アスティに人種問題? 実写版『ヒックとドラゴン』キャストについて考察
実写版『ヒックとドラゴン』のキャストについて考察&解説
025年6月13日に全米での公開が決定し、日本でも2025年秋に公開されることが明らかになった実写版『ヒックとドラゴン』。その人気は凄まじく、ディズニー&ピクサーの新作映画『星つなぎのエリオット』が、実写版『ヒックとドラゴン』との衝突を避けて公開を延期したのではないかと考察されるほどだ。
それほどまでに注目を集める作品である実写版『ヒックとドラゴン』だが、その中でも一際注目を集めている話題がある。それはヒロインであるアスティ役のキャストの人種問題だ。
ヴァイキング役のキャストについて考察&解説
実は多様なヴァイキング文化
アニメ版『ヒックとドラゴン』では、アスティの容姿はブロンドに青い目と典型的なアーリア人であった。それに対して実写版『ヒックとドラゴン』でアスティ役にキャスティングされたのは、イギリス出身でジンバブエ人の祖母を持つニコ・パーカーだ。このアスティのキャストの人種変更に一部から批判的な声が上がっているのだ。

「白人のアスティのキャストが有色人種に変えられた! ポリコレだ! 逆人種差別だ!」という声も散見されるが、少し立ち止まって考えてみてほしい。そもそも本当にヴァイキングは白人の集団だったのだろうか。
「スカンジナビア半島から西ヨーロッパ沿海部を侵略したのがヴァイキングなのだから、ヴァイキングが白人なのは当然だろ!」と反論したくなる気持ちもわかる。だが、その考えはヴァイキングという集団を過小評価した産物なのかもしれない。
ヴァイキングは研究が進むにつれて、非常に多様な文化を持つ集団であり、単純な力任せの白人的かつマチズモ的な集団とは言えなかったではないかと考えられている。その例として挙げられるのがビルカの女性ヴァイキング戦士だ。
ヴァイキング=マッチョな白人男たちは間違い?
ビルカの女性ヴァイキング戦士とは、スウェーデン南東部にあたるビルカで発見された裕福なヴァイキングの墓に埋葬されていた人物である。墓には剣と鏃が副葬品として埋葬され、二頭の馬の骨も確認された。それだけで戦士として立派な人物だったことが考察できる墓だ。
その墓を見て、多くの学者が高名な男性ヴァイキング戦士の墓だと考察した。その考察は後にひっくり返されることになる。何と、埋葬されていたヴァイキング戦士の骨のDNA鑑定を実施したところ、ヴァイキング戦士は男性ではなく、女性だったのだ。
ビルカの女性ヴァイキング戦士の発見によってヴァイキングが持つマチズモなイメージは(完璧にとは言えないが)打ち砕かれた。これだけでも既存のヴァイキングのイメージは変わったことだろう。つまり、アスティやヴァルカのような女性戦士もヴァイキングには実在していたのだ。
ヴァイキングは白人だけじゃなかった?
話が少々ずれてしまったので、本題に戻そう。そもそもヴァイキングは白人の集団だったのか。それはイエスであり、ノーとも言えるだろう。何故答えが曖昧になるのかというと、ヴァイキングがあまりにも広い範囲に冒険でたり、貿易を行っていたりしていたためだ。
ヴァイキングたちの船はヨーロッパを越えて、イスラーム圏であるアラビア半島や北アフリカまで進んだという学説が存在している。そしてそれを裏付けるようにヴァイキングの墓の中からイスラームにおける神を意味する言葉「アッラー」やイスラーム銀貨などが発見されているのだ。
この学説については、ヴァイキングはあくまでも金や銀の財宝などを巡って取引しただけであり、イスラームを信仰していたわけではないというのが主流だ。その一方でヴァイキングにペルシャ系の戦士もいたのではないかと考える者もいる。
ヴァイキングはそれ以外にも、コロンブスが到着する前に北アメリカ大陸に上陸した痕跡が残されている。ランス・オ・メドー集落遺跡にはヴァイキングが入植を試みたとされる跡が残されており、ヴァイキングたちが世界各地に広がり、そこで人種の違う人々と交流していた可能性はゼロではない。そのため、実写版『ヒックとドラゴン』で有色人種のヴァイキングがいても、それを否定することは難しいと言えるだろう。
アスティのキャストに関する公式の見解を解説&考察
『ヒックとドラゴン』はフィクション
ここでもう一度、アスティのキャスティング問題に戻ろう。まず、「歴史的に見てヴァイキングに有色人種がいるのはおかしい!」という意見に対して、「ヴァイキングには有色人種がいた可能性がある」という反論ができた。
まぁ、アスティのキャスト問題ばかり取り上げられるが、ニコ・パーカー以外にも有色人種のマオリ族の血を引いているジュリアン・デニソンがフィッシュ役にキャスティングされていることを突っ込んでいないことからも問題の本質が見えてくるが。

