英作文および英会話という営みについて
※この記事の内容を解説する音声コンテンツも用意しています。音声派やながら聞き派の方はこちらをどうぞ:
☆☆☆
これは多くの人に納得していただける話だと思うのですが、英作文や英会話は、「難しい」です。学生時代に英語の科目を得意としていた人でも、英作文や英会話で目も当てられないほどのクオリティしか出せない、という人は多いと思います。
そこで、今回はこの疑問、つまり、なぜ英作文や英会話は特段難しいのか、という問いに対する僕の意見と、そこから誘導される知見について説明したいと思います。
なぜ英作文や英会話は難しいのか
英作文と英会話はそれぞれ、英文を出力する操作という点では同じです。出力の形式が紙にかいた文字か音かの違いだけで、根本的な差はありません。そのため、以降の話では英作文と英会話の間に特に区切りを設けず説明を行います。
まず、「英作文はなぜ難しいのか」についてですが、僕の答えを先に行ってしまうと、英作文がゼロからの構築という営みだからである、というのが答えになります。
このことは、「学校英語」でやってきたことを振り返り、それらとの対比で英作文をとらえることでわかります。
まず、学生時代のことを思い出すとわかると思うのですが、英語の授業の問題では、短文穴埋め問題や語句の入れ替え問題、あるいは、空欄に入るもっとも適切な語句を選択肢の中から選ぶという問題がほとんどです。
また、長文読解などの「ちょっとヘビーな」問題でも、設問の中できれいに誘導され、最後に来ることの多い、「けっきょくこの文章は何がいいたいのか」系の問題でフィニッシュすることがほとんどです。「何がいいたいのか」の問題に対する正しい解は、誘導に素直に従えばたどり着きます。
要するに、学校英語は、お膳立てされた状態からひと塗り加えるだけで完成できるというヌルゲーである一方で、英作文はまったくの白紙、ゼロからのスタートであるということです。これが、英作文が難しい理由です。
ゼロからの構築とは
ここまでで、英作文の難しさの理由を説明しましたが、ここで終わってしまうとちょっと月並みな記事になってしまうので、もうすこし踏み込み、この「ゼロから」という点をもう少し詳しく触れていきます。
まず、「英作文をする」という操作を要素分解すると、次の4ステップに分けることができます:
数千・数万の単語の選択肢の中からひとつ選択する
選択した単語の次に来る単語をまた選択する
これを、10から20回くらい繰り返して、全体としてつじつまのあう文をひとつつくる
1に戻り、同じことを繰り返す
スピーキングの場合で、WPM 120くらいのナチュラルスピードであれば、5~10秒くらいで上記の操作の1サイクルを完了させることになります。
まずこの、数万単位の膨大な選択肢から最も適した「ひとつ」の単語を選ぶ作業はとんでもない負荷の操作のように思うかもしれません。それはごもっともであり、というのも、
学校英語やTOEICの設問に代表されるような問題の場合:
選択肢は4つくらい
選択回数は1回
ふつうの会話の場合:
選択肢は無限
選択回数も実質制限なし
という対比からわかるように、程度の差があまりにもかけ離れていることがわかります。そしてそれに加え、これを何度も繰り返し、短時間で実行する必要があります。
また、これはあたりまえの事実なのですが、英文は常に一方通行で作文されます。つまり、単語を確定させて配置する瞬間に、語の順番も同時に確定しているということで、選択するという行為と、前後関係を加味して並べるという行為を行う必要があります。
じゃあどうすればいいのか
すでに説明しましたが、短文穴埋め問題の場合、選択肢はせいぜい4つくらいで、しかも、選択をする回数は一回だけです。学校英語ができていたが実践ができないというのはごもっともで、両者には絶望的ともいえるほどの難度の隔たりがあります。
ただ、この一見離れ業ともいえそうな英作文の営みを、ちいさな負荷で実行することは可能であり、そのコツは、論理ではなく直感を育てることです。
直感を育てるとは、無限の選択肢の中から瞬間的に選ぶというモードではなく、あるイメージが想起されたらある言葉、ある音が脳裏に浮かぶようにあらかじめトレーニングで仕込んでおき、その直感をなぞることで英作文をするモードを採用するということであり、これは、繰り返しのトレーニングで達成できます。
また、この「トレーニングであらかじめ仕込む」というのは:
こういう話を聞くとあの人の顔が浮かぶ
この街に来るとあのできごとを思い出す
この道を通るとあの人を思い出す
のような、AになるとBが想起されるという連鎖をあらかじめ自分で体験しておくことに対応します。これをしておくと、「直感で最初に浮かんだ2つか3つの選択肢からエイヤと入れる」という、膨大な選択肢からひとつを選ぶというモードよりも圧倒的にラクに英作文を実行できます。これは、棋士が直感でいい手をまずもってくるのに似ているはずです。
将来的にやることをやる
英会話とはすなわち、自分の持つイメージを英語の音にすることである、というのがここまでの話なのですが、「将来する、あるいはしそうなことをトレーニングする」という別の記事でした話がここに絡んできます。
たとえばですが、英語を5秒話せるが英語を5分話せない人はいます。一方で、英語を5分話せる人であれば、英語を30分話すことに、少なくともそこまでの抵抗を感じないはずです。
何が言いたいかと言うと、英語を話すことをしたいのであれば、将来的にそれを長時間、30分とか1時間とかの尺ですることを最初から想定してそれをしたほうがいい、ということで、それをしないと英語を数秒しか話せない人になってしまいます。そして、そのような長時間の尺で会話をすることには実際にならないとしても、それをあらかじめ想定しておくことには意味があります。
