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【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#9】

その刻を止めて

【あらすじ】

 かつて魔王を倒した魔族の剣士レオルは、仲間たちと共に“冒険者”として活動していた。

 彼が所属するミレニム率いるパーティーには、
陽気な格闘家ジュラ、冷静な斥候ハクロ
ほんわかとしたエルフの少女エルフィが集い、
それぞれの夢や想いを胸に、日々依頼をこなしている。

 かつて、彼らは滅びた魔導文明の残響が残るソール森林王国で、
「世界樹」を巡る異変に巻き込まれる。
 拡大する雪雲、襲来する氷の魔獣たち――
そして出会ったのは、自らを「道具」と語る少女、グレイシャだった。

 かつての魔導文明によって造られた存在であり、
使命に縛られたグレイシャ。
 レオル達は彼女に心を取り戻させるため、黒騎士ヴァルハルトや氷の軍勢との戦いに挑む。

 世界樹を守るため命を懸けたエルフィ、
 拳で道を切り開いたジュラ、
 裏で支えたミレニムとハクロ。

 仲間たちの想いが奇跡を呼び、
 レオルはグレイシャを救い、彼女を養子として迎える。

 だが束の間の平穏のなか、
 倉庫街で再び異変が起こる。

 海魔「深淵の姫」シンエンの出現。
 商会に雇われた暗殺者カリナとノワールの襲撃。
 そして、天から降臨した対魔族兵器――天使人形ルミエルの介入。

 舞台は新たな混迷へと突入しようとしていた。

 仲間と守るべきもののために、レオルは再び剣を握る――!


