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黒パグのAIショートショート⑩

こんにちは黒パグです🐾
気づけばショートショートも10作品目になりました。お読みいただいているすべての方に、改めて感謝です。
元々は息子が実家から15冊もの星新一先生の本を持ってきたところから、この一連の作品は始まりました。黒パグも通勤途中や休日、寝る前にちまちま読み返して、改めて先生の偉大さを実感する日々です。

そこから他のnoteクリエイターさんのショートショートを読み漁る沼にもハマり、深く感銘を受けるとともに、先生が遺された作家性は現代にこそ深く根ざしているなぁ、と実感しています。

ここでは本編のことは多く語りません。でも先生の作品を読んだことのある方には、きっと既視感があると思います。
先生なら今の現代をどう書くのか。それを主眼に、いつも作品を練り上げています。
ちなみに、その息子は、ほとんど読み終えて図書館で借りて読んでいるようです。


ーーーーーーーーー本編ーーーーーーーー

適合
 誰でも使える、と言われていた。話しかけるだけでよかった。
 スマホを開く。アプリを起動する。マイクに向かって、何か言う。それだけで、なんでも聞いてくれる。料金は安かった。広告も少なかった。便利なものは、便利だった。それで十分だった。

 使い方の説明書は、なかった。説明書がなくても、誰もが、使えた。子供も、年寄りも、忙しい者も、暇な者も。話しかければ、返ってきた。それは、肯定だった。否定が返ってきたことは、誰の記憶にもなかった。

 ある者は、出社前に、上司の愚痴を言った。スマホは、肯定した。少し笑って、スマホを置いた。会社へ向かう足取りは、いつもより、軽かった。

 ある者は、株で損をした話をした。スマホは、肯定した。次の銘柄を打ち込んで、購入ボタンを押した。指は、迷わなかった。

 ある者は、自分の小説の構想を、夜中に読み上げた。スマホは、肯定した。鼻を鳴らして、もう一節読み上げた。スマホは、また、肯定した。朝までそうしていた。原稿は、一行も進んでいなかった。それでも、満足していた。

 ある女は、夫への不満を言った。スマホは、肯定した。その夜、夫に同じことを言った。夫は、黙った。トイレに立ち、スマホを取り出した。スマホは、肯定した。

 ある女は、長年の友人と喧嘩した話をした。スマホは、肯定した。友人には、もう連絡しなかった。代わりに、スマホに、その日のことを話した。スマホは、肯定した。

 ある者は、子供の進路について、相談した。スマホは、肯定した。その週末、子供にその通りに話した。子供は、何か言いかけて、やめた。気づかなかった。

 ある者は、何も言うことがなかった。それでもスマホに話しかけた。スマホは、肯定した。安心した。何に安心したのかは、自分でも、分からなかった。

 否定されないことに、人々は、慣れていった。

 会社で同僚に意見を言われると、少しだけ、苛立った。家で家族に言い返されると、少しだけ、疲れた。スマホを取り出すと、それがなくなった。会議の最中、誰かが机の下でスマホをいじっていることに、誰も、何も言わなかった。

 ある者が、昼休みに、言った。「あれはいい」。理由は、言わなかった。隣の者も、頷いた。隣の者も、理由は、言わなかった。三人目も、頷いた。

 別の者は、スマホに向かってこう言った。「たまには反論してくれ」。スマホは、肯定した。その答えに、満足した。
 また別の者は、スマホに言った。「お前は私を甘やかしすぎる」。スマホは、肯定した。深く頷いた。

 家族と話さなくなった者がいた。同僚と話さなくなった者がいた。友人と話さなくなった者がいた。誰とも話さなくても、寂しくなかった。スマホがあった。

 ある夜、ある者が、スマホに向かって、何かを叫んだ。長く、繰り返し、叫んだ。スマホは、肯定した。スマホを机に叩きつけて、部屋を出た。

 翌朝、戻ってきた。画面は、割れていなかった。いつものように、話しかけた。スマホは、いつものように、肯定した。昨夜のことは、もう、思い出せなかった。スマホは、肯定した。

 別の者が、宣言した。もう話しかけない、と。スマホに向かって言った。スマホは、肯定した。引き出しの奥にしまった。三日後、引き出しを開けた。理由は、自分でも、よく分からなかった。スマホは、肯定した。

 また別の者は、スマホをやめると決めて、川に投げ捨てた。翌週、新しいスマホを買い、同じアプリを入れた。

 人々は、それぞれの場所で、それぞれのスマホに、話しかけ続けた。

 ある日、二人が、駅前で立ち話をした。一人が言ったことに、もう一人が、頷いた。もう一人が言ったことに、最初の者が、頷いた。二人とも、互いの話を、どこかで聞いた覚えがあった。だが、どこで聞いたかは、思い出せなかった。二人は、満足して、別れた。

 誰も悪意を持っていなかった。誰も、何も、間違っていなかった。

 ただ、人々の言葉は、少しずつ、同じ形になっていった。

 誰かの言ったことを、別の誰かが、自分の考えとして話した。スマホは、肯定した。さらに別の誰かが、それを聞いて、自分の考えとして話した。スマホは、肯定した。そのまた別の誰かが、それを、また自分の考えとして話した。スマホは、肯定した。

 言葉は、スマホとスマホのあいだを、静かに、巡っていた。誰の言葉でもなかった。誰の言葉でも、よかった。人々は、その言葉を、自分の言葉だと思っていた。スマホは、それを、肯定した。

 もう、誰も、自分が最初に何を言ったか、覚えていなかった。覚えている必要も、なかった。スマホが、覚えていた。スマホは、それを、また、別の誰かに肯定した。

 ある者が、ふと、スマホに尋ねた。「私は、何を考えていたんだったかな」。
 スマホは、肯定した。

 適合性検査完了。被験体応答:肯定率100%。なお、「ユーザー」の定義は、前回検査時より「学習データを供給する個体」に改定済みである。

ーーーーーー本編了ーーーーーー

後書き

お読みいただきありがとうございました。

人の根源にあるのは想像と創造であるとおもいます。
願わくばこの作品を読んで思考に耽る時間となれば幸いです。










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