関連する個体係数であり、何故なら内部環境において自律的に生き、作用し、生理的影響を受けるものは微小発酵体の他に存在しない為である。
古代医学における免疫性や感受性とは印象へ抵抗する生体の能力を指し、この能力で外的または内的要因の影響の可否が決定される。微小発酵体理論はこの生理学用語を採用する。生体の微小発酵体が唯一印象を受け取り、個体係数の異常か正常に応じてその機能の撹乱要因への抵抗の如何を決定する為である。
だが外部起源の微小発酵体への抵抗性や無害化の機序には如何なる証拠があるのか?以下のその一例である。
ビール酵母微小発酵体の単離体は乳酸発酵体として作用し、アルコールは殆ど生成しない。酵母細胞の解剖学元素として機能する為、乳酸を生成することはない。若齢酵母は活発で、甘蔗糖に即座に作用し、空気接触後に白亜(その微小発酵体が恒常的に乳酸発酵に作用)添加した場合でも乳酸は生成しない。白亜に抵抗し、白亜微小発酵体自体も乳酸生成しない。だが何等かの変質のある陳旧ビール酵母を密閉状態に置けば乳酸を生成し、ここに石灰岩や純粋炭酸石灰が加われば更に顕著となる。これはビール酵母の免疫性であり、後天的獲得の感受性である。即ち、空気中や白亜内在の微小発酵体の影響を相殺することで抵抗を可能にする酵母の免疫性、白亜微小発酵体の作用を抑制せず乳酸生成するに至る酵母の感受性である。ここに動物の内部環境における生体組織や細胞の微小発酵体の免疫性および感受性の構図がある。
病原微生物医学では古代医学用語は意味をなさない。前者は単独の唯一原因で病気が発生し、有機物全般の発酵現象が生じると認め、従って内部環境と近成分の混合物を区別していない為である。
病原微生物の教条と、有機的構造の微小発酵体理論との間に存在する克服し難い矛盾は、正鵠を射るトリピエ氏の格言を際立たせる。病気や近成分の変質および発酵の単一原因は、それが如何に特異的と云えど全く以て原因とはならない(est une cause nulle)。
そう、「唯一原因」は原因ではない。病原性に関わらず予存の微小発酵体(胚種とは言わない。今この言葉は相応しくない)は存在しないと疑問の余地なく証明した。だが微小発酵体は存在する。それは、我々の目前で消滅、或いは消滅しつつある生物の解剖学的微小発酵体の進化の産物たるバクテリアの生きる残骸である。
考察はこの場で終了とし、読者諸君には私の出版物を参照頂き、本書と完成と傍証としたい。
今一度明確にしておこう。凝血現象を中心に血液自然変質の原因究明に挑んだ現代の実験者、或いはパスツール氏を例に、あらゆる天然の有機物の不変性を説く実験者に共通の誤謬は、原形質を純粋近成分と認識し、形態学的未定義ながら生きる秩序的混合物とする教義にある。
末筆に、微小発酵体の発見は由緒あるビシャの構想:『器官内に生きるものは構造的・形態学的定義のある存在のみ』の立証だとご理解頂こう。血液流体組織の教義、凝血現象、その他血液自然変質に関する生理学的・解剖学的理論が確実性の極致にある所以は、有機的構造の微小発酵体理論とビシャの傑出した構想とが合致する為である。
ここに結論の体裁で基礎的事実の簡易な要約を記そう。この発見により、血液の真の解剖学的・化学的組成の発見、その自然変質の説明が可能となった。
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