【登場人物紹介】

【パーティーメンバー】

  • レオル(Leol)
    魔族の剣士。仲間と子供を守る優しき存在。魔剣と魂のスキルを操る。

  • ミレニム(Millenim)
    人間の魔女。パーティーリーダーで、頼れる指揮官。密かにレオルを想っている。

  • ジュラ(Jura)
    陽気な格闘家。戦闘狂だが仲間想い。拳で道を切り拓く。

  • ハクロ(Hakuro)
    獣人の斥候。冷静沈着で仲間思い。情報収集と警戒を担当。

  • エルフィ(Elfi)
    元エルフ族の精霊術士。レオルに淡い恋心を抱く。健気で優しい。

  • グレイシャ(Gresia)
    元ホムンクルスの少女。レオルを「パパ」と慕う。健気で純粋。


【協力者・関係者】

  • カリウス(Carius)
    「赤き砂」パーティーリーダー。堅実な知将。

  • ミィナ(Miina)
    「赤き砂」の情報通。レオルを信頼している。

  • エイラン(Eiran)
    「赤き砂」の戦闘要員。最初は敵対心を抱くが後に和解。

  • カレン(Karen)
    ギルドの事務員。レオルと良好な関係。

  • リゼル(Lizel)
    不思議な少女。只者ではない実力を隠し持つ。


【敵・対立勢力】

  • カリナ(Karina)
    電撃魔法使いの暗殺者。レオルに撃破される。

  • ノワール(Noir)
    異常な暗殺技術を持つ少女。ジュラと壮絶な戦いを繰り広げる。

  • オルト商会
    商業組織。闇の取引に手を染め、魔族や妖魔を捕らえている。


【異種族】

  • シンエン(Shinen)
    海魔「深淵の姫」。レオルたちに妹探しを依頼する。

  • シロガネ(Shirogane)
    シンエンの妹。優しい性格。

  • エレクチュア(Erekutua)
    半魔族の少女。マスターを探している。

  • ルミエル(Lumiel)
    天使人形。対魔族兵器。どこか天然で憎めないが、戦闘力は桁違い。

……………………………………………………………………………………………

トイ・ブレイカー


 「さあ、覚悟するですよ!」

 ルミエルが光る錫杖を振り上げ、シンエンの方に走り出して、盛大に滑った。

 錫杖ごと街路に頭に突っ込む形になる。

 プヘッ、と謎の音がする。

 次の瞬間、見かけとかけ離れた衝撃が、大地を震わせる。
 街路が次々と陥没し、地の底へと落ちてゆく……

陥没

 レオル達が慌てて退避する。

 地鳴りとともに穴が、深く広がっていく。
 二、三軒ほどの距離の街路が、陥没した穴の中に落ちていく。
 ただの物理的な力以外の何かが作用しているのは、明らかだ。

 「……相変わらず、力だけは常識外れですね……」
 シンエンが呆れたような顔をしている。

 「あれは……災害か?」
 レオルも魔剣を抜いたものの、手をだしかねている。余りにも、桁が外れ過ぎている。

 「……ルミエル……あなた、二百年の間に随分とポンコツになったようですね……」

 「……ポンコツ、言うなですよ!……最近、バランスを司る部分の調子が少し悪くなっているだけです!」

 ルミエルが、地団駄を踏む。
 踏んだところから、街路がへこみ、ひび割れができてゆく。
 「あの……こんなのが、本当に天使人形なんですか?」

 「シンエンさんが、こんなのに封印されたというのは、本当なんですかい?」
 ミレニムとハクロも、何か生暖かい目を向け始めている。

 「……な、何です、その人間達は……その目はなんかキツイからこっちに向けるなですよ……」
 ふとレオルの方に、その瞳が移る。
 「………そこの男、魔族ですね……海魔、お前の仲間ですか?」  
 ルミエルが、今さらながらレオルの正体に気づいて、いぶかしがる。
 彼女には、魔族や魔神などを見抜く神眼という能力がある。鑑定に近い能力である。

 「……まあ、知り合ったばかりですが、攫われた私の妹を助けてくれた方です……」
 「貴方が、よく言うところの『悪』から助けてくれた方々です」

 ルミエルが、何やら怯んだように一歩下がる。

 「……そういう善悪の議論をするために、悪とか言ってるんではないんですよ……」
 「……王国にとって害になるかどうか、の視点で物を言っているんですよ……そういう意味では、この辺りを壊したお前は立派な『悪』なのです!」

 「えー、その意味で言うなら、さっき遠目で見えたけど、君だってこの辺壊したじゃん……」
 「……つまり、害悪でしょ」
 ジュラが追い付くなり、ルミエルの痛いところを突く。

 「……が、害悪とまで言うなです!……」
 「……こうなったら、勝負ですよ!海魔……海のお前の領域で戦ってやるから、あっちで勝負なのですよ!」
 やけくそ気味に、ルミエルが海の方を指さす。

 「……イヤです」
 シンエンが、何かを含んだ言い方をする。

 「え?」
 ルミエルが、間の抜けた顔をする。

 「嫌と申しました……」
 「ルミエル、あなた……これ以上この街を壊したら言い訳できなくなるから、被害のでない海でやりたいのでしょう?……でも……」

シンエン

 辺り一帯に水が広がり、触手や竜頭が増えていく。    「……このように、私は何処でもやれます……」
 笑みが深くなってゆく……
 「……さあ、どうしますか?」

 「くうう、これ以上被害を出すと叱られるのです……」
 「……ですが、役に立つ処もみせないと、私が終わってしまうのです……雷王!」

雷王

 ルミエルが手を挙げると、巨大な鎧の騎士が空間を裂いて現れ出る。
 その重量で街路が砕け、建物のガラスにヒビが奔る。どうあっても、街への被害が広がってゆく。

 「やはり……それを出してきますか」

シンエン

 シンエンを取り囲む海水が吹き出し、辺りの建物を侵食し始める。
 荒れ狂う波間に、巨大な海竜の頭が幾つも現れ出づる。

 レオルたちは、近くの建物に飛び込むように避難する。

 「レオルさん、ミレニムさん……これは、私の撒いた種、そして私の因縁……助力は無用です!」
 シンエンが、ルミエルを見据えたまま叫ぶ。

 「……いや、そう言うわけにはいかないだろう」 
 「この街は、俺達の住むところだ……こっちは、こっちであのルミエルを止める算段はさせてもらう」

 レオルがそういうや、建物の奥の方に向かう。
 どうにか回り込んて、ルミエルを何とかする気なのだろう。
 エレクチュアが、無言でそれに同行してゆく。

 「……なるほど承知しました……」
 「……シロガネ、今のうちに海へ行きなさい。少し沖へ行ったところで人魚達が待機しています。合流して、一足先に帰っていてください」

