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サマソニはいつ「洋楽フェス」をやめて「K-POPとアイドルのフェス」になったのか?

サマソニの季節になると、Xで毎年こういう投稿を見かけます。

「洋楽はどこへ行ったのか」「アイドルフェスじゃないか」「K-POPばかりになった」などなどの批判です。

今年はここに、Adoがヘッドライナーに決まったことへの賛否が加わりました。

サマソニ25周年のトリ3組のうち、2組が日本人。

つまり「海外アーティストを観るためのフェスじゃなかったのか!?」という戸惑いが大きいわけです。

言いたいことはめっっっっっっっっっっっっっっちゃ、分かります

僕も10代でサマソニでレディオヘッドのライブに感涙し、20代はサマソニで初来日した海外のインディーバンドのライブをハシゴしまくっていましたからね。そして、サマソニ運営会社の清水社長も、以前のインタビューでこう言っています。

お客さんは昔のラインナップを見て「あの頃はよかった」とか言うじゃない。俺だってよかったよ!(苦笑)。でも、色んな理由からそこにはもう戻れない。

フジロック×サマソニ社長対談 運営トップが赤裸々に語る2大フェスの「今」

ただ、この手の話はたいてい印象論で進みがちだと思います。

そこで、公式サイトに残る25年分の出演者リストを全部数えてみました(2つのAIエージェントと、ChatGPTのDeep Researchを組み合わせてトリプルチェック+自分の目視)。

主な視点は「日本勢、K-POP、アイドルは実際に増えているのか?」です。

結果から言うと、「洋楽はどこへ行ったのか」「もはやアイドルフェスじゃないか」「K-POPばかりになった」という3つの声のうち、1つは事実。1つは記憶違い。そして1つは完全な誤解でした。

さらに、結果としては、どの批判も指摘していないとある変化が見えてきました。それは、サマソニは洋楽を捨てたわけではなく、「トリだけは絶対に洋楽」という序列を捨てたってコトです


筆者プロフィール:照沼健太
ポップアート2.0作家、YouTuber、音楽家。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からはYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営。

サマソニは最初から「洋楽フェス」ではなかった

昔のサマソニは洋楽フェスだった」って記憶は、正確ではありません。

第1回のサマソニは2000年。東京側の会場はまだ幕張ではなく山梨の富士急ハイランド(!)で、メインステージのトリはThe Jon Spencer Blues ExplosionとGreen Dayでした。

そしてこの初回から、Dragon Ash、THE MAD CAPSULE MARKETS、くるり、SUPERCARらが出演しています。数えると、出演32組のうち8組。最初の年から全体の25%は日本勢です。思ったより多くないですか?

最初っから、言うほど「洋楽フェス」ではなく「洋楽を中心とした日本のロックフェス」って印象です。

ただし、この比率は"イメージ通り"に一直線で増えたわけではありません。

公式サイトに残る出演者リストを25開催分すべて数えると、2001年はわずか9%と、初回より洋楽色が濃い。それが2004年に36%、2005年には一時ほぼ5割まで急上昇。ところがその後は40%前後に戻り、2018年まで一度も半数を超えないまま推移します。これはちょっと意外でした。

そして2019年に54%と半数を超え、以降は一度も5割を割っていません。

さらに今では6割前後で推移しています。

というわけで「日本人アクトの数自体が増えたのでは」という見方は、たしかに正しい。

ただし、内訳にだいぶ偏りがあるというのが今回の発見。

サマーソニックのマリンステージ(ZOZOマリンスタジアム)

全体の41%が日本勢だった2007年でも、マリンステージに限れば18組中3組、17%でした。2010年も全体45%に対してマリンは22%。日本勢の増加はまず幕張メッセの中小ステージで進んでいて、サマソニ最大規模のステージは、長いあいだ「海外アーティストのための場所」になっていたわけです。

それが変わったのが、2016年です。星野源、サカナクション、THE YELLOW MONKEYが並び、マリンの日本比率は40%へ。サマソニ公式のヒストリーでも、この年を「邦楽勢の勢いが目立った年」として記録しています。

同年のMarine Stageはサカナクションや星野源、そして復活のTHE YELLOW MONKEYと、邦楽勢の勢いが目立った年でもあった。

https://www.summersonic.com/history/2016.html

それでも、最後まで変わらなかった枠が1つだけあります。

それは、ヘッドライナー。つまりメインステージのトリです。

2000年から2018年まで、東京・大阪のメインステージでトリを飾ったのは、19回の開催すべてで海外アーティストでした。Radiohead、Oasis、Metallica、Coldplay、Beyoncé、Stevie Wonder、Queen + Adam Lambert、Foo Fighters……。出演者の半分近くが日本勢になっても、最後の1枠だけは海外勢でした。

そしてサマソニの歴史の転換点と言われることが多いのも、B'zが日本人初のヘッドライナーを務めた2019年です。

洋楽アーティストをヘッドライナーに迎える」。この序列こそが「洋楽の祭典」というイメージ/アイデンティティの実体だったのかもしれません。

日本発アーティスト、ヘッドライナーへの階段

個々の顔ぶれで見ても、日本勢は少しずつ階段を上ってきました。

  • 2000年 Dragon Ashらが初回からメインステージに出演(昼の時間帯)

  • 2004年 THE MAD CAPSULE MARKETSがBeastie Boysのトリ前に出演。稲葉浩志もGreen Day日の中盤以降に登場

  • 2009年 B'zがLinkin Parkのトリ前に出演。UNICORNはBeyoncé日のトリ2組前に登場

  • 2010年 矢沢永吉がスタジアムに登場

  • 2013年 Mr.Childrenが「ダブル・ヘッドライナー」表記に

  • 2019年 B'zが日本人として初めてトリに

2013年のMr.Childrenは公式にはMuseと並ぶ「ダブル・ヘッドライナー」でしたが、Mr.Childrenの後にMuseが演奏していて、一日の最後を締めたのはMuseでした。

主催者自身が2019年のB'zを「日本人初のヘッドライナー」と発表していることからも、2013年は序列の壁に触れはしたものの、越えてはいなかったことが分かります。

20周年を記念し、再び3日間開催に踏み切った2019年のサマソニ。3回目の出演にして日本人初のヘッドライナーに抜擢されたB'z、ジョシュ・クリングホッファー在籍時としては最後の来日となったレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、3年前のBEACH/FOREST STAGE初登場から有言実行でのぼり詰めたEDMデュオ=ザ・チェインスモーカーズらが各日の大トリを努め、それぞれのアーティストに呼応するようにハッキリとカラーが分かれた野心的なラインナップにも注目が集まった。

https://www.summersonic.com/history/2019.html

その壁を最初に越えたのが2019年、20回目の開催でのB'zです。発表は2019年1月17日。主催のクリエイティブマン、清水直樹社長は当時のインタビューで、20周年の3日間開催だから「3日間あるなら1日は冒険しよう」と考え、前年の夏にB'zへ打診したと語っています。

ここで注目したいのは「冒険」という言葉です。出演者の半数が日本勢になったその年になっても、日本人のトリは、あくまで例外として考えられていたと見ることができます。

しかし、2026年にはその例外が、3分の2になりました。

次の項で解説するように、実は今回もイレギュラーではあるのですが、とはいえ「ヘッドライナーの多数派が日本勢」はサマソニの歴史上大きな出来事となるでしょう。

「救世主」としてのAdo

Adoは実は“代打”であり、急遽出演が決定したヘッドライナーです。

その証拠に、サマソニの公式発表には異例の「経緯説明」が付いています。

あと1日のヘッドライナーが誰なのかと多種多様な意見が飛び交う中で、当初あのブランクの下に入っていたのはAから始まるラッパーでした。3月13日の日程別の発表に出せる予定でエージェントと調整していましたが、3月8日のリアーナ宅前での発砲事件の後に全てが一度白紙になり、再度の交渉には時間と労力があまりにもかかりそうだと言われ断念せざるを得ませんでした。
そこに救世主として出てくれたAdoには感謝と共に、サマソニオーディエンスの度肝を抜く圧倒的なステージを期待しています。

