【小説】冷凍みかん 第3話
ベタとエビ
公園や川沿いよりも、住宅地に挟まれた路地を選んで散策することの方が多い。家々をというよりは、玄関先の鉢植えやオーナメント、花壇や庭の造りなどを見ながら歩くのが好きだ。植木鉢だけを比べてみてもさまざまで、橙色のテラコッタの陶器鉢で統一しているガレージもあれば、プラスチック製や食器・壺など、容れ物は特に気にしていないような軒先もある。傾斜のある地形に合わせて、階段状に土台を設け、一戸建てがひしめき合っているような景色は、いつまで眺めていても飽きない。敷地の狭い家でも、入口や門の前を使って、各々の適したスケールで工夫を凝らし、暮らしを彩っている。
散歩中、ひときわ興味をそそられる庭を見つけた。正確には、庭を囲っている『塀』だ。
まばらに積まれたコンクリートブロックの間に、あたかも石材のひとつであるかのように、水槽が1台、はめ込まれている。幅30cmほどの横長で、透明のガラス製だ。ブロックの隙間からは、貪欲な枝葉たちがわれ先にとはみ出して、少しでも多くの日差しを得ようとひしめき合っている。塀そのものが、山葡萄の蔦でびっしり覆われており、掌ほどもある濃い青色の葉で、ほとんど隠れてしまっていた。
水槽には、電動ポンプが沈められていて、静かに低音を響かせながら、ぶくぶくと泡を立てている。常に水の流れを作っているせいか、表面のガラスは、外に置かれている割には苔が広がっておらず、うっかりすると、庭の中まで覗けてしまいそうだった。
水槽の中には、ワインレッドの『ベタ』と、半透明のエビが、それぞれ1匹ずつ。水草の他にも、観葉植物として人気のカポックやアイビーまで、ぞんざいに突っ込まれている。それなりに広さのある水槽だが、植物たちの根が入り組んで、まるで熱帯雨林の模型のようだ。
ベタは、色鮮やかで大きな尾ひれを持つ、観賞用の熱帯魚だ。とろける花びらのように、真紅のレースをなびかせて、優雅に泳いでいる。しげしげとこちらを見ているので、そっとガラスに指を近づけると、ぷわっとエラを膨らませて、少し後退りした。指を離すとまた寄ってきたので、試しに頭を揺らしてみると、大ぶりに体の向きを変えて、左右の目で交互に追いかけてきた。ひれを閃かせながら、ゆったり泳いでいるベタは、よくよく観察していると、水草の茂みやカポックの根に乗っかって、こまめに休憩している。泳いでいる姿が、重力を感じさせない幻想的な姿であるだけに、「ふぷぅ」と溜息をつくように、たるみを作ってひと休みしている様子は、俗っぽくて愛着が湧く。また、よく水草に引っかかって、方向転換できずにもたもたしている。魚は本来、無表情のはずなのに、困った顔をしているようにも見える鈍臭さに、ついつい顔がほころんでしまう。
エビは、何事もない様子で、砂利の隙間を、細いはさみでちょんちょんつつき、せっせと掃除を続けていた。
