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【プラトン後期対話篇】まとめ

〖はじめに〗

ソクラテスは死んだ。

プラトンは、正義を語り、魂を語り、愛を語り、理想国家まで描きました。

では、その先に何が残るのでしょうか。

理想は美しい。
けれど人間は、いつも理想どおりには生きられません。

知ったつもりになる。
偽物にだまされる。
快楽に流される。
政治は乱れ、国家は欲望によって壊れていく。

後期対話篇のプラトンは、ただ理想を掲げるのではありません。

その理想が、不完全な人間の世界で本当に生き残れるのか。

その問いを、最後まで考え抜いていきます。

① 知識とは、本当に知っていることなのか

『テアイテトス』

最初に問われるのは、「知識とは何か」です。

若き数学者テアイテトスは、知識とは感覚であり、正しい意見であり、さらに説明を加えたものだと答えます。

しかしソクラテスは、そのたびに問い返します。

夢の中で見たものは知識なのか。
正しい意見を偶然持っただけなら、本当に知っていると言えるのか。
説明の正しさは、何によって判断するのか。

ソクラテスは自らを「産婆」にたとえます。

知識を与えるのではない。
相手の考えを取り出し、それが本当に生きた考えなのか確かめるのです。

結局、対話は行き詰まります。

けれどそれは失敗ではありません。

プラトンはここで、人間が「知っているつもり」になる危うさを描きました。

後期対話篇は、確信ではなく、疑いから始まるのです。

② 偽物の賢者を、どう見分けるのか

『ソピステス(ソフィスト)』

知識とは何か。

その問いが難しいなら、次に問題になるのは、知者のふりをする人です。

ソフィストです。

彼らは本当に知っているわけではありません。
けれど言葉は巧みで、議論にも強い。
まるで知者のように見える。

ここでプラトンは、偽物とは何か、嘘とは何かを問います。

もし「存在しないもの」が完全に存在しないなら、嘘も偽物も説明できません。

たとえば偽物のブランド品は、本物ではありません。
しかし、何もないわけでもない。
偽物として存在している。

この違いを見抜けなければ、人は偽物の知恵にだまされます。

本物と偽物の区別を突き詰めたプラトンは、次に現実の政治へ目を向けます。

③ 本当の政治家とは、どんな人か

『政治家』

政治家とは、人々を支配する人でしょうか。
命令する人でしょうか。

プラトンは、政治家を「織物職人」にたとえます。

織物は、同じ糸だけでは作れません。

強い糸だけでは布は破れる。
柔らかい糸だけでも形にならない。

異なる糸を編み合わせて、初めて丈夫な布になるのです。

国家も同じです。

勇敢な人。
慎重な人。
自由を求める人。
秩序を求める人。

政治とは、違いを消すことではありません。

違う人々を結びつけ、破れにくい共同体を作ることです。

完璧な支配者ではなく、多様な人々の調和を作れる人こそ、本当の政治家なのです。

ここで理想国家は、現実の運営という問題へ降りてきます。

④ 世界は、なぜ秩序を持つのか

『ティマイオス』

政治の問題を考えたプラトンは、さらに視線を広げます。

国家が秩序を必要とするなら、世界そのものはなぜ秩序を持つのでしょうか。

『ティマイオス』では、宇宙の誕生が語られます。

世界は偶然できたのではない。
善なる知性によって、できる限りよいものとして作られた。

時間もまた、最初から存在していたのではありません。

天体が動き、昼と夜が生まれ、季節が巡る。
その秩序ある運動の中で、時間は生まれます。

人間は、混乱した宇宙に投げ込まれたのではない。
秩序ある宇宙の一部として生きている。

だから人間の魂もまた、その秩序に近づかなければならない。

『ティマイオス』は宇宙論であると同時に、人間は何に合わせて生きるべきかを問う作品でもあります。

⑤ 国家は、なぜ堕落するのか

『クリティアス』

ここで登場するのが、アトランティスです。

巨大な島。
豊かな土地。
壮麗な神殿。
王たちの会議。
青銅の石板に刻まれた掟。

かつて王たちは、ポセイドンの血を引く者として、神への畏れを忘れませんでした。

