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2040年の日本社会と行政のあるべき姿とは? 一人ひとりが国や社会の在り方を考え共に創る時代へ ~ホワイトペーパー「2040年に向けたデジタル共創ガバメント」制作チームに聞く、ソートリーダーシップ活動の実践~

IISEは「ソート(未来の構想、思い、ビジョン)」をつくり、共感を生み、社会実装を行う一連の流れとして「ソートリーダーシップ活動」を定義しています。この考えをもとに、様々な領域で実践的な活動を推し進めています。今回はIISEが推進するソートリーダーシップ活動のテーマの一つ「行政DX」を取り上げます。
NECと進めている本活動。持続可能な社会と行政のあり方について、構想・検討しています。今回は2025年9月にNECが発表した、ソートの発信・議論をするためのツールであるホワイトペーパー「2040年に向けたデジタル共創ガバメント」を軸に、その制作の背景から完成までの試行錯誤、ソートの中身、得られた効果や知見など、プロジェクトメンバーに詳しく聞いていきます。


日本の行政・社会の課題を、デジタル技術などを活用して共に解決する

――2025年9月にホワイトペーパー「2040年に向けたデジタル共創ガバメント」を発表され、これを「行政DX」のソートリーダーシップ活動における大きなマイルストーンと位置付けられています。このプロジェクトに、お三方はどのように参画されましたか。

海老 私はIISEのメンバーとして、国内の「行政DX」というテーマでソートリーダーシップ活動を推進しています。今回、NECが行政DXのあるべき姿を考え、社会に広く発信するホワイトペーパーを作ることになりました。私はNECとは異なる中立的な立場でプロジェクトに参画し、意見交換や全体の監修などをさせてもらいました。

IISE ソートリーダーシップ推進部 プロフェッショナル 海老 由隆

篠原 今回のホワイトペーパーには、執筆の中心メンバーとして参画しました。私がNECにおいて所属する事業部門は、官公庁の領域で新しい事業を創出する仕事をしています。その中でも「行政DX」というテーマで活動しているのが「行政DX推進グループ」。私と安藤はそこに在籍しています。

NEC 官公DX推進統括部 行政DX推進グループ シニアプロフェッショナル 篠原 雅人 氏

安藤 私は2024年までの約23年間、三重県庁の職員として働いてきました。NECに転職したのは2025年1月。以来、行政に携わる人たちの日々の苦労や本音、課題感、ニーズなどを理解するメンバーとして、行政DXに関する事業を創出するための活動をしています。今でも2割ぐらいは、地元の三重県からリモートで勤務し、並行して家業の農業にも携わっています。今回のホワイトペーパーにも執筆者の1人として参加しました。

NEC 官公DX推進統括部 行政DX推進グループ プロフェッショナル 安藤 智広 氏

――IISEも含めたNECグループが「行政DX」に取り組むことになったきっかけを教えてください。

海老 直接のきっかけは、コロナ対策を皮切りに日本の行政デジタル化が喫緊の課題となったことです。国や自治体のデジタル基盤の多くを支えてきたNECグループも、2021年4月から「行政DX」というテーマでソートリーダーシップ活動を始めました。

少子高齢化は、日本の行政に大きな影響を与えます。税収が先細りになっていくので、既存のインフラの維持が難しくなっていきます。また、行政に対する国民のニーズは増えていくと予想される一方で、職員の数は減っていきます。こうした課題をデジタル技術の適所での活用も想定しながら解決していくことが、「行政DX」をテーマとしたソートリーダーシップ活動における大きな目的です。ホワイトペーパーを作ったのも、その一環。当事者である行政関係者や民間企業、スタートアップ、アカデミアなどの外部有識者の方々とも意見を交わしながら、共に社会課題の解決を目指していく。今はそのような状況です。

NECは民間企業ですから、その活動には自ずと事業の観点が含まれてきます。よりステークホルダーの共感を得て行政DXを推進していくために、私は他のメンバーとは異なるシンクタンクであるIISEの立場でプロジェクトに参画し、全体を俯瞰しながら客観性を持ってサポートを行いました。またお客様やNECの競合の方々ともフラットに対話ができる立場でもあり、日本の行政や社会にとって本当に望ましい将来像を構想し広めていくという点で、プロジェクトに貢献できているのではと考えています。

