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社長の時間を奪う!「ベテランが辞めてからでは遅い。現場の『見えない仕事』



「○○さんが辞めてから、現場が大変なんですよ」

建設、製造、設備、整備、造園など、職人や技術者を抱えている会社の社長から、こんな話を聞くことがあります。

ベテラン社員が辞めた。
当然、一人分の作業者が減ります。

だから人手が足りなくなった。
多くの経営者は、まずそう考えるでしょう。

しかし、本当にそれだけでしょうか。

一人辞めただけなのに、
材料が足りない。
工具が見つからない。
翌日の段取りができていない。
誰がどの現場へ行くのか決まっていない。
取引先への連絡が漏れる。
機械の調子が悪いが、誰も直し方が分からない。

そして最後には、
「社長、これどうしますか?」
と、全部社長のところへ戻ってくる。

私は、ここに現場型企業特有の大きな問題があると思っています。

ベテランが辞めて失うのは、一人分の作業時間だけではありません。
その人が毎日、誰にも言わずにやっていた、
「見えない仕事」
まで一緒になくなるのです。


現場で見えているのは「作業」だけではない

例えば、電気工事会社を考えてみましょう。

現場で配線をする。
設備を取り付ける。
動作確認をする。
これは分かりやすい仕事です。
誰が作業したのかも見えます。

しかし、その現場が予定通り動くためには、その前にたくさんの仕事があります。

必要な材料を確認する。
不足しているものを発注する。
工具を準備する。
車両へ積み込む。
現場までのルートを確認する。
元請けと時間を調整する。
他業者との工程を確認する。
翌日の人員配置を考える。

現場終了後には、
余った材料を戻す。
工具を確認する。
写真を整理する。
報告する。
次の作業へ向けた準備をする。

一つひとつを見ると、それほど高度な仕事に見えないものもあります。
しかし、これらがきちんと行われているから、
職人は現場へ行って、すぐ本来の仕事を始められるのです。


「言われなくてもやってくれる人」がいる

ベテラン社員になると、こうした仕事をいちいち社長へ報告しないことがあります。

材料が少なくなった。
「そろそろ発注しておこう」

工具の具合が悪い。
「次の現場までに交換しておこう」

来週の現場は少し特殊だ。
「前日に確認しておこう」

そんなことを自分で考えて動いてくれます。
社長からすると、とてもありがたい存在です。

そして、いつの間にか、
それが当たり前になります。

材料があるのが当たり前。
工具が揃っているのが当たり前。
車が使えるのが当たり前。
翌日の段取りができているのが当たり前。
お客様への連絡が済んでいるのが当たり前。
問題が起きないので、社長はその仕事の存在を意識しません。

