【小説】8月某日の夢 第6話
それからは、しばらく似たような日々が続いていた。
紬貴くんと一緒に授業を頑張って受けて、昼休みに一緒に絵を描きに行く。部活で各々の課題をこなして、帰り道を一緒に歩く。
似ていたけど、もちろん全くの同じではない。毎日が楽しいのは変わらない。
ただ夏祭りについては、あれから言及無し。3年前と同じように。
今、紬貴くん以外に誘う友達などいなかった。今年も、1人で屋台や店内を回ることになるはず。
結果が3年前と同じだけど、もう一度誘うことができたから良いか……と、そんな風に考えて過ごしていた。
気がつけば、夏祭りはもう明日に迫っていた。
「おはよう、紬貴くん」
「おはようございます」
もう一度、誘う勇気は無かった。あまりしつこく誘いたくもなかった。
夏祭りには触れずに、いつも通りの会話をして教室へと向かった。
教室について机にカバンを置いて、しばらく私は疲れたように突っ伏していた。考えていたのは、明日の予定について。
明日は夏祭り。家族は仕事だから、どうせ1人で行くんだ……なら、3年前とは違う場所に行ってみようかな。もしくは、夏祭りに行くのをやめて、家で勉強したり、絵を描いたりしても良いかもしれない。紬貴くんだって、夏期講習に行って頑張っているんだし。
……でも、やっぱり年に1度のイベントだからなぁ。
「夏芽ちゃんは、明日の夏祭り行く?」
「え、あ、うん……」
国語の授業中のグループワークで、珍しく声をかけられた。
近くの人とグループを作って話し合う、グループワーク。私はそれが大の苦手だった。5人組グループなら、4対1に。4人組グループなら、3対1に。3人組グループなら、2対1。2人組グループは作られない。よって、絶対に私が1人になってしまうから。話し合いにうまく参加できない、でも参加しなければサボり同然。だから、大っ嫌いだ。紬貴くんがいたら、何でも話せるのに。
そんな私に声をかけてくることは少ない。でも、今日は話し合いが早くに終わって、周りの人はほぼ雑談に花を咲かせていたところだった。
「誰と行くの?」
「1人……で行くことになるかな、多分」
相手は「そっか〜」と一言言うと、別の人に顔を向けた。どうやら明日の夏祭りに誰を誘うか迷っていたらしい。もし私がクラスメイトの誰かと行くと答えたら、一緒に行くと言われたりするのかな……。
今日は、授業が終わるまでグループワークになりそうだった。みんなは楽しそうに雑談モードだけど、私はかなり暇していた。
こういう時、紬貴くんはどうしているんだろう。
私は、また紬貴くんの行動を見てしまった。
……良かった、寝てはいなかった。でも、しっかりしている。紬貴くんは話している人の顔を見ながら、頷きながら、話し合いの内容をノートにまとめていた。
グループに1人は、話し合いの内容をまとまる人が必要。でも、私はまとめるのが苦手。話し合いを進める人やノートにまとめる人は、大体別の人が担う。私は少し意見を出すだけで、それ以外ではほとんど傍観者だ。
やっぱり、紬貴くんはすごい。相変わらず、私じゃ手が届かない。
ずっと肩を並べていたのに、また紬貴くんを遠い存在に感じてしまっていた。
授業の終わりを告げるチャイムがなった時、先生は久々にノートを提出するよう声をかけていた。
……どうしよう、今日の分のページは白紙だ。でも、私はノートにまとめる人じゃないし……。
「あの、すみません」
その時、隣から声がした。紬貴くんだった。
紬貴くんは自分のノートを広げると、私に見せてきた。
「ノート、これで良いと思います? というか、読めますか?」
そこに書かれていたのは、今日の話し合いの内容をまとめたもの。授業中に書いていたものだった。
紬貴くんのノートを見せてもらうなんて、何年ぶりだろう。
でも、確か紬貴くんは……
「え、何これ……」
私は思わず言葉に詰まってしまった。知っていたはずなのに、驚いてしまった。