もちろん、プロジェクトを通して私自身に多くの学びがありました。ソートリーダーシップ活動をどう進めれば、多くの人に私たちのソートが届くのか。そのことを常に考えながら、ここまで走ってきたつもりです。

篠原 私たちは「行政DX」のテーマに関する社会課題をデジタル技術で解決していくことを、NECの事業に結び付けていくことがミッションです。一方でIISEはさらに大きな視野でソートリーダーシップ活動をリードしています。

――デジタル技術は、日本の行政における社会課題解決にどのように貢献するのでしょうか。

海老 行政の課題について、デジタル技術で解決できることはたくさんあります。業務の効率化はもちろん、国民一人ひとりの意見やニーズを丁寧に収集して情報を見える化し、ステークホルダーとも深い議論を交わしながら政策を立案するような事例も出てきています。データの収集と分析を迅速かつ効率的にできるのも、デジタル技術の特長。その価値をどう最大化できるかが重要なポイントになります。

篠原 さらにAIを効果的に活用すれば、行政に寄せられる膨大な声を広く深く理解できると考えています。

「提供する側」と「される側」の二元論から脱却し、行政サービスの共創を目指す

――ホワイトペーパー「2040年に向けたデジタル共創ガバメント」の概要を教えてください。

篠原 デジタル庁は、2030年を目標に「国・地方デジタル共通基盤」を整備しようとしています。そうなれば行政サービスに必要なデータが連携されるようになり、かなり便利になるはずです。さらにその先、「2040年の日本」を見据えるとどうでしょうか。高齢社会がより進行し、労働力不足が深刻化するという予測があります。行政サービスにも甚大な影響が出てくるでしょう。

現在進行中の「デジタル・ガバメント」の次のステップとして、進化するデジタル技術を使って何を目指していくべきか、社内外で議論を重ねました。その成果である「デジタル共創ガバメント」というソートを提言するのが、今回のホワイトペーパーの大きな目的です。

――ホワイトペーパーの注目ポイントや特徴を教えてください。

篠原 ホワイトペーパーは大まかに3章構成となっています。1章と2章では、現状分析と将来の社会課題についての議論を丁寧に行いました。

ホワイトペーパー「2040年に向けたデジタル共創ガバメント」の表紙と目次 (出典:NEC

1章では、2030年までにデジタル庁が主導するデジタル基盤の現状認識をコンパクトに整理しています。2章では、その先の2040年に向けて懸念される社会課題や、AIの技術的な進化と課題などについて、政府発表資料や統計データなどをもとにできるだけ客観的にまとめました。また行政職員だった安藤さんの知見を生かし、自治体の現場で働く人たちにしっかりとヒアリングしたうえで作っています。

3章では、「デジタル共創ガバメント」の具体的なコンセプトを紹介しています。2章で述べた将来の社会変容を踏まえ、行政が今後目指すべきポイントとして3つの柱を軸に語りました。

NECは「デジタル共創ガバメント」の核心的コンセプトとして、上図の3点を掲げる
(出典:NEC「2040年に向けたデジタル共創ガバメント」P15)

最大の特徴は、行政と国民という「提供する側」と「される側」の二元論から脱却していることです。共助型のコミュニティで、行政サービスを共創していくことが重要であることを提言しました。それを効果的に推進していく仕組みとして、デジタル技術の活用を提案しています。

――行政サービスを共創していく上で、デジタル技術はどのように効果的に使えるのでしょうか。

篠原 既に法律やルールが決まっていて、その通りに行うような仕事は、ほとんどがデジタル技術で効率化・自動化できると考えます。並行して、デジタル技術を適切に活用するスキルの習得が必要な人々への教育など、きめ細かいフォローを考えることも重要です。

これからの行政職員は、単にオペレーションして何かを提供するという立場ではなくなり、ファシリテーターのような役割になっていくと考えます。デジタル技術の使いこなしだけでなく、AIと一緒に仕事をしていくことも含めて、ステークホルダーの能力をどのように活かして社会を持続可能にしていくのか、そのファシリテーションを担うのが行政の役割になっていくでしょう。ホワイトペーパーにもその点を明記しています。

NECの社員である前に、1人の国民として行政を良くしたいという思い

――今回のホワイトペーパー制作に、どのような思いで取り組みましたか。NECで経験してきた他のビジネスと違う点はありますか。

篠原 NECでエンジニアをしてきた中で、デジタル技術の大きな可能性を感じてきました。2040年の課題解決に、デジタル技術を使いこなすことは重要です。その具体的な例として業務を効率化し、国民の声を政策に反映しやすくし、コミュニティの形成を後押しするなどのポイントを、ホワイトペーパーに示していきました。