TOEICの四択問題のような、「選択回数が一回だけ」のラクな問題をたくさん解いても、5分間の英語の会話文をゼロからつくる能力は出てきません。その理屈はとてもクリアで、選択回数一回の作業をいくらやっても、「選択回数が無限」の会話という技能に発展しないからです。
これはモードの問題です。直感で選択肢を持ってくること、そしてそれを連鎖的につないで、一筋の会話文を音にすることは、もし、「長時間の英語の会話」をするのであれは必須の能力です。5秒英語を話せる人がなぜ5分英語を話せないことがあるのか、その理由は、「それをやったことがないから」です。
また、僕が「瞬間英作文」に懐疑的な姿勢をとっているのもそのためで、瞬間英作文でつくる英語は、この記事の言葉でいうところの、「5秒の英会話」になるからです。瞬間英作文をたくさんやれば短い文をぱっぱと出せるようにはなるでしょうが、それはどこまでいっても、「一筋の会話文」をつくる能力には貢献しません。
なぜかはわからないのですが、「会話の1ターンは長い」というのはないがしろにされがちなんですよね。便利な表現、便利な単語、便利なフレーズ、便利な言い回しというのはすべてミクロの話であり、それらでは、「1ターンが長い英会話」には対応できません。
勇気の問題
最後に別の切り口で、勇気の問題についても触れておきます。
「英語が口から出てこない」というよくある悩みの根本原因は、「英語を知らないから」ではなく、「知っている英語を口に出していいのか不安になるから」であるはずです。「なんて言えばいいかわからない」などの悩みがよくありますが、それは、「選択肢がもう手元にあるが、それのうちどれにすればいいかわからない」ということであり、「何もできない」のとはまた別です。
この、口に出していいのか不安になる、という文言に着目したいのですが、この言葉からもわかるように、「直感でなにかしらの言葉を持ってくること」は、もうすでに多くの人が達成しているはずなんですよね。ネックは、最初に浮かんだ2つか3つの選択肢からエイヤと入れることができないことであり、これをするのが英会話をうまくするためのキーのひとつになるはずです。これは、勇気の問題です。
いわゆる出川イングリッシュになるとさすがに行き過ぎですが、それに近い方向性で、「直感で頭にきたワードをあまり精査せずに出す」というのはアリです。出川イングリッシュで出てくる表現そのものはほとんど参考にはならないのですが、「英語スピーキングの態度と方向性」については参考になるはずです:
出川イングリッシュに似た態度で英語を話すと、とうぜん何かしらの修正点、改善点が出てくるのですが、それもよいことです。「自分が英語を使っている姿をレビューしてそれをよくしていく」というのは、英語の技能を伸ばす有効な手段、というより、必ずやらなければならないことのひとつです。
さいごに
学校英語には合理的な手法だけで解決できるような配慮、正解と不正解をクリアに分かつことができる配慮があるのですが、いわゆる英会話にはこれがありません。英会話や英作文に学校英語で太刀打ちできない理由はここにあり、論理ではない直感や感覚にも着目する必要があります。
このことは以下の記事で触れたことなのですが、「きれいに整った場所で最適なパフォーマンスを出すのが好きな人」ほど、英作文や英会話の実践のような、失敗が当然である環境から逃げる傾向があります:
今回の記事で主に触れた直感や感覚というのは、きれいにととのった場所とは対極に位置する要素です。ぜひ、「きれいに整った場所の外側」に目を向けて、泥臭くやっていくというモードもケアしてみてください。
ここをクリックすると記事の内容をYouTubeで視聴できます>
今回の記事のような英会話関連の話は、「英会話」のマガジンにまとめています。こちらもぜひのぞいていってみてください。コラム的に気楽に楽しめる内容であるはずです:
今回の話に似た、外国語を学ぶための「考え方」を見直すという話については、僕のKindle本、「外国語を学ぶ態度」でもまとめています。Kindle Unlimited利用者は無料で読めますので、ぜひ覗いていってみてください。語学学習で延々と迷いまくっている人におすすめです:
▼この記事を書いた人▼
そっちゃそ
フリーランス英日翻訳者。本業で培った知識や経験をもとに、発音指導をはじめとした語学指導もやっています。noteは、僕の思想や考えをひろく公開するために使用しています。僕の思想や考え方については、考察と思想哲学のマガジンにまとめているのでこちらをぜひご覧ください。詳しいプロフィールはこちらから。
ポッドキャストもやっています:
🔵amazon music, 🟣Apple Podcast で楽しむ場合はこちら。
🔵amazon music, 🟣Apple Podcast で楽しむ場合はこちら。
主な著作:「自分の意見を言うことは『役に立つ』」、「外国語を学習すると決めたときに読む本」、「英語発音学習の第一歩」。既刊一覧はこちらから。
関連記事:
さいごに
「発音学習の底力」を体験してみませんか。英語力は、発音学習だけでも伸ばせます。学習に新しい風を入れたい方、ネットでこれ以上学習法をあさるのはしんどいと感じる方は、ぜひ以下のページをのぞいていってみてください:
語学学習を総合的にトータルサポートしてほしい、痒い所に手が届くサポートがほしいという方には、「そっちゃそ英語コーチング」がオススメです:
