和訳を覚えるだけの英単語学習は足りない
前回の記事で、「英単語学習で、単語の和訳を暗記するだけではまったく足りない」という話をしました。
今回はこの、「和訳を覚えるだけではだめ」という点をピックアップして、この話をより深く掘り下げます。
前提:和訳の暗記で結果的に OK な場合もある
この記事で伝えたいことは、和訳の暗記だけではダメ、ということですが、和訳の暗記だけでも結果的になんとかなることはあります。ただこれは厳密には暗記ではなく、たまたま意味をとらえることに成功する、というパターンであるといえます。
具体例で説明します。たとえば、steady-state diffusion という専門用語には、「定常拡散」という、対応する日本語の専門用語があります。この場合、定常拡散についてよく知っている人に対して、steady-state diffusion とは定常拡散のことです、と説明すれば、それで OK です。
「定常拡散は steady-state diffusion のことですよ」と説明すれば、それを聞いた人の中で、「定常拡散が指し示すイメージは、steady-state diffusion が指し示すそれとまったく同じだ」という理解が完成します。定常拡散と steady-state diffusion が指し示すイメージが偶然一致していたから、英語と日本語の和訳のペアを覚えるだけで結果的にその単語を習得できたという、ラッキーな例です。
ただ実際には、そうではない、つまり、この単語の和訳はこれです、おしまい、という説明の方法ではまったく足りない場合のほうが多いです。以降ではこの、和訳を覚えただけでは意味をつかめないという例を、2 つの具体例で示します。
例 1:指示代名詞と人称代名詞
ひとつめの例は代名詞です。指示代名詞(this, that, these, those)と人称代名詞(I, we, you, he, she, they, it)に関しても、英語と日本語の和訳を暗記するやり方ではまず不十分です。
たとえば、this=これ、that=あれ、it=それ、と暗記していませんか。その場合、以下のような英文を正しく理解することは困難になります:
This one is not that big.
そんなに大きくない。
指示代名詞 this と that の違いは、物理的または心理的な距離が近いかどうかであり、これは日本語のこそあど言葉の「これ」と「あれ」と必ずしも対応しません。that=あれ、と考えていると、that big をどうとらえらばよいのか、わからなくなります。
例 2:中学英語の動詞
実は、中学英語で出てくる一見かんたんな英単語であるほど、その運用に苦労します。これはなぜかというと、中学単語の意味がブロードであり、意味の解釈の幅がめちゃくちゃ広く、ものすごく多種多様なコンテキストで使用されるからです。
たとえば、get という単語を和訳して、と言われたらなんと言いますか。「手に入れる」などの答えが考えられそうですが、get=手に入れる、という理解ではまったく足りません。
get が担うイメージは「動き全般」であり、どうとでも解釈することが可能な万能選手のような動詞です。けっして、「手に入れる」だけではなく、それよりもずっと広い領域で使用されます。
他にも、行く=go、来る=come と「暗記」していると、The light went out(灯りが消えた)やDreams come true(夢が叶う)などの表現を捉えられなくなります。go は話題の中心から外に行くこと、come はその逆であり、日本語の行くや来ると一致しないことがあるのは当然です。
go out(消える)など、動詞と前置詞or副詞のひとまとまりでつくる、動詞っぽい機能を持つ要素を句動詞(phrasal verb)というのですが、この句動詞は得に話し言葉で好んで多用される傾向があります。この句動詞に現れる語彙のほとんどは中学単語であり一見簡単そうなのですが、go outの例で説明したように、「和訳」を覚えているだけではまったく意味を見て取ることはできません。
さいごに
今回の話に限ったことではありませんが、日本語には日本語の、英語には英語の独自の都合があります。語彙についても同じで、日本語の語彙の都合を英語にもちこむことは、回避できるように努める必要があります。
和訳は日本人の都合です。英単語学習で便宜上和訳を使用することは問題ないのですが、それはあくまでも、その単語が担う「イメージ」を理解するための手段であると考えてください。英語学習の過程における和訳や日本語の説明は便利ではあるが、それらは、「そのうち」完全に破棄しなければならない、という話は、別のnote記事でもしています:
今回の記事の内容に似た、英単語や語彙などのネタは、「単語・語彙」にまとめています。こちらもぜひご覧ください。肩の力を抜いて気楽に楽しめる内容であるはずです:
▼この記事を書いた人▼
そっちゃそ
フリーランス英日翻訳者。本業で培った知識や経験をもとに、発音指導をはじめとした語学指導もやっています。noteは、僕の思想や考えをひろく公開するために使用しています。僕の思想や考え方については、考察と思想哲学のマガジンにまとめているのでこちらをぜひご覧ください。詳しいプロフィールはこちらから。
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主な著作:「自分の意見を言うことは『役に立つ』」、「外国語を学習すると決めたときに読む本」、「英語発音学習の第一歩」。既刊一覧はこちらから。
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さいごに
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