ところが、その人が辞めた瞬間に、
今まで見えていなかった仕事が一気に姿を現します。


「あれ、誰がやっていた?」

ベテラン社員が退職しました。
数日して、材料が足りないことに気づく。

「これ、誰が注文していた?」
「○○さんです」

工具が壊れた。
「これ、修理はどこに頼むんだ?」
「○○さんがいつもやっていました」

車検が近づいている。
「誰が管理している?」
「○○さんだったと思います」

取引先から電話が入る。
「前回の件はどうなっていますか?」
「詳しいことは○○さんしか……」

ここで社長は初めて気づきます。
「あいつ、そんなことまでやっていたのか」

しかし、本人はもういません。
これが「見えない仕事」の怖さです。


ベテランが持っているのは「技術」だけではない

ベテラン社員というと、
高い加工技術。
機械操作。
施工技術。
故障診断。
職人的な勘。
こうしたものに目が向きます。
もちろん、それらは大切です。

しかし、長年働いている人が持っているものは、それだけではありません。

例えば製造業なら、
「この機械は朝一番だけ少し癖がある」
「この材料ならこの条件の方が安定する」
「この取引先は、この程度の仕上がりでは戻してくる」

設備会社なら、
「この施設は裏口から入る」
「管理人さんには先に電話しておく」
「この設備は以前ここで故障した」

建設会社なら、
「この元請けは写真を細かく求める」
「この現場では、この時間帯に搬入しない方がいい」

こうした知識です。

マニュアルには書かれていません。
会社の共有フォルダにもありません。
でも本人は知っている。

なぜでしょう。
何年も経験してきたからです。

つまりベテラン社員の頭の中には、
技術だけではなく、
会社の仕事を円滑に回すための膨大な経験
が蓄積されています。


「あいつに任せておけば大丈夫」が危ない

社長としては、
「あいつに任せておけば大丈夫」
と思える社員がいるのはありがたいことです。

何から何まで指示しなくていい。
問題が起きても自分で処理してくれる。
お客様との関係もいい。
新人の面倒も見てくれる。

だから社長は現場を任せられる。
これは悪いことではありません。
むしろ、人を育てるという意味では理想的です。

問題は、
「あいつに任せておけば大丈夫」が、「あいつにしか分からない」へ変わっていくことです。

最初は任せていただけだった。
数年後には、その人しか発注先を知らない。
その人しか機械の調整方法を知らない。
その人しか顧客との経緯を知らない。
その人しか段取りを組めない。

こうなると、
人に仕事を任せているのではなく、
仕事そのものが、その人についてしまっています。


職人技まで全部マニュアルにする必要はない

こういう話をすると、
「職人の仕事なんてマニュアルにはできないよ」
と言われることがあります。

私は、それでいいと思っています。
何十年もかけて身につけた職人技を、数ページのマニュアルですべて再現できるとは思いません。

経験から来る判断もあります。
手の感覚もあります。
音を聞けば分かる。
匂いで分かる。
触れば分かる。
そういう世界があるのも当然です。

だから私は、
職人技を全部マニュアル化しましょう
と言っているのではありません。

むしろ反対です。

まず、
職人でなくてもできる仕事を、職人から外せないか
を考えてほしいのです。


腕のいい職人が、なぜ工具を探しているのか

例えば、会社で一番腕のいい職人がいるとします。

その人が朝、
工具を探している。
材料を車へ積んでいる。
在庫を確認している。
不足品を発注している。
現場写真をパソコンへ移している。
車両の点検日を確認している。
もちろん、誰かがやらなければならない仕事です。

しかし、
その仕事は、本当に一番腕のいい職人でなければできないのでしょうか。
ここを考えてほしいのです。

熟練した職人の一時間と、新人の一時間。
時計で測れば同じ一時間です。
しかし会社にとって、その一時間が持つ価値は同じではありません。
熟練者にしかできない仕事があります。

難しい加工。
高度な施工。
トラブル対応。
若手への技術指導。
お客様との重要な打ち合わせ。
そこへ時間を使ってもらった方が、会社にとって価値が高いはずです。

それなのに、
誰でもできる準備や探し物や事務処理に、熟練者の時間が消えている。
これは非常にもったいない時間の使い方です。


見えない仕事を「価値が低い仕事」と考えない

ここでもう一つ注意したいことがあります。

では、材料管理や工具管理は価値の低い仕事なのか。

違います。
むしろ重要です。

材料がなければ現場は止まります。
工具がなければ仕事ができません。
車両が使えなければ現場へ行けません。
翌日の段取りができていなければ、朝から全員が待つことになります。

つまり、
誰でもできる仕事と、価値の低い仕事は別です。
この話は次回、詳しく書きます。

大切なのは、
その仕事をなくすことではありません。

誰がやるのが一番いいのか
を考えることです。


一人の10分が、現場全体の一時間を作ることがある

例えば、一人のスタッフが翌日の材料を10分かけて確認したとします。

不足している材料に気づき、発注する。
翌朝、必要なものが全部揃っている。
5人の職人が予定通り出発できます。

もし、その10分の確認がなかったらどうでしょう。
朝になって材料不足が発覚。
誰かが買いに行く。
4人が待つ。
現場への到着が遅れる。
工程がずれる。
元請けへ連絡する。

