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今日のジャズ: 3月28日、2025年@ブルーノート東京(Sarah McKenzieライブレポート)

今年初のブルーノート東京での宴は、オーストラリア人メルボルン出身の女性ボーカリスト兼ピアニスト、サラ・マッケンジーが率いるカルテット。3月28日(金)の2ndという今回ツアーのフィナーレ。

辛口評論家でもあり、時にはえこひいきでもある寺島靖国さんがお勧めするボーカリストのサラマッケンジーが気になっていた存在だったのと、長年聴き馴染みのある腕利きの国際色豊かなバンドメンバーが一斉に揃っているから。

全公演終了後のメンバー達
Photographer: Yuka Yamaji

Sarah McKenzie(vo,p)
サラ・マッケンジー(ヴォーカル、ピアノ)は、バイオグラフィーを読むと、オーストラリア出身で15歳の時にオスカーピーターソンの”Night Train”を聴いてジャズピアノに目覚め、歌唱はピアニストシンガーのシャーリーホーンやナットキングコール、ブロッサムデアリーといった、ストーリーを語るように感情に訴えかけるスタイルに影響を受けたのだそう。アルバムリリースのデビュー後、2012年にバークリー音楽校に入学、現在はロサンゼルスに在住。ピーターソンに加えて、ミシェルルグランとアントニオカルロスジョビンに触発された作曲や演奏を繰り広げているとのこと。このバックグラウンドを知っておくと、今回の伴奏者の人選に合点が行きます。

Ulf Wakenius(g)
オスカーピーターソンの晩年の伴奏者として活躍したスウェーデン人ギタリスト、パットメセニーとの共演歴もあるウルフ・ワケーニウス

Pierre Boussaguet(b)
オスカーピーターソンの相棒ベーシスト、モダンジャズベースの権化レイブラウンを師匠とし、ブラウンとツインベースアルバムをリリース、ルグランの2013年ブルーノート東京公演に参加してアルバム収録の実績もあるフランス人ベーシスト、ピエール・ブサゲ

Sebastiaan de Krom(ds)
英国人男性ジャズボーカリストのジェイミーカラムのドラマーを長年担い、ミシェルルグランのトリオメンバーとしても2018年のブルーノート東京公演で来日しているオランダ人のセバスティアン・デ・クロム

マッケンジーが敬愛するピーターソンとルグランとの共演経験者という明快な人選ですが、それだけにスケジュール調整は難航したのでは無いでしょうか。ステージで「私のオールスター」と話していたことに共感すると共に、思い入れのあるメンバーを召集してくれたマッケンジーに感謝の意を表します。

個人的に特に観たかったのは、ワケーニウス。曲に調和しながらもスパイスの効いた歌心ある澱みないメロディセンスをくりだす才能が抜群で、王道ジャズギターの現時点における最高峰の一人だと思っているから。こちらの動画でその片鱗をご覧ください。

観客は通常より比較的若めで、国際色豊かな演奏者を反映してかアジア人も含めて外国人比率が高い印象。演奏は予定開始時間通りの20:30、先ず伴奏者の三人がステージに上がってワケーニウスがリードを取って開演。曲名は分からなかったが、ビバップ調の楽曲でワケーニウスは、ジャズギターの始祖チャーリークリスチャンばりのフレーズを繰り出して行く。そのスタイルにはピーターソンの相棒ギタリスト、ハーブエリスの影響も感じられる。スタンダード曲のチェロキーのフレーズも登場。因みにハーブエリスを交えたピーターソントリオに白人テナーの代表格スタンゲッツを招き入れた快作はこちら。

オープニング曲が終了すると銀ラメの入った煌びやかしいジャケットを羽織るマッケンジーが登場して、この曲を披露(動画はブサゲとのデュオ演奏)

続いて、シャンソンを起源とするジャズスタンダード曲”I Wish You Love” クロムのブラシが咽び、ワケーニウスのソロも雄大に展開する吸い込まれる流れ。肩肘張ら無い自然体のマッケンジーのソロも滑らかに耳に吸い込まれるよう。三人が楽しそうに音楽を奏でているのを観ているだけでこちらも愉しくなる。以下の映像に登場しているのが今回の来日メンバーで、各奏者のソロも含めて今回のステージの雰囲気が味わえる。

続くはマッケンジーがジョビンと共演経験のあるジャキスモレレンバウム(坂本龍一作”1996”参加)を招聘したという最新ボサノバアルバム収録曲から、ピーターソンの名盤”We Get Requests”にも収録されているジャズスタンダード曲の”Corcovado” マッケンジーの発音はオーストラリア訛りも感じられずクリアでハッキリしているので、歌詞が良く聞き取れる。優しいサ行とハ行が特徴。

「イパネマの娘」とボサノバが続くも、風変わりなバージョンとの紹介。冒頭は通常の軽快な雰囲気で、キレの良いクロムのドラム、特に綺麗に響くハイハットやシンバルとタイトなスネアが際立って相性が良い。二分も経たずにサラが一息入れて、「ワン、ツー、スリー」というと、ワケーニウスがフレットの端から端まで縦横無尽に手を動かすギターソロを繰り広げるジェームスブラウン的なファンキーなイパネマの世界へ。そして、「カーニバルの朝」調なベース主導の展開でペースダウンして終焉した。遊び心に溢れる演奏を奏者は笑顔や表情の非言語コミュニケーションを交えて楽しそうに進行していく。

続いて歌唱に専念するマッケンジーとワケーニウスのギター伴奏による”Once I Loved”この組み合わせとして定番のエラとパスさながらのデュオ。マッケンジーの声は優しくどことなくか弱い感じが、アストラッドジルベルトを想起させる。

