ノカナのジャック【ダンジョン・第6話】 − 162
狐の尻尾の筋から作った極細糸が、900バリイ。
そして、小弓と矢3本で、680バリイ。
矢尻はカエシの広い、抜けにくいタイプを注文したので高く付いた。
この前のカナクイドリの分け前と、岩トカゲの稼ぎのおかげで、なんとか買えた。
武具屋の給金じゃあ、食べるだけで精一杯だけど、15のガキを雇ってくれてるだけで親父さんと女将さんには感謝してる。
今日もダンジョンに行く前に、女将さんに
「ジャック、くれぐれも危ないことはしないでおくれ。」と言われた。
言われたのだけど、今の俺は3バリイしか持ってない。
今夜の食い物すらない。
ザリガニやヒラガニは、仲買は買ってくれない。
死んだらすぐに味が悪くなり、嫌な匂いをだすかららしい。
オイラは、そんなの気にはしないけど。
まあ、女将さんにも言われたから、危ない真似はしない。
だけど、今のオイラは腹ペコ文無しのガキだ。
要は、2日くらいシノげる稼ぎがないとヤバい、ピンチ。
それも、かなりのピンチだ。
今日は天気が良くて気温が高い。
店を出る時には、有り難いって思った。
だけど、ダンジョンに着いたとき、シマッタと気づいたね。
2日も雨が続いたせいで、ダンジョンは大賑わいだ。
日当たりの良い場所は、岩トカゲと大カナトコ狙いのハンターだらけだった。
どうしようもなくて、石塔の影のせいで日当たりの悪い水路の縁に行った。
こんな日でも人っ気の少ない場所だ。
そこに俺は、数日掛けて集めた石を積み上げ、壁を作っておいた。
水路からは、その石壁しか見えないようにしている。
駆け出しの俺が、先輩達ハンターと競って岩トカゲ、ましてや大カナトコを、一人でなんか絶対無理だ。
先輩ハンターに悪い意味で、目をつけられたり嫌われたりするのも嫌だ。
冴えない駆け出しは、冴えないなりの似合いの場所にいろ。
ノカナのゴミ捨て場で何度も言われたっけな…
そんなこんなで、石塔近くのこの場所。
こんな日でも夕方近くになると涼しい。
いや、肌寒いほどだ。
だけど、ここはヤツらが現れやすい。
弓の尻に開けた小さな穴に、狐の筋から編んだ極細糸を通し、抜けないようにする。
60フィートしか買えなかったから、1回勝負だ。
石壁に隠れたまま、辺りを見回す。
誰もいない。
遠くから、「大カナトコだぞ!」って叫び声が小さく、風にのって聞こえてきた。
仕留められたら、嬉しいんだろうな。
まあ、小弓で仕留められる訳ないけれど。
水路の端で、葦が揺れた。
ひょっとして……。
しばらくしてから、オイラが水路に突っ込んどいた、葦の何本かが、ゆっくり倒れた。
壁の隙間から、
小弓を思い切り引いた姿勢で待つ。
隙間から見える水路の端に、デカイ魚が見えた。
俺が集めて巻いておいたタニシを、飲み込んでいる。
焦るな、もう少し、
もう少し、
もう……今だろっ!!
弓を放った瞬間、鯉が次のタニシを食おうとして動いたせいか、弓は魚体の尻尾寄りに刺さった。
浅い水路で、1フィート半くらいの鯉が、ビタビタ音を立てて暴れている。
だけど、期待どおり、矢尻は抜けないでいたし、糸を通してあるから、鯉は逃げられない。
急いで、糸の端を握りしめて壁を出ようとしたら、躓いてコケた。
顔をすりむいたかもしれないけれど、関係ない。
水路に飛び込み、鯉を押さえ込むが、力が強く、大人しくしてくれない。
一体どうしたら……。
生きてる魚なんか、初めてだし……。
その時、水路にふわりと飛び降りてきた誰かが、鯉の頭を布でくるんだ。
その途端、鯉は大人しくなった。
「落ち着け、横取りなんかしねぇ。
頭の布を外さないで、背嚢に入れろ。
矢も抜くな、イキが下がると値段が落ちるぞっ。」
礼を言おうとして顔を上げたら、その人は、エースさんだった。
* * *
「やっぱり越後屋だったか。
なんか変なことしている奴がいると思っていたが、鯉を小弓で獲るとはビックリだ。
すげえな、オマエ。」
エースさんは、俺の背嚢に自分のシャツを被せてくれて、獲物が何か分からないようにしてくれた。
出会ったハンターには、
「どうだい?」
「俺? 今日は下見さ。」
なんて言いながら、会話をしつつ、俺が目立たないように並んで歩いてくれた。
小さな声で、
「大丈夫だ。
鯉はタフな魚だから、簡単には死なない。
仲買より、コーエンの店の方が高く買ってくれる。
良かったら、案内するぜ。」と言う。
「お願いします。
えと、取り分はどうすれば?」と聞いたら、少し考えてから、エースさんは言った。
「そうだな……。
俺が困ったときに、
オマエが出来る範囲で助けてくれりゃあいい。」
腕利きのハンターって、カッコイイと思ったが、それは始まりでしかなかった。
コーエンの酒場の水槽で、矢が刺さったまま、元気に泳ぐ鯉を見て、コーエンさんはエースさんに四本指を立てた。
エースさんが、頷く。
「まさか……4,000バリィ!?」ドキドキした。
コーエンさんが渡してくれたのは、
銅貨四枚。
2万バリィ。
腰が抜けた。
マジで。
続きます
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成り上がれジャック!
ノカナのゴミ捨て場のスラムから