文字の色は黒一色だけど、その割には綺麗にまとめられていて見やすかったし、分かりやすかった。私には到底書けないまとめ方だ。
羨ましい……『読めますか?』なんて訊かなくても、全然読めるから自信持って良いのに。
「あ、やっぱり見づらいですか?」
「ごめん! そうじゃなくて……すごく分かりやすくて、驚いちゃって……」
「そうですか……? ありがとうございます」
紬貴くんは少し驚いたような表情を見せる。私の反応は予想外だったみたい。
余裕で良いと思うよ! とはっきり伝えて、ノートを紬貴くんに返した。
「ありがとうございます、出してきます」
そう言って、紬貴くんは先生の元へと歩いて行った。
紬貴くんみたいに書けば、上手に書けるのかな……。私は、もう一度自分のノートを開いて、今日のページを見つめた。
でも、今は時間がない。とりあえず、そのまま提出した。
昼食は食べた後の時間は、何の前触れもなく眠くなったりする。
そう思うのは日常茶飯事だけど、私は今とにかく焦っていた。
5時間目の授業が終わる。
「じゃあ、プリントはここに出しておいてください」
私は配られた授業用のプリントを鷲掴みにして、走り出していた。
「紬貴くん!」
良かった、まだプリントを持っている。
「ごめん、プリント見せてくれない? 実は、授業中寝ちゃって……」
私のプリントは白紙だった。実験の内容も、考えたことも、板書すらしていなかった。そして残念ながら、板書は授業が終わって早々に消されてしまった。
「あ〜、分かります」
と言いながら、紬貴くんは自分のプリントを見せてくれた。
「少し、分かりづらいかもしれないですけど……」
そんなことない! 全然大丈夫だった。
私は紬貴くんにお礼を言って、全力で内容を写した。おかげで無事に提出することができた。
「ふぅ……ありがとう。紬貴くん、本当にまとめるの上手だよね」
「それほどでもないですよ。でも、嬉しい限りです。ありがとうございます」
ここからはいつも通り。でも、最近は授業の分からないところを教え合うことも多くなってきていた。
「明日からちゃんとした夏休みですね。今日、頑張った甲斐がありました」
「そうだね。それに、明日は夏祭り! いつも勉強頑張っているご褒美だね」
帰り道、そんなことを特にこれといった意図も無く口にした。
「そうですね。俺は、行けるかどうか分かりませんけど……」
「あ、そっか。ごめん……」
浮かれたことを申し訳なく思った。だけど、紬貴くんは優しく笑っていた。
「ぜひ、楽しんできてください」
「うん、ありがとう」
その後、どこの屋台に行くのかとか、紬貴くんからいろいろ訊かれた。
帰り道は夏祭りの話題で持ちきりに。さらに、紬貴くんからおすすめの屋台を教えてもらった。
1人で行くことになった夏祭りが、少し楽しみになった。ぜひ紬貴くんと一緒に回りたかった。
『明日からちゃんとした夏休みですね』………………
……そうだ、今は夏休みだった。3年前も、この日は夏休み中の登校日だった。だから、実質明日からが夏休みなんだ。
すっかり忘れていたし、全然気づかなかった……。
時間は思ったより、早く進んでいる。そういうものだと思っていたけど。
そういえば、このタイムスリップって期限はあるのかな……?
それとも……このまま時間が進んで、もう一度高校生になるのかな?
第7話
https://note.com/light_hyssop657/n/ndb8389d87e68
第8話
https://note.com/light_hyssop657/n/nfb16c41b9eaa
第9話
https://note.com/light_hyssop657/n/nc5deecf1fa95
第10話
https://note.com/light_hyssop657/n/n11c9e1d2c389
第11話
https://note.com/light_hyssop657/n/ne0b1d46617b5
