初めての外泊──りぼんとの優しい夢
【第5章 番外編 最終話】
長い入院生活の中で、
出された一泊だけの外泊許可。
それは半年ぶりの帰宅でした。
当たり前だった日常に触れて、
穏やかだった時間も束の間。
後遺症の一つ、"こだわり"により、
私は少し不安を感じていました。
それから──
なんとか妻からの、
"こだわりのある指示"をやり過ごし、
一階のリビングへ戻りました。
すると、
息つく間もなく今度は、
「りぼんは?」
※りぼんは、飼っていたチンチラの女の子です。
ちなみにチンチラは、猫の中でも特にプライドが高く、見慣れないものには決して近寄らない性格でした。
ましてや『りぼん』が、
見たこともない車椅子に座り、
半年ぶりに帰ってきた妻に近づくことなどあり得ず。
それでも妻は──
『りぼん!りぼんちゃん、おいでー』
『どこにいるのー?おいでー』と。
私も必死に家中を呼びかけながら、
探し回りましたが、
結局『りぼん』は姿を現さず。
しばらくすると、
妻もあきらめたようでした。
私もそれを確認して、
正直ホッとしながらリビングへ戻りました。
実を言えば──
そもそも『りぼん』は、
妻にはあまり懐いていませんでした。
入院前も、妻が触ろうとすると、
さっと逃げるような微妙な距離感だったのです。
だから私は、
あのとき隠れていた『りぼん』に、
「絶対に妻には見つからない」という強い意志のようなものを感じていました。
その後は"こだわり"も収まり、
妻と私は久しぶりの我が家での日常を満喫しました。
それまでに、
聞いたことのある話ばかりでしたが、
失語で途切れ途切れの言葉ながらも、
妻は一生懸命に、
いろんな話を聞かせてくれました。
晩ごはんは、
これまで腕を磨いてきた私の手料理。
──ふたりで美味しく食べました。
それから、
病院の消灯時間に合わせて寝室へ。
妻をパジャマに着替えさせて。
私も寝る支度のためにいったん寝室を離れました。
しばらくして戻ると──
妻はもう眠っていました。
けれど、その妻の胸の上では、
それまでずっと隠れていた『りぼん』も丸くなって眠っていました。
じつは倒れる前から『りぼん』は、
普段は妻を避けるものの、
なぜか寝る時は妻の上でした。
その見慣れた姿を、
久しぶりに目にした私も、
ほっこりと心が温かくなり。
消灯──
どうやら妻にとっても、
最高の外泊になったようでした。

初めての外泊
──りぼんとの優しい夢【完】
【第5章 番外編 初めての外泊】
ー終ー
▼前回の話 妻のこだわり
▼関連した話
『皆から愛された猫
りぼんと過ごした18年』
▼関連した話:
料理にチャレンジ『リベンジキッチン3』
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