どんな人が受けるの? 【「音楽療法」ってなんだろう】 #2
「音楽療法」とは?
音楽が人の心や体に働きかける力を、科学的な根拠に基づき、意図的に使うことで、心身の苦痛や障害などからくる「生きにくさ」を少しでも減らし、「自分らしく生きている」実感を高められるよう、サポートする療法です。
担うのは、専門教育を受け、資格を持つ音楽療法士。一方的に音楽を与えるのではなく、「音楽を通じて、クリエイティブに関わり合う」ことで対象者を支援します。
日本での認知度はまだ低いですが、多くの国で、音楽療法は「確立された療法」、音楽療法士の仕事は「専門職」とされています。
というと、堅苦しく聞こえる「音楽療法」を、もう少し噛み砕いてお伝えする、このシリーズ。
「音楽療法」という言葉が、実はかなり曖昧に使われているということ。その中で「音楽療法士」が行うものだけが、正式な音楽療法だということ。
そんなことを、前回はお伝えしました。
今回は、その第二回目です。
目次
「音楽療法」にもいろいろある(#1)
1:カジュアルな音楽療法
2:フォーマルな(正式な)音楽療法*
フォーマルな音楽療法とは
1:音楽療法士が行う
2:特定の対象に向けて行う(#2)
3:目的を持って行う(#3)
4:計画的に系統立って行う
5:双方向の関わり合いの中で行う
6:音楽を使って行う(#4)
「フォーマルな(正式な)音楽療法」を成り立たせるには、いくつか条件があります。今日は、このうちの条件2について見ていきたいと思います。

*ちなみに「カジュアルな音楽療法/フォーマルな音楽療法とその条件」は、音楽療法士・二俣泉さんによる分類です。参考文献をご参考ください。
条件2:特定の対象に向けて行う

「フォーマルな音楽療法」は、必ず特定の誰かのニーズを満たすために行われます。個人セッションでもグループセッションでも、一人一人の置かれている状況と満たされるべきニーズを見極め、その人の個性に合わせたオーダーメイドの支援をします。
ここが、音楽配信やコンサートなど、不特定多数に向けてレディメイドな音楽を届けようとする音楽活動とは、決定的に違うところです。
不特定多数が対象か、 特定の個人が対象か
たとえば、私は週二回noteに『月曜朝のプレイリスト』と『木曜朝のプレイリスト』という記事を投稿しています。
まず曲を選び、それを音楽療法の技法『楽曲・歌詞分析』を使って掘り下げます。歌詞の内容や言葉、音楽、そして成立背景などを理解し、その曲が今の自分とどうつながるかを探る技法です。
本来は、対象者と音楽療法士との対話を通じて行うのですが、これを一人でやって、記事にしています(時には「オススメしたい!」勢いだけで書いてしまう記事もありますが…)。
ただ残念なことに、書いている私には、読み手の皆さんの顔はほとんど見えません。
皆さんの年齢や好みの音楽、興味関心、そして今の気持ちは、私にはわからない。しかも、その一つ一つが人によって違う。
だから、どんな曲を選ぼうとも、それが心にヒットする人と、しない人が出るでしょう。選んだ曲とメッセージが果たして誰の耳に届くのかは、私にはわかりません。
ただ、「この曲は自分に合わない」と思う人がいても、私にその責任を負う必要はありません。『月・木曜朝のプレイリスト』は「フォーマルな音楽療法」ではないからです。
でも、これが「フォーマルな音楽療法」であれば、話は変わってきます。

