駐在先のわが住まい 侵入犯をどう防ぐ
【連載】アジア安全講座 第7回
安全サポート株式会社
代表 有坂 錬成
駐在員・出張者を危険からどう守るか。今回は、現地の住宅への侵入を防ぐ方法と、侵入された場合の対処について。これから住居を選ぶ際の注意点は。(聞き手=編集長・岡下貴寛、カバー画像提供・photoAC)
レクチャー1
住居侵入を防ぐ
海外に赴任する予定の社員から、住居への侵入を防ぐための備えをどうすればいいか聞かれた。
――住居への侵入を防ぐために、まず何をすべきですか
まずは自分の家が侵入者のターゲットにならないようにする、諦めさせるというのが一番です。侵入者から見て「あの家には入りたくない」と思わせることが重要です。例えば鍵をたくさん掛けているとか、入口を非常に明るくするなどの対策です。侵入者は、ドアを開けて中に入るまでに、何秒、何分かかるだろうかと見積もるため、この時に「この家は手間がかかるな」と思わせ、狙わせないことが理想です。
鍵が何重にもなっているとか、こじ開けるのも厳しいな、というような頑丈そうなドアなどを備えることはまさに防犯対策です。ドアの前に鉄格子(防犯扉)が付いているなども良いでしょう。「明るいから嫌だな」っていう状況を人工的に作り出すとすれば、センサーライトを設置して、ドアの前に立つと照らし出されるのは侵入者からしたら嫌です。
あるいは、鍵が厳重でなくても、人通りが多くて明るい場所などは、侵入しようとする側が短時間でもガチャガチャとやるのは嫌なわけです。通りがかりの人から見られる可能性があるから狙いたくないという状況になります。自然防犯というか、人目があるところでは犯行をしたくないという効果があります。防犯カメラもないよりはあった方が嫌がられます。
何かそういう「工夫を凝らしている家」ということ自体が犯行心理が分かっていると捉えられるので、他にも仕掛けがあったりするのではと思われる効果があります。

――侵入を物理的に防ぐために、ドアストッパーなど取り付けるのはどうでしょう
ドアストッパーや警報装置は、センサーライトなどとは段階の異なる防犯装置です。センサーライトは犯行に及ぶ前にやめさせるための対策です。これに対し、ドアストッパーや警報は犯行に及び始めてから作動するものです。すでにターゲットにされた後の段階での対策となります。
この段階まで来てしまったとしても、ドアを開けようとした時にドアストッパーや警報装置があるのは侵入者側にとっては嫌な存在で、犯行を諦めさせる効果が期待できます。
警報は、外に向けて大きな音で「侵入者が入ろうとしています」というサインを出すものであり、こっそり入ろうとしていた相手には有効だと思われます。ただし、本当に侵入しようとするなら機器の切断ぐらいのことはやりますので、まずはターゲットとなる前に諦めさせることが最も重要です。
レクチャー2
住居に侵入されたら
侵入を防ぐ備えをしたものの入られてしまった場合、自らや家族の身に危害が及ばないようにする対策はあるか。
――在宅中に実際に侵入された場合に備え、どう対処しておくとよいですか
侵入された場合でも、自分のいるところには来ないようにしたい。自分や家族がいる場所や、子ども部屋のエリアに入られないようにしたいですよね。
建物を改修することは難しいですが、例えば、そのエリアに入る前にもう1枚ドアがあって、それ以上は入れないようにできれば、そこが「セーフルーム」になります。最初に物件を選ぶ時から、そういう視点で検討するとよいでしょう。
セーフルームとは、何者かが侵入してきた時などに逃げ込む避難のための部屋のことです。例えば、バスルームはコンクリートで囲まれている場合があり、爆弾事件や紛争地では避難部屋に適しています。ただし、侵入者対策として必要となるのは「ここまでは侵入されてしまったけれど、こっちには来させない」という想定をした上で、そこへ至るドアにしっかりと施錠できるエリアです。

