堅実のパラドクス(1)虚無の思考実験
あらすじ
~「結婚は、銀行の奴隷になる契約に過ぎないのか?」~
合理主義者の高尾晴仁は、同僚の才木みちるを既婚者と勘違いしたまま惹かれていく。世話焼きな先輩の介入で誤解が解けた二人は、AI投資や機能的な生活観で意気投合。恋愛の不条理や「家族」という名の債務を冷徹に見つめる彼らが選んだのは、個の自由と資産を守るための徹底したDINKSという選択だった。
別々の寝室、持たない子供。自立した個体同士が結びついた先に待つのは、虚無への抵抗か、それとも究極の純愛か。「堅実」を突き詰めた男女が辿り着く、現代の結婚観を鋭く問う思考実験的物語。
序章 虚無の思考実験
この作品はフィクションである。現実世界の人物、団体や組織とはまったく関係がない。一切、ない。
高尾晴仁(未婚男性・28歳:才木のことを既婚者だと勘違いしている。)、才木みちる(未婚女性・27歳)、榊あゆみ(既婚女性・32歳)という3人を狂言回しに、ちょっと思考実験をしてみた。
その思考実験の前提を以下に述べる。
かつて人々は、封建的な「家」の息苦しさから逃れ、自由を勝ち取ったはずだった。
しかし、自由の果てに待っていたのは、形を変えただけの情痴の地獄だ。
見合いからマッチングアプリへと手段が変わろうとも、古典の時代から続く不条理は変わらない。 個人が孤立したままその不条理に投げ出される以上、未婚化と少子化は必然の帰結だ。
底の見えたハイリスク・ローリターンの蟻地獄に、引き込もうというキャンペーンが毎日行われている。TVドラマでも映画でも書籍でも、何処ででも。
自分の親でも友達の親でも、いや、クラスメートのカップルでもいい。
もちろん、自分のパートナーでもよい。
近くの実例を見れば、そんなキラキラしたものなど、何処にもない。・・・・・・誰もが知っていること。
誰もが知っている。
運良く「天与のパートナー」を見つけた男子を待つのは、住宅ローンと教育という名の債務奴隷への一本道だ。
「天与のパートナー」を見つけた女子は出産と同時に、家内奴隷へとジョブチェンジを強いられ、さらには「社会進出」という名目で、男並みの債務奴隷としての役割まで上乗せされる。
結婚とは、銀行の奴隷になる契約に過ぎないのかもしれない。
さらに悲惨なことは手塩にかけて育てた子が、老後の杖になる保証などどこにもないということ。
「家」と「共同体」を捨て、舵を切った後の荒野。今さら、あの頃の港には戻れない。
そもそも「天与のパートナー」というのが、純度100%のフィクションである。そんなものは何処にも居ない。物語の中でも創り出せない。
この思考実験の先にあったのは、底冷えのするような虚無感だった。
しかし、私は虚無に対して、少しでも抵抗したい。
社会は解決や処方箋を与えない。
ならば、知性と実行力で自分の世界を作ればよいのではないか、と。
