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Fungry! ⑥ 【創作大賞2024 ホラー小説部門 応募作品】

Day6




「はら、減ったな…」
そうやって呟いた海咲は、ぐはっ、なんて言いそうな勢いでソファに倒れ込んだ。
海咲は私と違って、断食なんて初めてだ。
ここまでくると、水を飲むのだって一苦労だろう。
「お前、よく動けるな」
呆れる海咲をよそに、私はプランクって言われる筋トレをしていたりする。
これが結構腹筋に効く上に、ほかのトレーニングと違っておんなじ態勢を維持してればいいだけなのだから、今の私にはぴったりだった。
ぴぴぴぴ、とスマホのタイマーがなる。
起き上がると、昨日から続いていた倦怠感と頭痛がちょっとだけ解消された。
やっぱり、筋トレってすごい。
「水は自分でいれとくれ~」
海咲が手をひらひら。
そもそも、私のために入れてくれたことないくせに。
「海咲も筋トレしなよ。すごいよ?」
沈んでる時でも、筋トレした後は充実感からか気分がすっきりして、案外今日は無理だあ、なんて思ってたことをやる気になれたりもするんだから。
とまあ、これに関しては海咲の方がよく知っているはずなのだけど…。
「もう一ミリも動けねえよ」
そう言いながらもひらひらー、だけはできるんだから。
はいはい、なんてあしらって、コップに水を注いだら、ちょこんと海咲の隣に座る。
そうすると、当然のように海咲が私の膝に足を乗っけてくるのだ。
ほらやっぱり。
これが案外嬉しかったりするのだけど、悟られるのは気恥ずかしいから、毅然とした態度で対処してみるのですよ。
「あつい」
「あーい」
「あついー」
「へーい」
「あっつい」
「いいだろ別にー」
これぐらい抵抗しとけば、ちょっとはましだろう。
パワーバランスが重要なのだ。
やな顔一つせずになんでもかんでも聞きまくってたら、ペットにはなれても魅力的な人にはなれないんだもの。
「なあ、まじで腹減った」
「減ったねえ」
「あとあちい」
「暑いねえ」
「エアコン、意味ねえじゃん」
「ないねえ」
「暇」
「暇だねえ」
ちらと外を見れば、まだ雨は降っているようだった。
夏真っ盛りだというのに、これじゃあ気分が沈んでも仕方がない。
一体いつまで降る気なのか。
窓が曇りすぎて、はっきりと外の様子はうかがえなかったけれど、雨はどうにも、やみそうにない。
そもそもこの六日間というもの、私たちは一切外に出ないでこの蒸し暑い部屋にこもりきりなのだ。
これじゃ、メンタルがおかしくなってしまっても文句はいえない。
「映画でも見る?」
私が言うと、いいね!って海咲も飛び起きた。
目がキラキラ。
さっきまでのなまけっぷりはどこへやら、飛びつくようにしてPSS5の電源を入れた。
海咲は映画が好きなのだ。
私も結構好きな方だとは思うけれど、問題は、海咲との趣味が全く合わないことだ。
前にラース・フォンなんちゃらのアンチクライストという映画を無理やりに見せられて以来、海咲と一緒に映画を見るのは若干のトラウマにすらなっている。
「何見る?」
一人『密林プライム』の画面を食い入るように見る海咲の背中に聞いてみる。
「うーん、最近のは観尽くしちゃったしなあ」
「だから成績さがんのよ」
「試合で忙しかったんだよ」
「さいで」
そこで海咲は、テレビのそばにあった本棚を探り始めた。
彼女が一緒に観ようと置いていった何枚ものDVDを入れといた本棚だった。
ぴぴっ、と私の危機管理センサーが鳴った。
「ラースなんちゃらとギャスパーって人のはナシね。てかああいうちゃんと重いやつ全般だめ」
「んだよ」
大体、苦手だって言ってる人の家になんであれを置いとくかな。
海咲を見れば、ぼそぼそ文句を垂れながら、せっかく私が本棚に、しかも整頓してしまっておいてあげたものをほじくり返しては、ああでもないこうでもないと次々床に積み上げていく。
文句を言いたいのは私の方だ。
「あ!キンザザあんじゃん。おきっぱだったか」
「だめ」
「だめってお前、知らないだろ」