たった10分の仕事をしなかったことで、
会社全体では一時間、二時間という時間を失うことがあります。

つまり、
仕事の価値は、その仕事に何分かかったかだけでは判断できません。

その仕事によって、
誰の時間が生まれたのか。
誰の待ち時間をなくしたのか。
誰が本来の仕事に集中できたのか。
ここまで見る必要があります。


ベテランが辞めて初めて分かる会社では遅い

ベテラン社員が辞めて、
「あんなことまでやっていたのか」
と初めて分かる。
これは、その社員が優秀だった証拠でもあります。

しかし経営という視点では、少し怖いことでもあります。

なぜなら、
会社が、その人の仕事を把握していなかった
ということだからです。

もちろん社長が、社員の細かな仕事を全部知る必要はありません。
それでは社長が現場管理ばかりすることになります。

しかし、
誰が何を担当しているのか。
その人が休んだら何が止まるのか。
その人しか知らないことは何なのか。
このくらいは、会社として見えるようにしておいた方がいいでしょう。


「辞める予定はないから大丈夫」ではない

「うちのベテランは辞めませんよ」
そう思う社長もいるでしょう。

本人も、
「ずっと働きます」
と言っているかもしれません。

しかし、人にはそれぞれの人生があります。
病気になるかもしれない。
家族の介護が必要になるかもしれない。
独立したくなるかもしれない。
家庭の事情で引っ越すかもしれない。
そして、退職しなくても休むことはあります。

だから、
「辞めるかどうか」
を問題にするのではありません。

その人が明日から一週間いなくても仕事が回るか
を考えるのです。

これは、社員を信用していないという話ではありません。
会社としての備え、リスクマネジメントです・


ベテランを守るためにも、仕事を見えるようにする

実は、仕事の見える化は会社のためだけではありません。
ベテラン本人のためでもあります。

「あいつしかできない」
仕事が増えると、
本人は休めません。

休暇中にも電話が来る。
若手から質問される。
トラブルが起きたら呼び出される。

本人も、
「俺がいないと回らないから」
と仕事を抱えます。

頼られているうちは気分がいいかもしれません。
しかし、それが何年も続けば負担になります。

だから、
その人が持っている仕事を少しずつ見えるようにする。
誰でもできる部分は他の人へ渡す。
経験が必要な部分は若手へ教える。
本当にその人にしかできない仕事へ集中してもらう。

この方が、
ベテランの技術を大切にする会社
だと私は思っています。


ベテランの技術を奪うのではない

このシリーズを通して、一つお伝えしたいことがあります。

それは、
ベテランの技術を奪うのではありません。

標準化したからといって、
「誰でも職人と同じ仕事ができる」
と言いたいわけでもありません。

長年かけて身につけた技術や経験は、大切なものです。

だからこそ、
ベテランの経験を、その人だけのものにせず、会社の財産に変えていく。
私は、この考え方が重要だと思っています。

例えば、すべてを文章にする必要はありません。
作業しているところを動画に残す。
若手と一緒に仕事をする。
トラブル事例を共有する。
機械の設定値を記録する。
顧客ごとの注意点を残す。
できるところからでいいのです。


社長自身も「見えない仕事」をしていないか

そして、もう一つ。

これはベテラン社員だけの問題ではありません。
社長自身も同じです。

「この見積もりは社長しかできない」
「この顧客は社長しか対応できない」
「この材料の仕入れ先は社長しか知らない」
「現場で問題が起きたら、とにかく社長へ電話する」

もしそうなっているなら、
社長自身が会社最大の属人化要因
になっている可能性があります。

人を雇っているのに、なぜ社長は現場から離れられないのか。
その理由の一つがここにあります


まず、一人のベテランを思い浮かべてください

難しいことから始める必要はありません。

今、会社で一番頼りにしている人を一人思い浮かべてください。
そして、その人について考えてみてください。

その人が毎日やっている仕事は何か。
誰にも言わずにやっていることは何か。
その人しか知らない取引先はないか。
その人しか扱えない機械はないか。
その人しか分からない現場はないか。
その人が一週間休んだら、何が止まるのか。
おそらく、いくつか出てくると思います。