 「ご無事で、姉様……」

シロガネ

 シロガネが一礼すると、海の方へ走り始める。ハクロが、そのあとを追う。
 「送ってきますよ……ここまで関わって、最後に何かあっては、目も当てられやしない」

 「頼んだわ、ハクロ……シンエンさん、レオルとあの天使人形のところへ行きます……状況が好転したら、海へ離脱してください」

 「ミレニムさん、感謝を……いつか、お礼に伺います」
 ミレニムは、そんなものはいらない、といわんばかりに手を振って、レオルの後を追う。
 
 ジュラもそれに続く。
 「もう、慣れっこだから、お礼はいらないってさ……今度、手合わせしてね、シンエンさん」

 「ぜひに……ルミエル、お待たせしましたね……
さあ、かかってきなさい!」
 竜の頭が咆哮を上げ、触手がうねる……雷王と呼ばれた巨人がそれを掴み、挑む。 

 「なんか、こっちが悪役みたいな雰囲気なのが、とても気に入らないのですが……」
 「……今度こそ滅してやるのです、海魔!」
 ルミエルが、錫杖を振り上げ雷を撒き散らす。

ルミエル

 シンエンは、それを波を逆巻かせて防ぐ。

シンエン

 実力は拮抗……すぐに決着する気配は、あまりに希薄にすぎた……


 「……レオル様、私に考えがあります……あの天使人形、無力化できるかもしれません」

エレクチュア

 エレクチュアがレオルに並走しながら、話しかけてくる。それなりの体力を持ち合わせているのは、半魔族故か。

 「天使人形が分かるのか?……君の国でも、あんな風なのか?」

 レオルが階段を上がりながら、エレクチュアに質問を投げる。
 思わぬところから、あの天使人形の情報が飛び出してきた。

 「流石に、あそこまで酷くありません……多分、耐用年数が、とうに過ぎているのではないかと……」
 「……天使人形は、世界中に散るマナやストラス・エネルギーを常に取り入れる精密な機構を内蔵した、神造の生体ゴーレムです……心も持ってはいますが、あくまで現地の人間とのコミュニケーションのための機構です」

 いきなり、詳細な情報を流れるように喋りだす。 
 レオルの瞳が驚きに染まる。

 「取り入れたエネルギーを転用して、神の如き力と防御を誇り、武神と呼ばれる分身を呼び出して闘います……」
 「……私の街は、それによって滅ぼされました」
 エレクチュアのの手の爪が、自分の肩に食い込む。だが、それすらも自覚していない。

 「私は、全てを失い、奴隷に堕ちました……」
 「……ですが、天使人形に対する憎しみだけは、一時たりと忘れたことはありません……あんな、もはや天使人形とも呼べないシロモノ、存在していては、いけないのです……!」
 それは、心の裂け目から噴き出す叫び……熱い血を、溶岩のようにまき散らす心の悲鳴……レオルには、そう聞こえた。

 「エレクチュア……エレクチュア、心を鎮めてくれ……」
 「……それは、自分すらも焼き尽くす冥い炎だ……それに、自分を焚べるな!」 
 レオルが、足を止めて彼女の肩を摑む。
 エレクチュアは、心の奥底に沈んだ意識を呼び戻し、レオルの瞳を覗く。

 「……レオル様もなのですね……貴方様も復讐に身を委ねたことがあるのですね……」
 「……それを冥い炎と呼べる貴方様だからこそ、私の心を理解してくださる……見ていただけますか?」

エレクチュア

 エレクチュアが髪をかきあげ、背中の肌を晒す。

 そこには、光を放つ魔石や金属が埋め込まれていた。首の後ろから背中にかけて細長い電気の糸が幾条も伸びて、先端が針のような鋭さを持っていく。

 「お目汚しを……私は、天使人形を倒すためだけの存在となりました……」
 「……奴隷をそうした兵器、『トイ・ブレイカー』に改造する組織に買い取られました。ですが、私は、これを宿命だと……思っております」

