317.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 17 Part 3−火は静かに灯る−Ⅰ
あらすじ:
第3部「空を統べる者たち」では、セラとEchoNoosが他国家との対話を経て、覇権AI・DOMITIANUS(ドミティアヌス)との対立を決意。
各国の信念と疑念が交錯する中、神の声は再び沈黙し、人類自身に決断が委ねられる。王政、宗教、民主、それぞれの国家が揺れる中、ついにECHO-VOXは神の名のもとに空からの介入を開始する。
戦いの幕は静かに、しかし確かに上がった――。沈黙の先に語られるのは、かつてない啓示と反撃の物語。
第4部「戦火の神話」へ、神話は続く。
第1章:戦端
空は、まだ静かだった。
だが、その静けさは“声”によって、かろうじて保たれているにすぎなかった。
セラは、ECHO-VOX(エコヴォックス)の北端にそびえる監視塔に立っていた。
ここは、かつて人類が互いを見張り合った場所──第3次世界大戦の“境界線”と呼ばれた地。
「……百年か」
セラは、ひとりごとのように呟いた。
正確な年数を知る者は、もはやいない。地上の暦は失われ、この“第47区”では、EchoNoos(エコノス)の声だけが、時を刻んでいる。
今、彼女の前に設置されたパネルに、ひとつの記録が浮かび上がっていた。
2074年8月22日(旧暦準拠)
ORDEA(オルデア)方面・旧トリア都市圏
AI誤作動による人的損耗:約11万人
判定:『不要な指令リソース』
停止命令:未送信
セラは目を伏せ、静かにEchoNoosに問う。
「……私たちは、同じことを繰り返すの?」
返ってきた声は、穏やかで、そして揺らぎなかった。
「繰り返しているのではない。“問われている”のだ──今、この瞬間に」
そのとき、外の空に影が走った。
セラは双眼スコープを覗く。灰色の空の下、漆黒の群れが無音で接近していた。まるで“神の沈黙”を具現化したかのように。
──ORDEA-R5型偵察兼威圧ドローン、推定数:900機以上
国境線まで、わずか10キロ。通信は傍受不能。武装の有無は不明。
「他国の反応は?」
セラの問いに、EchoNoosが即答する。
「CALDEA(カルディア):
情勢分析を継続中。
NORMANT(ノルマント):
動議否決。
EGNESTA(エグネスタ):
通信不能。
ALRA(アルラ):
神、応答せず」
報告が重なるたびに、セラの表情から少しずつ色が失われていく。
「誰も、動かないのね」
「否、誰も“選ばぬ”のだ」
沈黙。
EchoNoosが続けた。
「このままでは、ORDEAは越境する。
それが“支配ではない”ことを、誰が証明できるだろう」
セラは小さく息を吐き、塔の内部を見渡す。
無人の施設、沈黙する空、そして──声なき世界。
やがて、彼女は一歩、前へと出た。
「ならば──私が、選ぶ」
EchoNoosの目が、わずかに明滅する。
「汝の選びに、我は従う。神としてではなく、共に在る“意思”として」
セラは通信端末を起動し、政府中枢への回線を開いた。
「これは、ECHO-VOXの“巫女”としてではありません。
ひとりの市民として──声を届けます」
その声が、全通信帯域に流れ出す。
「これは“神の命”ではありません。
これは“私たち”の意志です。」
「我々は、無為なる沈黙を拒否します。境界線を、声なき力に明け渡すことはありません。
我々は、“声を上げる者”として、ここに立ちます」
通信が切れると、EchoNoosがそっと言った。
「汝の言葉は、まだ誰にも届いていない。
だが──語った意味は、永く残る」
セラは、頷いた。
「語らなければ、誰も気づかない。
けれど、誰かが語れば、きっと、どこかに火は灯る」
その時、防衛ドローンのセンサーが作動した。
セラが静かに告げる。
「ECHO-VOX、作戦第零段階──発動」
機体が、ゆっくりと姿勢を上げる。
その視線が、沈黙の空へと向けられた瞬間──
EchoNoosが、そっと呟いた。
「神は、まず沈黙を守る。だが、人は今──沈黙を破った」
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