https://www.summersonic.com/news/2026-04-02-40744/

ちなみにSNSでは、この「Aから始まるラッパー」とはリアーナのパートナーであるアメリカのラッパーA$AP Rockyではないかと推測されています。……まあ、それ以外あり得ないと僕も思います。

僕たちも発表直後の音楽ニュース動画で、この騒動を取り上げました。

今回のサマソニ批判の論点は、大きく3つに整理できます。

  • サマソニ25周年の最後の1枠に、海外の大物を期待していた層の失望

  • 経緯を細かく開示したことで、Adoが「代役」に見えてしまったこと

  • Adoのリスナー層と、従来の洋楽フェスの客層がつながるのかという疑問

1つめは、そのまま『洋楽の祭典』の看板への期待ですね。

2つめは、Adoの側には何の落ち度もない話。発表方法の問題でしたが、経緯説明しないと洋楽ファンからはさらに批判が出ていたでしょうから、無理もないかと個人的には思います。

3つめについては、擁護の声も。というのも、Adoは複数のワールドツアーを回り、Spotifyの2025年年間ランキングでは「海外で最も再生された国内アーティスト」に選ばれているんです。海外が求める日本の音楽と、日本の洋楽ファンが求める音楽のすれ違い。そんなギャップを見ることもできるかも。

で、僕がおもしろく感じるのは、賛否どちらの意見も「Adoが云々」よりも、「サマソニとはどんなフェスなのか」を論じていたことです。

いわば「サマソニの“解釈違い”」論争って感じでしょうか。

文句なしの「洋楽ヘッドライナー」を立てられない理由

では、なぜ主催者は海外の大物をブッキングできなくなったのでしょうか。

清水社長の発言を時系列に並べると、その理由が少しずつ見えてきます。

まず2023年7月、ch FILESのインタビュー。

今の時点で来年のブッキングはすでに考えています。今はアメリカでもヨーロッパでも至る所で何十万人が入る規模のフェスができているから、アーティストの取り合いなんです。それに勝つには、早くから動く必要があります。

ch FILES「社長に会いたい」

そして2026年5月、月刊ローチケのインタビュー。

コロナ後は状況が大きく変わって、円安などの様々なアゲインストな要素もあるなかで、25周年の3日間をどう盛り上げていくか。かなりプレッシャーを感じていますね。

月刊ローチケ5月15日号

海外アーティストの出演料や輸送費の多くは外貨建てですから、同じ相手を呼ぶにも円建てのコストは膨らみ続けます。

同記事では、この発言を受けて「世界中のビッグアーティストが自身の公演を優先するなか『フェスとしての存在感をどう示すか?』というテーマを突き付けられている」と状況を要約しています。

テイラー・スウィフトやビヨンセが歴史的なツアーを行なって以降、さらに加速する「単独ツアー優先」ムーブメントの中、大物アーティストをフェスに呼ぶ難度はどんどん上がっているわけです。

もう1つ、見落とされがちな動きがあります。

それが2025年1月に始まった「rockin'on sonic」。ロッキング・オンとクリエイティブマンが組んだ年始の洋楽フェスで、初回はPulpとWeezerがヘッドライナーでした。サマソニを運営する会社自身が、洋楽ファンの受け皿を別ブランドとして用意しているとも考えられるわけです。

サマソニはK-POPとアイドルフェスなのか?