そして、ここからが最も重要なことになる。そもそも、実写版『ヒックとドラゴン』はフィクションだ。ヴァイキングの時代にドラゴンは存在しないし、(ドラゴン愛好家の筆者として認めるのは苦しいが)過去現在未来、いついかなるときもドラゴンは実在していない。これはフィクションの話なのだ。
あとヴァイキングは角付きの兜を被っていなかったのも有力説なので、ヴァイキングの描写そのものがフィクションだ。まずは『ヒックとドラゴン』はフィクションであり、キャストも時代に合わせて変わっていってもおかしくないと考えよう。
また、実写版『ヒックとドラゴン』は原作者のクレシッダ・コーウェルのお墨付きなのだ。そのため、ニコ・パーカーのキャスティングにも理由があると考察することもできる。
ディーン・デュボア監督「演技を見るまでまってほしい」
アスティ役のキャストにニコ・パーカーを起用したことについて、アニメ版『ヒックとドラゴン』の監督であり、実写版『ヒックとドラゴン』でも引き続き監督を務めるディーン・デュボアは米Screen Rantにて以下のように回答した。

ニコ・パーカーをキャスティングでき、彼女は実際にそのすべてを自信を持って演じることができました。 ネット上で彼女がブロンドでないとか白人でないとか文句を言っている人たちは、ニコ・パーカーの演技を見るまで待ってほしいです。彼女の演技は私に知るべきことをすべて教えてくれました。 『ヒックとドラゴン』は一つの神話を拡大したものでもあるから、このコミュニティでは全員が白人である必要はないのです。 彼らは同じヴァイキングの旗の下に、さまざまな場所から集まった戦士たちなんです。
それによって世界が広がり、そもそも彼らがなぜバーク島にいるのかという真の目的が生まれます。 ヴァイキングたちは今、何世代にもわたり、すべてを混ぜ合わせてきました。 多様なキャスティングにまつわるナンセンスなことはすべて、私は割り引いて考えています。 映画を見れば、自ずと答えは出るでしょう。
ディーン・デュボア監督はバーク島を単なる孤島にするのではなく、さまざまな人々が集まって暮らし、ドラゴンと戦っている勇敢なヴァイキングの島にするようだ。それを描くためにさまざまな人種が登場できるようなキャスティングにしたことが読み取れる。多種多様な人種と多種多様なドラゴン。バランスの取れた演出とも言える。
また、ディーン・デュボア監督はニコ・パーカーの演技を見て、彼女をキャスティングしたとも述べている。確かに筆者も予告編でニコ・パーカーがデッドリー・デンジャーの棘を避け、斧を構える姿を見て「アスティだ!」と思わず叫んでしまった。

ディーン・デュボア監督の言う通り、私たちはまだ実写版『ヒックとドラゴン』を予告編でしか見ていない。本編でニコ・パーカーがどのような演技をして、それによってヒックの憧れであり、ストイックが理想のヴァイキングだと語ったアスティ像を組み立てていくのかを知らなければならない。ニコ・パーカーのキャスティングが正しかったかどうかは本編である実写版『ヒックとドラゴン』を観てから判断すべきだろう。
多種多様なキャストが彩るマルチバースのアスティ
他にもユニバーサル・スタジオ・北京では、アスティやヒックなど、オールキャストがアジア人の『How to Train Your Dragon Untrainable』が公演されている。こちらはTEA2023 Thea Award for Outstanding Achievement(Live Event)という優れたエンターテイメントやアトラクションにテーマ・エンターテイメント協会より送られる賞を受賞した傑作ミュージカルだ。
さらに言えば、ダブルキャストではあったが最初の舞台化作品である『How To Train Your Dragon Live Spectacular』ではベトナム系のジェンマ・グエンがアスティを演じている。ちなみに彼女はYoutubeで空手の演舞などを公開しているので、ぜひ動画を視聴してみてほしい。
そもそも論になってしまうが、アニメ版『ヒックとドラゴン』でアスティの声優を務めてきたアメリカ・フェレーラはメソアメリカの先住民で、中米ホンジュラス西部の高地、エルサルバドル東部に暮らすレンカ族の血を引いていると公言している。そのため、「ヒックとドラゴン」シリーズでは有色人種がアスティを演じた回数の方が多い可能性が高い。
このように現在、さまざまなユニバースに多種多様な人種のアスティがいる。「ヒックとドラゴン」シリーズは原作との相違点も含めてマルチバース的に考えるのが正解かもしれない。
どんな人種のアスティがいても良い。100人のヒクドラファンがいれば、100のアスティ像がある。この寛容さが「ヒックとドラゴン」シリーズの魅力であり、ヒックとトゥースのような「ヴァイキング対ドラゴンという因縁を超えた友情の如き尊さ」があるのではないだろうか。
参考文献
NATIONAL GEOGRAPHI「有名なバイキング戦士、実は女性だった」
NATIONAL GEOGRAPHIC「米先住民とバイキングに血縁関係?」
BBC News Japan「なぜバイキングの死装束に「アッラー」と」
BBC News Japan「ヴァイキング、1000年前に北米で定住 遺跡の木片で特定=研究」
ナゾロジー「ヴァイキングは「ツノ付き兜」をかぶっていなかった可能性が高い」
Screen Rant「"Well, They Can Watch The Animated Movie": How To Train Your Dragon Director Responds To Live-Action Detractors As New Trailer Releases」
