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相互行為の評価・記録〜「介護相互行為論」No6


6.介護の評価・記録基準の重層化

(1)アセスメントや記録に現象学的観点を付加

 介護を相互行為と捉えるのであれば、被介護者のアセスメント・評価についても見直す必要があります。従来の一方的な介護では「動作の成否」(ADL)が基準となっていますが、それを「本人の意味世界と主体性がどれだけ保たれたか(解き放たれたか)」へ評価の軸をシフトさせる必要があります。

アセスメント評価・記録の観点比較

(2)記録(経過記録・ケアプラン)の書き方のフォーマット案

 相手の世界の了解を促す先回りする「先行的な配慮」を可視化するためには、本人の行動の背景にある「気遣い(何になろうとしているか)」と、それに対する「介護者の先回りのアプローチ」を対で記録することが有効です。

記録フォーマット:EAR(実存的配慮アセスメント・記録)

  • E(Existential Care/実存的文脈):本人は今、どのような意味世界(役割、気遣い、身体的慣習)を生きようとしているか?

  • A(Anticipatory Design/先行調整):介護者はその世界を奪わないために、どのような環境・提示・言葉掛けを先回りして配置したか?

  • R(Response & Freedom/応答と解き放ち):その結果、本人のどのような主体性(前反省的な身体動作、落ち着き、納得)が解き放たれたか?

記載例(Bさんの夕方の事例)

  • 【E:本人の実存的文脈】:16時頃、「子どもが学校から帰ってくる」と落ち着かない様子(母親としての役割・気遣いの開示)。

  • 【A:先行的な調整】:現実否定(「もうお子さんは大人ですよ」)をせず、先回りして「おやつ作りの準備」を提案。エプロンを手渡し、おしぼりを丸める役割を依頼した。

  • 【R:応答と解き放ち】:「ありがとうね」と話し、手際よくおしぼりを丸め始め、安心した表情でその場に落ち着かれた(母親としての実存的可能性が維持された)。

(3)現場におけるメリットと変化

 この評価・記録のあり方に転換することには、現場の介護の品質とスタッフの意識において以下の大きなメリットがあります。

①  「何もできなかった」から「この条件なら世界が開けた」への変化
 認知症の進行に伴い、従来の評価では「できないこと(減点)」ばかりが目立つようになります。しかし、先行的な配慮の記録では「どのような環境を整えれば、その人の世界が生き生きと立ち現れるか」という加点・発見の視点に切り替わります。

②  介護者の専門性(職人技)の言語化と継承
 「なんとなく上手くいったケア」の裏には、介護者が無意識に行っている「高度な先回り(文脈の読み取りと環境調整)」が存在します。これを「先行的な配慮」として記録することで、ノウハウが言語化され、チーム全体で共有可能になります。

③  ケアプラン(ICF)との親和性
 ICF(国際生活機能分類)における「環境因子」や「参加」の向上を、単なるバリアフリー等の物理的環境だけでなく、「意味的・関係的環境の調整」というより本質的なレベルでプランニング・評価できるようになります。

 認知症介護における記録・評価のゴールは、「認知機能障害を治すこと」でも「行動を抑制・管理すること」でもなく、「その人がその人としての世界(自己了解)を維持したまま、安寧に存在できるための条件(先行的な配慮)をチームでどれだけ見つけ出せたか」に置かれるべきです。
このような記録・評価の転換・重層化は、現場の介護職を単なる「作業の代行者」から、「その人の世界を陰で支える解釈・環境のデザイナー」へと引き上げることにつながります。




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