Chapter8. 微小発酵体の自律性②
↓の続き
1886年にパスツール氏が微小発酵体の存在を認めるその直前、微小発酵体は”誰もが知る”分子顆粒に過ぎないと断じた。アカデミーの同僚に向けての発言であった。
然り。組織学者や病理解剖学者は分子顆粒の存在を認識しており、ある特定の組織図に"点”で表現されていた。だがこの命名こそが、この名が意味する見解である「秩序的でも有機的でもない」への違反であった。実際、"分子 ”の用語が意図する処はモル 、即ち「何等かの物質の微小な塊」以外の何物でもなく、従ってこの言葉は白色物質、灰色物質、鉱物質やアルブミノイド物質等を指していた。ブラウン運動で揺動する存在にも記述がある。しかしながら、微小発酵体発見以前の科学界に、此度のパスツール氏の主張の如く、B.punctumやM.Crepusculumに分子顆粒を関連させる発想をした科学者は皆無であった。分子顆粒は組織や破壊細胞、無形物質の如き解剖学的組織との関連で登場し、即ちこれが体外由来だと想像した者はいない。先述の通り、微小発酵体の発見は解剖学上の分子顆粒の考究に由らず、純粋化学的な考究に基づく。
そう。分子顆粒は微小発酵体ではない。エストールと私が初回報告で指摘した通り、微小発酵体は、組織学が分子顆粒と呼ぶ解剖学的対象物の中にのみ存在する。だが微小発酵体は自律的解剖学元素だという我々の信念の通り、緻密な解剖学的分析の果てに二つの存在様式があると証明するに至った。即ち、裸構造の微小発酵体と、私が”微小発酵体分子顆粒”と呼ぶ状態にある微小発酵体である。
以上、事実無根の放言に決着が着いた!
微小発酵体の件に戻ろう。私は当初から微小発酵体を化学的、生理学的な有形発酵体、ザイマス(嘗ての可溶性発酵素)の生産者であり、不溶性を示す有形発酵体と同じ範疇の物質だと説明してきた。生物学的にはビブリオニエンス進化する存在であり、これはあらゆる文脈で検証された事実だと指摘した。だが、有機物の自然変質や発酵実験では微小発酵体はバクテリアとなった。次第にこのバクテリアは破壊され、その場に薄弱なビブリオニエンスが徐々に出現し、最終的にこれらバクテリアの内、形態が微小発酵体に酷似するものだけが残ると判明した。ならば論理的帰結として、細胞の破壊で微小発酵体が遊離する如く、完全に破壊されたバクテリアは白亜のそれに類似の微小発酵体を再生産することになる。これが事実だと分かるだろう。
天然の動物質の自然変質実験では、微小発酵体の発酵作用で化学的有機物が発生し、ビブリオ進化の前後における気体放出の有無の相違はあれど、この物質が完全な破壊を受けることはない。即ち、化学的有機物は鉱物質、炭酸、水、窒素等へ還元されず、その破壊には地質時代を再現する環境条件下で酸素が不可欠である為だ。
白亜や石灰岩に発見した微小発酵体が空中胚種に依存しない存在だと確信した時、地質時代に消滅した秩序的存在の生ける残骸である可能性を疑った。この仮説の検証は以下の通りである。
殺傷した子猫を二層の純粋炭酸石灰層に挟んだ状態で円筒型のガラス容器の中に埋葬し、その際、容器の口を数枚の紙で塞ぎ、塵の侵入を防ぎつつ空気とは自由に接触可能な状態で放置した。実験は7年続いた。一部の骨の破片を除いて一切合切が消失した。炭酸石灰が完璧に白色化し、完全に破壊作用が完了していた。上層を顕微鏡で覗くと、この炭酸塩の霰石が微視的結晶体で存在する以外何もなく、死体を安置した領域を囲む層とその真下には、サンス地方の白亜に認めた、発光する運動性の微小発酵体が密集していた。
斯くして、現代の動物由来の微小発酵体を含有する人工的白亜の作製により、サンス地方の白亜や石灰岩(湖水と海水)で実施した発酵実験を繰り返すことが可能となった。
これが、白亜や石灰岩に存在する微小発酵体がこの地層の時代に棲息した生命体の生ける秩序的残骸だという仮説を検証した初の実験である。先に引用したComptes Rendus誌掲載の覚書を再読すれば、その正当性を確信するだろう。私は先程、人工的白亜の微小発酵体は現代動物の微小発酵体だと表現したが、正確に表現し直す必要がある。これはバクテリアの微小発酵体であり、動物の常態微小発酵体が先に進化を遂げた後の産物だと表現すべきであった。事実、死体全体、肝臓、心臓、肺、腎臓の微小発酵体が現象の第一段階には先ずバクテリアとなり、後に消失し、再び微小発酵体となり、一方の変質を遂げた物質の残余部分は空気接触により鉱物質、炭酸、水、窒素などへと還元されることが、その後の実験により確認された。モンペリエの気候条件で7年を要するならば、寒冷気候ではこの期間は更に延長し、従ってObi Valleyの気候では一世紀を要するとも示した。
従って次の結論が正当化されよう。石灰岩、粘土、泥灰岩…畢竟、微小発酵体が存在する全ての岩石…の微小発酵体は地質時代を生きた動植物の秩序的かつ生ける残骸であり、この生命体は現代の生物と同様に組織学的に構成され、その生命体が破壊される間にその微小発酵体がバクテリア進化を遂げた。そしてこれら岩石の微小発酵体…地質的発酵体…とは、これらバクテリアの微小発酵体であり、後に破壊を受けて微小発酵体へと回帰した還元産物である。
今し方検証された仮説の演繹を長らく追究した私が、エロー県とカード県の駐屯地の土中、耕作地全般、湿地帯、沖積土、水中、街路の塵に微小発酵体の存在を証明したとてそれは驚くに値しない。それら微小発酵体は密集して存在し、また時にはバクテリアでもあり、白亜のそれに匹敵する程に活発な発酵体だと判明した。そして1867年以前に私は農場土中におけるそれらの役割をも解明していた。
この研究は更に一つ第一級の実験結果をもたらした。古今東西で空中胚種と呼称されるものが、本質的には、我々の目前で消滅したか、或いはその最中にある生命体の微小発酵体に他ならないという実証である。実際には特殊な実験法により、空気中の微小発酵体が、白亜や岩石、人工的白亜のそれと同じ種別の発酵体だと証明した。但し、所次第では、空気中にはこれら微小発酵体と共に地位類の分生子、真菌の胞子やバクテリア等、風で飛散するあらゆる物が存在する可能性がある 。
従って、シャルル・ボネが考想し、スパランツァーニやパスツール氏が支持を表明したパンスペルミアなど存在しない。畢竟、予存の胚種は存在しない。各時代、各空間を取り巻く空気中に存在するものは、かつて消滅した生命体か、風で飛散する物の中で消滅しつつある生命体の微小発酵体のみである。
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