今回のテーマは特定のクライアントの課題解決ではなく社会課題を解決し、行政を持続可能なものにしようという試みです。NECとして何かを売り込むというより、NECがこの国のためにどう貢献できるのかを真剣に考えています。NEC以外のプレイヤーと共創し、新しい価値を一緒に作ろうとしています。

私もNECの社員である前に1人の国民として行政サービスに接し、不便さや困難さを感じることもありました。行政サービスがもっと良くなるように、NECとしての力を発揮できるようにしたいという思いで参加しています。

安藤 私には元県庁職員としての思いが、2つあります。1つは、行政職員時代に感じていた課題を、解決したいという思いです。行政職員にとって、国民の役に立ち、国民のために働くという使命は重要であり、実際にそれを全うしようと思っている人は多くいます。しかし、一方で法律や既存の枠組みの中でしか行動できないため、変えられないものも多々あり、多くの行政職員がジレンマを感じています。良くしたいと思っていても、組織の中からはなかなか変えられません。ならば、私は行政の外へ出て課題解決に貢献したいと考えNECへの転職を決めました。

もう1つは、地域社会の課題のかなりの部分が、デジタル技術によって解決できる。その可能性を強く感じていることです。デジタル共創ガバメントの考え方を検討する中で、ポジティブな未来を語り、発信していくことを大事にしながら取り組みました。

――その思いはかなえられそうですか。

安藤 まだ分かりません。それでもこのプロジェクトに関わることで、「問題の本質を見抜く力」が高まっていると感じています。現場の行政職員は一生懸命やっているし、課題感も持っているのですが、意外とその思いは散らばっていて、根幹にある本質を突き詰めようというアプローチが少なくとも私自身にはあまりなかったように感じます。日々、業務が本当に忙しかったことも一因でした。NECに来てから、私はよく「『なぜなぜ分析』が足りないぞ」と言われます。目の前の膨大な業務をこなすことに慣れてしまっていたせいかもしれません。現在は、自分が行政で経験してきた様々な課題の本質は何なのか、奥の奥まで突き詰めて考える重要性を感じています。

ホワイトペーパーの中では、「国民の声の深い理解と政策反映」という部分を主に担当しました。行政と国民のコミュニケーションがもっと円滑になれば、無用な誤解が減り、有意義なやり取りができます。行政職員のモチベーションも上がるし、国民の期待も高まると思います。デジタル技術を生かせば、そうしたコミュニケーションが可能になると考えます。

ホワイトペーパーをきっかけに、ステークホルダーとの対話や共創を推進

――このホワイトペーパーは今後、どのように活用されていくのでしょうか。

篠原 今回のホワイトペーパーは「共創」をテーマにしています。時代は常に変化しています。ホワイトペーパーは、書いた瞬間から古くなっていくものだと認識しています。だからこそ行政機関や国民だけでなく、民間企業、スタートアップなど、たくさんの方に読んでいただき、ホワイトペーパーをきっかけに議論が起こり、その先に共感が生まれた方々との共創が始まる。そのように活用されると嬉しいです。

1章と2章で行った現状認識や社会課題の分析は、議論のベースとして使っていただけます。NECの考えているコンセプトを書いた3章では、NECとスタートアップの連携事例も紹介しています。NEC単独でやるには、限界があります。様々な力を組み合わせながら、社会課題を解決していく必要があります。多彩なパートナーシップが生まれるきっかけになればと期待しています。

海老 まずは、NEC自身がソートを発信します。そこからいろんな人たちの意見や共感をいただき、仲間づくりをしていく。それこそが、ソートリーダーシップ活動が果たす役割です。NECのシンクタンクであるIISEとしても、ソートの発信や、ステークホルダーとのディスカッションなどに積極的に取り組んでいきます。

――ホワイトペーパーの反響はいかがですか。

安藤 県庁時代の仲間数名に意見をもらいました。1章に関しては「国の政策と現在地がよく分かる」という評価が多かったです。自治体の職員も、全員が国のデジタル政策をよく理解しているわけではありません。それを効率的に理解できて助かるといった意見をいただきました。

