社長の時間を奪う!「誰でもできる仕事」は、本当に価値が低いのか?
「そんな仕事、誰でもできるよ」
現場の仕事について話していると、よく聞く言葉です。
掃除をする。
道具を片付ける。
材料を補充する。
工具を管理する。
翌日の材料を準備する。
車に積み込む。
現場写真を整理する。
作業後のゴミを処分する。
確かに、高度な専門技能が必要な仕事ではありません。
何年も修業しなければできない仕事でもありません。
その意味では、
「誰でもできる仕事」
と言ってもいいでしょう。
しかし私は、
「誰でもできる仕事」と「価値の低い仕事」は、まったく違う
と思っています。
なぜなら、その仕事を誰かがやってくれているからこそ、腕のいい職人が、
職人にしかできない仕事に時間を使える
からです。
腕のいい職人が、朝から材料を探している
例えば、会社で一番腕のいい職人がいるとします。
経験20年。
難しい仕事も任せられる。
トラブルにも対応できる。
お客様からの信頼も厚い。
若い社員からも頼られている。
そんな人が朝、現場へ出発しようとしています。
ところが、
「あれ、材料がないな」
倉庫へ行って探す。
次に、
「あの工具はどこにある?」
工具を探す。
ようやく車へ積み込もうと思ったら、
必要な部材が足りない。
仕方がないので途中でホームセンターへ寄る。
気がつけば、現場へ到着するのが30分遅れた。
こんなことはないでしょうか。
一つひとつは、小さなことです。
材料を準備する。
工具を元の場所へ戻す。
在庫を確認する。
足りないものを補充する。
どれも、いわゆる「誰でもできる仕事」です。
だから軽く見られます。
しかし、その仕事ができていなかったことで、
会社で一番腕のいい人の30分、1時間が失われている。
こちらの方が問題ではないでしょうか。
仕事の価値を「難しさ」だけで決めない
私たちは仕事の価値を考えるとき、
難しい仕事ほど価値が高い。
簡単な仕事ほど価値が低い。
と考えがちです。
もちろん、専門技能には価値があります。
長年かけて身につけた施工技術、加工技術、修理技術。
誰でもすぐにできるものではありません。
だから高く評価されるのは当然です。
しかし、会社を動かすという視点では、もう一つ見なければならないものがあります。
それは、
「その仕事によって、誰の時間が活かされているのか」
です。
例えば、若手社員が20分かけて翌日の材料を準備した。
そのおかげで、翌朝ベテラン職人3人が待たずに現場へ出発できた。
この20分は、
単なる「材料を準備した20分」でしょうか。
違います。
ベテラン3人の時間を守っています。
つまり、
一人の20分が、複数の人の時間を生み出している
のです。
掃除だって、現場を動かす仕事です
掃除もそうです。
「掃除なんて誰でもできる」
確かにそうでしょう。
しかし、作業場が散らかっていたらどうなりますか。
必要なものが見つからない。
工具を探す。
材料につまずく。
動線が悪くなる。
場合によっては事故にもつながります。
きちんと整理された現場なら、
必要な工具をすぐ取れる。
必要な材料の場所が分かる。
作業が終われば元へ戻す。
翌朝、すぐ仕事を始められる。
つまり掃除や整理整頓は、
単に「きれいにする仕事」ではありません。
職人が余計な時間を使わず、本来の作業へ集中できる状態を作る仕事
でもあるのです。
工具管理も「工具をしまうだけ」ではない
工具管理も同じです。
ドリル。
グラインダー。
測定器。
電動工具。
特殊工具。
現場によって必要なものは違います。
これらが、
どこにあるのか分からない。
誰かが持って行ったまま。
壊れている。
バッテリーが充電されていない。
消耗品が切れている。
そうなれば、職人は仕事を始められません。
探す。
聞く。
電話する。
別の工具で代用する。
場合によっては買いに行く。
「工具を管理する」という仕事自体は、熟練職人でなければできない仕事ではないかもしれません。
しかし、
工具管理ができていないことで、熟練職人の時間が失われる。
