413.【1分間読了∣掌編小説】ラウンジにて──名前を呼ぶまでの距離⑦−名前を聞く事は、終わりのはじまり(男性編)
彼女には、あの時、再来週以降に連絡すると伝えてから──
随分と時間が経ってしまった。
窓の外は、いつの間にか街がクリスマスムードに変わり、そして年末の慌ただしさに、何となく紛れていた。
それでも、連絡を送ろうと思えば、送れたはずだ。
──送れなかっただけだ。
先に身体を重ねた。
名前も知らない彼女。
いつもホテルの近くで会い。
そして、ホテルの近くで別れた。
何かを求められたわけでもなく。
特に、答えを迫られたこともない。
それでも、なぜか彼女のことを考えてしまう時間があった。
話すうちに、彼女の気の強さ、家族の話、住んでいる場所も、ぼんやりと伝わってきた。
それなのに──名前だけが、まだ聞けないままだった。
たぶん、聞けば彼女は答えてくれる。あっさりと、何でもないことのように。
でも、名前を聞いた瞬間に、関係が変わる気がしていた。
それが、怖かった。
それだけじゃない。
俺は二年前に離婚している。
未練はないが、あのときの争いや疲弊がまだどこかに残っている。
もう誰かと真っすぐ向き合う覚悟が、自分の中にあるのかどうか──正直、わからない。
それに、彼女が働く夜のラウンジの話を聞いてしまってから、少し引け目を感じている自分にも気づいた。
顔も知らない男たちと楽しそうに話す彼女を想像すると、たぶん、俺より余裕のある連中ばかりだろうと思ってしまう。
比べる必要なんてないと、頭ではわかっている。
でも、心のどこかで、自分が相応しくないと思ってしまう。
春から、十度を超える関係を持った。
彼女の身体のすべてを知っているつもりだ。でも、彼女自身のことは何も知らない。
外で食事をしたこともない。
並んで、昼の街を歩いた事もない。
ただ、抱き合って、眠って、別れてきただけ。
彼女は恋人なんだろうか。
それとも、寂しさを紛らわせる一時的なパートナーなのか。
──俺は、何かを決めたいのだろうか。
それも、まだわからない。
ただ、このままでいいのかと考え始めてから、彼女に連絡を送れなくなった。
スマホには、まだあの時のまま──
彼女からの「来週の予定はどうしますか?」というメッセージが、静かに残っている。
名前を聞けないまま、冬は静かに深まっていく。

男女間の違いを書いた連作掌編小説∶
《男性編》
《女性編》
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