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ユマニチュードとノーリフティングケア〜「介護相互行為論」No4


4.「ユマニチュード」「ノーリフティングケア(No-Lifting Care)」

 メルロ=ポンティの「間身体性」は、単なる哲学理論にとどまらず、「ユマニチュード(Humanitude)」や「ノーリフティングケア(No-Lifting Care)」といった現代の介護メソッドに理論的裏付けを提供できると思います。
 これらの技法は、介護者が被介護者に言葉で伝達するのではなく、「身体から身体へ直接問いかけ、同調を引き出す技術」だからです。
「間身体性」の視点から、両メソッドの構造的・実践的な結びつきを紐解いてみたいと思います。

(1)ユマニチュードと「間身体性」の結びつき

 イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって開発されたユマニチュードは、「見る」「話しかける」「触れる」「立つ」という4つの柱を基本とします。これはまさに間身体的な相互作用を意図的・技術的に生かした技法と言えます。

【ユマニチュードの技法】

「見る」:正面から、至近距離で、目線を合わせて見つめる
・「触れる」:掴むのではなく、手のひら全体で包み込むように撫で下ろす
「話しかける」:低めのゆったりとしたトーンで、自分の動作をアナウンスする
    ↓
 身体レベルの同調・共鳴

【間身体性による解釈】

 ユマニチュードの根本は、言葉の意図を頭で解釈する前に、被介護者の「身体図式」が「私は大切にされている」「敵ではない」と前反省的に開示・受容するということだと思います。

① 「触れる」~間身体的な皮膚感覚の対話
・技法:
指先で摘んだり握りしめたりせず、手のひら全体の広い面積で、優しく圧を一定にして触れる。
現象学的理解: メルロ=ポンティは「右手で左手を触れるとき、触れている手と触れられている手が入れ替わる」という「皮膚感覚の可逆性」を論じました。介護者が手のひら全体で包み込むように触れるとき、その感触は相手の身体図式に直接届き、「捕縛(拘束)」ではなく「受容(抱擁)」として身体レベルで直接理解されます。

② 「見る」と「話しかける」~感覚の同調
・技法:
相手の視野の正中に立ち、正面から目を合わせ、呼吸に合わせたテンポで語りかける。
現象学的結びつき: 目線や声のリズムは、相手の身体にダイレクトに波及します。言葉の意味(シニフィエ)が認知症によって理解できなくなっていても、声の大きさや高低やリズム、眼差しの優しさという「身体的表現」が相手の身体に同調し、安心感という情動(気分)を誘引します。

(2)ノーリフティングケアと「間身体性」の結びつき

 抱え上げない介護(ノーリフティングケア)は、介護者の腰痛予防や安全確保という面だけでなく、「力で強引に動かされることによる被介護者の身体的拒否(緊張・拘縮)を防ぐ」という重要な目的を持っています。

【従来の抱え上げ介護】
介護者が力で持ち上げる ――(力の介入) → 相手の身体図式が「落下・破壊の危機」を感じて全身緊張(拮抗筋の緊張)します。
【ノーリフティングケア】
福祉用具・自然な立ち上がり軌道を利用――(支持面の共有) → 相手の身体図式が「安心」して自発的な動き(残存機能)と調和

① 力づくの介入に対する「身体の自己防衛(過緊張)」の回避
・現象学的理解:
人間の身体図式は、予期せぬ強い外力や宙に浮くような浮遊感に対して、意識(頭)で考える前に前反省的に「筋肉を硬直させる(過緊張)」ことで自己防衛します。
技法との結びつき: 従来の「抱え上げ」は、相手の身体図式にとって「暴力的侵入」であり、これに対する筋緊張や抵抗は「認知症による拒否」ではなく「生きている身体としての正しい自己防衛」です。
 スライディングシートやリフトを用い、底面(支持面)の触覚刺激を保ったまま滑らかに重心移動を行うノーリフティングケアは、相手の身体図式に警戒心を与えず、滑らかな運動を協働生成します。

② 重心移動のアンサンブル(運動力学の応用と運動感覚の調和)
・技法:
移乗の際、相手の頭部をやや前傾させ、立ち上がりの自然な力学的軌道(重心の移動)を介護者が「誘発」します。
現象学的理解: 介護者が運動の力学(重力や重心)を無視して持ち上げるのではなく、人間が元々持っている運動のパターン(立ち上がりの運動図式)に介護者の身体・用具を適合させるアプローチです。
 二つの身体が重力と調和しながら「運動の一体化、調和(アンサンブル)」を作り出す感覚であり、これこそが「間身体的な運動の協働」です。

(3)二つのメソッドを貫く「間身体的原則」

 ユマニチュードやノーリフティングケアを実践する介護者は、意識的にせよ無意識的にせよ、「相手の身体図式がどう世界を感じているか」を自分の身体感覚を使ってシミュレート(間身体的に理解)しています。
 言葉や認知機能が減退してもなおかつ成立する介護技術とは、「頭の会話」を諦めた後にも厳然として残り続ける「間身体的な対話」を洗練させたものに他なりません。 

単なる作業と間身体的メソッドの比較

 身体図式については以下のnoteをご参照願います。




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