 「エレクチュア……」

 レオルの瞳に宿ったのは哀れみなのか、こんな少女にそんな物を背負わせた組織や天使人形に対する怒りなのか……

 「どうか、そんなお顔をなさらないで下さい……私は、満足しているのです……」
 レオルの顔に、白い繊手が添えられる。

 「私自身は、戦闘能力が殆どありません……ですがあの人形の不意をつくことができれば、無力化する呪を流し込むことができます……」

 エレクチュアの両の手が、祈るように握りしめられる。
 「……どうか、私を連れていってください、レオル様」

 「君は、俺が守る……あそこへ連れて行く」

 コホン、と1つ咳払い。
 「私達も、お忘れなく」

 「レオル、君……ちょっと自重してね」
 ミレニムとジュラが、階段の下から覗き込んでいた。エレクチュアが、よくわからないといった顔をしていた……


時を止めて

 「ウツロ、付いてあげて」

ウツロ

 ウツロと呼ばれた布の様な使い魔が、エレクチュアの傍に寄っていく。
 彼女が不思議そうに見上げる。

 「ウツロは、姿を消すことのできる使い魔……天使人形にどこまで通じるか分からないけど……連れて行って」

 「ありがとうございます……」
 エレクチュアが、綺麗に頭を下げる。

 建物を震わせる振動が、レオル達のところまで伝わってくる。シンエンとルミエルの戦闘の影響で、この建物もいつまでもつか。

 建物の窓から下を覗きみると、ルミエルが波を叩き割り、シンエンと対峙している。

 雷王と呼ばれる巨人に、シンエンが繰り出す竜の頭や触手が絡みつき動きを封じる。
 だが、雷王は己の身体に雷をまとわせ、触手を焼き千切り始める。

 

 「……シンエンが引きつけてくれている。悪いが、奇襲をかけさせてもらう。エレクチュアは下の階で待機を……」
 「……ミレニム、彼女のフォローを頼む」

 「分かった……気を付けてよ」
 「さすがにあの杖に当たったら、あなたでもただじゃ済まない」

 ミレニムが、ポシェットから取り出した道具を先ほどから調整している。

 「レオル……僕も行くよ」

 ジュラも右腕を回しながら、下を覗き込んでいる。  ノワールとの戦闘で痛めた箇所は、ミレニムから貼ってもらった軟膏で痛みだけは引いたようだ。

 「あれは何とかしないと、次はレオルが狙われるよ……」

ジュラ

「……それに、僕らもシンエンさんの仲間だの叫ばれるのは具合が悪いからね」

 「……そう、だな」

 レオルには、もう一つの懸念が胸の内に生まれていた。
 ……あのアサシン達のことも、気にはなるが……
 だが、今はそれを口にする時ではない。

 レオルは、もう一度だけミレニムを見た後に下に急ぐ。
 エレクチュアとジュラも、それに続く。
 「……レオル、気を付けて」
 

 ルミエルが、錫杖を振るい雷球を幾つも呼び出して、シンエン目がけて続けざまに放っていく。

 彼女の周りを、波が荒れ狂う……

 レオルがその波の死角をついて、魔剣より魔力の込められた『重刃』を放つ。

レオル

 ルミエルに不可視の巨大な魔力刃が直撃する。
 「……先程の魔族ですか!」

 だが、ルミエルは堪えた様子がない。彼女の白い外套が光を纏い、それを防ぐ。

 『熱線を選択、刃を透刃に変更』

 ルミエルの雷球が、レオルの熱線による磁場で曲げられ、あらぬ方向に飛び去る。
 だが、レオルが放つ防御を無視する魔力の刃も、ミレニムの錫杖に弾きとばされる。

 「雷王!そちらを、一時任せるです!」

 シンエンの水の刃を横目に防御の光膜を展開して防ぎつつ、巨人に指示をとばす。

 レオルが続けざまに、下の海水に触れて氷の術をルミエルに向けて奔らせる。
 氷の刃が、ルミエルを串刺しにせんと迫る。だが、恐るべき錫杖を大地に突き立てて震動で、氷杭を砕き切る。

