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「Solaria 2nd Stage 第六話|すれ違うリズム」

 

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」
「Solaria 2nd Stage 第五話|見えない距離」

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「第六話 | すれ違うリズム」

午後の光が、ダンス室の床に静かに広がっていた。

いつもと同じ時間。
いつもと同じ場所。

——なのに、空気だけが違った。

「もう一回、頭からいこう」

水瀬しおりの声は落ち着いている。
それでも、どこか冷たい。

音楽が流れる。

軽やかなステップ。
揃うはずのターン。

——噛み合わない。

「……違う」

音が止まる。

「今の、遅れてる。カウント聞いてた?」

「あ、ごめん……」

天野ひなたが苦笑する。

「もう一回」

繰り返す。

それでも——揃わない。

「そこ、ズレてる」

少しだけ強い声。

空気が重くなる。

橘あかりが眉をひそめる。

「……そんなズレてた?」

「ズレてたよ」

沈黙。

「いや、でもさ——」

「“でも”じゃない」

言葉がぶつかる。

小鳥遊さくらは、小さく息を飲んだ。

(なんか……違う)
 
 

休憩。

誰もすぐには話さない。

水の音だけが響く。

白石ゆいは、しおりの隣に座る。

「……しおり」

優しい声。

「大丈夫?」

しおりは一瞬だけ目を伏せて——

「うん。大丈夫」

それ以上は、踏み込めなかった。
 

翌日、屋上。

風が強い。スカートが揺れる。

「そこ、もう一歩前に出て」

しおりの声。

やっぱり、少しだけ冷たい。

「……はい」

さくらの声は小さい。

繰り返す。

同じところで止まる。

 

「違うって言ってるでしょ!」

その瞬間。

空気が凍った。

あかりが顔を上げる。

「……言い方、キツくない?」

 

「事実でしょ」

しおりは淡々と返す。

「事実でもさ、言い方ってあるじゃん」

「甘やかしても意味ない」

風が吹き抜ける。

ひなたが割って入る。

「まあまあ、ちょっと落ち着こうよ」

それでも、空気は戻らない。

放課後、ピアノ室。

ゆいの音が響く。

——揺れている。

 

(違う……)

鍵盤から手を離す。

(私のせいだ)

音が、怖い。
 

夜、ダンス室。

「もう一回いくよ」

音楽。

でも——合わない。

「……はぁ」

小さなため息。

ゆいが立ち上がる。

「しおり」

「ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫って言ってるでしょ」

「大丈夫じゃないよ」

空気が張り詰める。

「……なんでそう思うの」

「だって、変だもん」

「みんなも……苦しくなってる」

 

「関係ないでしょ」

「関係あるよ!」

沈黙。

「チームなんだよ、私たち」

「一人で抱え込まないでよ……!」

「……別に」

「迷惑かけてない」

その一言で——

何かが、切れた。

「かけてるよ!!」

「みんな苦しくなってる!」

「私も……!」

「なんで話してくれないの……!」

沈黙。

しおりが振り返る。

「……うるさい」

 

パシン!

乾いた音。

時間が止まる。

ゆいの手が震えている。

しおりの頬に、赤い跡。

しおりは何も言わず、背を向ける。

歩く。

扉が開く。

閉まる。

静寂。

誰も、動けない。

数秒。

ゆいが、かすれた声で言う。

「……ねえ」

「私たちの“音”……」

言葉が続かない。

「バラバラになっちゃったのかな……」

沈黙。

「……ごめん」

「今日は……一人で帰りたい」

誰も止められない。

ゆいが出ていく。

扉が、閉まる。

完全な静寂。
 

校門前。

夜に沈みかけた空。

三人だけが、並んで歩く。

坂道を下る。

いつもと同じ帰り道。

——なのに、何も話せない。

バスが来る。

扉が開く。

乗り込む。

揺れる車内。

窓の外、流れていく街の灯り。

 

沈黙。

ひなたが、小さく呟いた。

「……重いね」

誰もすぐには返せない。

「しおり先輩に……何があったんだろう」

あかりが、前を見たまま言う。

「……あれ、私らの問題じゃない気がする」

ひなたが少しだけ驚く。

さくらが、窓の外を見たまま。

「……あんなの、見てるのつらいです」

また、沈黙。

バスが揺れる。

誰も答えを持っていない。

やがて——

停留所を過ぎていく。

バスは、そのまま走り続ける。
 

夕焼け。

校舎裏。

ゆいは、一人で立っていた。

震える手を見つめる。

「……なんで……」

声にならない。

 

崩れ落ちる。

涙が止まらない。

「なんで……こんな……」

誰もいない。

ただ、夕焼けだけが優しくて。

それが、余計に残酷だった。

音はない。

ただ、涙だけが落ちていく。

 

遠く。

走り去るバス。

赤いテールライトが、薄暗い空の中に滲んでいく。

まるで——

何かを置いてきたみたいに。

その光は、静かに遠ざかっていった。

 
第六話 すれ違うリズム (終)
 
 

▶ Solaria 2nd Stage 第七話|
― 雨に溶ける声 ― へ続く


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