350.音楽エッセイ✴︎∶ American Pieと、僕の中の七月四日 "The day the music died."── Don McLean
七月四日。アメリカでは星条旗が揺れ、夜空に無数の火花が咲く。
独立記念日。この国が“自由”という名のもとに生まれた日。
けれど、僕がその空の下にいたとき──つまり、アメリカに留学していた頃──この祝祭が持つ意味を、正直ほとんど理解していなかった。
あの頃はまだ、アメリカという国の「強さ」や「明るさ」を、疑いもなく信じていた。
80年代、僕の子ども時代に焼きついたアメリカは、映画で言えば『トップガン』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
音楽ではマイケル・ジャクソンが《Black Or White》を歌い、人種なんて関係なく、誰もがそのリズムに熱狂していた。
その時の彼は、まぎれもなく「King of Pop」だった。
スクリーンの向こうから、世界が1つになるかもしれない──そんな夢すら見せてくれた。
90年代、僕は、そのアメリカの中心にいた。場所はサンフランシスコ。
美しい街だった。坂道の向こうに海が光り、ケーブルカーが軋む音が生活の一部だった。
けれど、どこか“揺れている”ようにも感じていた。
シリコンバレーの興奮と、ヒッピー文化の残り香。
多様性と先進性に満ちた街で、人々は自由を謳歌していたはずなのに、ホームレスが増え、路地裏では薬物が静かに蔓延していた。
90年代のアメリカは、強さと寛容さの仮面をつけながら、どこかで軋んでいた。
その違和感は当時の僕には言葉にならなかったけれど、今、《American Pie》を聴くと、あの空気の正体が少しだけ分かる気がする。
1971年にリリースされたその曲は、僕が知るアメリカよりもっと古くて、もっと深い“喪失”を歌っている。
「the day the music died」──音楽が死んだ日。
1959年、バディ・ホリーが空に消えた日。
そして「Bye bye Miss American Pie」──別れの歌。
彼が歌っているのは、ただのノスタルジーじゃない。
ロックの変質、カウンターカルチャーの崩壊、国家の理想の終焉──
それらすべてを見つめながら、マクリーンは「もう戻れないものたち」を、詩のように、祈りのように歌っている。
2000年代以降、アメリカはさらに先へ進んだ。
価値観は加速し、多様性は時に過剰に膨張し、「正義」や「自由」という言葉が、皮肉のように響く場面も増えていった。
今、遠く離れた日本で、再び七月四日を迎えるたび、僕の中にあるアメリカが、静かに息を吹き返す。
それは現実の国ではなく、音楽のなかにだけ残された“夢としてのアメリカ”なのかもしれない。
《American Pie》を聴くたびに思う。
この曲は、アメリカに別れを告げた歌ではない。
夢の終わりを、静かに、でも確かに記憶しておこうとした歌なのだと思う。
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