雰囲気をガラリと変えて、ロサンゼルス在住時に車の逃走犯をカーチェイスのみならずヘリコプターまで出動して警察が追跡する、テレビ番組で流れるようなアメリカの象徴的な一面をリアルに目の当たりにして、それをテーマに作曲したという”LA Police Pursuit” カーチェイスさながらの速いテンポで刺激的に進行する中でマッケンジーとワケーニウスがソロで交互にお互いに負けじと手数や強打で全力で応酬するやり取りは、ワケーニウスが警察を嘲笑うかのようなトリッキーな逃走犯側、マッケンジーが力技を交えて押さえにかかる警察側のようで面白かった。クロムのドラムも本ステージ最大音量でハードにドライブしていた。

マッケンジーは、パリのモンマルトル地区のエレベーターの無いアパートの7階にパートナーと住んでいたこともあるそう。その時に作曲した”Paris In The Rain”をフランス人のブサゲのベースをフィーチャーして披露。歌い方はデアリーを意識しているようなので、パリに在住したのもデアリーの影響なのかもしれない。フランス語の発音も良く、ブサゲともフランス語で話をしていた。そのブサゲのベースソロで始まったが、ベースの音色は柔らかめでふくよかな印象。二分程ベース単体でも飽きのこないメロディアスなソロが続くと、マッケンジーがフィンガースナップを観客に促す。そのリズムを背景にブサゲがウォーキングベースを繰り広げると、師匠のブラウンの姿が見えるかのよう。

ブサゲのベースと共に持参したクマのぬいぐるみ

そしてクロムのドラムソロもフィーチャー。その奏法やスタイルは、マックスローチやシェリーマンを彷彿とさせるもの。タイトにキレ良くシンバル類を綺麗に鳴らすスタイルにユーモアが加わっている感じ。叩いても「ダダッ」や「ジャーン」という濁音にならなずに「タタッ」や「シャーン」となる清音派に分類されそう。「キンッ」とシンバルの角を叩く音の艶かしさが全身を駆け抜けた。

クロムのドラムセット
「ジェイミーカラムの元ドラマー」と紹介されて歓声を上げたら、ワケーニウスが驚く表情を見せた

テンポの良い曲を経てワケーニウスによるスタンダード曲”Someone to Watch Over Me”の巧みなソロギター。ピーターソンとの共演歴も多数あるジャズソロギターの巨匠ジョーパスの影響がフレーズから随所に感じられる。最後は6弦開放音を更に緩めて締め括るというユーモア。

こちらがパスによるアコースティックソロギター演奏なのでご興味ある方は聞き比べてみてください。因みにワケーニウスはピックで弾いていました。

更にテンポの良い曲を経てアンコール自作曲の”Sayonara” この曲の冒頭で何と、ワケーニウスが三味線ばりのギターを披露。ギターのピックアップあたりに紙を挟んで「ツントンテンシャン」と爪弾くの耳を塞いだら日本人が三味線を引いているのでは無いかと間違えるほどで、その技巧力に驚いた。でも、曲自体はボサノバ調でした。

21:50過ぎに終了。終始、リラックスした和やかで笑顔あふれるステージでした。マッケンジーの各奏者のソロ演奏の後に手を差し伸べて観客に拍手を促す配慮も素敵だと思いました。また、マッケンジーがメンバー紹介の時に「ルグランと長きに渡って共演したブサゲ」、と言うとワケーニウスがギターでルグラン(恐らく「シェルブールの雨傘」)の曲を爪弾き、「ピーターソンが長年連れ添ったワケーニウス」、と言うとブサゲが間髪入れずに、前述ピーターソンの名盤の名演奏”You Look Good To Me”の冒頭ベースを弾き返すというユーモアに、マッケンジーも笑いながら「この人達コメディアンね」と漏らすような、自然体の大満足のステージでした。そんなマッケンジーも実力者のオジ様達に引けを取らず、リーダーシップを発揮してピアノのボーカルで存在感を示すことでバランスを保っていたので、これからも更に期待できる存在だと思います。本公演の演奏の終焉を迎える際に、ピアノを弾くマッケンジーがいつ終わりの合図を出すのかを真剣な眼差しで見つめるオジ様達が妙に可愛らしかったのと同時に、マッケンジーがリーダーとして尊重されているのだな、と認識しました。今回のお土産は以下の二点。

ワケーニウス曰く「三味線は姉妹が弾く動画を見て二十分練習したのみ。ペンタトニックスケールだからちょっと似せればね」恐るべし、、、
ブサゲはレイブラウンを”My Father”と呼んでいました
このアルバムの「風の中のマリー」の冒頭ドラムのアレンジはジェイミーでは無くてクロムの発案だそう

そのクロムの軽快な、ジミヘンドリクスの原曲の趣を組んだドラミングがこちら。このアルバムは私の愛聴盤なので追って紹介したいと思います。

ワケーニウスをもう少し聴きたい方はパットメセニーとのデュオやキースジャレットの曲の演奏をどうぞ。
今回のステージではタッピング奏法も披露していたり真の芸達者です。

ブサゲのワケーニウスを交えた”You Look Good To Me”はこちらをどうぞ。

そして、耳心地良くドライブするピーターソンに興味のある方はこちらもどうぞ。歌っても素晴らしい。

とことんスイングするジャズベースのお手本、モダンジャズベースの完成系のひとつを産み出したブラウンに興味がある方はこちらをどうぞ。

マッケンジーが影響を受けたという面々がこちら。ちょっと歌声に陰がある特徴を持つシャーリーホーン

名前の通り王様ボーカリストのナットキングコール

フランス語のように呟くような歌い方が特徴のブロッサムデアリー

ボサノバ創始者の一人、アントニオカルロスジョビン

最後までお付き合い、どうも有難うございました。ジャズが溢れる素敵な一日をお過ごしください

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