第7話:「秘密と副作用と毛根と」
🛣️ 連載シリーズ|髪が生えたら、サービスエリアが騒ぎ出した。
第0話:これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。
第2話:バズる男とハイウェイの女
第3話:クマリン動く
第4話:システナリオ中部、出動!
第5話:マスコットは見た
第6話:恋とドリンクと被り物
——“それ”はただのドリンクか、それとも。
📖これまでのあらすじ
あのドリンクには、何かがある。 成分か。副作用か。あるいは……可能性か。
NEXT中部のグループ会社「システナリオ中部」は、青葉美咲をマークしていた。名目は“確認”。だが本音は、“利用価値の精査”。
浜松SAで青葉が笑っていた頃、スーツの男が録音ボタンを押した。
その一方で、もうひとつの記録も始まっていた。着ぐるみの中から、無言で見つめる視線。
見られているのは誰か。信じていいのは、どちらか。
サービスエリアの空気が、確かに変わり始めていた。
第7話:「秘密と副作用と毛根と」
「……ついてる? いいえ、追われてます。」
🍱ひつまぶしと毛根と
浜松SA(上り線 ) 。みらいは、売店エリアがよく見える席に座っていた。
「さあ、ひつまぶしだよ。お嬢さんの分」
そう言って、トレイを持ってきたのは青葉だった。
(ちなみに、みらいが青葉と一緒に行動する際、トレイを持つことは一度もない。これまで全て“社長ゴチ”である)
みらいは照れながらも、にこにこと受け取る。
「ありがと〜! やっぱり社長と一緒だと、ごはんって特別感ある〜」
「当然でしょ?君は“ハイウェイプリンセス”なんだから」
「誰がやねん」
みらいが幸せそうに頬張る。
テーブルの上には、「うなぎのひつまぶし定食」がふたつ。
青葉は、三段階目のお茶漬けスタイルを前に、うっとりと目を細めた
「……この脂ののり。まるで、僕の毛根みたいだ」
「……うなぎに失礼だよ」
その直後——
ーカチッ。
テーブルの陰で、小さなスイッチが静かに押された。
「REC」の赤い文字が、スマートウォッチの端に灯る。
誰の手かはわからない。だがその手は、にこやかな営業スマイルを貼りつけながら、すでに近づいていた。
👔広報と開発の影
「お疲れ様で〜す!あれっ、青葉さんじゃないですか〜!」
笑顔全開で手を振るのは、システナリオ中部の広報梅林(うめばやし)。
その後ろには、商品開発部の木元(きもと)がピースサインで続いている。
「いや〜、今日もお若いですね〜青葉さん!なんかもう……毛がつややかで!」
「つややかって。うなぎか僕は」
くすっと笑うみらい。
梅林がスマホを取り出して、さりげなく尋ねる。
「そうだ、ドリンクの在庫って、まだあるんですか?」
すると青葉は喜んでこたえた。
「あるよ。定期購入してるから。1ダース、毎月届くんだ」
「1ダース……!」
梅林が大きく目を見開く。
木元がすかさず食い気味に乗ってくる。
「え〜、定期!? すご! やっぱ継続が違いますねぇ〜!!」
——その瞬間、梅林の目が、かすかに光った。
📷 “報告書用”の一枚
「もしよかったら、記念に一枚だけ、撮っても……」
梅林がスマホを構える。
「記念?」
「ええ、社内報告書に、“来てくれました〜!”って載せたいだけで!」
「社内報告書……?」
「もちろん、ただのファンですっ!いや〜、ほんと、会えてうれしいッス〜!」
木元が、“ついてるポーズ”を提案してくる。
青葉はニコニコと応じながらポーズを決めた。
(……報告書ね。本当に、報告書か?)
🐾着ぐるみの視線
少し離れた場所。壁際の柱の陰。そこに佇む、着ぐるみひとつ。——みちるまる(通称:みちぺた)。

音楽の柱に隠れてるつもり……
だが、スーツ2人にはしっかりマークされていた。
無言で撮影の様子を見つめながら、内部でスマホの録画ボタンをタップ。
「このやり取り……全部残しておこう」
「“報告書”って名の、分析資料でしょ……」
「それと……みらいちゃんの笑顔、今日もかわいかったな」
📷✨ パシャッ
👓覚えてますか?いいえ、覚えてません
そのとき、ふいに声がした。
「……お久しぶりです。青葉さん」
振り返ると、スーツ姿の男がにこやかに近づいてきた。
だが——誰だ?