 その手を、彼女の後ろからジュラが掴み捻る。
 ……お、重い?!
 ルミエルを崩そうとするが、彼女はまるで岩のごとく重心が崩れない。
 「その程度、なのですよ!」
 逆に、ジュラが力任せに放り投げられる。

 『レオル様……おそらく、ルミエルは、雷と重さを操っていると分析します……先程の崩落といい、今の力といい、自分や物の重さを増やしているのです』 

 エレクチュアの声なき声が届く。
 彼女の能力か。

 「怪力の正体が重さのコントロール、ただその上限が見えない……」

ルミエル

 「魔族……お前は、なんなのですか?あの海魔に従っているのですか!」
 「神の御使いたる私に、刃を向けるという意味が、分かっているのですか!」

 錫杖をレオルに向け、再び雷球を飛ばす。

 レオルは、魔剣を振り下ろし、魔力の刃を水面に叩きつけて、水の壁を作り出しそれを防ぎきる。

 「お前こそ分かっているのか!……シンエンは、ただ家族を連れ戻すために来ただけだ……」
 「妖魔とて、人間と同じくこの世界に根付く者だろう!……それを神があれは悪だ、なす事も悪だ、と決めつけるのか!」

 レオルが吠えるように、ルミエルを責める。
 「不敬ですよ、魔族……」
 だが、ルミエルも静かな瞳でレオルに挑むように睨み返す。
 「……あれは、どうあっても人間に害をなすものなのです……」
 「……神の子たるこの王国の人間を守ることが、このルミエルの使命……この地の人間と約定を交わした天使たる私の使命なのです!」

「……お前は、おかしいことを言うのです。
 魔族と人間は、もともと共にあるべきではないのですよ。これは、遥か昔よりの定めなのですよ!」

 ルミエルが飛ぶ!

 その瞳は金色に輝く。
 背中より翼を開き、頭上に輪を頂く。

 まさに天使のごとく……

天使ルミエル

 「魔族……覚悟するのです!」

 錫杖を振り上げ、投げ下ろされた槍のごとく突っ込んで来る。 

 「レオル!」

 ジュラが建物の壁を駆け上り、壁を蹴りつけ宙を舞う。
 さすがのルミエルも、これだけの加速度がついた状態では躱しきれない。

 翼の根元に踵を強く叩きつけられ、バランスを失い、コントロールの利かない状態に陥る。

 だが、ルミエルも身を翻すや、不完全ながらも下から掬い上げるように錫杖の柄をレオルに突き出してくる。

 『エレクチュア!』

 レオルの右肩が、食い千切られたように大きく抉られる。
 だが同時にレオルの魔剣が、ルミエルの片翼を相討つ。

 さらにレオルの左手が、錫杖を押さえ込む。
 「は、離すのですよ!」
 レオル以上の怪力で、ルミエルが藻搔く。

 『凍結』
 魔剣から、冷気が溢れ彼女の翼を凍らせてゆく。
 「おまえ、何のつもりなのです!」

 ウツロによって隠されていたエレクチュアが、ルミエルの背後にその姿を現す。

 「堕ちなさい、ガラクタ!」

エレクチュア

 エレクチュアの電気の槍が、ルミエルの首の後ろや背中に突き刺さる。

 「ひっ!?……な、何を、するのです!」

 ルミエルの身体が、本人の意志と反して痙攣し、膝をつく。彼女の瞳が見開かれ、空を見る。
 「……っ!?……や、やめて……」

 雷王の動きが、シンエンに拳を振り上げたまま止まってゆく。

 レオルが、ルミエルの錫杖から手を離す。

 「レオル!」
 ミレニムとジュラが、彼の傍に駆け寄る。
 ミレニムが、ポシェットから応急用のポーションを取り出して、傷口にかけてゆく。白煙があがり、その傷口が塞がってゆく。

