フィードバックを受けないおじさん・おばさんが終わる理由
はじめまして、Akiさんです。日系大手人事としてキャリアをスタートし、欧州駐在を経て外資系企業へ。いまは外資系企業でアジア9カ国の人事責任者をしながら、個人事業(躍進パートナーズ)で全国の中小企業支援、そして、SNSで経営戦略人事のリアルについて発信しています。
先に言っておきますが、今日のタイトルの「おじさん・おばさん」には、私自身のことも含まれています。
皆さんは、最近、耳の痛いフィードバックを受けたことはありますか。あるいは、最近、誰かに注意されたのはいつだったか、すぐに思い出せますか。今日の話が、そんな方の気づきになれば嬉しいです。
このnoteでは、私が実際に受けた一つのネガティブ・フィードバックをきっかけに気づいた、「立場が上がるほど、誰も注意してくれなくなる」という落とし穴と、その対処法について書いています。
管理職・経営者の方はもちろん、これからキャリアを積んでいく全ての方に読んでいただきたい内容です。
1. 「私にも刺さった」あるフィードバックの話
先日、サラリーマンを務めている本業の会社で、2025年度の査定評価を受ける機会がありました。多くの外資企業では、年度が4〜3月ではなく、1〜12月(暦年)になっています。私の会社も外資で、年度=暦年と揃っているので、この時期に評価をするのです。
評価といっても、上司が決めて、部下に一方的に通告する、というスタイルではありません。部下側(ここでは私)が、期初の目標対比で、できたこと・できなかったことを棚卸しした上で自己評価をします。自分でウンウンと唸りながら、パソコンでパチパチと棚卸しをしていく感じです。
この自己評価と並行して、仕事で関わった人達から、フィードバックのコメントをもらうことも義務付けられています。フィードバックのコメントは、「強み」と「今後の伸びしろ」の2つの観点から書かれます。「今後の伸びしろ」には、耳の痛いこと(ただし、本人の成長には必要)、つまり、ネガティブ・フィードバックも含まれます。
今回、私自身、コミュニケーションに関して、一つのネガティブ・フィードバックを受けたのです。内容の詳細は伏せますが、「私の社内での立場を考えると、私の発言がどう受け止められるか、これを意識したほうがいい」というものでした。思いっきりナイフで一直線に、ズブっと刺された感じがしました。大量出血です。
普段偉そうにnoteで記事を書いたりしていますが、私も人間です。止血のため、自己防衛本能が出てしまったのでしょう。その時は、素直にそのフィードバックを受け止めることはできませんでした。正直、数日は凹みました。自身としては、ある意味、必要に駆られて、意識的に、戦略的にそうしていた部分もあったからです。
モヤモヤしました。裏目に出たか、という残念な気持ちと、「なんと、ありがたい」という気持ちもありました。少し自覚していた部分もあったからです。将来、より高位のリーダーポジションを目指すうえで、支障になるかもな、と、どこかで思っていた節もあったのです。
2. フィードバックは、批判ではなく「ギフト」
ところで、フィードバックは、批判ではなく、相手のためを思っての「ギフト」という位置づけです。ですから、フィードバックは、「いただいた」ものであり、自己の成長のために真摯に受け止めるのがマナーです。そうしないと誰もフィードバックをしてくれなくなります。
私は、これを機に、冬休み中に、コミュニケーションを見直し、自身のアウトプットの仕方を徹底的に振り返りました。別のnote記事で、「冬休みに本を7冊読んだ」という記事を書きましたが、そういう影響もあったのです。
お陰様で、私の人生の中でも、最も充実していた冬休みとなりました。内省と、次に向けてのフレッシュなスタートが切れそうだという気持ちになれました。このフィードバックがなければ、こうはならなかったでしょう。
3. なぜ、立場が上がるほど、誰も注意してくれなくなるのか
さて、そうは言いながら、この記事に、刺激的なタイトルを早速つけてしまいました(笑)。ただ、ふと気づいた点を皆さんにきちんと伝えたかったのです。
一般的に、高位の役職になるほど、年上になっていくほど、職場では敬意を持って扱われるようになっていくものです。この副作用は、「あなたに注意をしてくれる人が少なくなっていく」ということです。