3章については、「オンライン上の地域コミュニティの可能性を感じた」といった意見をいただきました。行政職員の情報リテラシー向上に役立つといった意見もありました。

また2040年のあるべき姿として提言した「デジタル共創ガバメント」に対しては共感してくれる人がほとんどでした。これまでの行政は「影響力の大きい人」の意見で決まっていく側面があり、疑問を感じることも多かったです。オンラインコミュニティを使えば、声の小さな人たちの意見も集めやすくなります。

篠原 たくさんの方にホワイトペーパーを読んでいただき、ディスカッションの機会を増やしていきたいと思います。様々な場所へ出かけてソートを発信し、意見交換したいと思っています。

安藤 先ほど篠原さんが触れたとおり、行政サービスを「提供する側」と「される側」の二元論で捉える思考から脱却する必要があると思います。社会課題がこれほどまで多様化する中で、その全てに行政が対応することは財源・人的資源のいずれの面からも不可能です。もし多くの人が「社会課題の解決は行政がやってくれること」という考えで2040年を迎えると、今回のホワイトペーパーに書いたことは絵空事になってしまうでしょう。

私も含めて、国民の一人ひとりが自分の国や地域をどうしていくか、自ら考えるべき時期にきています。ぜひ「共創」という理念で「参加する」という目線を持っていただければと願っています。

篠原 今回のホワイトペーパーの制作過程では、情報の収集と分析、ドラフト版の作成などでAIをかなり活用しています。NECはAI活用の面でも先頭を走っているという自負がありますので、AI活用についても意見交換や、ご相談をいただければと思っています。

海老 AIを含む最新のトレンドも加味した今回のホワイトペーパー、内容には自信を持っています。デジタル技術は強力なツールですが、万能だとは思っていません。解決すべき課題はどこにあるかを見極め、デジタル技術による解決が有効であれば使えばよいし、他の解決法もあると思います。まずは課題の本質を共有し、その解決について一緒に考えていければと願っています。

ホワイトペーパーはNECのソートリーダーシップ活動を代表するコンテンツの1つですが、他にもトピックを短期間に発信していくコラムもあれば、NECのソートリーダーがイベントや講演会などに登壇し、ソートを発信する活動も行っています。あらゆる接点で、みなさんと対話していきたいと思います。

<取材を終えて>
今回の対話では、ホワイトペーパーを活用したソートリーダーシップ活動の進め方とその効果について、様々な観点から考えるきっかけとなりました。
将来の日本の行政・社会に関する課題解決に向けてステークホルダーとの議論を深めたい、そのために政府方針・統計データなどの客観的な情報や、有識者の意見などをもとに自身の構想(ソート)をまとめ、まずはホワイトペーパーという形で分かりやすく示す、という明確な意図が伝わりました。
次に今回のコアメンバーにエンジニア、元行政職員、シンクタンクのIISEと、多様な属性の人たちで制作されている点は、他のソートリーダーシップ活動でも参考になる手法だと感じます。ただそこにあるメンバーそれぞれの「思い」も大事。今回の対話からは三者三様の「想い」を大いに受け取り、感銘を受けました。
ソートの内容は、デジタルを使いより広く深く国民を理解するという点が、最近話題の「プルラリティ(Plurality、多様な人々の声を結び共栄するための社会的な仕組み)」の方向性とも共通しています。その上で、行政と国民が「提供する側」と「される側」の二元論から脱却し、国民一人ひとりが自分の国や地域をどうしていくか考えるべき時期にきているというお話には、1人の国民として共感しましたし、自らの意識を変えていかなければいけないと思いを新たにしました。今後のさらなる取り組みを注視していきたいと思います。

篠原 雅人 氏
NEC入社後、金融機関向けのシステム開発、研究所技術を活用した新事業開発、2021年より官公庁向けの新規ソリューション開発や事業開発を担当。
 
安藤 智広 氏
前職は三重県職員として約23年間勤務。2025年よりNECに中途採用で入社し国内行政DXのソート開発を担当。
 
海老 由隆
NEC入社後、国内官公庁向けSI営業や地域営業を担当。2006年、マーケティング業務担当。2022年、IISEに出向後、国内行政DXのソートリーダーシップ活動を担当。
https://www.i-ise.com/jp/about/researcher/yoshitaka-ebi.html

※本記事の内容は、2025年12月時点の情報に基づいています。

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