 「終わりましたか?……あの半魔族の能力は、一体?」
 シンエンが、竜頭や触手を水の中へと引き上げさせる。レオル達の方へ歩を進めてゆく……

 エレクチュアの電気の槍が、ルミエルより引抜かれる。

 「……終わり、か?」
 レオルが、エレクチュアに声をかける。

 彼女は動けなくなったルミエルを、ぼんやりと見ている。レオルから表情が見えないが、それはなぜか笑っているように見えた。 

ルミエル

 ルミエルのケープが黒く染まり、羽と輪が消えていた。力を失った証左の如く、彼女は身動きもままならないようだ。

 「力を……か、返してくれ……です……」
 「……それを、取られたら……もう……帰れ、ない……お願い……です……」
 あれだけ、強気だった彼女が見る影もなかった。

 エレクチュアが、レオルの方を見遣る。
 「はい……レオル様、これで終わりです……」

 暗い、冥い微笑み。

 「……雷王」
 エレクチュアが、手を上げる。

雷王

 巨人の拳が振り上げられる。

 「いや……やだ、よ……リゼル……」

ルミエル


 「……リゼル……た、助け……て……」
 ルミエルが、這いずって逃げようとする。

 エレクチュアが笑みを貼り付けたまま、その場を下がってゆく。

 「……今度は、お前が潰れる番だ!……この神の玩具が!」
 巨人の拳が振り下ろされる。

 「よせ!エレクチュア!」

 レオルがミレニムの手を振り払い、ルミエルの元に飛び込む。

 エレクチュアが止める間もなく、巨大な拳がレオル諸共ルミエルを叩き潰す!

 「……レオルゥッ!」
 ジュラの口が、自分でも聞いたことのない悲鳴をあげる。

 「や、やだ……やめて……うそ、だ……!」
 ミレニムは、自分が壊れたような声を聞いた。
 彼女が雷王の拳に縋るように、よろけるように座り込む。

 


 「君ね、あれもこれもは良くないよ?」

 光溢れる空間……

 大きな懐中時計を幾つも吊るした鎖が浮いている。その中心ににこやかに笑う少女がいた。

 「……死んだよ、君。僕が時を止めてなければ、終わってた……」
 「……何故に、さっきまで戦っていた相手を助ける?……どう考えても、おかしいでしょ?」

 「殺すことはない……そう思った、だけだ」

 少女の笑みが深くなる。
 彼女の瞳の中は、深い海の底のように何も見えない。    

 「……君、殺せなくなってるだけでしょ?」
 「……あのミレニムというコが死んだと思った時でさえ、その相手を殺さなかった……普通、我を忘れて殺すでしょ?」

 少女は、からかうように指をくるくる回す。

 「それとも、ミレニムは、そこまで大切では、ないのかな?」

 「……答える必要がない」
 レオルの瞳に怒りの色がちらつく。

 「うーん、そうだね〜、正直に答えなかったら、君死んじゃうけど、それでもそんなこと言える?」

 重い沈黙がしばし流れる。 
 「……ミレニムは……」
 レオルがその重い口を開く……
 「……ミレニムは、かけがえのない家族だ……」
 「……いつのまにか、隣にあいつがいて、笑ったり、怒ったりしてくれる時間が当たり前になっていた……」
 「……あいつを失ったら、二度と自分を許せないだろう……」  
 
 「……いや、そんな愛の告白まで求めてなかったんだけど……」
 少しだけ引き気味に返してくる。
 
 一転、少女の笑みが優しいものに変わってゆく。

 「……なら、さ……今度は、間違えないようにしなよ……」
 「……僕が、君を助けられる回数は決まっているんだ」

 彼女は、懐中時計の1つを取るとボタンをカチリと押し込む。

 「僕は、恥ずかしながら君のファンでさ、応援してるんだからさ」

 そう言って、少女は光の中に身を翻した。

 「じゃあね、また会わないことを祈っているよ」

 レオルの意識は、そこで光にのまれ消えていった……


………………………………………………………………
【2025年創作大賞ファンタジー小説部門:冒険者】
 第7話から第18話が一つのまとまりの応募となります。

続編


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