第9話:「なーんつって」
🛣️ 連載シリーズ|髪が生えたら、サービスエリアが騒ぎ出した。
第0話:これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。
第1話:若返った社長は、健康ドリンクの夢を見るか?
第2話:バズる男とハイウェイの女
第3話:クマリン動く
第4話:システナリオ中部、出動!
第5話:マスコットは見た
第6話:恋とドリンクと被り物
第7話:秘密と副作用と毛根と
第8話:第8話:青葉、揺らぐ
🛣️前回までのあらすじ
若返りドリンクで“爆フサ化”した青葉社長。
SNSではバズりまくり、本人もすっかりハイウェイ王子気分。
だがその裏で、高速道路会社のNEXT中部・システナリオ中部、そしてナノフィリア製薬——
それぞれの企業が、独自の思惑で“ドリンクの正体”に迫りつつあった。
異常な髪の伸び、サービスエリアでの騒動、そして副作用というキーワード。静かに、けれど確実に、何かが動き出している。
そんな中、青葉・みらい・クマリンの3人は、東京へ向かった。
そして道中——
いつもの“おちゃらけ社長”の裏にある、ひとつの本音がこぼれ落ちる。
偶然?運命?
夜のバーで交差する3人の想いが、物語を“次のステージ”へと滑らせる——
🥂第9話「なーんつって」
——ステアされた夜に、混ざったのは、アルコールだけじゃなかった。
🚗 東京へ向かう道中・夕方 足柄SA (上り線)
車内には、青葉がセレクトしたジャズが静かに流れている。
「ちょっと古いな〜」とみらいが笑うと、青葉は得意げに鼻を鳴らす。
高速道路も東京が近づくに従って、交通量が増えてきた。
みらいがこの先の渋滞を予測して、次のSAで休憩を提案する。
みらいが飲み物を買いに行くあいだ、青葉は自販機横のベンチで缶コーヒー片手に、ぼんやりと空を見ていた。
さっきまでのテンションはなく、完全に、素の表情。
🎭 クマリン登場(静かなバランス崩壊)
クマリンは少し遅れて、控えめに歩いてくる。
「青葉さん、そろそろ出発しま……」
——ふと、声を止める。
そこにいたのは、いつもの“陽気な王子”ではなかった。
背中で風を受ける、ただの男の後ろ姿。

「ふざけてるようで、ずっと、まじめだった——。
この人の“なーんつって”は、
本当は、泣きたくなるくらいの本気だった。」
青葉:「……会いたくても、会えない時間って、なんか好きだったな。
すぐ近くにいて、届かないのがいいって、思ってた。
でもさ……いつからだろう。
その“届かなさ”が、ただの寂しさになってたのって。
(ちょっと笑って)
……なーんつって。なに言ってんだボク。
こんな歳になって、やっと本気の恋してんのかな……なーんつってね」
クマリン、動けずに聞いてしまう。
それは決して覗きたくなかった、青葉の本音。
飲みかけのペットボトルを手に、ただその背中を見つめていた。
🧪 クマリンの感情(静かな揺れ)
「……青葉さんは、ふざけてるように見えて、全部わかっててやってる人だった」
「“なーんつって”って言葉に、こんなにたくさんの本気を詰め込むなんて、ずるいよ」
彼は一歩引き、そっと姿を隠す。
でももう、“聞いてしまった”ことは、なかったことにはできない。
🏙️ 到着:パークハイアット東京
都心の夕暮れ。高層ビルの谷間に沈むオレンジの光。
その中で、3人が乗った車は静かにパークハイアット東京に滑り込んだ。
ジャズが流れるラウンジ。洗練されたフロントの香り。
青葉の目が、ほっとするように細められる。
青葉:「……やっぱ、こういうとこ好きだな。空気が……ちゃんとしてる」
📍パークハイアット東京・52階 NYグリル & バー
静かに、夜が始まっていた。
窓一面に広がる東京の夜景が、ネオンの海を作る。
ジャズピアノが、ゆるやかに空気を撫でていた。
今夜は“ラグジュアリー”で行こうじゃないか。
そう言って、青葉が3人分自腹で取った部屋。
パークハイアット東京。青葉の、ささやかな夢のひとつ。
「好きな人を、一度は“本物のバー”に連れて行ってみたかった」
──そう、誰にも言わず、こっそり思っていた。
🥃 ラウンジ・カウンター席
バーテンダーの手が、美しい所作でマティーニをステアしていた。
青葉はその横顔を見つめながら、ふっと微笑む。
「……そう。シェイクよりステア。余計な泡立ちも、空気も混ぜないで、ただ、静かに……混ざってくれればいいんだよ」
そして差し出されたグラスに、ゆっくりと唇をつける。
「あぁ……沁みるね。これは“歳を重ねた男”にしかわからない味だよ」
みらいは、ちょっとおどけて、隣の青葉のグラスを覗き込んだ。
みらい:「え〜、じゃあ私は“若い女の味”で行きますね?」
青葉:「ん?」
みらい:「ファジーネーブル、お願いしまーすっ」
カランと音を立ててグラスが運ばれる。
グラスの底に沈んだオレンジピールが、照明に淡く揺れていた。