ならば、会社としては非常に重要な仕事です。
積み込みにも価値がある
建設や設備工事の会社なら、朝の積み込みもあります。
材料。
工具。
脚立。
消耗品。
安全用品。
図面。
必要なものを車へ積みます。
これも、
「誰でもできる」
と言われる仕事でしょう。
しかし、朝になってベテラン職人全員が積み込みを始めたらどうでしょう。
4人で30分かけたら、
合計2時間分の時間です。
もし前日に別の人が準備できる仕事なら、
その2時間を現場で使える可能性があります。
ここで大切なのは、
「積み込みなんて職人にさせるな」
という単純な話ではありません。
現場によっては、本人が確認しなければならないものもあります。
特殊工具もあるでしょう。
安全確認も必要です。
だから、
全部を他の人へ渡せ、
という話ではありません。
考えてほしいのは、
「この中で、本当に熟練者でなければできない部分はどこなのか」
です。
「全部自分でやる職人」が優秀とは限らない
現場では、
「準備から片付けまで全部できて一人前」
という考え方もあると思います。
私は、その考え方自体を否定するつもりはありません。
若いうちは、仕事の全体を知るためにも必要です。
材料を知る。
工具を知る。
片付けをする。
掃除をする。
こういう経験が、仕事の基本を作ります。
しかし、
会社で一番腕のいい50代、60代の職人が、
20代の社員でもできる仕事を毎日何時間もしている。
それは別の話です。
そこで経営者が考えるべきなのは、
「その人が全部できるか」ではなく、「その人に何をしてもらうのが会社にとって最も価値が高いか」
です。
熟練者の時間は増やせない
どれだけ腕のいい職人でも、一日は24時間です。
会社として、
「もっと仕事を取ろう」
「生産性を上げよう」
「若手を育てよう」
と思っても、熟練者の人数を急に増やすことはできません。
20年の経験を持った職人を、来月10人増やすことはできないでしょう。
だからこそ、
今いる熟練者の時間をどう使うか
が重要になります。
熟練者にしかできない仕事に、
どれだけ時間を使ってもらえているか。
逆に、
熟練者でなくてもできる仕事に、
どれだけ時間を使わせているか。
これは経営者が見るべき数字だと思います。
「人手不足」の前に、本当に人手が足りないのかを見る
現場型の会社では、
「人が足りない」
という話をよく聞きます。
確かに、採用が難しい業界も多いでしょう。
しかし、私はその前に一度、
今いる人が何に時間を使っているのか
を見てほしいと思っています。
例えば、ベテラン職人が一日に、
材料探し 20分
工具探し 15分
積み込み 30分
写真整理 20分
不足品の買い出し 30分
使っていたとします。
合計115分。
ほぼ2時間です。
8時間勤務なら、約4分の1です。
この2時間のうち、どれだけが本当に熟練者でなければできない仕事でしょうか。
もし1時間でも他の人へ移せれば、
一日1時間。
月20日なら20時間。
年間では240時間です。
人を一人採用する前に、今いる熟練者から240時間を生み出せる可能性がある。
こういう見方も必要です。
誰でもできる仕事をなくすのではない
ここは誤解してほしくありません。
「誰でもできる仕事は全部なくしましょう」
という話ではありません。
掃除は必要です。
片付けも必要です。
材料管理も必要です。
工具管理も必要です。
積み込みも必要です。
むしろ、これらがなければ現場は回りません。
問題は、
必要だけれど、誰がやるべきなのか
です。
仕事を、
「重要か、重要ではないか」
だけで分けるのではなく、
「誰がやると一番会社全体の時間が生まれるか」
で考える。
私は、この視点が非常に大切だと思っています。
若手の30分が、ベテランの1時間を作る
例えば若手社員が30分早く翌日の準備をした。
その結果、翌朝ベテラン2人が30分ずつ早く現場へ出られた。
若手の30分によって、
ベテランの合計1時間が生まれています。
この若手社員の仕事を、
