カナイと八色の宝石①
あらすじ
カナイが住む村には、池に囲まれた遺跡がある。池の底には城が見えるが、実際に潜ってみると城は無い。
カナイには、シュリとテンデという幼馴染がいる。シュリは、出生が謎だった。
ある日、村に雑技団がやって来る。幼馴染三人と団員のシスカは、団員が遺跡に入るところを目撃する。
四人は後を追うが、逆に見つかり、カナイとシュリは奥の部屋に追い詰められる。
そこで白い光に包まれた二人は、気付くと物置にいた。外には池があり、さっきまでいた遺跡が映っている。
物音を聞きつけて、男が駆けつける。シュリは行方不明になった弟として歓迎されるが、カナイは敵とみなされて牢屋に入れられてしまう。
カナイは、ぶら下がった板をにらんだ。板には三重の円が描かれていて、真ん中から一○○、五○、三○と書いてある。五○には青に染められた矢羽が、三○には緑に染められた矢羽が刺さっていた。
「はずしたら、わかってるだろうな?」
低い声で、三つ年上のテンデが笑う。カナイは口をへの字にすると、枝とツルで作った弓を引き絞った。ギチギチギチ、と枝が悲鳴を上げる。狙いを定めて、赤い矢羽を放した。
「痛っ」
バチンという音がしたかと思うと、カナイの腕をツルが鋭く打った。手を放した瞬間に、ツルの結び目が緩んだのだ。カナイの腕には、赤い線が走っていた。足元には、赤い矢羽が転がっている。
「罰ゲームだぞ、カナイ」
テンデはニヤリと笑って、秘密基地の外に出て行った。眉尻を落としたシュリが、カナイに駆け寄る。
「大丈夫?」
カナイは頷いて、テンデの後を追った。テンデは森を抜けると、遺跡の前に立った。
遺跡は、大昔に造られた建物だ。村の長老でも、いつできたのか知らないという。カナイでは抱えられないほど大きな石で組んであって、どんな嵐が来てもビクともしない。正面の石段を十段上がると、カナイの身長の倍の高さがある扉が付いていた。
遺跡の中に入れ、と言われるだろうか。カナイは、生唾を飲み込んだ。
しかし、テンデが指差したのは、遺跡を三方向から囲う池だった。
「罰ゲームだ。池の底を見てこい」
カナイとシュリは、池を覗き込んだ。三方向の内、遺跡の西側の底には、白い城が沈んでいるように見える。城は、三角屋根や先がとがった塔だらけだ。四角っぽい遺跡や植物で組まれたカナイ達の家とは、造りがまるで違う。
城を見て、カナイは唸った。
「私も、前から気にはなってたけどさ。底まで、どうやって行くの?」
城を不思議に思う村人は多いが、実際に潜って調べる人はいない。城の周りの水だけ、暗い色をしている。つまり、二方向と比べて、西側の池は深いのだ。村の近くには川も海もあって、村人達も水に慣れ親しんでいる。だからこそ、危険だと思われる場所に近付くことはしない。
カナイとシュリがテンデを見上げると、彼はカナイを指差した。
「カナイにしか、できない方法がある。あそこを見ろ」
次にテンデが指差した先は、村の北を流れる川の支流だった。支流は、池に流れ込んでいる。支流と池の境目に網を仕掛けておくと、簡単に魚を捕まえることができた。カナイ達も、たまに魚を捕まえては、焼いておやつ代わりにしている。
「あそこからなら、河イルカを呼べる」
「そっか。河イルカの速さなら、息が続くかもしれない」
カナイは立ち上がると、指笛を吹いた。短く三回、一呼吸置いて、再び短く二回。これが、河イルカと遊ぶ時の合図だ。しばらくすると、支流と池の境目に珊瑚色のひれが見えた。
「トットー」
河イルカの名前を呼びながら、カナイは手を大きく振った。すると、あっという間にトットがカナイの前にやって来る。瞬きをするトットの横に、カナイは飛び込んだ。
「底にある城を見たいんだ。手伝ってくれる?」
カナイの言葉に、トットは二回頷いた。カナイはトットのひれを掴み、大きく息を吸い込む。カナイが頷くと、トットは水に潜って、底へ底へと泳ぎだした。