対象者が何歳で、どこで育ち、どんな生き方をしてきて、どんな音楽が好きで、今、何が問題なのか。そして、何を本人が今、一番に解決したいのか。
「フォーマルな音楽療法」では、まず、こうした「その人だけの文脈とニーズ」を見極めます。そしてそこから、必要な音楽の方向性を定めます。
対象者本人と一緒に音楽を選ぶのも、セッションの大事な部分です。今どんな気持ちで、その気持ちをどうしたいのかを知ることで、その人が本当に「今、ここ」で必要な音楽を選ぶことができます。
なので、本当はジャズが好きなのに、ヒップホップを押し付けるようなことにはなりません。不安な自分を肯定してほしいのに、元気を出せとやたら励ます曲を無理強いすることもありません。
また、選んだ音楽をただ「聴く」だけでなく、「歌う」「弾く」「踊る」「分析してみる」「絵やイメージにしてみる」「主語を自分にして、書き換えてみる」「インスピレーションにして新しい曲を書いてみる」など、その人に一番いい形で音楽とつながる方法を試すことができます。
もし、既成曲に答えがなければ、即興などで一緒に音楽を作っていきます。
だから、もし対象者が「この音楽は違う」と言ったら、音楽療法士はそれを真剣に受け止めます。選んだ音楽が対象者に与える影響、そしてその音楽を媒介に生まれる対象者とのコミュニケーションには、音楽療法士としての責任が生じるからです。
「フォーマルな音楽療法」の対象は幅広い

ちなみに「フォーマルな音楽療法」が用いられる領域は多岐に渡ります。ざっと挙げてみるだけでも
精神科の領域
統合失調症、気分障害、人格障害、不安障害、摂食障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など
知的障害・神経発達症の領域
知的障害、ASD(自閉症スペクトラム症など)、学習障害、ADHD(注意欠陥多動性障害)など
心療内科の領域
心理的・社会的要因で起こる体の不調、理由のわからない体の不調など
脳神経学の領域
頭部外傷後遺症、脳卒中後遺症(片麻痺、失語症など)、神経免疫疾患(多発性硬化症、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群など)、パーキンソン病など
ターミナルケアの領域
緩和病棟・ホスピス・自宅での終末期ケア、患者の家族の心身のケアなど
高齢者の健康の領域
認知症、認知症予防、介護予防、慢性疾患、介護を担う側へのケアなど
小児医療の領域
小児病棟内で闘病中の子供達の心身のケアなど
がん患者ケアの領域
闘病中の心身のケア、がん治療後の心身のケアなど
周産期ケアの領域
妊娠中・出産時、産後の心身のケアなど
NICU(新生児集中治療室)の領域
未熟児・新生児とその親の心身のケアなど
依存症の領域
物質依存、プロセス依存症患者のリハビリセンターでのケアなど
家庭内暴力(DV)の被害者の健康に関する領域
保護施設などでの被害者の心身のケアなど
被災者の健康に関する領域
被災によって起こる心身の問題(喪失体験、PTSD、うつ症状、不眠など)のケア
社会的マイノリティの健康に関する領域
LGBTTQQIP2SAA(セクシュアルマイノリティ。詳しくはこちら)、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)、ホームレスの方々、外国人労働者、短期滞在の外国人、経済的に厳しい状況に置かれている方々、その他、基本的人権が脅かされている社会的弱者の心身のケア
難民や移民の健康に関する領域
国境や保護施設での心身のケア、異文化参入によるストレスのケアなど
受刑者の健康に関する領域
受刑施設での心身のケアなど
不登校・ひきこもりにまつわる領域
不登校の子どもや、ひきこもりの状態にある人の心身のケア
自己探求、自己発見、自己成長の領域
生きる意味、生死の理解など、より深い自己理解のための心身のケア
など、さまざまです。
人間が生まれてから死ぬまでの間には、「健康であること」の内実が問題となる、あらゆる状況が存在します。そうした状況の下、生きにくさを抱えてしまった人々をサポートするのが、「フォーマルな音楽療法」です。
*
ついまた、熱く語ってしまいました。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、「フォーマルな音楽療法」が目指すゴールや目的について、お話したいと思います。
それでは、今日もよい一日を!
ーーーーーーーー
参考:
二俣泉『音楽療法士サバイバル・ブックー幸福な職業生活のための10章』(杏林書院)
宮本啓子・二俣泉編著『音楽療法を知るーその理論と技法ー』(杏林書院)
Wheeler, B. L. (2015). Music Therapy Handbook. New York: The Guilford Press.
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