皆さんは、新卒や若手社員の時に、上司や先輩から、注意やお叱りを受けてきたのではないでしょうか。それらの「注意やお叱り」の中で、最も印象に残っているものは何ですか。一度、その時のシーンを思い出してみてください。色々と出てくると思います。
そして、今、あなたは社会人として経験を積み、仕事がある程度、自分で進められるようになってきた。おかげで周囲から注意を受けることも減った。「それは、自分が経験を積んで成長したからだ」そう思ってしまうかもしれません。まさに、脂の乗った仕事ができるおじさん・おばさんです。
しかし、現実はもしかしたら違うかもしれません。周囲には、あなたに注意したいことがあるかもしれないが、あなたに言えないだけなのかもしれません。こうして、ズレがどんどん大きくなっていく。それが勘違いを起こしてしまい、やがては「裸の王様(周囲が本当のことを言わなくなり、自分の立場や実力を誤認してしまう状態)」を生み出します。
これは、単なる気の持ちようの話ではありません。心理学には「MUM効果」という、1970年代に社会心理学者のローゼンとテッサーが実験で明らかにした現象があります。人は、悪い知らせやネガティブな情報を、相手に伝えるのを無意識のうちに避けたり、遅らせたりする、という傾向です。特に、報告する相手が上司や役職者であるほど、この効果は強く働くとされています。つまり、部下が上司に本音を言いにくいのは、性格や勇気の問題ではなく、人間が構造的に持っている心理的な傾向なのです。
「勇気を出して、声を上げてくれればいいじゃないか」
あなたは、そう思うかもしれませんが、実際はなかなか言えないものです。私たちが若手社員だったころ、眼の前にいるベテランの社員や役員に、物言いなどできましたか。なかなか難しいでしょう。私も、チキンになっていました。
4. 自分で「仕掛け」を作るしかない
となるならば、おじさん・おばさんになった私達自らが、仕掛けを作って自戒していくしかありません。
それは、「周囲は私に注意したいことがあると思うが、それをなかなか言えないだけだ」そんな自己認知をまずは持つということです。
そして、匿名でもいいから、アンケートを年に1回でもばら撒いて声を集めるということです。
これは、決して自分だけの思いつきではありません。企業の現場でも、まさに同じ発想の仕組みが広がっています。上司・部下・同僚など複数の立場から評価やフィードバックを集める「360度評価(多面評価)」の導入率は、2025年の調査で企業の4割強〜6割近くにのぼり、従業員5,000名以上の企業では約7割弱、金融業界では7割超が導入しています。導入率は2007年の5.2%から、2018年に11.8%、2020年には31.4%と、年々上昇を続けているトレンドです。
個人の自己認知だけに頼らず、仕組みとして複数方向からフィードバックを集める。これは、もはや一部の意識の高い人だけの工夫ではなく、多くの企業が「裸の王様」を防ぐために制度として取り入れている、時代の流れだと言えるでしょう。個人レベルでも、この考え方を年1回の匿名アンケートという形で取り入れてみる価値は十分にあります。きっと、人生が変わる大切な「ひとこと」を見つけられるかもしれません。
5. まとめ:フィードバックを求め続けられる人が、成長し続けられる
今回のポイントを整理すると、
立場が上がるほど、周囲から注意やフィードバックをもらえる機会は自然と減っていく
フィードバックは批判ではなく、相手の成長を願っての「ギフト」。素直に受け止めることが、次のフィードバックにもつながる
部下が上司に本音を言いにくいのは「MUM効果」という心理現象。性格や勇気の問題ではなく、構造的な傾向
「周囲は言いたいことがあっても言えないだけ」という自己認知を持つことが、裸の王様にならないための第一歩
360度評価(多面評価)の導入率は年々上昇中。個人でも、匿名アンケートなど「仕掛け」を作ってフィードバックを集めにいく姿勢が大切
耳の痛いフィードバックほど、本当は自分の成長にとって価値のあるものです。皆さんも、年に一度でいいので、自分から声を集めにいく機会を作ってみてはいかがでしょうか。
あわせて読みたい
企業の人事担当者様・経営層の方向けの、評価制度・フィードバック文化に関する研修・講演のご依頼も随時受けております。ご興味があればお気軽にお問い合わせください。
