十日間の関係(非定型恋愛 全?話12万字)前半17話分連載中
[前半用HL:俺たちの間の好きは、なんで同じ言葉なんだろうな。結局のところ、俺とあんたはずっとすれ違ってたんだ]
前は現代ファンタジーだったので、今回は現代モノのLGBT的な何かを持ってきました。そんなわけで今回の話は下記注意点があります。
ヘテロ寄りのバイな軽い妄想症で自閉症気味な画家とアロマンティック・アセクシャルな若手編集者の恋愛ではない恋愛的な何か。
BL感はあまりない。
話の内容は主に日常飯テロ、頭の中以外に事件性は基本ない。
今のところR18的表現が前半と後半の最期にあるけれどエロくはないのでR15と思っている(その頁に来たらタイトルに警告を出すまたはR18をカットします)。
前半あらすじ
画家の樺島成彰は夜の海で自殺しようとした。 遺書を思わせる書き置きを見つけて浅井樹は樺島を探し、1年と少し前に一緒に訪れた砂浜で海中に樺島が立っているのを見つける。 冷え切った樺島をなんとか家に連れ帰り、様子がいつもと違うことに気がつく。
Prologue 20年前
「あなたにとってこの世界は、人の数だけたくさんの水槽が並んでいるようなものです」
「水槽、ですか?」
「ええ。樺島さんはご自身の水槽の中では快適に生活できます。でも外の水槽の中はよく見えない」
カウンセラーの中垣内にそう言われたのは、二十歳の頃だった。どこか無機質なカウンセリング室で、中垣内はさほど視線を動かさず、まっすぐに僕を見つめていた
「でも、じゃあどうしたらいいんだ。僕はやっぱり頭がおかしいんじゃ……」
「樺島さん、あなたは眼鏡をかけた人を頭がおかしいと思いますか?」
僕の苦悶は無機質な声で遮られた。いつも同じ、一定の音程。
「え? ……いやそんなまさか」
「あなたの目は少しだけ、他の人と映り方が違うんです。水を通せば光が屈折するのはご存知でしょう。あなたの目もあなたの水槽の外を見る時、光が屈折して少しだけ歪んで見える。他の人の水槽を眺める時はさらにもう一度屈折する。その時の屈折率が他の人より少しだけ、大きい。ただ、それだけです」
中垣内の言っていることはよくわからなかった。でもその頃には僕は、僕の頭が外の世界を正確に認識しないことを理解していた。
「ても、違うんだ。全然違うときもある」
「ええ。あなたの心はときに現実と異なるものを映します。それはあなたの水槽が光を反射した姿かもしれません。まっすぐ水面を見れば自分自身が映るように」
病名をつけるなら、僕は妄想症らしい。その事実と異なる何かは、現実の端っこから水槽に絵の具を投げ込むように僕の頭の中に浸透して、まっすぐに見ようとすればするほど僕の見る景色を変える。
「どうしたらいいんでしょうか」
「見えているものが現実かどうかは、樺島さんには区別がつくはずです。現実と混同しなければ、とりあえずは大丈夫ですよ」
仲垣内はいつも同じ表情をしている。僕にはきっとあえて、そうしているのだろう。僕が混乱しないように。違うものと迷わないように。
「樺島さん、私は樺島さんの絵は好きですよ」
「そう、ですか?」
「これは私を描いてくれたんでしょう?」
中垣内は壁にかけられた6号サイズの絵に目を向ける。
以前持参した絵は今も中垣内の部屋に飾られている。僕が見た中垣内の姿の絵。それが普通に見れば人には見えないことは僕にもわかっている。でも僕の水槽に反射して拡散した光を通した中垣内を描けば、この絵になった。
「そう見えますか?」
中垣内は、人はみんな自分の水槽を持っているという。だから誰だって、他人の頭の中を完璧に見る事なんてできない。
けど他の人の水槽は、僕のより少し屈折が少なく透明度が高いらしい。僕が見る世界は他の人より少しぼんやりとしていて、僕はそのもやもやとした陰の形をよく違うものに勘違いした。
そのもやもやは晴れることはなくても、絵に描けば現実世界に固定することが出来た。これが僕が見ているものだと、なんとか認識することができた。絵に描けば物事はやっと不定に動くのを止めて、他のもやもやとしたものと区別ができる。
「ええ。私はあなたにとって親しいけれど少し冷たい人間のようです。正しい認識だと思いますよ。私はカウンセラーですからあなたに寄り添いますけど、一定の距離をとってますから」
「そういうものでしょうか」
「はい。あなたはあなたの見えるものを否定する必要はありません。無理をして違うものにみようとする必要はない。あなたにはそう見えるんですから」
そうして、確かあの時も中垣内はじっと僕を見ていた。
困ったら絵を描いた。よくわからないものは、そうして少し、よくわかるようになる。物事をそういうものだと定義する。それが僕にとっての絵。
僕は画家になった。
他の人が何で僕の絵を買っていくのかはよくわからなかったけれど、それで生活できるならそれでいい。普通に働くのが難しそうなことは、昔からわかっていた。他に生きていく方法が全く思い描けなかった、きっと僕にはこれしかなく、これが僕の天職だと思った。……それに部屋で一人で絵を描いている時は、余計なことに悩まなくてすんだから。
僕にとって絵というものは、冷えて少し結露した水槽の壁に水槽の先の姿を指でなぞって絵を描くようなものだ。一度描いてしまえばその形は僕の中に残る。だから売れて手元になくても問題はない。
人間関係は、相変わらず壊滅的だった。