カナイ達が池と呼んでいる場所は、実際には水路か堀のようだ。壁一面に、遺跡と同じような大きくて四角い石が並んでいる。その隙間から水草が生えていて、小魚が出たり入ったりを繰り返している。生き物の数は、川より少ない。その分、川よりも透明度が高かった。
そこで、カナイは不思議に思った。上から見ると暗かった池が、水に潜った途端に明るくなった。更におかしなことに、城が見えなくなってしまったのだ。
カナイが辺りを見回している内に、底に着いてしまった。底も大きくて四角い石が並んでいて、その上をエビが歩いている。水面を見上げると、白く光って見えた。村の素潜り名人なら、十分に潜れる深さだろう。
実際は浅いのに、なぜ上からだと深そうに見えるのだろう。カナイは、首を捻った。その後、トットと息が続く限り底を見回ったが、城の三角屋根も塔も無かった。
「お城なんて無かったよ」
水面から顔を上げて報告すると、シュリは目を丸くし、テンデは顔を真っ赤にした。
「そんなバカなことあるかっ。ちゃんと、見てきたのか? 独り占めなんて、ずるいぞ」
地団太を踏むテンデに、カナイは眉を吊り上げた。
「そんなんじゃないっ。テンデも見てくれば良いじゃないか」
「それじゃ、罰ゲームの意味がないだろうが」
テンデをにらんだカナイの横に、シュリが飛び込んだ。大きな水しぶきが上がって、カナイとテンデの顔に水が掛かる。
「もう一回、僕が見てくる。カナイ、トットに頼んで」
カナイは戸惑いながらも、トットにシュリを池の底まで連れていってくれるように頼んだ。
「それじゃ、カナイは陸に上がってなよ」
カナイが頷く前に、シュリとトットは水の中に消えてしまった。テンデが伸ばした手につかまって、カナイは陸に上がる。
「とりあえず、カナイは基地に戻って着替えろ。ついでに、火も起こしとけ」
カナイは素直に頷くと、秘密基地へと戻った。枝と大きな葉っぱで作った小屋から、渇いた布とシャツとズボンを取り出す。体を拭いて着替えると、濡れた服を絞った。雫がいくつも落ちて、地面を濡らす。
小屋の横に張ったツルに濡れた服を干していると、柱の影から二匹の野ネズミが顔を出した。カナイは濡れた服を干し終えると、野ネズミ達に笑いかける。
「こんにちは。来たついでに、ちょっと手伝ってくれる?」
野ネズミ達は丸い耳を前後に揺すると、揃って首を傾げた。
「火を起こすから、枝を集めて欲しいんだ」
野ネズミ達は頷くと、小さな足で基地の周りを走り始めた。渇いた枝を口でくわえては。カナイの足元へ運んでくる。カナイは枝を組み合わせて、膝下くらいの高さの山を作った。
「よし。できたー」
野ネズミ達は、できあがった枝の山を不思議そうに見上げている。カナイは小屋から火打石を取り出すと、枝でできた山に火をつけた。最初は小さな火だったが、布で風を送ってやると枝が爆ぜるようになった。カナイはサンダルを脱いで、棒に引っ掛ける。それを、焚き火の前の地面に刺した。
ようやく落ち着いたところで人の気配がして、野ネズミ達は森の中へと帰ってしまった。
第2話:https://note.com/nice_crocus600/n/n4e62c4496ebc
第3話:https://note.com/nice_crocus600/n/n6352f1d3607b
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第20話:https://note.com/nice_crocus600/n/n78abaf01f1f4
第21話:https://note.com/nice_crocus600/n/nd1eb9f74425c
第22話(最終話):https://note.com/nice_crocus600/n/ndd202a6dc716
