ノカナのジャック【ダンジョン・第8話】 − 165
その後のコーエンさんと女将さんの話はモメたりせず、世間話なんかしながら進んでいった。
オイラはサ、なんだか他人事みたいな気分で椅子に、ただ座っていた。
峠の街道筋に放置されてた砲丸を拾い集めた元手でノカナの国を出て、レドゥビアにやってきた。
それから、まだ3ケ月も経ってない。
ノカナのゴミ捨て場に住んでいたスラムのクソガキだった自分。
それが、武具屋の組合員だなんて信じられないや。
確かに、成り上がりたくてアレコレしてきたんだけどさ。
話が終わって、女将さんとエースさんが帰り支度を始めると、コーエンさんが言った。
「バカルさんとジャックさん、せっかくだからウチの料理を食べていってくれ。」
バカルは気軽に、
「いいのかい、嬉しいな。」なんて言う。
オイラも、お金持ちが食う料理ってどんなだろうと少し気になったけれど、なんとなく、嫌な予感もした。
エースさんも、含み笑いしていたしね。
コーエンさんが手を、パン、パン、と鳴らすと、すまし顔のラビが料理を運んできた。
ラビが手際よく皿を並べると、料理の説明をバカルにする。
それから、上等そうなワインを持ってきて、また、バカルに説明する。
そう、バカルにする。
聞こえるからいいんだけどね。
オイラは、食べ方が分からないから、バカルの真似をして食べるようにした。
だって、フォークは知ってたけれど、ナイフや箸は触ったこともない。
バカルは、料理を一口食べるごとに、何やら、満足気にぐちゃぐちゃ言う。
そして、ワインを一口飲んで、また、ぐちゃぐちゃ何か感想を言う。
放っておけばいいのに、その度にラビが何やら嬉しそうな顔で、バカルに応えて、バカルにいろいろ説明する。
……あ、違う。
オイラは話を聞きたいんじゃなく、メシを楽しみたいんだ。
いつの間にかラビは、少しずつバカルの隣に寄っている。
メシ喰ってんだか、仲良くしてるのかワケが分からねぇ。
なんだかもう、オイラは我慢できなくなって、コーエンさんに、緊張しすぎてダメだから持って帰りたいと言った。
すると、立派な重箱三段に、料理を詰めてくれた。
誰も、オイラが帰ることを引き留めなかった。
……ちぇ。
* * *
店に戻って、女将さんにお礼を言ってから、親父さんの仕事が終わるのを待って、三人でコーエンさんの店の料理を食卓に広げた。
女将さんに、
「使用人なんかが一緒に頂けません。」と、俺の部屋に行こうとしたら怒られた。
「ジャック。
確かにオマエはウチの使用人だけどね。
組合に登録された職人で、よその組合から依頼が入るハンターだ。
遠慮はいらないから、ここで一緒に食べるんだよ。」
そう言われて、親父さんも頷いてくれた。
孤児で、ゴミ捨て場の残飯を食って生きてきたオイラだけど、もう二度と食べられないんじゃないか、そんな料理だってことは分かった。
食後に、女将さんから、すぐには給金は増やせないけれど、明日から二時間早く仕事を上がっていいと言われた。
料理より、自分なんかに気を遣ってくれることが嬉しかった。
* * *
契約したから、ダンジョンに行く前に組合に寄る。
ラビが、オイラの字が汚いからって、字の教本を用意してくれていた。
とりあえず、「JACK」この四文字だけ練習しようと思った。
別れ際、ラビが
「昨日はアリガト♪」って、ちょっと はにかんだような表情で言った。
何のことなのかは、よく分からなかった。
組合の外に、組合バッジを胸につけた男がいて、
「ジャック様ですね。お供します。」と言ってきた。
コーエンさんが、
「そいつは腕が立つし、口が堅い。
役に立つと思いやす。」と、オイラに頭を下げた。
正直なところ、メチャメチャ嬉しかった。
一度店に戻り、木剣を二本買って、親父さんに打込場の入場料を支払う。
合計、250バリイ。
街中の道場より、ずっと狭くて土間床だけど、剣術の稽古が出来る。
用心棒さんに頼んで、一時間くらい稽古をつけてもらった。
厳しめ目にお願いしたから、アチコチ打ち込まれて体中が痛くなったけれど、レドゥビアではそこらの道場に入門するにも、ある程度の剣の腕が必要だから、本当に有り難い。
その後、ダンジョンに向かいながら、目立ちたくないので遠くから見守ってほしいと頼んだ。
「はい。」
用心棒さんは、無口だ。
いつものように、ヒラガニやザリガニを漁りながら、水路の様子を見る。
タニシが見つかると、例の場所の水路に移す。
水路に葦を突き刺して並べていると、遠くにハグレの野犬が一匹見えた。
気づかない振りをして、隠れ場所の石壁を積み直していると、ハグレの後ろに用心棒さんが近づいてきていた。
結局、ハグレは来た方向に戻っていった。
用心棒さんが強そうに見えたからだと思った。
そこで狩りを切り上げ、帰り道で彼に話しかける。
「旧市街には、よく来るんですか?」
無言で、彼は頷いた。
きっと、余分なことを言ってはいけないのだろうと、オイラは思った。
「コーエンさんの店に来た王族がさ、最近は鯉の献上がないって話はホントだと思う。」
また、無言で彼は頷いた。
「じゃあ、城にいる“鯉と名人”がいない、ってのも。
そうなんだ?」
すぐに、用心棒さんが頷いてくれた。
「死んでる鯉は価値が低くなるならさぁ
名人は、生け捕りの名人になるよね。」
頷く。
「じゃあ、名人っていうのは魔法使いだよね?」
突然、彼が歩みを止めて立ち止まった。
困った顔をしている。
「……答えられない質問をしてゴメンナサイ。
今日の狩りは終わります。
オイラは、コーエンさんの組合に行って、用心棒さんのおかげで仕事が捗った礼を言ってきます。」そう言うと、彼は深々と頭を下げて去って行った。
仕事仲間には楽をさせて、感謝するように。
イルおじさんの言いつけを守った。
武具屋と飲食の組合に行ってから、旧市街に向かう道で時間を潰していたら、バカルが現れた。
人がいないことを確かめた後、バカルに用心棒さんとのやりとりを小声で伝えた。
「城内の “ 鯉獲り名人 ” は魔法使いだ。
そいつは、しばらく城を留守にしていて、
用心棒は、その魔法使いが誰か知ってる。
でも、答えることを拒否した。」バカルが、そう言ってニヤリとした。
「やっぱ。リュネ姫様だな。
帝国に狙われてるのを知って、身を隠したか…… 。
ジャック、お手柄だ。」
帝国の奴らがレドゥビアにいるならば、探しているのはリュネ姫で、彼女を恐れているから攻めてこない。
リュネ姫様がどこで何をしているか、
そして、城のそばで目を光らせている帝国の間者は、アルス姫も狙っているかもしれない。
それだけ話してバカルと別れた。
続きます
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(タイトルカットは、優音先生作画の
レドゥビア 第3王女アルス姫 )
成り上がれジャック!
ノカナのゴミ捨て場のスラムから
