銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十三話(最終回) 気まぐれな音楽の女神
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「冗談だ」
アーサーさんはすました顔で言った。
「いや、あんたが出れば金が集まる。儲かるぞ」
というレイターの頭を、アーサーさんは手にしていたパンフレットで、目にも止まらぬ速さではたいた。
スパーン、と気持ちいい音がする。
「痛ってぇ。本気でぶつなよ」
とレイターはぼやいたけれど、あの速さじゃないとレイターがよけるからだ。
レイターとアーサーさんの漫才のようなやりとりを、チャムールは幸せそうに笑って見ていた。

*
チャリティコンサートから一か月が経った。
「リウミンに作曲の依頼が、来るようになったのよ」
とチャムールが嬉しそうに報告してきた。
あの日、タイタンの公民館の催しは、ずっと情報ネットワークで生中継されていたのだ。
『四季と幼子の情景』は、超難しいピアノ曲と、誰でも歌えるわらべうたの異色の組み合わせということで、一気にトレンド急上昇した。
音楽の女神『ムーサ』が、リウミンさんに微笑みかけたのだ。
*
リウミンさんが、テレビ番組に呼ばれていた。

その様子を、フェニックス号の居間でレイターと見ていた。
ピアノが上手なタレントたちが、第一楽章の『はる』を間違えずに弾きとおせるか、という企画。
事前に楽譜が渡されていたけれど、ノーミスで弾けたタレントは誰もいなかった。
わたしは素直に感心した。
「レイターすごいわね。あなた、どうして耳コピーであんなに弾けたの」
「あん? 俺、アーサーと船に乗ってた頃、音階暗号譜を解いてたからな」
「音階暗号譜って何? この間、アーサーさんも言っていたわよね」
「宙航座標の暗号が和音で送られてくるんだ。次々と来る音を聞き取ってキーボード入力するのさ。戦闘中にこの解読ミスったら、船に乗ってる全員死ぬから、マジ緊張」

「こ、怖いわね」
「その代わり、暗号通信士は給料がいい」
「それであなたやってたのね」
納得する。
「音階暗号譜はアーサーも解けねぇんだ。あいつ、理論は完璧だったけど実技が追いつけなかったんだぜ。けけけけ」

バカにした顔でレイターが笑った。
笑ってはアーサーさんがかわいそうだ。
レイターには音楽的才能があるのだから。
レイターは、居間に置いてあるギターを手にして曲を弾きだした。
リストのラ・カンパネラだ。
美しく速い指使い。思わず聞き惚れる。
わたしがリストを好きだ、と言うのを覚えてくれていたんだ。
「ねえ、ピアノでも弾いてくれない?」
「曲は弾かねぇ、って言ったろ」
ギターで弾くのは問題ない、ということなのだろうか。
「いっそ、ピアノのコンクールとかに出てみたらいいんじゃないの」
「俺は銀河一の操縦士だぜ。ピアニストじゃねぇし」
「でも、賞金だってもらえるかもよ」

「あんた、リウミンさんを見ただろ。コンクールに出てくる奴ら、って魂をムーサに売ってるんだ。普通じゃねぇんだぜ」
「じゃあ、どうしてレイターはピアノの練習をしてるの?」
「あん? ピアノの練習なんてしてねぇよ」
嘘だ。あの後、気がついたのだ。
「運指練習してるじゃないの」
レイターは格納庫で船をいじっている時、添加剤をなじませてる間とか、空いた時間に超高速でハノンを弾いているのだ。

「ノンノン。あれは操縦の練習さ」
「は?」
冗談はやめて、って言おうとして気が付いた。
「もしかして、宙航座標をキーボード入力するための?」
「当たり。俺はムーサじゃなくて宇宙の神さまに魂を売ってるからな。コンマ一秒だって素早く、かつ、ミスしねぇで座標入力するためには、訓練が必要なのさ」
レイターが笑った。
自らの魂と与えられた時間を、残らずその世界の神さまに捧げることで、一流のプロが作られていく。
この人は、生活の全てが宇宙船の操縦に繋がっている。
そして、ひるがえって、自分にはそこまで打ち込めるものがない。
悔しいけれど、何もないわたしには、レイターがまぶしく見えた。 (おしまい)
第二十四話「展覧会へようこそ」へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」