図の間取りであれば、左上にある主寝室を含めた寝室エリアの前のドアに施錠することでセーフルームができます。ただ、実際の家屋でドアがこの位置にあることは珍しいので、寝室だけがセーフルームとなる場合もあるでしょう。
犯人にとっては、リビングで事が済めば寝室エリアまで入る必要はなくなります。例えば、点線の位置の引き出しの一番上に現金を入れて置き、あえて取らせて出て行ってもらう。犯人としては、早く逃げる方が捕まる可能性が下がりますから。
メイドなど家族以外が頻繁にその場所に立ち入るような場合は、ドアのカギを掛けるのと同時に引き出しに現金をしまい、カギを開ける際に引き出しから出すことを習慣にするということが考えられます。例えば、家族しかいない夜に帰宅した時に財布を引き出しに入れて、朝出かけるときに引き出しから出すようにします。

――それでも寝室エリアに入ろうとする場合、警察や守衛に通報するぞ、と警告するのは有効でしょうか
相手の出方が分からないので、これが正解という答えはありません。
警察に通報しても、すぐに来てくれるかは分かりません。建物に守衛がいても、彼らだって自分の身が大切です。「何かあったら、いつでも行くからね」と普段は言っていても、いざ実際に強盗が入ったとなれば、見て見ぬふりすることもあり得ます。
通報する場合、昔は「室内にちゃんと電話を引いておきましょう」と言っていましたが、今はもう皆さん携帯電話を持っているだろうと思います。どちらが正解とは言えませんが、やはり言えることは、そうならないための備えをしておくということです。
最初に言った通り、関門となる場所を何重にも作っておきます。
まず入口で、できるだけ諦めさせる。その次は、犯行に及んだ段階でドアを開けると警報が鳴ったり、ドアストッパーで入りづらくしたりすることにより、そこで諦めさせる。
それでも中に入ってきてしまったら、リビングを物色して早く出て行ってもらえるように、それなりの金額の現金を置いておく。それが駄目だった時には、寝室エリアに入るドアが頑丈そうだから諦めよう、と思わせる。それでも迫ってくる場合は、窓からなど外への出口があれば、鉢合わせする前にそこから逃げることです。

レクチャー3
住居や出張者のホテル選び
駐在者が住居を探す、出張者が滞在するホテルを選ぶ時に、住居侵入を防ぐためにベターな物件とは。
――住居を選ぶ際に注意する点は
まず入口が暗がりにあるとか、不特定多数の出入りがある立地の住居は避けましょう。例えば、飲食店が入っているような場所ですね。住民しか入らない、入れない方が、不特定多数の人が出入りする施設よりも安全度は高まります。
日本人駐在員が一軒家に住むことは少ないと思いますが、例えば高い木が近くにある場合は、木を伝ってベランダに上がることができるか確認しておきましょう。
なお、当社では顧客から海外拠点の安全調査を依頼されることもあります。
倉庫や工場が多いのですが、調査のついでに「駐在員の住居や出張者がよく使うホテルも見てもらえないか」と相談されます。そのホテルの防犯体制や警備がどうなっているか、ホテルに入ってくる人をどのぐらい見極めているのか、という辺りはよくチェックします。工場を持っている企業は、そこに日本から大量の出張者が出入りするので、指定のホテルを決めていることも多く安全性の調査をすることがあります。
最後に、滞在先の施設のスタッフと仲良くすることも、安全性を高めるのにそれなりに有効です。ただし、このことは事前の対策というよりは、安全に過ごすためのコツみたいなのものと考えてください。

有坂 錬成(ありさか・れんせい)
安全サポート株式会社 代表取締役 上席コンサルタント
三井住友海上でドイツ駐在、本社での駐在員送り出し業務、および危機管理業務を担当。1999年、外務省に出向し、官民合同の海外安全対策を担当。「誘拐対策マニュアル」の編集や「海外安全ホームページ」の基となったサイトの立ち上げにも携わる。

安全サポート株式会社
創業20年。海外派遣者の危機管理に特化した危機管理会社。社員の命を守るために必要な、全ての業務をワンストップで提供。顧客は企業、政府機関、大学、業界団体など幅広い。企業担当者向け無料セミナーも多数提供。https://www.anzen-support.com/
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