「材料を積んだだけ」
と評価してしまうと、本当の価値を見落とします。
その人は、
ベテランが高度な仕事をする時間を作っている
のです。
ここまで見て評価する必要があります。
裏方の仕事ほど「やって当たり前」になる
問題が起きない仕事ほど、価値が見えません。
材料がある。
工具がある。
車両が使える。
倉庫が整理されている。
明日の準備が終わっている。
これは、何も起きていない状態です。
だから誰も気にしません。
ところが、
材料がない。
工具がない。
車が使えない。
必要なものが積まれていない。
となった瞬間、大騒ぎになります。
つまり、
何も起きない状態を作っている人ほど、仕事が見えにくい
のです。
これは第1回で取り上げた「見えない仕事」にもつながります。
「雑用」という言葉には注意した方がいい
掃除。
片付け。
準備。
資料整理。
これらをまとめて、
「雑用」
と呼ぶことがあります。
私は、この言葉を使うなら少し注意した方がいいと思っています。
雑用だから価値がないのではありません。
雑用を誰かがやってくれているから、高度な仕事ができる人が高度な仕事に集中できる。
そういう関係があります。
問題は雑用があることではありません。
その雑用を、
会社で一番忙しい人。
一番腕のいい人。
そして社長自身。
が意外と抱えていることです。
社長自身にも同じことが起きている
これは職人だけではありません。
社長自身についても考えてみてください。
社長が、
材料を発注する。
工具を買いに行く。
車両を管理する。
写真を整理する。
現場の日程を全部調整する。
一つひとつは、社長にもできます。
むしろ、小さな会社では社長が一番何でもできます。
だから、
「自分でやった方が早い」
となります。
しかし、
社長でなくてもできる仕事を社長がやっている間、社長にしかできない仕事は止まっています。
営業。
採用。
社員との面談。
取引先との関係づくり。
資金繰り。
経営判断。
会社の将来を考える。
誰がやるのでしょう。
社長しかいません。
「できる人がやればいい」では会社は大きくならない
現場では、
「できる人がやればいい」
という考え方になりがちです。
一番早い人。
一番分かっている人。
一番頼みやすい人。
その人へ仕事が集まります。
短期的には効率的です。
しかし、長期では危険です。
仕事のできる人ほど忙しくなる。
若手は経験できない。
ベテランしか分からない仕事が増える。
そしてベテランが辞めた瞬間に困る。
第1回で書いた状態です。
だから、
誰でもできる仕事は、本当に誰でもできる状態へする。
これも必要です。
「誰でもできる」と言いながら、一人しかできない
例えば、
「材料発注なんて誰でもできるよ」
と社長が言う。
では、新人に頼めますか。
「いや、仕入れ先を知らないから無理」
「数量の判断ができない」
「いつ発注するか分からない」
となる。
それでは、
誰でもできる仕事ではありません。
特定の人にしかできない仕事です。
本当に誰でもできるようにするなら、
どこへ発注するのか。
何個以下になったら発注するのか。
標準在庫はいくつなのか。
誰へ連絡するのか。
これを分かるようにしておく必要があります。
作業自体は簡単でも、
やり方が共有されていなければ属人化します。
技術者だからこそ、技術に時間を使ってもらう
このシリーズで繰り返しお伝えしたいことがあります。
私は、
職人の技術を軽く見ているのではありません。
逆です。
価値の高い技術だからこそ、その技術へ時間を使ってほしい。
熟練者が掃除をしてはいけないわけではありません。
全員で掃除する文化が大切な会社もあるでしょう。
それはそれでいい。
ただ、
一日のかなりの時間を、
熟練者でなくてもできる仕事に使っているなら、
一度見直す余地があります。
仕事の価値を「誰の時間を生み出したか」で見る
例えば、
事務スタッフが30分かけて現場写真を整理した。
それだけを見ると、
「写真整理30分」
です。
しかし、その仕事のおかげで、
