見出し画像

Chapter8. 微小発酵体の自律性⑦

⇩の続き

///////


古代医学は、生物に備わる免疫性をその感受性、すなわち体質で説明し、これは病的影響を受けぬ個体にはないものである。トリピエ氏はより正確な個体係数の概念を挙げた。だが、空気接触で恒常的に変質を受ける近成分は如何なる免疫も享受することはない!

正確を期せば、生体と見做せるものの感受性(即ち個体係数)についてのみ我々は語ることが可能である。では生体とは何か?生命とは何か?

ある者は、生命とは計量可能な物質に表れる特殊な力だと述べた。J. R. メイヤーはこれを否定する。兎も角、前者の立場は生命の物理理論を語っている。パスツール氏曰く、生命とは、生物を構成する天然物質たる近成分を精巧に構築するものである。

ビシャは言った。

生命とは、死に抗する機能の総体である。

では生命とは何か?死とは何か?微小発酵体理論の個体係数とは何か?もはや原形質の問題ではない!

「生命とは生体組織の特質」というビシャの言葉は、自身の元組織こそが秩序的存在の生きる元素と認識した為であり、そして元組織は周囲の破壊的要因への抵抗力を付与する恒久的な反応原理をその内に宿す。

微小発酵体理論はこの点でもビシャの構想を裏付けている。

微小発酵体は基礎的かつ自律的存在であり、形態学的類似性を維持しつつ増殖する生きる解剖学元素である。実際的には、その存在条件を充足する環境の中で、固有の性質に依存する特殊なザイマスや、生体内の部位および環境依存性に多様な機能を持つ近成分を生成する化学反応によりその機能が発現する装置である。生体から分離後の新たな環境条件では、フィブリンを例に馬鈴薯澱粉に対する乳酸発酵体として作用する場合がある。

畢竟、微小発酵体は一般的な破壊要因に対する抵抗性が高く、白亜等の岩石の中で今尚生きる地質的微小発酵体として存在する程であり、これは岩石時代の動物体内で解剖学元素として嘗て機能していたものである。

これぞ生理学的に不滅の秩序的存在である。生物の細胞、組織、器官は微小発酵体で構成され、この解剖学的機能単位の中にこそ、栄養現象による自らの存在維持と、絶えず生物を破壊に導く(トリピエ氏の言う)環境外圧条件への抵抗を可能にする特有の恒久的反応原理が存在するのである。微小発酵体以上に単純な解剖学元素も、同時に完全な破壊に抗し得るものも他にない。ではここで、その細胞合成能力ならびにバクテリアやビブリオ進化能力という解剖学的特質の総体や、自らが生きる環境中にある物質の目的的な変換からザイマスの生成と自らの滋養、同時に消費後の分解産物の排除を可能にする生理学的かつ化学的エネルギーの総体を生命と呼ぶならば、認識せねばならぬことがある。生命とは紛れもなく物質に付随するが、それは単なる計量可能な物質ではなく、有機的構造体が宿す形態学的定義のある物質に付随すると。一般論は以上である。

同種生物内の全身各器官、異種生物間の同一構造の器官における微小発酵体にはそれぞれ機能的相異があることは前述の通りである。従って、ある動物の実験結果から異種生物、特に人間に関する結論導出は必ずしも許されない。生命を生体組織の特質とするビシャの見解に同意しようとも、この特質は同一構造の生体組織、その微小発酵体において同一ではない。微小発酵体が生成するザイマスに種別の相異が生じる原因については別の機会に私見を述べるとしよう。

微小発酵体の生命、細胞の生命、器官の生命が存在するならば、秩序的な全体の生命も存在する。これは必然的に器官特有の生命や、その内部環境で機能する微小発酵体個々の生命の全体的な調和の帰結である。ビシャの謂う「死に抗する機能の総体」とは斯くの如き機能観である。

では微小発酵体が生理学的不滅の生命体であれば、生ける全体の死とは何か?それはその生命の構成への逆作用、即ち、微小発酵体機能の絶対的失調である

故に、生ける動物から摘出後の筋肉や血液等の部分に死など存在しない。だが唯一の自律的生命体たる微小発酵体は失調状態に陥り、最早通常の存在条件にはなく、ここで自己の為にのみ発揮される機能が因果的に決定する変質で生体組織の脱有機的構成化や細胞破壊に至るのである。

さて、トリピエ氏が医学用語に導入した「個体係数」なる洗練された表現の意義とは何か?代数学で「ある変数はその従属関係にある別の変数の関数」と表現する通り、微小発酵体理論では「生物や細胞は変数であり、その構成単位かつ従属関係にある微小発酵体の関数」と表現される。故に、これら変数に乗算する数字に適用される「係数」の表現は完璧に理解されよう。

個体係数とは次の通りである。微小発酵体機能の破綻による病的状態を決定し、その果てに病気や死をもたらす多様な要因に対する抵抗エネルギーの総量を増減させる因子を指す。

その因子を統制した場合、変数(微小発酵体)が異なれば必然的に結果は異なる。生物種や人種、性別や年齢、同一個体の解剖学的体系にも微小発酵体の機能的相異があることは証明された事実である。従って個体係数は個体の微小発酵体にある機能的相異に関連する。

完璧な健康状態とは、全ての器官の微小発酵体が解剖学的・生理学的に健康であり、その調和した機能が恒常的かつ規則的に発揮されることで齎される。調和した状態であれ、遺伝、体質、隔世遺伝など、個体内の特定の微小発酵体機能に影響し得るものを考慮する必要がある

従って個体係数とは、その個体の機能体系にある特定の係数に依存する複雑な定数なのである。


いいなと思ったら応援しよう!

MitNak 全記事無料公開しつつサポートのみでの生存を目指す男です。 何か響くものがあれば、期待できる何かがあれば投げ銭頂けると幸いです。 よろしくお願いいたします。