「Solaria 2nd Stage 第七話|雨に溶ける声」

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」
「Solaria 2nd Stage 第五話|見えない距離」
「Solaria 2nd Stage 第六話|すれ違うリズム」
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「第七話 | 雨に溶ける声」

音が、少ない朝だった。
教室の窓を、雨粒がゆっくりと滑り落ちていく。
誰も話さない。
誰も笑わない。
(昨日のままだ)
ひなたは、ぼんやりと窓の外を見ていた。
空席がひとつ。
水瀬しおりの席。
「……来てないね」
あかりが小さく呟く。
「連絡も……つかないです」
さくらの声は弱い。
ひなたはスマホを見る。
既読は、ついていない。
「……どうしよう」
答えは、誰も持っていなかった。
◇

放課後、ダンス室。
音楽が流れる。
でも——
「……違う」
今度は、ひなたが止めた。
三人だけのフォーメーション。
隙間が、目に見える。
「なんか……合わないね」
あかりが腕を組む。
「そりゃそうでしょ」
「一人欠けてるだけで、こんな変わるんだ」
その言葉に、誰も返せない。
さくらが、小さく言う。
「……昨日のまま、です」
空気も、音も。
止まったまま。
■ ゆいの状態

ピアノ室。
ゆいが鍵盤に手を置く。
深呼吸。
弾く。
——止まる。
「……っ」
音が、揺れる。
指が、動かない。
「……違う」
もう一度。
——違う。
「……なんで」
音が、怖い。
昨日の音が、頭から離れない。
(あの音)
パシン、という音。
ゆいは、手を離した。
「……弾けない」
静かな部屋に、その言葉だけが残った。
◇

雨。
バス停。
しおりは、一人で立っていた。
傘もささずに。
「……うるさいな」

雨音。
車の音。
遠くの人の声。
全部が、混ざる。
「……全部、うるさい」
目を閉じる。
でも——消えない。
■ フラッシュ(断片)
音。
「ちゃんとしなさい」
誰かの声。

「なんでできないの」
ガラスが割れる音。
しおりの呼吸が浅くなる。
「……っ」
目を開ける。
現実は、雨の中。
しおりは、静かに呟く。
「私は……間違えないように、生きてきた」
誰に向けたわけでもない言葉。
「感情なんて出さなければ……」
雨が頬を伝う。
「壊れないから」
でも——
昨日。
壊れた。
◇
ダンス室。
三人。
音がズレる。
止まる。
何度も繰り返す。
うまくいかない。
雨の中。
しおり。
動かない。
何もしていないのに。
何もできない。
「……違う」
誰かの声が、重なる。
■ 「音が消える」
ピアノ室。
ゆい。

もう一度、鍵盤に触れる。
弾く。
数音。
止まる。
「……無理」
小さく、首を振る。
「……弾けない」
音が、消えた。
夜。
屋上。
雪が、降っていた。
音が、消えている。
しおりは、そこに立っていた。

髪に、肩に、静かに積もる白。
触れる前に、溶けていく。
まるで——
「……」
言葉が、出ない。
手を伸ばす。
落ちてきた雪が、指先で消える。
「……全部」
かすれた声。
「……いらない」
息が、白くほどける。
「……なかったことに、できたらいいのに」
視線が、揺れる。
遠くの街の光。
ぼやけて、滲む。
「……もう」
一瞬、言葉が止まる。
「……疲れた」
雪は、降り続ける。
音は、ない。
何も、聞こえない。
ただ——
静かに、消えていくだけ。
「届かない声が 雪に消えていく
触れられないまま ほどけていく」
第七話 雨に溶ける声 (終)
▶ Solaria 2nd Stage 第八話|
― 雨の再会 ― へ続く