また、「アイドルフェスじゃないか」「K-POPばかりになった」という批判についても、いろいろ調べているうちにわかったことがあります。

まず「K-POPばかりになった」という声は、数字の上では大きな誤解。韓国拠点のアクトは最も多い年でも8〜9組。今年2026年は全体の1割にも届きません。

一方、「アイドルフェスになった」という声は、アイドルの定義を「ダンス&ボーカルグループ」とするならば、そんな側面があるのも事実。オーディションや事務所主導で結成された、歌とダンスを主体とするグループやそのメンバーを数えると、2013年に3組、2019年に10組、2026年の発表分では22組。その中心はBE:FIRSTやTravis Japan、HANAといった日本勢ですし、彼ら/彼女たちの動員力の高さを考えれば、組数以上の存在感があるのは間違いありません。

ちなみに同じ対談で、清水社長はこうも語っています。

MARINE、MOUNTAIN 、SONICという3つのメインステージは、洋楽比率が50%以下にならないようにしています。そこが今はギリギリのラインかなと。

フジロック×サマソニ社長対談 運営トップが赤裸々に語る2大フェスの「今」

洋楽を手放したのではない。これが主催者側の認識のようです。

こうして整理してみると、サマソニの変化は「若者の洋楽離れ」だとか「観客の好みが変わったから」という一言では説明できないのがわかります。為替と、世界規模のアーティスト争奪戦と、興行の構造変化。これらが複雑に絡み合った結果なのだろう、と。

お客さんは昔のラインナップを見て「あの頃はよかった」とか言うじゃない。俺だってよかったよ!(苦笑)。でも、色んな理由からそこにはもう戻れない。

フジロック×サマソニ社長対談 運営トップが赤裸々に語る2大フェスの「今」

まさしく「色んな理由」があるのでしょう。

まとめ:サマソニは洋楽フェスをやめたのか?

「アイドルフェスじゃないのか?」

→アイドルの定義にもよりますが、半分事実。ダンス&ボーカル系は2013年の3組から、2026年は22組になりました。

「洋楽がいなくなった。昔のほうが良かった」

 →記憶違いを含みます。「昔のサマソニ=洋楽フェス」と断言するには、最初から日本勢の比率が高い。そもそも初回から25%は日本勢。

「K-POPばかりになった」

これは完全な誤解。最も多い年でも8〜9組。今年は全体の6%。

ということで、サマソニが失ったものを数えることもできますが、新たに生み出したもの、得たものもたくさんあるはず。

その視点から、僕は今年のサマソニを観てみたいと思います。

(照沼健太)

あとがき:「そもそもJ-POPの“質”が上がった」

この10年で状況は大きく変わりました。

米津玄師や藤井風の楽曲が海外のチャートやプレイリストに普通に現れるようになり、Adoは国内アーティスト最大規模のワールドツアーを実施。XGのように最初から世界市場をターゲットにしたグループも登場しました。

洋楽と邦楽の非対称が薄れたのなら、「トリだけは洋楽」という序列だけが残り続ける理由はありません。サマソニの25年の変化の“色んな理由”の中には、為替の苦境などマイナス的な側面だけでなく、こうしたJ-POPの発展も関わっているはずです。

宣伝を兼ねて書くと、サマソニが変わってきた25年間の歴史は、僕たちが『J-POP 3.0ディスクガイド』という本で追いかけてきたテーマとそのまま重なります。

書いた後に初めて気づいたのですが、この本は「洋楽の視点から、世界のポップ音楽にJ-POPを位置付ける」内容になっています。まさにサマソニ的じゃないですか?

↑僕らのYouTubeでもサマソニ感想ライブ配信をお届けする予定です。


主な出典

  • 出演アクト数・日本比率・K-POP/アイドル数は、SUMMER SONIC公式HISTORYおよびARTISTSページ掲載の東京公演ラインナップから全25開催分を集計(深夜枠とキャンセル明記のアクトは除外、複数日出演は1組として計数、国籍は主な活動拠点で分類。2つの独立集計を照合して確定、拠点判定に幅のある少数アクトにより±1ポイント程度の幅があり、2005年は49〜51%。2026年は8月1日時点の発表分)


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