彼女が笑うたび、青葉はグラスよりもその横顔を見ていた。
──気づかれないように、そっと。
みらい:「……いつも仕事の時は飲まないけど、今日だけは青葉さんに付き合ってもいいよ」
青葉は、ゆっくりと、嬉しそうに目を細めた。
🛏 クマリンの部屋(その頃)
「……僕は、遠慮しておきます」
そう言って、断ったはずだった。
だが。
部屋のベッドに腰を下ろしてから、10分。
研究レポートにも、SNSの分析にも、集中できない。
そして気づいたら、クマ頭を持って部屋を出ていた。
「……気になるだけだ。別に、覗くとか、そういうんじゃ……ない」
🛋 バー・奥の席
ラウンジのソファー席。
ふたりのグラスは、すでに三度、カランと音を立てていた。

東京の夜景を前に、グラスが静かに触れ合った。
奥のソファー席でこぼれたのは、ふざけた声と、本気の想い。
青葉:「……ねぇ、みらいちゃん」
みらい:「はい?」
青葉:「“結婚しよっか”」
みらいの手が止まった。
ファジーネーブルのストローの先で、氷がカラリと鳴った。
みらい:「……社長、また酔ってますね?」
青葉:「うん。酔ってる。最高に酔ってる」
そして笑った。
青葉:「でも……僕が“結婚しよ”って言ったの、一人だけだよ。ねぇ、みらいちゃん。……一人だけ、なんだよ」
その声は、ふだんの調子とは違っていた。
ふざけてるのに、泣きそうな声。
酔ってるのに、ちゃんと届いてくる言葉だった。
みらい:「……もう、青葉さんったら……
酔っ払いって、ほんとめんどくさい……」
だけど、優しく笑っていた。
🐻 ラウンジの柱の陰
「……全部、聞いてしまった」
クマリンは、ただ立ち尽くしていた。
手には、いつものクマ頭。
言葉にならない感情が、喉元まで込み上げてくる。
「青葉さん……あのテンションの裏に……」
「……ずるいですよ、そういうの」
🚪 ホテルの廊下
みらい:「歩けますか?自分の部屋、わかりますか?」
青葉:「うん、わかる〜。だいじょぶ〜。……部屋番号、もう忘れた〜」
肩を貸すみらいと、酔って身を預ける青葉。
すれ違いざま、クマリンは咄嗟に背を向けて柱の陰に隠れた。
肩に抱えたクマ頭が、ギュッと震えた。
青葉:「……なーんつって」
その小さな声だけが、夜の空気に溶けた。
✨深夜・部屋のバルコニー
クマリンは、窓の外の夜景を眺めていた。
自分の手元には、持ち帰ったファジーネーブルが一杯。
(みらいが一口飲んで、もういいって渡してくれたもの)

酔ってないけど、誰かの言葉が、まだ胸に残ってる。
クマリンはそっと、グラスを傾けた。
飲まないはずのアルコール。
でも、今夜だけは……と、そっと口をつける。
「……甘くて、少し、苦い」
まるで、今夜の“気持ち”そのもののようだった。
🎬 To be continued...
次回、第10話「三角でスライドする夜」
——“気づいてしまった者”たちの、心の位置が変わり始める。
🧃副作用か?🧪恋か?🧸ぬいぐるみの視線は、すべてを見ていた。
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第8話:青葉、揺らぐ
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