それが、
今まで見えていなかった仕事
です。


誰かが辞めてから探し始めるのでは遅い

ベテランが退職してから、
「どこに資料がありますか?」
「この機械はどう設定するんですか?」
「この材料はどこから買うんですか?」
と探し始める。

本人に電話する。
昔のメールを調べる。取引先へ聞く。
社長が現場へ行く

これでは時間がいくらあっても足りません。

だから、
何も起きていない今のうちに見ておく。
これが一番大切です。

辞めると決まってからではありません。
元気に、機嫌よく働いてくれている今です


「人手不足」の前に見るものがある

現場の会社では、
「人が足りない」
という話をよく聞きます。

確かに、人材確保は大きな課題でしょう。
しかし、
人を採用する前に、一度見てほしいものがあります。

今いる人が、
何に時間を使っているのか。
腕のいい職人が、
職人でなくてもできる仕事に時間を使っていないか。

特定のベテランに、
仕事と情報が集中していないか。

そして社長自身も、
社長でなくてもできる仕事を抱えていないか。

ここを整理するだけでも、
「人が足りない」
「忙しい」
の見え方が変わることがあります。


人に仕事を任せることと、人に仕事をつけることは違う

社員へ仕事を任せる。
これは必要です。
社長が全部やっていては会社は成長しません。

しかし、
人に仕事を任せることと、人に仕事をつけてしまうことは違います。

仕事を任せても、
やり方が分かる。
情報が残っている。
他の人へ引き継げる。
これなら会社の仕事です。

ところが、
その人しか分からない。
その人しかできない。
その人がいないと止まる。
となれば、
仕事が会社ではなく、人についています。

この違いは大きいと思います。


ベテランが辞めてからでは遅い

最後に、一つだけ問いかけます。

あなたの会社で、明日辞められたら一番困る人は誰ですか?
おそらく、顔が浮かんだと思います。

では、
なぜ、その人が辞めたら困るのでしょうか。

技術が高いから。
それだけでしょうか。

材料のことを全部知っている。
顧客のことを全部知っている。
機械のことを全部知っている。
段取りを全部やっている。
若手の面倒も見ている。
そんな「見えない仕事」まで抱えていないでしょうか。

人を辞めさせない努力は大切です。
しかし、それだけでは会社を守れません。

誰かが休んでも。
誰かが辞めても。
会社の仕事が止まらない。
そして、最後に社長が現場へ戻らなくても済む。
その状態を作っておくことも、経営者の大切な仕事だと思います。

ベテランが辞めてからでは遅い。

まずは、
その人が黙ってやっている「見えない仕事」を、
見つけるところから始めてみてください。

次回は、
「誰でもできる仕事は、本当に価値が低いのか?」
について考えていきます。

掃除、片付け、材料補充、工具管理、積み込み。
誰でもできそうな仕事です。

しかし、それを誰かがやってくれているから、
腕のいい職人が、腕のいい職人にしかできない仕事へ時間を使える。

次回は、
「仕事の価値を、難しさだけで決めていいのか」
という視点から、現場の時間について考えてみたいと思います。


「社長の時間を奪う!」7回シリーズ

職人・技術者を抱える会社で起きやすい、
ベテラン依存・属人化・新人教育・社長の現場復帰をテーマにした7回シリーズです。

第1回
社長の時間を奪う!「ベテランが辞めてからでは遅い。現場の『見えない仕事』」

第2回
社長の時間を奪う!「誰でもできる仕事」は、本当に価値が低いのか?

第3回
社長の時間を奪う!「腕のいい職人ほど、仕事が見えなくなる」

第4回
社長の時間を奪う!「ベテランが辞めると、なぜ社長まで現場に戻るのか」

第5回
社長の時間を奪う!「経験者を採用しても、前任者の代わりにならない理由」

第6回
社長の時間を奪う!「『あの人に聞かないと分からない』会社は危ない」

第7回
社長の時間を奪う!「誰かが辞めても現場が回る会社を作る」

人を辞めさせないことだけを考えるのではなく、誰かが辞めても困らない会社を作る。
そのために必要なのは、人に仕事をつけるのではなく、仕事を会社の仕組みに残すことです。

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