「Solaria 2nd Stage 第六話|すれ違うリズム」

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」
「Solaria 2nd Stage 第五話|見えない距離」
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「第六話 | すれ違うリズム」
午後の光が、ダンス室の床に静かに広がっていた。
いつもと同じ時間。
いつもと同じ場所。
——なのに、空気だけが違った。
「もう一回、頭からいこう」
水瀬しおりの声は落ち着いている。
それでも、どこか冷たい。
音楽が流れる。
軽やかなステップ。
揃うはずのターン。
——噛み合わない。
「……違う」
音が止まる。
「今の、遅れてる。カウント聞いてた?」
「あ、ごめん……」
天野ひなたが苦笑する。
「もう一回」
繰り返す。
それでも——揃わない。
「そこ、ズレてる」
少しだけ強い声。
空気が重くなる。
橘あかりが眉をひそめる。
「……そんなズレてた?」
「ズレてたよ」
沈黙。
「いや、でもさ——」
「“でも”じゃない」
言葉がぶつかる。
小鳥遊さくらは、小さく息を飲んだ。
(なんか……違う)
休憩。
誰もすぐには話さない。
水の音だけが響く。
白石ゆいは、しおりの隣に座る。
「……しおり」
優しい声。
「大丈夫?」
しおりは一瞬だけ目を伏せて——
「うん。大丈夫」
それ以上は、踏み込めなかった。
◇
翌日、屋上。
風が強い。スカートが揺れる。
「そこ、もう一歩前に出て」
しおりの声。
やっぱり、少しだけ冷たい。
「……はい」
さくらの声は小さい。
繰り返す。
同じところで止まる。

「違うって言ってるでしょ!」
その瞬間。
空気が凍った。
あかりが顔を上げる。
「……言い方、キツくない?」

「事実でしょ」
しおりは淡々と返す。
「事実でもさ、言い方ってあるじゃん」
「甘やかしても意味ない」
風が吹き抜ける。
ひなたが割って入る。

「まあまあ、ちょっと落ち着こうよ」
それでも、空気は戻らない。
◇
放課後、ピアノ室。
ゆいの音が響く。
——揺れている。

(違う……)
鍵盤から手を離す。
(私のせいだ)
音が、怖い。
◇
夜、ダンス室。
「もう一回いくよ」
音楽。
でも——合わない。
「……はぁ」
小さなため息。
ゆいが立ち上がる。
「しおり」
「ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫って言ってるでしょ」
「大丈夫じゃないよ」
空気が張り詰める。
「……なんでそう思うの」
「だって、変だもん」
「みんなも……苦しくなってる」

「関係ないでしょ」
「関係あるよ!」
沈黙。
「チームなんだよ、私たち」
「一人で抱え込まないでよ……!」
「……別に」
「迷惑かけてない」
その一言で——
何かが、切れた。
「かけてるよ!!」
「みんな苦しくなってる!」
「私も……!」
「なんで話してくれないの……!」
沈黙。
しおりが振り返る。
「……うるさい」

パシン!
乾いた音。
時間が止まる。
ゆいの手が震えている。
しおりの頬に、赤い跡。
しおりは何も言わず、背を向ける。
歩く。
扉が開く。
閉まる。
静寂。
誰も、動けない。
数秒。
ゆいが、かすれた声で言う。
「……ねえ」
「私たちの“音”……」
言葉が続かない。
「バラバラになっちゃったのかな……」
沈黙。
「……ごめん」
「今日は……一人で帰りたい」
誰も止められない。
ゆいが出ていく。
扉が、閉まる。
完全な静寂。
◇
校門前。
夜に沈みかけた空。
三人だけが、並んで歩く。
坂道を下る。
いつもと同じ帰り道。
——なのに、何も話せない。
バスが来る。
扉が開く。
乗り込む。
揺れる車内。
窓の外、流れていく街の灯り。

沈黙。
ひなたが、小さく呟いた。
「……重いね」
誰もすぐには返せない。
「しおり先輩に……何があったんだろう」
あかりが、前を見たまま言う。
「……あれ、私らの問題じゃない気がする」
ひなたが少しだけ驚く。
さくらが、窓の外を見たまま。
「……あんなの、見てるのつらいです」
また、沈黙。
バスが揺れる。
誰も答えを持っていない。
やがて——
停留所を過ぎていく。
バスは、そのまま走り続ける。
◇
夕焼け。
校舎裏。
ゆいは、一人で立っていた。
震える手を見つめる。
「……なんで……」
声にならない。

崩れ落ちる。
涙が止まらない。
「なんで……こんな……」
誰もいない。
ただ、夕焼けだけが優しくて。
それが、余計に残酷だった。
音はない。
ただ、涙だけが落ちていく。
◇

遠く。
走り去るバス。
赤いテールライトが、薄暗い空の中に滲んでいく。
まるで——
何かを置いてきたみたいに。
その光は、静かに遠ざかっていった。
第六話 すれ違うリズム (終)
▶ Solaria 2nd Stage 第七話|
― 雨に溶ける声 ― へ続く