青葉は笑顔を保ったまま、少し首をかしげる。
「……ええと、どちら様でしたっけ?」
「営業戦略部の真須田(ますだ)です」
名刺を差し出され、青葉が受け取る。
「……真須田さん……」
数秒の沈黙。
「……ああ、マッスーか。電話では話したことあるよね。僕のこと、覚えてる?」
「はい、覚えてます」
「……でも、僕は会った記憶がないなあ。初対面のような気がするけど」
「いえ。以前に、駿河湾沼津でお会いしました」
みらいが一瞬、表情をこわばらせる。
(駿河湾沼津……?私、挨拶されてないよ)
青葉は笑顔を崩さず、箸の先でテーブルをカチンと叩いた。
(……剣を抜くか、どうか。ボーダーラインだな)
🧪会えない面影
その日、クマリンはある製薬会社の受付にいた。
目的はただひとつ——かつての同僚、“染谷”の行方を探るためだ。
「……染谷さんに、お会いしたくて」
白衣の裾を正しながら、なるべく丁寧に言葉を選ぶ。
しかし、応対した受付の女性は、表情を崩さず首を傾げた。
「……申し訳ありませんが、本日は出社しておりません。連絡は……できる状態ではなくて」
「では、後日——」
「恐れ入りますが、個別のアポイントは、当面すべて制限させていただいております」
まるで、誰かに台詞を教えられているかのような“壁”。
丁寧な言葉の奥に、明確な拒絶の気配があった。
(……そういうことか。やっぱり、“染谷”は……)
クマリンは軽く頭を下げ、足早に建物を後にした。
去り際、ガラス越しに視線を感じた。だが、振り返らなかった。
✉️ 白紐からの返信
その夜。研究室に戻ったクマリンは、ファイルを開く前に一通のメールを確認した。
差出人: `shirohimo_s@sysnari.co.jp`
件名:(なし)
システナリオ中部の白紐です。
染谷さんのアドレス、こちらで以前使っていた記録がありました。
今は使われているか分かりませんが、必要であればどうぞ。
so-s@kuroiwa-pharma.co.jp
※この件について、私からは何も申し上げません。
では。
クマリンは数秒、画面を見つめていた。
(……“白紐”も、染谷を恐れている?)
✉️ クマリン → 染谷へのメール
PCの前に座り、クマリンは深く息を吸った。
手元には、白紐から送られてきたアドレス。
(……いま、送れば戻れなくなる)
指が止まる。
けれど、彼はその手を動かした。
件名:(なし)
宛先: so-s@kuroiwa-pharma.co.jp
染谷へ
君が関わっていると聞いて、調べている。
あのドリンクの成分には、かつての“試作”に似た配合が見られた。
なぜ、あれを——
なぜ今になって、こんな形で出す?
これは“僕の知らない世界”で、君が続けていた研究か?
それとも、僕を見ているのか?
答えてくれ。
……いや、答えなくてもいい。
ただ、僕はもう逃げない。
🧬 試される視線
深夜。誰もいない研究室。
クマリンは静かに、最新の調査データに目を落とす。
モニターに表示された成分群。
「カフェイン」「L-アルギニン」——どこにでもある構成。
だが、その下に並んだ数値が彼の指を止めた。
“メチル化フェリチン誘導体”
国内未認可/構造式:特異性あり/含有量:過剰
「……暴走する毛母細胞、か」
乾いた声が漏れる。冷や汗が、首筋を伝う。
(これは、偶然じゃない。自然な流出でもない)
(ターゲットが……絞られている)
(誰かに向けて“仕掛けられた”ドリンクだ)
だが——
それは青葉でも、みらいでもない。
「……違う。これは……“僕”を試してる」
「染谷……お前なのか」
📨 染谷からの返信メール
件名: Re:(なし)
差出人:`so-s@kuroiwa-pharma.co.jp`
クマリンへ
ずいぶん久しぶりだね。
まさか連絡が来るとは思わなかったよ。
君は、まだ“理解していない”ようだ。
あのドリンクは、ただの製品じゃない。
君がかつて“倫理”と呼んだものを捨てていたら、
今ごろ、君の名で世界に出ていたはずのものだ。
副作用とは、“誰にとっての”副作用か。
君がその問いに答えられる日が来るなら、
その時、また話そう。
——染谷
🧊 クマリンの反応:静かな決意
クマリンは、画面をじっと見つめたまま、何も言わなかった。
(……やっぱり、染谷。あの頃のまま、まっすぐに歪んでる)
マウスに添えた指先がわずかに震える。
それは怒りではない。恐怖でもない。
“わかってしまった”者だけが抱く、絶望に近い確信。
「……これは、“ゲーム”じゃない」
「彼は、僕を試してる。僕が“僕のままでいられるか”を」
クマリンはPCを閉じると、白衣の胸ポケットに小さなボイスレコーダーを差し込んだ。
隣の実験棚では、フサクマ01号が、静電気でモフモフしていた。
豆苗は棚の上からはみ出し、照明に軽く触れていた。
「……やるしかない。次は、僕の番だ。」
🎥 監視という名の記録
そのころ。浜松SAのバックヤード。
広報チームが集めた資料が、大きなモニターに投影されていた。
SNSのスクショ、DM履歴、TikTokの切り抜き、ラジオ音源、過去の出演番組……
「……まるで、監視カメラじゃないか」
木元が思わずこぼす。だが、梅林は答えない。
画面には、数時間前の映像が映し出されていた。
——「ついてる✨」の“ついてるポーズ”
——「#ハイウェイ紳士」のハッシュタグ
——そして、社内報告に提出された一枚の写真
そのすみっこには、小さく……みちるまるの耳が写っていた。

「この“毛”の流れ、うちで乗れますか?」
——浜松SAバックヤード、ざわつく商品開発部と広報
🌹次回予告
暴かれ始めた“成分”の正体と、静かに進む“囲い込み”。
爆フサの裏に潜むのは、愛か陰謀か——
📣次回、第8話:「青葉、揺らぐ」
「若さと引き換えに、何を失っていくんだろう」
精力剤の光と闇が、ついに社長をのみこんでいく——
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第6話:恋とドリンクと被り物
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