僕は相手の変化をうまく読み取ることができない。そして僕の中の水槽の壁はたいてい曇っていて、映すものはいつも真実とは異なる。
いつの間にか、水槽の壁を強く意識するようになった。僕が見ている誰かと水槽の先にいる誰かは、本質的には同じだけど異なるものだ。僕が真っ直ぐに見ているのは僕の水槽に映り込んだ蜃気楼。本物とは違う。それを僕はわかっている。
だから僕はその2つを区別するようになった。僕が目の当たりにして話している相手は、僕の水槽の内側に湧き出てくる蜃気楼にすぎない。だからなるべく相手の水槽の中の変化に気を付けて、問題なさそうに思えるところで折り合いをつけて。そんな風に生活することにした。どうせ相手からだって僕の曇った水槽の中はよく見えないだろうから。
けれど関係が真正面に近づくほどお互いの吐息で水槽は曇り、話をするたびに蜃気楼はどんどん分厚くなって、相手の水槽との間に立ちはだかる。そうして現実と蜃気楼の差があまりにも大きくなったとき、人間関係は破綻した。つまり僕が相手の水槽の中身がちっともわからなくなった時だ。
別れはいつも、相手から切り出された。大抵はこんな感じ。
「成彰さんは全然私を見てないでしょう?」
僕はその問いに、何も答えることができない。それは真実だから。僕はいつだって、目の前の相手を直接見ることはできない。そして僕は、相手から見ると薄笑いをして、相手を馬鹿にしているように見えるようだ。
「そんなつもりはないんだけど」
「もういい。やってらんないわ」
相手は僕に愛想を尽かす。その人が目の前から去れば、僕の水槽の中で生まれた蜃気楼もいつしか消え失せる。所詮、蜃気楼は実体がなければ存在しえない。そうして何も残らない。
別れは僕にとって一方的なもので、そのことにひどく、悲しくなる。僕は僕の水槽の中では蜃気楼とうまく生活できていたから。その予想された喪失を、僕ではどうすることもできない。
だからいつしか恋愛というのはうまくいかないもので、いずれ破局する虚しいものだと感じていた。誰かを好きになる度に、僕はどのくらいの間この人を好きでいられるんだろうと考えた。でも、なぜだか好きだと最初に言うのは僕じゃない。僕にとって、うまく断ることも難しかった。
なるべく他人に近づかないようにした。でもそれではなんだか寂しいから、同居人を探すことにした。ただの同居人だ。僕を好きになりそうにない人。それでも人恋しい時は時折送られてくる招待状を開封した。どこかの誰かと少しだけ酔っ払って、たまにホテルに行って、それっきり。
樹に出会ったのはそんな時だった。樹の水槽はなぜだかちっとも曇らなかった。
2話目以降のリンク
進行について:全二章で主格を変えた前後編で十万字を超えるため、樹視点の前半が終了した時点でいったん区切り、別の話を連載して、少し時間をあけてから成彰視点の後半の連載を再開します。
1章 浅井樹 17話
つぶやき機能がなくなったので、Noteの常駐を終了する事にしました。
前半部分は全部UPしているんですが、Noteでの更新はこれで終了です。申し訳ありません。来年のNote大賞の時に戻ってきて続きを書くかもしれません。
このNoteVerが最新で、エブリスタにはまだ反映してないし最後だけちょっととまっている(プロットは完成してる)ので現在休載中になっていますが、それまではこっちで進めるかもしれません。でも修正していないので、もし読まれるのでしたら完結してからをお勧めします。
主な登場人物
樺島成彰:
印象派の画家。そこそこ売れている。抽象画家と思われることはしばしばだが、本人は見た通りを書いてるので印象派(抽象化してない)。
浅井樹:
出版社アモルファス文芸の若手編集者。Futuresという芸術寄りカルチャー誌を担当している。
ファビオ中垣内:
変なカウンセラー。
一般的じゃないカウンセリングを行う中垣内先生は本編とは関係ない特定団体に所属したちょっと外れたフィールドワーカーみたいなところがあるので、言ってることがおかしくても気にしないでください。仕様。
地図と観光ガイド
いつもの現代版の神津地図。

★観光ガイド
二人が住む家は辻切南の落ち着いた住宅街にあります。
樹が働くアモルファス文芸はヒルズ南の神津新道沿いにあって、成彰が個展を開いた神津スカイタワーも神津駅北東側の神津新道近く。スカイタワーは神津市一の高層ビルの27Fです。最上階はプラネタリウムになっていて、屋上のドームが開いて生で天体観測もできます。流星とかくると観測会をやってるよ!
中垣内先生のカウンセリングルームは新道東の公園通りの更に外れ。公園通り沿いのパティスリーノルゲンと辻切西街道のベクセンハウザーのパティシエは親戚で、いつも張り合っています。両方ともドイツ菓子で美味しい~。
成彰さんがダイブしたりサーフィンした海はマップ南東の神津海水浴場で、九十九里浜みたく白砂が広がってる。その南の倉庫街は横浜煉瓦街みたいな雰囲気で、デートに良き。
同じ世界観の話
主役の2人は今のところ他の話では出てこないんだけど、中垣内は他でもでてくる。けどNoteに持ってきてないな。個展の開かれるスカイタワーの夜道ちゃんの話を。夜道ちゃんがパーソナリティしてるFM神津はスカイタワー2Fのデッキで公開収録してますう。
長編のマガジン
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