雄牛を捧げ、誓いを立て、掟に従って国を治めていたのです。

しかし時が流れるにつれ、神の血は薄れていきます。

欲望が強くなる。
富を求める。
支配を求める。

そして立派だった国家は、ゆっくり帝国へと変わっていきます。

重要なのは、アトランティスが最初から悪だったわけではないことです。

むしろ優れた国家だった。
だからこそ恐ろしい。

国家は外敵だけで滅びるのではありません。

内側の魂が乱れたとき、静かに崩れ始めるのです。

未完の『クリティアス』は、ひとつの問いを残します。

人間は豊かになっても、なお節度を保てるのか。

⑥ 快楽は、悪なのか

『ピレボス』

国家が欲望で壊れるなら、快楽は悪なのでしょうか。

晩年のプラトンは、再び幸福の問題へ戻ります。

快楽を求める人生。
知恵を求める人生。

どちらが善い人生なのか。

快楽だけの人生は、動物のようになってしまう。
では知恵だけで、喜びのない人生はどうか。

それも人間らしい幸福とは言えません。

答えは、どちらか一方ではありません。

大切なのは、知恵によって快楽が整えられることです。

晩年のプラトンは、快楽そのものを否定しませんでした。

善い人生とは、快楽を捨てることではない。
快楽が正しい場所に収まることなのです。

そして問いは、最後の作品へ向かいます。

不完全な人間を、どうすれば少しでも善く導けるのか。

⑦ 理想は、法律になれるのか

『法律』

プラトン最後の大作です。

ここには、ソクラテスが登場しません。

舞台もアテナイではなく、クレタ島へ向かう道です。

三人の老人が歩きながら、新しい国家の制度を考えていきます。

教育。
音楽。
祭り。
結婚。
財産。
相続。
犯罪。
裁判。
役人。
監査。

話題は驚くほど現実的です。

まるで哲学書ではなく、国家運営の設計書のようです。

しかし根底にある問いは変わりません。

人間は完全ではない。
だから放っておけば乱れる。

怒りに流され、欲望に負け、神々を忘れる。

だから法律が必要になる。

けれどプラトンにとって法律は、命令の集まりではありません。
罰で脅すための道具でもありません。

法律とは、魂を導くための仕組みです。

子どもを育てる。
習慣を整える。
祭りや音楽で感情を整える。
罰によって魂を治療する。

国家全体を、少しでも善へ向かわせる。

哲学者がいなくても。
人間が完全でなくても。

それでも国家が崩れないようにするにはどうすればよいのか。

その答えが、法律だったのです。

❶人間は弱いだから法律が必要時なる

❷国家はどう生まれどう壊れるのか

❸国家は子供の育て方から始まる

❹国家は、人々の「毎日」を設計し始める

❺犯罪と罰は、魂を治すためにある

❻神は存在するのか。神は買収できるのか。

❼国家を守る最後の仕組み。夜の会議。

【おわりに】

理想は、現実に耐えられるのか。

プラトンの答えは、おそらくこうだったのでしょう。

そのままでは耐えられない。

人間は弱い。
知っているつもりになる。
偽物にだまされる。
快楽に流される。
富におぼれる。

国家もまた、放っておけば崩れていく。

けれどプラトンは、そこで理想を捨てませんでした。

理想を法律にする。
教育にする。
習慣にする。
制度にする。

不完全な人間が、少しでも善く生きられる形へ変えていく。

それが後期対話篇の歩みでした。

ソクラテスの問いから始まった旅は、最後には法律や教育という、とても地味な場所へたどり着きます。

けれどプラトンは知っていたのでしょう。

国家も人生も、結局は日々の習慣によって形づくられることを。

完璧な国家ではなく、壊れにくい国家へ。
完全な人間ではなく、少しずつ整えられる人間へ。

後期対話篇は、理想主義者プラトンが現実から逃げずに書いた、最後の設計図だったのです。

そしてその問いは、今も私たちの問いです。

不完全な自分が、少しでも善く生きるにはどうすればいいのか。

二千年以上前の哲学者は、今も静かにその問いを投げかけ続けています。

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