第8話:「青葉、揺らぐ」
🛣️ 連載シリーズ|髪が生えたら、サービスエリアが騒ぎ出した。
第0話:これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。
第2話:バズる男とハイウェイの女
第3話:クマリン動く
第4話:システナリオ中部、出動!
第5話:マスコットは見た
第6話:恋とドリンクと被り物
第7話:秘密と副作用と毛根と
第8話:「青葉、揺らぐ」
——毛波(もうは)
📚これまでのあらすじ
謎のドリンクで髪が“爆フサ”した青葉美咲。
SNSでは「イケオジ王子」だの「逆に好き」だのと騒がれ、本人もまんざらでもない様子。
だが、その裏で、彼の体に異常が——。
🍀朝、鏡の前で
「……おかしいな」
青葉は洗面所の鏡を覗き込み、眉をひそめた。
昨夜、深夜2時に自分で整えたばかりの前髪が、もう目にかかっている。
「社長、また伸びてますよ、それ」
みらいが寝ぼけ眼で声をかける。
「いや、これは…若さの証明だよ。やっぱりさ、僕の若さって、もう存在が“毛”なんだよね」
「そのうち“毛だけ歩いてる”って通報されますよ」
「それ、都市伝説じゃないの…?」
「現実です、社長」
🔑車内にて
クマリンは、ネクスト中部から「青葉の行動を監視せよ」と命じられ、後部座席に同乗していた。

アンテナのような髪の男と、無表情なクマ、ツッコミ係。この車内に、“平常運転”という概念はあるのか。
だが実際は、社長の毛の伸び具合を1分単位で記録しているだけだった。
「監視っていうか、毛の成長実況ですよね、それ」
みらいが呆れる。
「……科学的観測だ」
クマリンは無表情でメモを取った。
メルセデスのステアリングを握る青葉は、助手席のみらいに視線を向けることなく走り続ける。
……だが、ミラー越しに彼女の横顔をそっと盗み見る瞬間があったのを、誰も知らない。
みらいは気づいていないふりで、スマホをいじりながらハイウェイラジオをつけた。
📻「次のサービスエリア情報です。NEO——ザー…ザー…」
……ザーッ……
📻「髪の毛が……落ちて——」
……ザーッ……
「ん?今、なんか聞こえませんでした?」
みらいが眉をひそめる。
「ん?急に雑音が…」
クマリンが後部座席から顔を上げた。
「……これは電波障害じゃない」
「じゃあ何?」
「毛波(もうは)だ」
「もうは?」
とみらい。
「毛が、電波を乱している。社長の頭がアンテナになってるんだ」
「僕、電波系王子ってこと?」
青葉は笑ったが、みらいの顔は笑っていなかった。
⚠高速道路管制室
その頃——NEXT中部の高速道路管制室。
大型モニターには道路のリアルタイム映像。
「落下物情報、入りました」
「何だ?」
「……カツラです」
「またかよ。これで今月12件目だぞ」
記録係が淡々とPCに入力していく。
【落下物:カツラ(黒髪)】
【落下物:カツラ(白髪混じり)】
【落下物:カツラ(金髪)】
別の管制員が小声でつぶやく。
「今月入ってから、ほぼカツラばっかりだな」
プリントアウトされた落下物一覧は、ほぼ“カツラ”で埋め尽くされている。
モニターには、風に舞って第2走行車線を横切るウィッグの姿——妙にスローモーションだ。

「第2走行車線を、風に乗って黒髪通過」
「映像確認、白髪および茶髪も混在」
「……これ、ぜんぶカツラですね」
誰も笑わなかった。いや、笑えなかった。
🔊再び車内
車は高速を、静かに滑るように走っていた。
本線の電光掲示板がオレンジに光る。
【落下物あり 注意】
「落下物……?」
青葉が何気なくつぶやく。
みらいがスマホを操作する。
「ジャルティック(道路交通情報)見てみますね……あれ?」
画面には淡々と表示されたテキスト。
【第2走行車線:カツラ 処理済み】
【第1走行車線:カツラ 処理中】
【追い越し車線:カツラ 検分中】
車内が静まり返る。
「……全部、カツラです」
みらいが言った。
クマリンがそっとメモを取った。
「観測情報と一致しています」
しばらくして、サービスエリアに立ち寄った一行。
掲示板の案内には、こう書かれていた。
【路肩:かつら 処理中】
みらいが、どこか遠くを見るように言った。
「……なんか、ジャルティックさんもNEXTの管制室さんも心配になってきた」
誰も、笑えなかった。
つづく
前回のあらすじを読む📖
第7話:秘密と副作用と毛根と
🌱 はじまりの物語へ戻る
第0話「これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。」
📚 シリーズ一覧はこちら → #道フサ
いいなと思ったら応援しよう!
もしこの記事が心に触れたなら、そっと魔法をかけてください。チップは創作のエネルギーになります✨