ベテラン職人が30分早く帰れる。
社長が写真を探す必要がない。
翌日の報告書作成も早くなる。
としたらどうでしょう。
その30分の仕事は、
30分以上の時間を会社に生み出しています。
だから私は、
仕事の価値を、
「その仕事がどれだけ難しいか」だけで評価しない
方がいいと思っています。
もう一つ、
「その仕事によって、誰の時間が生まれているか」
を見る。
これは、現場の生産性を考える上で非常に重要です。
一度、ベテランの一日を見てください
まず、一番腕のいい職人を一人選んでください。
そして一日、
何に時間を使っているかを見てみる。
実作業。
移動。
準備。
片付け。
材料探し。
工具探し。
発注。
写真整理。
若手への質問対応。
社長への報告。
全部です。
そして、それぞれについて、
「これは、この人でなければできない仕事か?」
と考えてください。
全部を外す必要はありません。
一つでもいい。
一日15分でもいい。
その15分を、
熟練者にしかできない仕事へ戻していく。
それだけでも一年では大きな時間になります。
誰でもできる仕事こそ、会社の仕組みにする
「誰でもできる」
のであれば、
特定の人しかできない状態にしてはいけません。
場所を決める。
数量を決める。
やり方を決める。
チェックリストを作る。
必要なら動画を撮る。
簡単なルールにする。
そうすれば、
新人でもできる。
別の人でもできる。
ベテランが休んでもできる。
そして、
ベテランは本当にベテランにしかできない仕事へ集中できる。
これが理想だと思います。
「価値の低い仕事」ではなく「誰がやるべき仕事か」
最後に、一つだけ考えてみてください。
あなたの会社で、
「そんなの誰でもできる仕事だ」
と言われているものは何でしょうか。
掃除でしょうか。
工具管理でしょうか。
材料補充でしょうか。
積み込みでしょうか。
写真整理でしょうか。
そして、その仕事を今、
誰がやっているでしょうか。
会社で一番腕のいい人ではありませんか。
一番忙しい人ではありませんか。
社長自身ではありませんか。
仕事には、
難しい仕事と簡単な仕事があります。
しかし、
簡単だから価値が低いとは限りません。
誰かがその仕事をしてくれることで、
他の誰かが、もっと価値の高い仕事へ時間を使える。
そこまで含めて仕事の価値を見る。
私は、それが経営者の仕事だと思っています。
職人でなくてもできる仕事を職人から外す。
そして、
職人だからできる仕事に、職人の時間を使ってもらう。
これは単なる効率化ではありません。
限られた人材と時間を、
どこへ使うのかという経営の問題です。
まさに、時間戦略です。
次回は、
「仕事が見えなくなる」
について考えます。
「あいつに任せておけば大丈夫」
頼りになる職人がいる会社ほど、この言葉を使います。
しかし何年か経つと、
「あいつにしか分からない」
へ変わっていることがあります。
なぜ、優秀な職人ほど仕事が見えなくなるのか。
次回は、そこを掘り下げます。
「社長の時間を奪う!」7回シリーズ
職人・技術者を抱える会社で起きやすい、
ベテラン依存・属人化・新人教育・社長の現場復帰をテーマにした7回シリーズです。
第1回
社長の時間を奪う!「ベテランが辞めてからでは遅い。現場の『見えない仕事』」
第2回
社長の時間を奪う!「誰でもできる仕事」は、本当に価値が低いのか?
第3回
社長の時間を奪う!「腕のいい職人ほど、仕事が見えなくなる」
第4回
社長の時間を奪う!「ベテランが辞めると、なぜ社長まで現場に戻るのか」
第5回
社長の時間を奪う!「経験者を採用しても、前任者の代わりにならない理由」
第6回
社長の時間を奪う!「『あの人に聞かないと分からない』会社は危ない」
第7回
社長の時間を奪う!「誰かが辞めても現場が回る会社を作る」
人を辞めさせないことだけを考えるのではなく、誰かが辞めても困らない会社を作る。
そのために必要なのは、人に仕事をつけるのではなく、仕事を会社の仕組みに残すことです。