「知らないけどなんかだめそう」
「重くもなんともないよ。ただ萌香は眠くなるかもな」
「馬鹿にしてる?」
「さーせん」
「ほか」
「あいしーぎんいんざれーいん」
「気分じゃない」
「さいで。てかあれも重いだろ」
「あれはいいの。レフンは?」
「気分じゃねえ。あとレフンも重いだろ」
「あれもおーけー」
「じゃあもうトリアーもいいだろ」
「誰?」
「ラースなんちゃら」
「絶対だめ!!」
「わけがわからんな」
「あ、げろ便ちゃんみる?」
「あたしからしたらあれの方がよっぽど悪趣味なんだが」
「かわいいんに」
「敵の腸引きずり出してげらげら笑いながらヌンチャク代わりにしてるやつのどこがかわいいんだ?」
「海咲だってハーレイちゃん好きじゃん」
「全然ちげえだろ。てかハーレイもそんな好きではねえ」
「さいで」
「サスペリアなかったっけ?」
「あんた持ち帰ったじゃん」
「ああ。…やっぱトリアーにしようぜ」
「いーやーだ」
「奇跡の海、あたしの一番好きな映画」
「いや知らんがな」
「じゃあ何にすんだよ」
「げろ便ちゃん」
「いや」
「じゃあもう何でもいい、なんちゃら以外だったら」
「なんちゃらいうなや………おお!」
「なに?」
「ソラリスあったわ」
「はあ…」
海咲はそのテトリスだかなんだかのパッケージを頭上に掲げて、子供みたいに目を輝かせていた。
「お前も見たことあんぞ?」
「そだっけ」
「宇宙のやつ」
「あ、モノリスのやつ?」
「いやちげえよ。近いけど」
「全然覚えてない」
「だろうな。お前序盤で寝てたもん」
「あー………、あ!もしかして資料映像のやつ?」
「そうだけどそうじゃねえよ」
海咲は不満そうに口をとがらせている。
そう、確かに覚えている。
スマホ片手にながら見してたはずなのに、くそみたいに長い会話と謎の高速道路映像で、いつのまにか快適な睡眠へといざなってくれたあの映画だ!
「うん!オッケー、あれにしよう」
「そか…ってなんで急に素直になんだ?」
「だって今ちょうどいいし」
「は?」
「お腹すきすぎて眠りたくても眠れないじゃない。でも、あれ見たら簡単に眠れる気がする」
「いやタルコフスキーなめすぎだろ」
「何それ」
「この映画の監督」
「そ、ほら早く早く」
「あのなあ、眠る前提だったらさっきのキンザザでもいいだろ?」
「それはだめ」
「なんでだよ!大体ソラリスは睡眠薬じゃねぞ!」
「そう?眠剤にありそうな名前だけど」
「失礼な!」
「いいから早く」
へいへい、なんて言って海咲は乱暴な手つきでDVDをセットすると、どかっと私の横に腰掛けた。
ふわっとかすめる海咲の香り。
海咲の方が体もでかいし筋肉もあるから、二人でくっついてソファに座ると、必然的に私が彼女に吸い寄せられるようなかたちになる。
私はこれが好きだった。
海咲に引っ張られるようにしてくっついたからだ半分に、彼女の温度がじんわり伝わるから。
海咲の一部になった気がするから。
「あちーよ」
「あついねえ」
けれど海咲も、私を遠ざけようとはしなかった。
映画が始まった。
穏やかな男の声音と雨の音に誘われるようにして、私も意識を失った。
海咲曰、歴代最高記録だったらしい。
やったね。


⑦へ続く
Fungry! ⑦ 【創作大賞2024 ホラー小説部門 応募作品】|霧島はるか (note.com)


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Fungry! ② 【創作大賞2024 ホラー小説部門 応募作品】|霧島はるか (note.com)

Fungry! ③ 【創作大賞2024 ホラー小説部門 応募作品】|霧島はるか (note.com)

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Fungry! ⑪ 【創作大賞2024 ホラー小説部門 応募作品】|霧島はるか (note.com)

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